上 下
33 / 40

呆然としてます

しおりを挟む
 ミカは笑顔を浮かべたまま、首をかしげた。

「どうしたの、サキ? そんな驚いた顔して」

 どうしたの、もなにも……。

「本当に、ミカ、なの?」

「うん。本当に、野々山ミカだよ。まあ、見た目はミカエラになってるけどね」

 ミカは笑顔を崩さず答えた。ウソを吐いているようには見えない。
 でも、それなら……。

「この間、教えてくれた、この世界に来る前の話は……」


 あの話が本当なら、ミカが恋してたのは――


「ああ、あれ? ウソに決まってるじゃない」



 ――私のわけがない。
 そんなこと、分かってたはずなのに。

「だって、ああいう話をしておけば、サキは私のこと警戒しないでしょ……、こんなことをしようとててもね!」

  バンッ

「うわっ!?」

 ミカが突然放った光の球に、部屋の隅まで吹き飛ばされた。
 痛みはあんまりないけど、全身がしびれて動かない。

「さて、これでしばらくは動けないだろうし……」

 床にはいつくばる私に、ミカが笑顔で近づいてくる。
 ミカは私の側で足を止めて、顔を覗き込みながらしゃがんだ。

「サキの顔を見るのもこれで最後だろうから、本当のことを教えてあげる」

 本当の、こと?

「私ね、前からヒスイのことが好きだったの」

 ……ヒスイ、が?
 でも、ミカは前から……。

「ああ、私が闇の元帥が好きだって言ってた理由? だって、男キャラが一番の推しって言うと、乙女ゲーオタクキモいって言う奴が多いし」

 私は、そんなこと思わない。

「それに、ほら、ヒスイって、私の彼氏とちょっと似てるでしょ?」

 彼氏……、私がここに来る前に見た、あの人のことか。

「それに、SNSだとアップデートでヒスイルートが追加されたとき、闇の元帥ルートをコンプリートしてるのがルートに入る条件になる、ってウワサがあったし」

 ……たしかに、そんな話題は見たことがあるかも。

「それに、闇の元帥が好きっていうときにサキがする顔、すごく面白かったから」

 面白い……。

「サキが闇の元帥に似てるって話はずっとしてたし、『ひょっとしたら私のことも好きなのかも』って期待する顔、今思い出しても笑えるわ」

 ……。

「それに、こっちの世界に来てからも、闇の元帥ルートに入ろうとしてたのはヒスイに近づきたかったからなのに、本気にしちゃって……、サキって本当に単純だよね」

 ……もう、なにも聞きたくない。

「でも、せっかくこの世界に来たから、ヒスイを攻略しようとしたのに……、ヒスイはサキのことかなり気に入ってるみたいだから……」

 突然、ミカから笑顔が消えた。


「……すっごく、邪魔だったんだよね」


 ……これが、本心、か。

「だからさ、究極魔法を使って、サキだけ元の世界に戻すことにしたんだ。一番のお気に入りがいなくなれば、ヒスイもへこんで取り入るすきができると思うんだよね……、あ、そうか」

 再び、ミカの顔に笑顔が戻る。

「それだと、サキのおかげで恋が成就するキッカケができるのか……、なら、お礼くらいはしてあげないとね」


 ミカはそう言うと、顔を近づけて――

「はい、お礼」

 ――右の頬に、唇をつけた。

 なんで……、こんなことを……?

「なにそんなに驚いてるの? ずっと、私とこういうことしたかったんでしょ?」

 そう言うと、ミカは立ち上がった。

「それじゃあ、私はもういくから」

 それから、きびすを返して、ドアの方へ向かっていく。


 私のことを利用しただけって話のはずなのに――


「……バイバイ、サキ」


 ――なんで、そんなに悲しそうな声をしてるの?
 

 しびれのおかげで疑問は声にならず、ミカは振り返ることなく部屋を出ていった。



 ミカが出ていってしばらくして、ようやく身体が動かせるようになった。
 ヨロヨロと扉に向かって、開けようとしたけど……、少しも動かない。魔術で攻撃してみても、開く気配すらない。多分、ミカが魔術で開かないようにしたんだろう。
 
 私だけを元の世界に戻すって言ってたけど、調印式の途中で究極魔法を使うのかな?
 ヒスイとギベオンは、私たちが二人で元の世界に戻ることは、賛成してるっていう話だったっけか……。
 それなら、私一人で元の世界に戻ることは、どう思うんだろう?
 お飾りかもしれないけど、No.2がいなくなるわけだから、光と闇の勢力の均衡が崩れるんじゃないかな?

 ……いろんな疑問が浮かぶけど、答えが出ない。
 まあ、答えが出たところで、部屋から出られないから、なにもできないか……。

「……ふぁぁ」
 
 ……なんだか、眠くなってきた。
 まだ身体もだるいし、少し横になってようかな。

 ベッドに横になると、右の頬に柔らかさと温かさがよみがえってきた。
 ……これが、ミカの唇の感触か。
 たしかに、ミカとのキスを妄想したことはある。

 でも、こんな形じゃ――

  ドサッ

「うわぁっ!?」

 ――ない、っていう感傷に、もう少しくらい浸ってたかったんだけどね。

 ベッドの側に立てかけておいたミカエラ人形が倒れ込んできたおかげで、感傷モードに突入している場合じゃなくなった。一分の一スケールなだけあってそれなりの重さはあるから、どけないと苦しいからね。

 動かすと、またWeb小説のタイトルみたいなセリフが出るのかな。

 でも、どうせウソなんだし、いちいち気にしないことにしよう――

 
「ぱんぱかぱーん! サキが規定回数、私に触れてくれたからご褒美として、今からシークレットボイスを流すよ!」

「……え?」


 ――と思ってたのに。

「サキがこの世界に来る前に起きたことの真相と、究極魔法をなにに使おうとしてるかを特別に教えちゃうね!」

 ミカエラ人形は、明るい口調でものすごく気になることを口走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

処理中です...