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王子様なんて・その三

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 中学校に上がる前に、市町村合併があった。
 それと合わせて、中学校の統廃合もあった。
 そのおかげで、隣町の中学校にバス通学することになった。
 小学校のメンバーそのままの中学校に上がるよりは、マシだったのかもしれない。
 

 でも――


「野々山さんも、一緒の学校だったんだね」
「優等生ぶってるんだから、私立に行けば良かったのに」
「仕方ないよ、優等生ぶってるだけなんだから」

「野々山って、セーラー服、似合うよな」
「あれで性格が良かったら、最高なのにな」
「えー、普段は性格悪い方が、そういうときにそそらないか?」

「……ほら、また男子に色目使ってる」
「……相変わらず調子乗ってるよね」
「……本当、どっか行けば良かったのに」


 ――学校へ向かうバスの中は、小学校の教室の中と同じだった。

 
 慣れてるけど、煩わしくて仕方なかった。
 それでも、前とは違って、学校に行くのは楽しかった。
 
 だって――


「あ、おはよう。ミカ」

「……おはよう! サキ! とう!」

「わっ!? きゅ、急に抱きつかないで、危ないから!」


 ――教室に行けば、サキに会えたから。


 サキは私のことを覚えていなかったけど、それでも良かった。
 同じクラスになれたし、また仲良くなれたから。

 
 それに、席を外したときに、女子に囲まれたサキが――


「ねえ、羽村さんだっけ? 野々山さんとつるむの、止めた方がいいよ」

「え? なんで?」

「あの子、男子の前だとあからさまに、態度変えるし」

「えー? そうかなー」

「そうだよ。この間も、友達が彼氏に色目使われたって話してたし」

「それ、その子の勘違いじゃないかな。ミカ、三次元の男子には興味ないっていつも言ってるし」

「でも、小学校のころから、評判悪かったし」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、ミカのところに行かないといけないから、これで」

「あ、ちょっと待ちなよ!」
「なによ、その態度!」
「折角、私たちが警告してあげてるのに!」
「痛い目見ても知らないからね!」


 ――そんな話をしてるのも聞けたから。


 それ以降、サキはクラスの女子から少し避けられた。
 ちょっと悪いことしたかも、とは思った。
 でも、それ以上に嬉しかった。

 サキが、私だけのものになってくれたみたいで。

 ……こんなこと思ってたなんて、サキにはバレないようにしないと。
 
 ただ、女子から陰口を叩かれたり、男子からからまれたりする日々はずっと続いた。
 そんな中で、だんだんサキの元気がなくなって着てるように見えた。
 私は慣れてるけど、サキにはつらかったんだろう。
 小学校のころからの友達にも、避けられるようになっていたから。
 

 だから――


「じゃあ、羽村でいいや。お前も野々山とつるんでるんだから、同じように……」

「ねえ、私のことはなんて言っても気にしないでいてあげるけど、サキのことを悪く言うようなら、容赦はしてあげられないよ?」


 ――これ以上のサキへの暴言は、許しちゃいけないと思った。

 だから、サキにからんできた男子に、痛い目を見てもらうことにした。
 少し、やり過ぎなくらいに。

 あの一件のおかげで、サキにからんだり、サキの陰口を叩いたりするやつはいなくなった。
 むしろ、頭のおかしいやつに執着される可哀想な子ということで、周りから優しくされるようになった。
 サキが周りを選んで、私から離れていっても、それで良いと思った。


 それなのに――


「ねえサキ」

「うん? どうしたの? ミカ」

「私のことは気にしないで、他の子と仲良くしてもいいんだよ?」

「あー、うん。それなりには、仲良くしてるよ」

「そう? でも、ずっと私と一緒にいるよね?」

「うん。だって、ミカと一緒にいると楽しいし」

「そっか」

「それに、あの子たち、私が本当に嫌な思いしたときに、ろくに助けてくれなかったし」

「あー、それもそうだね」

「そうそう。なんか、急に手の平返されても、今さらってかんじだし」

「あははは、たしかにそうかも」

「うん。だから、ミカはあんまり気にしないで!」

「……うん! 分かった!」


 ――サキは、私を選んでくれた。


 それから、私たちはずっと一緒だった。
 始業前も。
 授業中も。
 休み時間も。
 放課後も。
 乙女ゲームや、シューティングゲームや、いろんな他愛もない話をしながら。
 ずっと、ずっと。

 もちろん、サキが他の子と話すこともあった。
 でも、そのときは、どこか他人行儀で、愛想笑いするときも、目が笑っていなかった。
 あの公園で見た、本当に楽しそうで、屈託のない、キレイな笑顔は、私にしか向けられなかった。

 サキは本当に私だけのものになってくれたんだ。
 それも、自分から進んで。

 そんなことを思ってしまうくらい、私たちはずっと一緒にいた。
 それに、これからもずっと一緒にいたいと思った。

 
 ……サキに友情よりも重い感情を抱いていることは、早いうちから自分でも分かっていた。
 でも、それが恋心なのか、依存心なのかは自分でもよく分からなかった。

 サキの笑顔をずっと見ていたい。
 でも、もっといろんな表情も見てみたい。
 他の誰かになんて、絶対に渡したくない。

 ……ひょっとしたら、独占欲だったのかも。
 それでも、サキへの想いは本気だった。
 それが、伝わったからかどうかは分からないけど、サキも私に友情以上の感情を持ってくれたみたいだった。

 私がふざけて抱きつけば、頬を染めて慌てて。
 私があざとく上目遣いで顔をのぞけば、頬を染めて目を反らして。
 私が、大好きだよ、って伝えれば、私も、と返してくれた。
 どこか、悲しそうに笑いながら。

 その表情は、どれもすごく可愛かった。
 それなのに、こりずに私にからんでくる男子を追い払うときの顔は、すごく鋭くてカッコよかった。
 

 そんなサキの表情は、全部私だけのもの――


「光のお嬢さん、そろそろ眠らないと、日付が変わってしまうよ」


 ――背後からかけられた声で、我に返った。


 振り返ると、スイがリュートを手に微笑んでいた。
 窓辺に座って星を見ながらぼんやりしてたら、もうそんな時間になってたのか。

「うん、分かった。教えてくれて、ありがとう」

「いえいえ。眠れないようなら、子守歌を歌おうか?」

「ううん。大丈夫だよ。あ、そうだ。伝言ありがとうね」

「ふふふ、それくらいのこと、どうってことないさ。でも、本当にこれで、良かったのかい?」

「良かったのかい、も何も、会いにいくわけにはいかないでしょ。今は究極魔法の練習に、専念しないといけないんだから」

「いや、そのことじゃなくてね……」

 スイは苦笑いをしながら首を傾げた。

「究極魔法で、闇のお嬢さんだけを元の世界に帰すつもりなんだろ?」

「……スイは、変なところだけ勘がいいからモテないんだよ」

「はははは、相変わらず光のお嬢さんは、手厳しいね。でも……」

 スイの表情が、急に悲しげになる。

「闇のお嬢さんは、君と一緒に帰るつもりみたいだよ?」

「うん。そうみたいだね。でも、もう決めたことだから」

「……そうか。それなら、僕はもう何も言わないよ」

「ありがとう。それじゃあ、私はもう寝るから。おやすみなさい、スイ」

「ああ、ゆっくりおやすみ、光のお嬢さん」

 スイは頭を下げて、部屋を出て行った。
 
 多分、サキは私の正体を知らなくても……、仮に知ったとしても、一緒に帰ろうと言ってくれるはず。
 私も、また元の世界で一緒にいられたらとも思う。

 でも、サキのことはあるべき場所に返さないといけない。
 ……サキのあるべき場所は、私の隣じゃないんだから。
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