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王子様なんて・その二
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白いシャトルが、日の傾いた空で放物線を描いている。
「へえ、それじゃあ、君、隣町の小学校だったんだ」
シャトルを打ち返しながら、彼女がそう言う。
「うん。そうだよ」
私も、シャトルを打ち返して答える。
「でも、それだと、ここまで来るの、遠くなかった?」
彼女がまた、シャトルを打ち返す。
「そうでもないよ。歩いて二十分くらいだし」
私もまた、シャトルを打ち返す。
「えー、それは結構遠いよー」
「そうかな? でも、ちょっと遠くても、ここ静かで噴水がキレイだから、好きなんだよね」
「ああ、たしかに! 私も、この公園好きだよ! ほら、広くて噴水がキレイだし、えーと、広いし!」
「あははは! いま、広いって二回言ったよ!」
「え、本当!?」
「本当、本当……隙あり!」
「わっ!?」
スマッシュを打つと、彼女はバランスを崩して倒れた。
「ご、ごめん! 大丈夫だった!?」
慌てて駆け寄ると、彼女は立ち上がりながらニッコリと笑った。
「うん! 平気平気! 君、強いね!」
「そうかな?」
「そうだよ! ラリーもすごく長く続くし、すごく楽しいよ! だから、もうちょっと付き合ってもらってもいい?」
「うん、いいよ。じゃあ、今度は私からサーブね」
「うん! バッチこーい!」
それから、またシャトルが放物線を描き始める。
「そういえば、君、いつも一人で遊んでるの?」
彼女がシャトルを打ち返しながら、問いかける。
「うん、学校に友達いないし」
私もシャトルを打ち返しながら、答える。
「ええ!? そうなの!?」
「そんなに驚かないでよ、あなただって、一人で遊んでたんじゃない」
「ああ、うん。なんかみんな、受験勉強だとか塾だとかで、最近遊んでくれなくて」
「へー、そうだったんだ」
「うん。仕方ないけど、ちょっと淋しいかな」
「でも、淋しいと思えるくらい友人関係が良好なんて、うらやましいな」
「そうかな?」
「うん。私もちょっと前までは、友達はいたんだけどね」
「そう、だったんだ」
「ただ、なんかその子たちに、王子様って呼ばれてる男子がいてね」
「へー、王子様か。カッコよかったの?」
「全然。ただ、足がちょっと速かっただけ」
「ふーん、そうなんだ」
「うん。それで、そいつから告白されたの」
「え、こ、告白!?」
「あらやだ、顔赤くして、可愛いー」
「茶化さないでよ! それで、どうなったの?」
「興味ないから、ふったよ。そしたら、友達みんなして、調子に乗ってるとか言い出して」
「それは……、災難だったね……」
「ええ、そうね。本当に、迷惑な話だったな……隙あり!」
スマッシュを打つと、彼女はニヤリと笑った。
「なんの!」
「きゃっ!?」
今度は私が、打ち返されたシャトルを広い損ねて転んでしまった。
彼女が慌てながら駆け寄ってくる。
「ご、めん! 大丈夫!?」
「あははは、平気平気! これで、おあいこだね!」
笑いながら立ち上がると、彼女はホッとしたように微笑んだ。
「それじゃあ、一対一だから、次で最後の勝負に……」
「あー、お前、なんでこんなところにいるのー!?」
いきなり、ギャーギャーと耳障りな声が、彼女の声をさえぎった。
声の方を見ると、同じクラスの男子が数人、自転車にまたがっていた。
「一人でこんな遠くまで来て、いけないんだー!」
「仕方ないだろ、こいつ友達いないんだし!」
「かわいそうだから、俺たちが送ってやろうかー!?」
……あーあ、折角さっきまで楽しかったのに、台無しだ。
「なあ、なに黙ってるんだよ?」
「お前、口がきけないの? それとも、耳がきこえないの?」
「そうだそうだ、返事くらいしろよ!
「……あのさ、ちょっといいかな?」
不意に、彼女が男子たちに近づいていった。
「な、お前なんだよ?」
リーダー格の男子が睨みつけると、彼女はニコリと笑った。
そして――
「目障りだから、消えてくれるかな?」
――表情を変えずに、そう言い放った。
笑顔できついことを言われて、男子たちはうろたえだした。
「え、な、なんだよ、俺たちはアイツに気をつかってやったのに」
「そうだよ、俺たちは、アイツが、一人だから」
「友達がいないなら、付き合ってやろうって、親切で……」
「うん。でも、すごく目障りだから。そうだよね?」
笑顔で同意を求める彼女に、無言でうなずいた。
そうすると、男子たちはショックを受けた顔をした。
「とういうことで、今すぐ消えてくれるよね」
「おい、付き合ってらんないから、もう行こうぜ」
「うん……」
「そうだな……」
男子たちはトボトボと帰っていった。
「……別に、放っておいてもよかったのに」
「え!? あ、ごめんっ! かえって迷惑だった!?」
私の言葉に、彼女が慌てだす。
その姿がなんだかおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「あははは、そんなことはないよ。ありがとう」
私が笑いだすと、彼女もホッとしたように微笑んだ。
「それならよかった。でも、友達なら当然だよ!」
「……え? 友達?」
思わず問い返すと、彼女は勢いよくうなずいて――
「うん! 一緒に遊んだんだから、私たちはもう友達!」
――屈託のない笑顔を浮かべた。
王子様なんて、ゲームの中にしかいない。
そう思っていた。
それなのに、目の前の彼女は、ゲームの中のどんな王子様よりも、キレイで格好良かった。
「ん? どうしたの?」
「……ううん、なんでもない! それより、最後の勝負をしよう!」
「うん! そうだね!」
それから、私たちはまたシャトルを打ち合った。
そこで、彼女がシューティングゲームを好きだとか、中学校は同じかもしれないだとかの話をしながらラリーをした。
ラリーを続けているうちに、午後五時を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「あ! いけない、もうこんな時間だ! 君、一人で帰れる?」
「うん、大丈夫だよ!」
「そっか! じゃあ、決着は明日つけよう!」
「うん! そうしよう!」
そんな約束をして、その日は彼女と別れた。
でも、その約束は果たせなかった。
近所の人が、一人でいる私を見かけていて、お母さんにバレてしまったから。
「もう一人で、あんなに遠くへいっちゃだめよ」
泣きだしそうなお母さんの言葉に、反論なんてできなかった。
だから、その日以降、あの公園へはいけなくなってしまった。
それでも、彼女のことは、ずっと忘れられなかった。
優しい言葉をかけてくれたこと。
嫌なヤツらを追い払ってくれたこと。
笑顔がすごくキレイで格好良かったこと。
気がつけば、彼女が好きだといっていたシューティングゲームにも、手を出すようになっていた。
乙女ゲームでも、いつも彼女の面影があるキャラを好きになった。
だから、中学に上がって彼女と再会できたときは、すごく嬉しかった。
彼女は私のことを覚えていなかったけれど、それでも……
「……ま。光の聖女様!」
「う……ん?」
気がつくと、ルリが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「よ、よかったー! もう、突然倒れたんで、ビックリしたっすよ!」
そうだ、究極魔法の練習中にめまいがして、そのまま倒れたんだっけ。
「心配かけてごめんね、ルリ」
「いえいえ、滅相もないっす! でも、今日の練習はここまでっすよ」
「えー、まだ大丈夫だよ。それに、あともう少しで、コツが掴めそうだし」
「そういう無理は、身体を壊すもとっすよ! 究極魔法を覚える前に大怪我でもして、いざ使うときに上手くいかなくなったら嫌でしょう?」
「うー、それはそうだけどー……」
「それなら、今日はもう休んでください!」
「分かった……」
たしかに、失敗するわけにはいかない、か。
「ところで、光の聖女様、闇の元帥さんのこと、本当によかったんすか?」
「よかったって、何が? ああ、まあ、私だってお泊まりはしたかったけど、究極魔法の練習だけは、サボれないし……」
「あ、いや、その話じゃないっす!」
「えー、じゃあ、どの話よ?」
問いかけると、ルリは気まずそうに頬をかいた。
「それは、ほら、闇の元帥さんに本当の名前、教えなくてよかったのかな、と」
……ああ、そのことか。
「別に教えなくても、不都合はないでしょ? それとも、私の決定に何か不満があるの?」
「いやいやいや! 滅相もないっす!」
ルリはすごい速さで首を横に振った。
よかった、絶対に本名をあかすべきだ、とか言われなくて。
だって、野々山ミカなんて人間は、二度とサキの前に現れちゃだめなんだから。
「へえ、それじゃあ、君、隣町の小学校だったんだ」
シャトルを打ち返しながら、彼女がそう言う。
「うん。そうだよ」
私も、シャトルを打ち返して答える。
「でも、それだと、ここまで来るの、遠くなかった?」
彼女がまた、シャトルを打ち返す。
「そうでもないよ。歩いて二十分くらいだし」
私もまた、シャトルを打ち返す。
「えー、それは結構遠いよー」
「そうかな? でも、ちょっと遠くても、ここ静かで噴水がキレイだから、好きなんだよね」
「ああ、たしかに! 私も、この公園好きだよ! ほら、広くて噴水がキレイだし、えーと、広いし!」
「あははは! いま、広いって二回言ったよ!」
「え、本当!?」
「本当、本当……隙あり!」
「わっ!?」
スマッシュを打つと、彼女はバランスを崩して倒れた。
「ご、ごめん! 大丈夫だった!?」
慌てて駆け寄ると、彼女は立ち上がりながらニッコリと笑った。
「うん! 平気平気! 君、強いね!」
「そうかな?」
「そうだよ! ラリーもすごく長く続くし、すごく楽しいよ! だから、もうちょっと付き合ってもらってもいい?」
「うん、いいよ。じゃあ、今度は私からサーブね」
「うん! バッチこーい!」
それから、またシャトルが放物線を描き始める。
「そういえば、君、いつも一人で遊んでるの?」
彼女がシャトルを打ち返しながら、問いかける。
「うん、学校に友達いないし」
私もシャトルを打ち返しながら、答える。
「ええ!? そうなの!?」
「そんなに驚かないでよ、あなただって、一人で遊んでたんじゃない」
「ああ、うん。なんかみんな、受験勉強だとか塾だとかで、最近遊んでくれなくて」
「へー、そうだったんだ」
「うん。仕方ないけど、ちょっと淋しいかな」
「でも、淋しいと思えるくらい友人関係が良好なんて、うらやましいな」
「そうかな?」
「うん。私もちょっと前までは、友達はいたんだけどね」
「そう、だったんだ」
「ただ、なんかその子たちに、王子様って呼ばれてる男子がいてね」
「へー、王子様か。カッコよかったの?」
「全然。ただ、足がちょっと速かっただけ」
「ふーん、そうなんだ」
「うん。それで、そいつから告白されたの」
「え、こ、告白!?」
「あらやだ、顔赤くして、可愛いー」
「茶化さないでよ! それで、どうなったの?」
「興味ないから、ふったよ。そしたら、友達みんなして、調子に乗ってるとか言い出して」
「それは……、災難だったね……」
「ええ、そうね。本当に、迷惑な話だったな……隙あり!」
スマッシュを打つと、彼女はニヤリと笑った。
「なんの!」
「きゃっ!?」
今度は私が、打ち返されたシャトルを広い損ねて転んでしまった。
彼女が慌てながら駆け寄ってくる。
「ご、めん! 大丈夫!?」
「あははは、平気平気! これで、おあいこだね!」
笑いながら立ち上がると、彼女はホッとしたように微笑んだ。
「それじゃあ、一対一だから、次で最後の勝負に……」
「あー、お前、なんでこんなところにいるのー!?」
いきなり、ギャーギャーと耳障りな声が、彼女の声をさえぎった。
声の方を見ると、同じクラスの男子が数人、自転車にまたがっていた。
「一人でこんな遠くまで来て、いけないんだー!」
「仕方ないだろ、こいつ友達いないんだし!」
「かわいそうだから、俺たちが送ってやろうかー!?」
……あーあ、折角さっきまで楽しかったのに、台無しだ。
「なあ、なに黙ってるんだよ?」
「お前、口がきけないの? それとも、耳がきこえないの?」
「そうだそうだ、返事くらいしろよ!
「……あのさ、ちょっといいかな?」
不意に、彼女が男子たちに近づいていった。
「な、お前なんだよ?」
リーダー格の男子が睨みつけると、彼女はニコリと笑った。
そして――
「目障りだから、消えてくれるかな?」
――表情を変えずに、そう言い放った。
笑顔できついことを言われて、男子たちはうろたえだした。
「え、な、なんだよ、俺たちはアイツに気をつかってやったのに」
「そうだよ、俺たちは、アイツが、一人だから」
「友達がいないなら、付き合ってやろうって、親切で……」
「うん。でも、すごく目障りだから。そうだよね?」
笑顔で同意を求める彼女に、無言でうなずいた。
そうすると、男子たちはショックを受けた顔をした。
「とういうことで、今すぐ消えてくれるよね」
「おい、付き合ってらんないから、もう行こうぜ」
「うん……」
「そうだな……」
男子たちはトボトボと帰っていった。
「……別に、放っておいてもよかったのに」
「え!? あ、ごめんっ! かえって迷惑だった!?」
私の言葉に、彼女が慌てだす。
その姿がなんだかおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「あははは、そんなことはないよ。ありがとう」
私が笑いだすと、彼女もホッとしたように微笑んだ。
「それならよかった。でも、友達なら当然だよ!」
「……え? 友達?」
思わず問い返すと、彼女は勢いよくうなずいて――
「うん! 一緒に遊んだんだから、私たちはもう友達!」
――屈託のない笑顔を浮かべた。
王子様なんて、ゲームの中にしかいない。
そう思っていた。
それなのに、目の前の彼女は、ゲームの中のどんな王子様よりも、キレイで格好良かった。
「ん? どうしたの?」
「……ううん、なんでもない! それより、最後の勝負をしよう!」
「うん! そうだね!」
それから、私たちはまたシャトルを打ち合った。
そこで、彼女がシューティングゲームを好きだとか、中学校は同じかもしれないだとかの話をしながらラリーをした。
ラリーを続けているうちに、午後五時を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「あ! いけない、もうこんな時間だ! 君、一人で帰れる?」
「うん、大丈夫だよ!」
「そっか! じゃあ、決着は明日つけよう!」
「うん! そうしよう!」
そんな約束をして、その日は彼女と別れた。
でも、その約束は果たせなかった。
近所の人が、一人でいる私を見かけていて、お母さんにバレてしまったから。
「もう一人で、あんなに遠くへいっちゃだめよ」
泣きだしそうなお母さんの言葉に、反論なんてできなかった。
だから、その日以降、あの公園へはいけなくなってしまった。
それでも、彼女のことは、ずっと忘れられなかった。
優しい言葉をかけてくれたこと。
嫌なヤツらを追い払ってくれたこと。
笑顔がすごくキレイで格好良かったこと。
気がつけば、彼女が好きだといっていたシューティングゲームにも、手を出すようになっていた。
乙女ゲームでも、いつも彼女の面影があるキャラを好きになった。
だから、中学に上がって彼女と再会できたときは、すごく嬉しかった。
彼女は私のことを覚えていなかったけれど、それでも……
「……ま。光の聖女様!」
「う……ん?」
気がつくと、ルリが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「よ、よかったー! もう、突然倒れたんで、ビックリしたっすよ!」
そうだ、究極魔法の練習中にめまいがして、そのまま倒れたんだっけ。
「心配かけてごめんね、ルリ」
「いえいえ、滅相もないっす! でも、今日の練習はここまでっすよ」
「えー、まだ大丈夫だよ。それに、あともう少しで、コツが掴めそうだし」
「そういう無理は、身体を壊すもとっすよ! 究極魔法を覚える前に大怪我でもして、いざ使うときに上手くいかなくなったら嫌でしょう?」
「うー、それはそうだけどー……」
「それなら、今日はもう休んでください!」
「分かった……」
たしかに、失敗するわけにはいかない、か。
「ところで、光の聖女様、闇の元帥さんのこと、本当によかったんすか?」
「よかったって、何が? ああ、まあ、私だってお泊まりはしたかったけど、究極魔法の練習だけは、サボれないし……」
「あ、いや、その話じゃないっす!」
「えー、じゃあ、どの話よ?」
問いかけると、ルリは気まずそうに頬をかいた。
「それは、ほら、闇の元帥さんに本当の名前、教えなくてよかったのかな、と」
……ああ、そのことか。
「別に教えなくても、不都合はないでしょ? それとも、私の決定に何か不満があるの?」
「いやいやいや! 滅相もないっす!」
ルリはすごい速さで首を横に振った。
よかった、絶対に本名をあかすべきだ、とか言われなくて。
だって、野々山ミカなんて人間は、二度とサキの前に現れちゃだめなんだから。
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