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語り合ってます・その三
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光の聖女の名前を聞いた途端、心臓を掴まれたような気分になった。
「え? ミ、ミカ……?」
なんとか問い返すと、光の聖女はニコリと微笑んだ。
「はい、ミカエラ、略してミカですよ」
彼女の口から出たのは、ゲームにおける光の聖女の初期名だった。
「あ、ああ……そうか……」
……焦った。本当に、ミカがここまでやって来てしまったのかと思った。
先ほどの光の聖女……もとい、ミカエラの話だと、彼女がミカである可能性は絶対にないのに。
「ふふふ、そうですよ。ところで、元帥さん、何をそんなに焦ってるのですか?」
「あ、いや、なんでもない……」
「えー、でもなんだか冷や汗をかいているように見えますよ? やっぱり、ここは私の治癒魔法で、身体の隅々まで……」
「だから、指をワキワキさせながら近づいてくるな! さっき、友人から始めるということで、綺麗にまとまったかんじになっただろ!?」
「嫌だなぁ、ちょっとした冗談ですよ」
「その割には、目が笑っていない気がするが?」
「うふふふふ、気のせいですよ」
……はたして、ミカエラと友人になるという選択肢を選んだのは、正解だったのだろうか?
「元帥さん、何かを後悔してそうな顔をしてますけど、大丈夫ですか? やっぱり、友人からじゃなくて恋人から始めたくなりましたか!? 私は望むところですよ!!」
「あー、いや、まあ選択肢を間違えたような気はしたが、友人からという方針は変えない方向で……」
「分かりました! 光の聖女は大好きな元帥さんが望むなら友情ルートだってドンと来いなんですからね!」
「Web小説のタイトルのような台詞で納得してくれて、ありがとう……」
「いえいえ」
ミカエラはそう言うと、フワリとした笑顔を浮かべた。
……別人だと分かっていても、この笑顔を見るとどうしてもミカを思い出してしまう。
「元帥さん? 私の顔に何かついていますか?」
「あ、いや、そうじゃないんだ」
「じゃあ、なんで淋しそうな顔で私を見つめていたんですか?」
いくら心配そうな表情に面影があっても、目の前に居るのはミカではない。
それでも、確かめないままには、いられそうにもない。
「……さっきの話だと、ミカエラはこの世界に来る前のことを覚えているんだろ?」
「はい! 結構しっかりと覚えてますよ?」
「なら、以前の世界での名前も、教えてもらえるか?」
もしも、このミカエラの本名が野々山ミカならば、彼女が想いを寄せていた相手は、羽村サキのはず。だって、ミカは私に闇の元帥が好きだといつも話してくれて、私が闇の元帥のコスプレをするのを楽しみだと言ってくれていたんだから。
だから、きっと……
「ごめんなさい、それだけは覚えていないんです」
「……そうか」
……何を、未練がましく期待していたんだろう。
ミカが他の相手に告白するところも、それが成就するところも、あの日、この目でハッキリと見たというのに。
「……そうだ、元帥さん!」
「……うん? どうした?」
「元帥さんは、この世界に来る前に、なんて名前だったんですか?」
「そうだな……えぇっ!?」
思わず、某国民的アニメの眼鏡の旦那さんのような声を出してしまった。
「もう、気づかれてないとでも、思っていたんですか?」
「あ、いや……いつから、気づいてたんだ?」
「え? だってほら、ザクロと一緒に扉を持ってきたときに、ブラック企業だの、Web小説だの、こっちの世界にないものを出して、的確なツッコミを入れてたじゃないですか」
「ああ……それも、そうだな……」
我ながら、なんで今まで気づかれていないと思っていたんだろう……
「ふふふふ、それに、かたくなに光の聖女に会いに来なかったので、きっと貴女は私が知っている元帥さんとは違うんだろうなって思ってました」
「そうか……」
ミカエラは、最初からお見通しだったわけか。それなのに私は常に闇の元帥っぽくあろうとしたり、中身が別人だと知ったらショックを受けるかもなんて悩んだりしてたのか……なんだか、急に恥ずかしくなってきた。
「ほらほら、元帥さん。格好つけながらシリアスに悩むなんて黒歴史は、誰にだってありますから」
「そう思うなら、掘り返さないでくれ……でも、それなら」
「それなら?」
「話を戻すようで申し訳ないが、なぜ私にそこまで執着するんだ? 中身が別人だと、分かっているのに」
「ふふふ、今のツッコミ苦労人系の元帥さんも、可愛いからですよ」
「そうか……」
「それに、そういうところも、さっき話した好きだった子に似てますから、ますます好きになったんです」
「……そうか」
うん、何というか、ここまでハッキリと言われると、むしろすがすがしいな。やっぱり、グダグダと悩んでいたのが、馬鹿みたいに思えてきた……
「ほらほら、元帥さん。人はみな黒歴史を刻みながら生きているんだから、落ち込んじゃ駄目ですよ!」
「ああ、そうだな……」
「それで、お名前は? もしも、どうしても言いたくないなら、無理には聞きませんが」
「あ、いや、大丈夫だよ。私の名前は、羽村サキ」
「サキか……うん、いい名前ですね!」
「それは、どうも。ああ、そうだ、多分君と同い年くらいだから、敬語じゃなくても大丈夫だよ」
「そうなんだ……じゃあ、改めてよろしくね、サキ!」
……うん、予想はしていたけれども、敬語じゃなくなると、ミカの面影と凄まじく重なるね。
「あー、サキ、また元カノのこと思い出してたでしょ!?」
「っ!? べ、別に、あの子は元カノというわけじゃ……」
「へー、でも思い出してたことは、否定しないんだー」
「ご、ごめん!」
「ふっふっふ、許さん! こうなったら、私もあの子のこと思い出しながら、抱きついてやる!」
「きゃー! およしになってー!」
「ふはははは! 良いではないか!」
……なんだろう、こうしていると、本当にミカとじゃれ合っている気分になってくる。きっと、ミカエラも、ずっと好きだった子と過ごしていた頃を思い出しているのだろう。どこか淋しそうな顔をしているから。
「……ねえ、サキ」
不意に、腕にしがみついたミカエラが、上目遣いで首を傾げた。
「なに? ミカエラ」
「私、闇の元帥さんじゃなくて、貴女のことをもっと知りたい。何が好きかとか、元の世界でどんなふうに暮らしていたかとか」
「うん、私も、光の聖女じゃなくて、君のことを知りたいかな」
「じゃあ、その辺のお話をしようか」
「うん、そうだね」
それから、私たちは、何となく互いの思い人の話題は避けながら、元の世界でどんなふうに過ごしていたかを話し込んだ。学校で流行っていることや、学校の近くにある遊び場の話をしているうちに、どうやらかなり近所に住んでいたということが分かってきた。
「ひょっとしたら、サキとは同じ学校に通ってたのかもしれないね」
「そうだね。ここまで話が通じるなら、実は隣のクラスだっりしたのかも」
「あははは、ありえるかもー!」
ミカエラは楽しそうに笑ってから、軽く首を傾げた。
「ところでさ、サキは元の世界に戻りたいとか思う?」
……そういえば、元の世界に戻るのはもう無理だと思って、考えたことすらなかった。
あのときに、命を落としたんだと思っていたから。それでも……
「……戻れるなら、戻りたいかもしれない。親も、心配してると思うし」
それに、ミカも友達として、私のことを心配しているはずだから。
「そっか」
「そういうミカエラはどうなの?」
「うーん、さっきも言ったみたいに、あの子が遠くに行っちゃったときは、こんな世界いらない、むしろ滅びろと思ったけど……」
「ほ、滅びろっていうのは、言い過ぎじゃないかな?」
「ふっふっふ、恋する乙女というのは、いつだって過激なのだよ」
「わ、私は多分、そこまで過激じゃなかったと思うよ?」
「それは、サキが優しいからだよ!」
「そう、なのかなぁ?」
「そうそう! だから、そんな優しいサキが戻りたいというくらいなら、元の世界も良いかなって思えたよ!」
「そっか、それなら、二人で一緒に戻れるといいね!」
「……うん。そうだよね!」
……あれ?
なんか、今、返事までに表情が曇った気がするけれど……気のせい、かな?
「え? ミ、ミカ……?」
なんとか問い返すと、光の聖女はニコリと微笑んだ。
「はい、ミカエラ、略してミカですよ」
彼女の口から出たのは、ゲームにおける光の聖女の初期名だった。
「あ、ああ……そうか……」
……焦った。本当に、ミカがここまでやって来てしまったのかと思った。
先ほどの光の聖女……もとい、ミカエラの話だと、彼女がミカである可能性は絶対にないのに。
「ふふふ、そうですよ。ところで、元帥さん、何をそんなに焦ってるのですか?」
「あ、いや、なんでもない……」
「えー、でもなんだか冷や汗をかいているように見えますよ? やっぱり、ここは私の治癒魔法で、身体の隅々まで……」
「だから、指をワキワキさせながら近づいてくるな! さっき、友人から始めるということで、綺麗にまとまったかんじになっただろ!?」
「嫌だなぁ、ちょっとした冗談ですよ」
「その割には、目が笑っていない気がするが?」
「うふふふふ、気のせいですよ」
……はたして、ミカエラと友人になるという選択肢を選んだのは、正解だったのだろうか?
「元帥さん、何かを後悔してそうな顔をしてますけど、大丈夫ですか? やっぱり、友人からじゃなくて恋人から始めたくなりましたか!? 私は望むところですよ!!」
「あー、いや、まあ選択肢を間違えたような気はしたが、友人からという方針は変えない方向で……」
「分かりました! 光の聖女は大好きな元帥さんが望むなら友情ルートだってドンと来いなんですからね!」
「Web小説のタイトルのような台詞で納得してくれて、ありがとう……」
「いえいえ」
ミカエラはそう言うと、フワリとした笑顔を浮かべた。
……別人だと分かっていても、この笑顔を見るとどうしてもミカを思い出してしまう。
「元帥さん? 私の顔に何かついていますか?」
「あ、いや、そうじゃないんだ」
「じゃあ、なんで淋しそうな顔で私を見つめていたんですか?」
いくら心配そうな表情に面影があっても、目の前に居るのはミカではない。
それでも、確かめないままには、いられそうにもない。
「……さっきの話だと、ミカエラはこの世界に来る前のことを覚えているんだろ?」
「はい! 結構しっかりと覚えてますよ?」
「なら、以前の世界での名前も、教えてもらえるか?」
もしも、このミカエラの本名が野々山ミカならば、彼女が想いを寄せていた相手は、羽村サキのはず。だって、ミカは私に闇の元帥が好きだといつも話してくれて、私が闇の元帥のコスプレをするのを楽しみだと言ってくれていたんだから。
だから、きっと……
「ごめんなさい、それだけは覚えていないんです」
「……そうか」
……何を、未練がましく期待していたんだろう。
ミカが他の相手に告白するところも、それが成就するところも、あの日、この目でハッキリと見たというのに。
「……そうだ、元帥さん!」
「……うん? どうした?」
「元帥さんは、この世界に来る前に、なんて名前だったんですか?」
「そうだな……えぇっ!?」
思わず、某国民的アニメの眼鏡の旦那さんのような声を出してしまった。
「もう、気づかれてないとでも、思っていたんですか?」
「あ、いや……いつから、気づいてたんだ?」
「え? だってほら、ザクロと一緒に扉を持ってきたときに、ブラック企業だの、Web小説だの、こっちの世界にないものを出して、的確なツッコミを入れてたじゃないですか」
「ああ……それも、そうだな……」
我ながら、なんで今まで気づかれていないと思っていたんだろう……
「ふふふふ、それに、かたくなに光の聖女に会いに来なかったので、きっと貴女は私が知っている元帥さんとは違うんだろうなって思ってました」
「そうか……」
ミカエラは、最初からお見通しだったわけか。それなのに私は常に闇の元帥っぽくあろうとしたり、中身が別人だと知ったらショックを受けるかもなんて悩んだりしてたのか……なんだか、急に恥ずかしくなってきた。
「ほらほら、元帥さん。格好つけながらシリアスに悩むなんて黒歴史は、誰にだってありますから」
「そう思うなら、掘り返さないでくれ……でも、それなら」
「それなら?」
「話を戻すようで申し訳ないが、なぜ私にそこまで執着するんだ? 中身が別人だと、分かっているのに」
「ふふふ、今のツッコミ苦労人系の元帥さんも、可愛いからですよ」
「そうか……」
「それに、そういうところも、さっき話した好きだった子に似てますから、ますます好きになったんです」
「……そうか」
うん、何というか、ここまでハッキリと言われると、むしろすがすがしいな。やっぱり、グダグダと悩んでいたのが、馬鹿みたいに思えてきた……
「ほらほら、元帥さん。人はみな黒歴史を刻みながら生きているんだから、落ち込んじゃ駄目ですよ!」
「ああ、そうだな……」
「それで、お名前は? もしも、どうしても言いたくないなら、無理には聞きませんが」
「あ、いや、大丈夫だよ。私の名前は、羽村サキ」
「サキか……うん、いい名前ですね!」
「それは、どうも。ああ、そうだ、多分君と同い年くらいだから、敬語じゃなくても大丈夫だよ」
「そうなんだ……じゃあ、改めてよろしくね、サキ!」
……うん、予想はしていたけれども、敬語じゃなくなると、ミカの面影と凄まじく重なるね。
「あー、サキ、また元カノのこと思い出してたでしょ!?」
「っ!? べ、別に、あの子は元カノというわけじゃ……」
「へー、でも思い出してたことは、否定しないんだー」
「ご、ごめん!」
「ふっふっふ、許さん! こうなったら、私もあの子のこと思い出しながら、抱きついてやる!」
「きゃー! およしになってー!」
「ふはははは! 良いではないか!」
……なんだろう、こうしていると、本当にミカとじゃれ合っている気分になってくる。きっと、ミカエラも、ずっと好きだった子と過ごしていた頃を思い出しているのだろう。どこか淋しそうな顔をしているから。
「……ねえ、サキ」
不意に、腕にしがみついたミカエラが、上目遣いで首を傾げた。
「なに? ミカエラ」
「私、闇の元帥さんじゃなくて、貴女のことをもっと知りたい。何が好きかとか、元の世界でどんなふうに暮らしていたかとか」
「うん、私も、光の聖女じゃなくて、君のことを知りたいかな」
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「うん、そうだね」
それから、私たちは、何となく互いの思い人の話題は避けながら、元の世界でどんなふうに過ごしていたかを話し込んだ。学校で流行っていることや、学校の近くにある遊び場の話をしているうちに、どうやらかなり近所に住んでいたということが分かってきた。
「ひょっとしたら、サキとは同じ学校に通ってたのかもしれないね」
「そうだね。ここまで話が通じるなら、実は隣のクラスだっりしたのかも」
「あははは、ありえるかもー!」
ミカエラは楽しそうに笑ってから、軽く首を傾げた。
「ところでさ、サキは元の世界に戻りたいとか思う?」
……そういえば、元の世界に戻るのはもう無理だと思って、考えたことすらなかった。
あのときに、命を落としたんだと思っていたから。それでも……
「……戻れるなら、戻りたいかもしれない。親も、心配してると思うし」
それに、ミカも友達として、私のことを心配しているはずだから。
「そっか」
「そういうミカエラはどうなの?」
「うーん、さっきも言ったみたいに、あの子が遠くに行っちゃったときは、こんな世界いらない、むしろ滅びろと思ったけど……」
「ほ、滅びろっていうのは、言い過ぎじゃないかな?」
「ふっふっふ、恋する乙女というのは、いつだって過激なのだよ」
「わ、私は多分、そこまで過激じゃなかったと思うよ?」
「それは、サキが優しいからだよ!」
「そう、なのかなぁ?」
「そうそう! だから、そんな優しいサキが戻りたいというくらいなら、元の世界も良いかなって思えたよ!」
「そっか、それなら、二人で一緒に戻れるといいね!」
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