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どうしてそうなるのか
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うちのパーティーは王都でも最強と謳われている。そのため、入団希望者が後を絶たず、メンバーも大勢いる。
「君は本日付で解雇だ」
……当然、その中にはトラブルを起こしてクビになる奴もいる。
「なんでですかリーダー!?」
目の前で、入団して間もない回復術士の女性が金切り声を上げた。
「なんでも何も、君は重大な服務規程違反をした。それが何かは、言わなくても分かるな?」
そう伝えると、女性は口をつぐんでうつむいた。
「なぜあんなことをしたのか、言い分は聞こうか」
とは言ってみたものの、大体の見当はついている。
「だって! あの子が、私の好きな人を横取りするから!」
……だろうと思った。
「あの子、というのは双剣使いのエミリで、好きな人というのが魔術師のロイドだな?」
「そうよ! エミリの奴、最初は妹みたいだから可愛がってあげたのに……私とロイドが良い雰囲気になったら、あの人に色目を使って奪っていったのよ!」
「だから、エミリがモンスターの攻撃魔法でダメージを負っても、回復せずに放っておいたのか?」
「そうよ! あの子、私がいないと何もできないくせに調子に乗るから、思い知らせてあげたのよ!」
「……同行したルクスが咄嗟に回復矢を撃たなければ、命が危なかったかもしれないのにか?」
「それは、だって……」
女性は口ごもりながら、視線を反らした。まったく、後ろめたいと思うなら、馬鹿げたことをしなければ良かったのに。
「回復術師が正当な理由なく回復を怠り、あまつさえメンバーを命の危機に晒すのは、懲戒の対象だ」
そう告げると、女性は恨みがましい目をこちらに向けた。
「分かりました……それなら、ロイドに忠告してあげてください。あの子は人の物を盗るのが好きなだけなんだから、私がいなくなったらすぐに捨てられるわよって」
……捨て台詞を吐きたい気持ちも、分からなくはない。だが、罪のないメンバーを悪く言われて放っておけるほど、俺は軽薄ではない。
「あのな……エミリはたしかに、君よりも年下だ。だが、入団したのは君よりも前、ロイドと同じ時期だ。二人はその頃から、仲が良かった」
「……え?」
「それに、仕事では別姓を名乗っているが、二人は君が入団する前に結婚している」
「そんな……」
「つまり、君の方が横恋慕して、今回の件を引き起こしたんだ。ちなみに、ロイドからも、君がことあるごとにエミリに突っかかって困っている、と相談を受けていたよ」
事実を伝えると、女性は顔を赤くして肩を震わせた。
「う、うるさいわね! あんな子に言いくるめられるなんて、リーダーもロイドも見る目がないのよ! こんなパーティー出ていって、もっといい男に溺愛されてやるんだから!」
女性は金切り声でそう叫びながら、部屋から出ていった。
「……君のような人間を採用してしまったのだから、見る目がないのは確かかもな」
そんな独り言を呟いていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「入れ」
声をかけると、予想通りルクスが現れた。
「ベルム、ちょっと良いか?」
「うん、どうした?」
言いたいことは大体分かっているが、今日も問い返した。
「ああ、辞表を持ってきたんだ」
……まあ、そうだろうな。
理由もいつも通りなのだろうが、念のため聞いてみよう。
「一応、どうしてそうなるのか、話を聞こうか」
「ああ。話せば長くなるんだが、この間、恋をしたんだ」
「……は?」
思いも寄らぬ回答に、気の抜けた声が出てしまった。
ルクスが、恋? それはともかく、なぜそれでパーティーを辞めたいという話になるんだ?
「この間立ち寄ったケーキ屋にな、凄く可憐で笑顔が可愛い子がいたんだ」
「そ、そうか」
「それで、お近づきになりたいけど、仕事中に声をかけたら迷惑になるかと思って……」
「たしかに、混雑してるときとかは迷惑かもな」
「ああ。だから、こうなったら一緒に働くしかないと思って、入店試験を受けにいったんだよ」
「まあ、たしかに副業は禁止してないが……それで、試験に受かったからこっちを辞めたい、と言うのか?」
理由はどうであれ、他に本気でやりたいことが見つかったなら、仕方ないか。少し、淋しい気もするが。
「いや、試験には落ちたよ。それに、受かったならこっちと兼業しようと思ってた」
「じゃあ、なんで辞表を持ってきたんだよ!?」
思わず声を荒らげると、ルクスはばつが悪そうに頬を掻いた。
「えーと、その試験の内容ってのがな、可愛くて美味しいパイを作れ、だったんだ」
「それで?」
「だから、この間狩った可愛いと名高いコウゲンシロウサギを使って、ミートパイを作ろうと思ってだな……」
……なんだかもの凄く、嫌な予感がする。
「まさか……試験会場で、捌くところから始めたのか」
さすがに、どこかズレたとこのあるルクスでも、そこまではしないはず……。
「ああ、そうだ」
……長年の付き合いだと言うのに、読みが甘かったか。
「そしたら、試験会場にいた彼女を含めた全員が、真っ青になってな……料理の腕は確かですが、残念ながら当店の方針には合わない、と言う結果を彼女から直々に言われたよ」
「まあ、それはそうだろうな」
「やっぱりそうか……そこでな、ひょっとしたら今までもこんな感じで周りの意図を読み間違えて、迷惑をかけてきたんじゃないか? それなら、俺の都合がどうであれ、パーティーを辞めないといけないんじゃないか? と思い、辞表を持ってくるに至った」
「うん。今まさに、辞めて欲しくないという意図を読み違えられて、もの凄く迷惑している」
長くて脱力感満載の事情を聞き終え、口から深いため息が漏れた。
「でも、ほら、俺が辞めたくなくて、お前がそう言ってくれても、迷惑をかけてるなら……」
「もう、うるさい! いいから俺の目を見て、今から言うことを復唱しろ!」
「え、あ、うん」
そんな感じで、今日も俺の固有スキルはコイツを引き留めるために使うことになった。
取りあえず、説得が終わったら、ケーキ店にお詫びにいかなくては。しかし、ケーキ店が相手となると、お詫びの品は菓子折り以外にしないといけないのだろうか……。
「君は本日付で解雇だ」
……当然、その中にはトラブルを起こしてクビになる奴もいる。
「なんでですかリーダー!?」
目の前で、入団して間もない回復術士の女性が金切り声を上げた。
「なんでも何も、君は重大な服務規程違反をした。それが何かは、言わなくても分かるな?」
そう伝えると、女性は口をつぐんでうつむいた。
「なぜあんなことをしたのか、言い分は聞こうか」
とは言ってみたものの、大体の見当はついている。
「だって! あの子が、私の好きな人を横取りするから!」
……だろうと思った。
「あの子、というのは双剣使いのエミリで、好きな人というのが魔術師のロイドだな?」
「そうよ! エミリの奴、最初は妹みたいだから可愛がってあげたのに……私とロイドが良い雰囲気になったら、あの人に色目を使って奪っていったのよ!」
「だから、エミリがモンスターの攻撃魔法でダメージを負っても、回復せずに放っておいたのか?」
「そうよ! あの子、私がいないと何もできないくせに調子に乗るから、思い知らせてあげたのよ!」
「……同行したルクスが咄嗟に回復矢を撃たなければ、命が危なかったかもしれないのにか?」
「それは、だって……」
女性は口ごもりながら、視線を反らした。まったく、後ろめたいと思うなら、馬鹿げたことをしなければ良かったのに。
「回復術師が正当な理由なく回復を怠り、あまつさえメンバーを命の危機に晒すのは、懲戒の対象だ」
そう告げると、女性は恨みがましい目をこちらに向けた。
「分かりました……それなら、ロイドに忠告してあげてください。あの子は人の物を盗るのが好きなだけなんだから、私がいなくなったらすぐに捨てられるわよって」
……捨て台詞を吐きたい気持ちも、分からなくはない。だが、罪のないメンバーを悪く言われて放っておけるほど、俺は軽薄ではない。
「あのな……エミリはたしかに、君よりも年下だ。だが、入団したのは君よりも前、ロイドと同じ時期だ。二人はその頃から、仲が良かった」
「……え?」
「それに、仕事では別姓を名乗っているが、二人は君が入団する前に結婚している」
「そんな……」
「つまり、君の方が横恋慕して、今回の件を引き起こしたんだ。ちなみに、ロイドからも、君がことあるごとにエミリに突っかかって困っている、と相談を受けていたよ」
事実を伝えると、女性は顔を赤くして肩を震わせた。
「う、うるさいわね! あんな子に言いくるめられるなんて、リーダーもロイドも見る目がないのよ! こんなパーティー出ていって、もっといい男に溺愛されてやるんだから!」
女性は金切り声でそう叫びながら、部屋から出ていった。
「……君のような人間を採用してしまったのだから、見る目がないのは確かかもな」
そんな独り言を呟いていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「入れ」
声をかけると、予想通りルクスが現れた。
「ベルム、ちょっと良いか?」
「うん、どうした?」
言いたいことは大体分かっているが、今日も問い返した。
「ああ、辞表を持ってきたんだ」
……まあ、そうだろうな。
理由もいつも通りなのだろうが、念のため聞いてみよう。
「一応、どうしてそうなるのか、話を聞こうか」
「ああ。話せば長くなるんだが、この間、恋をしたんだ」
「……は?」
思いも寄らぬ回答に、気の抜けた声が出てしまった。
ルクスが、恋? それはともかく、なぜそれでパーティーを辞めたいという話になるんだ?
「この間立ち寄ったケーキ屋にな、凄く可憐で笑顔が可愛い子がいたんだ」
「そ、そうか」
「それで、お近づきになりたいけど、仕事中に声をかけたら迷惑になるかと思って……」
「たしかに、混雑してるときとかは迷惑かもな」
「ああ。だから、こうなったら一緒に働くしかないと思って、入店試験を受けにいったんだよ」
「まあ、たしかに副業は禁止してないが……それで、試験に受かったからこっちを辞めたい、と言うのか?」
理由はどうであれ、他に本気でやりたいことが見つかったなら、仕方ないか。少し、淋しい気もするが。
「いや、試験には落ちたよ。それに、受かったならこっちと兼業しようと思ってた」
「じゃあ、なんで辞表を持ってきたんだよ!?」
思わず声を荒らげると、ルクスはばつが悪そうに頬を掻いた。
「えーと、その試験の内容ってのがな、可愛くて美味しいパイを作れ、だったんだ」
「それで?」
「だから、この間狩った可愛いと名高いコウゲンシロウサギを使って、ミートパイを作ろうと思ってだな……」
……なんだかもの凄く、嫌な予感がする。
「まさか……試験会場で、捌くところから始めたのか」
さすがに、どこかズレたとこのあるルクスでも、そこまではしないはず……。
「ああ、そうだ」
……長年の付き合いだと言うのに、読みが甘かったか。
「そしたら、試験会場にいた彼女を含めた全員が、真っ青になってな……料理の腕は確かですが、残念ながら当店の方針には合わない、と言う結果を彼女から直々に言われたよ」
「まあ、それはそうだろうな」
「やっぱりそうか……そこでな、ひょっとしたら今までもこんな感じで周りの意図を読み間違えて、迷惑をかけてきたんじゃないか? それなら、俺の都合がどうであれ、パーティーを辞めないといけないんじゃないか? と思い、辞表を持ってくるに至った」
「うん。今まさに、辞めて欲しくないという意図を読み違えられて、もの凄く迷惑している」
長くて脱力感満載の事情を聞き終え、口から深いため息が漏れた。
「でも、ほら、俺が辞めたくなくて、お前がそう言ってくれても、迷惑をかけてるなら……」
「もう、うるさい! いいから俺の目を見て、今から言うことを復唱しろ!」
「え、あ、うん」
そんな感じで、今日も俺の固有スキルはコイツを引き留めるために使うことになった。
取りあえず、説得が終わったら、ケーキ店にお詫びにいかなくては。しかし、ケーキ店が相手となると、お詫びの品は菓子折り以外にしないといけないのだろうか……。
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