98 / 104
許されるのならば
しおりを挟む
相変わらず、目に見えるのは蝋燭の刺さった鉄輪と円い鏡が置かれた祭壇だけ。それ以外は、何も無い真っ暗な場所。それでも、鏡の中を覗くと、外の様子を見ることはできました。
私にできたのは、全身の感覚がぼやける中で、ただぼんやりと、彼女が変わってしまった私の身体を使ってすることを眺めることだけでした。烏ノ森マネージャーをいたぶったり、私のふりをして混乱させたりする、そんな様子を。
それを見ているうちに、烏ノ森マネージャーが私のことを気に懸けてくださっていたということも、知ることができました。それでも、烏ノ森マネージャーは、私のふりをする彼女に簡単に騙されていました。
……それも仕方ないですよね、烏ノ森マネージャーが見ていたのも、私ではなく亡くなった娘さんの面影なのですから。月見野様と、同じように。
入社当時から気に懸けてくださっていた上司が気づかなかったくらいなのだから、葉河瀨さんだって私のふりをした彼女に気がつくはずがない。そんなことを思いながら、ぼんやりと葉河瀨さんが来るのを待っていました。
それでも、なんとかして、葉河瀨さんを巻き込むことを阻止したい。
そう思っても、ぼんやりとする頭では良い方法など、浮かんではきませんでした。そうしているうちに、時間が過ぎ、葉河瀨さん、月見野様、日神さんと早川さんの姿が鏡の中に現れました。そして、彼女が私のふりをして、葉河瀨さんに近づいていきました。
きっと、葉河瀨さんも彼女が私ではないことに、気づくことはない。そうなれば、彼女は葉河瀨さんを言いくるめて、その手を汚すようなことをさせてしまう。
いっそのこと鏡をたたき割って、喉を掻き切ってしまえば、彼女のことも止められるかもしれない。
少しでも可能性があるのならば、試す価値はあるはず。
そう考えて、感覚の無い腕をなんとか動かし、鏡を掴もうとしました。
「……誰ですか?貴女は」
「……え?あ、あの、葉河瀨、さん?」
……でも、私の不安に反して、葉河瀨さんはすぐに、彼女が私ではないことに気がつきました。
それから、葉河瀨さんは挑発しながら、手にした槍のような武器で彼女を攻撃していきました。その度に、ぼやけていた身体の感覚が、元に戻っていきました。
それでも、一瞬の隙を突いて、彼女は葉河瀨さんの義眼を抉って、喉元に手をかけました。そして、私の声で酷い言葉を投げかけました。鏡には、泣き出しそうな葉河瀨さんの表情が映し出されました。
……これ以上、葉河瀨さんを悲しませたくないのに。
誤解をして、酷いことをしてしまったことを謝りたいのに。
ちゃんと私のことを見てくれたことに、お礼を言いたいのに。
鏡を掴んで覗き込んでいると、葉河瀨さんと目が合いました。葉河瀨さんは苦しそうにしながらも、優しく微笑んで……
「貴女……が心か……ら、好……きでし……た……どう……か幸せ……に」
……私のことを好きと言って、私の幸せを願ってくれました。
もしも、許されるのならば、葉河瀨さんの側に居たい。
そう思ったのに、鏡の中で彼女は首にかけた手に力を込め……
「止めてください!」
……私は思わず鏡に向かって、大声で叫んでいました。
「……ぐぁ!?」
そうすると、鏡の中には、額をおさえながらうめき声を上げる彼女の姿が映りました。
「ええい!今更、何の用だ!?」
「約束が、違いますよね」
私が答えると、彼女は煩わしそうな表情を浮かべました。
「何?約束が違う?」
「葉河瀨さんが、貴女が私のふりをしていることに気づいたら、これ以上巻き込まない約束です」
「はっ!約束通り、手駒にはしていないだろうに」
「それでも、葉河瀨さんを傷つけるのをこれ以上黙って見ていられません!」
「ああ、もう!うるさい!少し黙れ!」
彼女は、苛立った表情を浮かべながら喚き散らしました。
「くらえ!必殺・根性のスーパー主任アロー!」
何か言い返さないとと思っていると、早川さんの声と共に轟音が響き……
「ぎゃあ!?」
彼女は悲鳴を上げながら、葉河瀨さんから離れ……
「貴様から、始末してくれる!」
早川さんに飛びかかり……
「一条さん、ちょっとだけ我慢してね……とう!」
「きゃっ!?」
……月見野様に投げ飛ばされました。
それから、彼女は苛立ちながらも月見野様の説得を受け、得意げな表情でよくある身の上話を始めました。
不幸自慢も大概にしてほしいな、なんて思いながらこの状況を打ち破る方法を必死に考えました。彼女に干渉できるようになったみたいですから、なんとかして動きを封じられないでしょうか……
そんなことを考えていると、鏡の中に静かな動きで彼女に近づく葉河瀨さんの姿が見えました。でも、彼女も葉河瀨さんの動きに気づいている様子です。このままでは、葉河瀨さんが、また危ない目に……なんとかして、彼女の動きを止めないと……
「……不意打ちなどと卑怯な真似をする男も、ろくでもないと思うがな」
「それは、どうも」
焦っているのに良い考えは浮かばず、彼女は不意打ちを振り払って武器を奪い、葉河瀨さんは床に倒れてしまいました。早く、なんとかしないと……
「やはり、貴様から消えてもら……」
「ふざけないでください!」
「うわぁっ!?」
イチかバチか鏡に向かって大声を出してみると、彼女は再び苦しそうなうめき声を上げました。これで、葉河瀨さんを傷つけるのは阻止でしたが、一時的なものですし……一体、どうすれば……
悩んでいると、鏡の中に月見野様の顔が映りました。
……ひょっとしたら、彼女も弱ってきていますし、呼びかけたら声が届くのでは?
「つ、月見野様、今のうちに取り押さえていただけま……」
「……え?」
「ええい!黙れ!」
彼女の声に邪魔されてしまいましたが、月見野様はたしかに私の声に反応してくださいました。これなら、なんとかなりそうです。
「お前の役割はもう済んで……」
「月見野様、はやく……」
「……黙れと言っているだろう!」
彼女の言葉の間を縫いながら声をかけると、月見野様はコクリと頷きました。
「一条さん、ごめんね」
そして、謝りながら彼女を取り押さえくださいました。
これで、当面の間、彼女の動きを封じることができるはず。ただ、あまり長い時間、取り押さえていただくのは、月見野様の身体に負担がかかりそうですし……なんとか、彼女を無力化しないと。でも、まだ、身体の感覚が戻りきっていないですし……
……戻りきっていない?
そうだ、それならば、ひょっとして……
「えいっ」
「痛っ!?貴様、何をする!?」
「え!?ぼ、僕は何もしてないよ?」
ためしに感覚が戻っていない右手を強めにつねってみると、彼女は顔をしかめて月見野様に言いがかりをつけました。濡れ衣を着せてしまったのは申し訳ないですが、これでなんとかなりそうですね……
鉄輪に刺さっている蝋燭を一本引き抜いて、左手で右手の小指を掴んで……よし、これで爪の間に尖った部分を押し当てることができました。
「っ!?お、おい!お前!そこで何をしようとしてるんだ!?」
左手に力を込めると、鏡から、彼女のわめき声が聞こえてきました。それと同時に、右手が震え出しました。ああ、もう、煩わしいですね。
「は、早まった真似をするな!」
左手に込めた力を強めると、右手の震えは少し抑えることができました。これなら、問題なさそうです。
「その手を止めろ!」
私が呪ってしまったおみせやさんの方々は五名。
「分かった、あの男には、これ以上手出しはしない!」
指の爪も五枚。
「月に一度は、お前も外に出してやる!」
彼女が去った後のことを考えると、少しだけ怖いですが……
「だから、やめ……」
……落とし前には、ちょうど良いですよね。
えいっ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
小指の爪が剥げると同時に、鏡からうるさい悲鳴が聞こえてきました。
私の手にはまだ感覚が戻ってきていないですが、向こうはかなり痛かったみたいですね。やっぱり、戻るときが怖いかも……いえ、そんなことは言っていられません。
えーと、まず、これが早川さんの分ですから……
「あぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」
次に、日神さんの分。
「ぁぁぁぁっぁぁぁぁぁああ!」
次が、山口課長の分。
「ぁぁぁぁぁ……」
そして、吉田さんの分。
最後に……
「……」
……葉河瀨さんの分。
あら?
いつの間にか、悲鳴が止まっていますね……
「い、一条さん、これはやりすぎなんじゃ……」
「……故に、八珍、八財、八菓……うわぁ……ゴホンっ、珍華、異香……」
「鬼も、痛みで気絶するんすね……」
その代わり、月見野様、日神さん、早川さんのどこか怯えたような声が聞こえて来ました。でも、皆さんにご迷惑をかけてしまったので、これくらい当然です、よね?それとも、これでは足りなかったのでしょうか……
「一条さんっ!」
不意に、鏡から怒っているような葉河瀨さんの声が聞こえてきました。
「は、はいっ!」
慌てて返事をしながら覗き込むと、鏡には怖い表情を浮かべた葉河瀨さんの顔が映し出されていました。これは、怒っているような、ではなく、完全に怒っていらっしゃいますよね……
「一体、何をしているんですか?」
「え、えーと、これは……彼女を止めるためと、落とし前をつけるために……み、みたいな、感じ、ですか、ね?」
私が答えると、葉河瀨さんは右手で顔を覆って、深いため息をつきました。どうやら、私の声は届いたようです。
「ああ、もう。本当に、何故そうなるのですか……」
それから、葉河瀨さんは再び深いため息を吐きながら、とても落胆した様子の声で、そう呟きました。
えーと、これは、落とし前が足りなかった、ということですよね、きっと。たしかに、葉河瀨さんの分になったときには、彼女は気絶していたみたいですし……
彼女が目覚めたら、奥歯も二本くらい抜いた方が良いのでしょうか?
五徳を使えば、なんとかなりそうな気もしますが、抜歯はちょっと難しいかもしれませんね……
それとも、彼女が去った後に左手の爪も剥ぐ、という方が妥当ですかね?
私にできたのは、全身の感覚がぼやける中で、ただぼんやりと、彼女が変わってしまった私の身体を使ってすることを眺めることだけでした。烏ノ森マネージャーをいたぶったり、私のふりをして混乱させたりする、そんな様子を。
それを見ているうちに、烏ノ森マネージャーが私のことを気に懸けてくださっていたということも、知ることができました。それでも、烏ノ森マネージャーは、私のふりをする彼女に簡単に騙されていました。
……それも仕方ないですよね、烏ノ森マネージャーが見ていたのも、私ではなく亡くなった娘さんの面影なのですから。月見野様と、同じように。
入社当時から気に懸けてくださっていた上司が気づかなかったくらいなのだから、葉河瀨さんだって私のふりをした彼女に気がつくはずがない。そんなことを思いながら、ぼんやりと葉河瀨さんが来るのを待っていました。
それでも、なんとかして、葉河瀨さんを巻き込むことを阻止したい。
そう思っても、ぼんやりとする頭では良い方法など、浮かんではきませんでした。そうしているうちに、時間が過ぎ、葉河瀨さん、月見野様、日神さんと早川さんの姿が鏡の中に現れました。そして、彼女が私のふりをして、葉河瀨さんに近づいていきました。
きっと、葉河瀨さんも彼女が私ではないことに、気づくことはない。そうなれば、彼女は葉河瀨さんを言いくるめて、その手を汚すようなことをさせてしまう。
いっそのこと鏡をたたき割って、喉を掻き切ってしまえば、彼女のことも止められるかもしれない。
少しでも可能性があるのならば、試す価値はあるはず。
そう考えて、感覚の無い腕をなんとか動かし、鏡を掴もうとしました。
「……誰ですか?貴女は」
「……え?あ、あの、葉河瀨、さん?」
……でも、私の不安に反して、葉河瀨さんはすぐに、彼女が私ではないことに気がつきました。
それから、葉河瀨さんは挑発しながら、手にした槍のような武器で彼女を攻撃していきました。その度に、ぼやけていた身体の感覚が、元に戻っていきました。
それでも、一瞬の隙を突いて、彼女は葉河瀨さんの義眼を抉って、喉元に手をかけました。そして、私の声で酷い言葉を投げかけました。鏡には、泣き出しそうな葉河瀨さんの表情が映し出されました。
……これ以上、葉河瀨さんを悲しませたくないのに。
誤解をして、酷いことをしてしまったことを謝りたいのに。
ちゃんと私のことを見てくれたことに、お礼を言いたいのに。
鏡を掴んで覗き込んでいると、葉河瀨さんと目が合いました。葉河瀨さんは苦しそうにしながらも、優しく微笑んで……
「貴女……が心か……ら、好……きでし……た……どう……か幸せ……に」
……私のことを好きと言って、私の幸せを願ってくれました。
もしも、許されるのならば、葉河瀨さんの側に居たい。
そう思ったのに、鏡の中で彼女は首にかけた手に力を込め……
「止めてください!」
……私は思わず鏡に向かって、大声で叫んでいました。
「……ぐぁ!?」
そうすると、鏡の中には、額をおさえながらうめき声を上げる彼女の姿が映りました。
「ええい!今更、何の用だ!?」
「約束が、違いますよね」
私が答えると、彼女は煩わしそうな表情を浮かべました。
「何?約束が違う?」
「葉河瀨さんが、貴女が私のふりをしていることに気づいたら、これ以上巻き込まない約束です」
「はっ!約束通り、手駒にはしていないだろうに」
「それでも、葉河瀨さんを傷つけるのをこれ以上黙って見ていられません!」
「ああ、もう!うるさい!少し黙れ!」
彼女は、苛立った表情を浮かべながら喚き散らしました。
「くらえ!必殺・根性のスーパー主任アロー!」
何か言い返さないとと思っていると、早川さんの声と共に轟音が響き……
「ぎゃあ!?」
彼女は悲鳴を上げながら、葉河瀨さんから離れ……
「貴様から、始末してくれる!」
早川さんに飛びかかり……
「一条さん、ちょっとだけ我慢してね……とう!」
「きゃっ!?」
……月見野様に投げ飛ばされました。
それから、彼女は苛立ちながらも月見野様の説得を受け、得意げな表情でよくある身の上話を始めました。
不幸自慢も大概にしてほしいな、なんて思いながらこの状況を打ち破る方法を必死に考えました。彼女に干渉できるようになったみたいですから、なんとかして動きを封じられないでしょうか……
そんなことを考えていると、鏡の中に静かな動きで彼女に近づく葉河瀨さんの姿が見えました。でも、彼女も葉河瀨さんの動きに気づいている様子です。このままでは、葉河瀨さんが、また危ない目に……なんとかして、彼女の動きを止めないと……
「……不意打ちなどと卑怯な真似をする男も、ろくでもないと思うがな」
「それは、どうも」
焦っているのに良い考えは浮かばず、彼女は不意打ちを振り払って武器を奪い、葉河瀨さんは床に倒れてしまいました。早く、なんとかしないと……
「やはり、貴様から消えてもら……」
「ふざけないでください!」
「うわぁっ!?」
イチかバチか鏡に向かって大声を出してみると、彼女は再び苦しそうなうめき声を上げました。これで、葉河瀨さんを傷つけるのは阻止でしたが、一時的なものですし……一体、どうすれば……
悩んでいると、鏡の中に月見野様の顔が映りました。
……ひょっとしたら、彼女も弱ってきていますし、呼びかけたら声が届くのでは?
「つ、月見野様、今のうちに取り押さえていただけま……」
「……え?」
「ええい!黙れ!」
彼女の声に邪魔されてしまいましたが、月見野様はたしかに私の声に反応してくださいました。これなら、なんとかなりそうです。
「お前の役割はもう済んで……」
「月見野様、はやく……」
「……黙れと言っているだろう!」
彼女の言葉の間を縫いながら声をかけると、月見野様はコクリと頷きました。
「一条さん、ごめんね」
そして、謝りながら彼女を取り押さえくださいました。
これで、当面の間、彼女の動きを封じることができるはず。ただ、あまり長い時間、取り押さえていただくのは、月見野様の身体に負担がかかりそうですし……なんとか、彼女を無力化しないと。でも、まだ、身体の感覚が戻りきっていないですし……
……戻りきっていない?
そうだ、それならば、ひょっとして……
「えいっ」
「痛っ!?貴様、何をする!?」
「え!?ぼ、僕は何もしてないよ?」
ためしに感覚が戻っていない右手を強めにつねってみると、彼女は顔をしかめて月見野様に言いがかりをつけました。濡れ衣を着せてしまったのは申し訳ないですが、これでなんとかなりそうですね……
鉄輪に刺さっている蝋燭を一本引き抜いて、左手で右手の小指を掴んで……よし、これで爪の間に尖った部分を押し当てることができました。
「っ!?お、おい!お前!そこで何をしようとしてるんだ!?」
左手に力を込めると、鏡から、彼女のわめき声が聞こえてきました。それと同時に、右手が震え出しました。ああ、もう、煩わしいですね。
「は、早まった真似をするな!」
左手に込めた力を強めると、右手の震えは少し抑えることができました。これなら、問題なさそうです。
「その手を止めろ!」
私が呪ってしまったおみせやさんの方々は五名。
「分かった、あの男には、これ以上手出しはしない!」
指の爪も五枚。
「月に一度は、お前も外に出してやる!」
彼女が去った後のことを考えると、少しだけ怖いですが……
「だから、やめ……」
……落とし前には、ちょうど良いですよね。
えいっ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
小指の爪が剥げると同時に、鏡からうるさい悲鳴が聞こえてきました。
私の手にはまだ感覚が戻ってきていないですが、向こうはかなり痛かったみたいですね。やっぱり、戻るときが怖いかも……いえ、そんなことは言っていられません。
えーと、まず、これが早川さんの分ですから……
「あぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」
次に、日神さんの分。
「ぁぁぁぁっぁぁぁぁぁああ!」
次が、山口課長の分。
「ぁぁぁぁぁ……」
そして、吉田さんの分。
最後に……
「……」
……葉河瀨さんの分。
あら?
いつの間にか、悲鳴が止まっていますね……
「い、一条さん、これはやりすぎなんじゃ……」
「……故に、八珍、八財、八菓……うわぁ……ゴホンっ、珍華、異香……」
「鬼も、痛みで気絶するんすね……」
その代わり、月見野様、日神さん、早川さんのどこか怯えたような声が聞こえて来ました。でも、皆さんにご迷惑をかけてしまったので、これくらい当然です、よね?それとも、これでは足りなかったのでしょうか……
「一条さんっ!」
不意に、鏡から怒っているような葉河瀨さんの声が聞こえてきました。
「は、はいっ!」
慌てて返事をしながら覗き込むと、鏡には怖い表情を浮かべた葉河瀨さんの顔が映し出されていました。これは、怒っているような、ではなく、完全に怒っていらっしゃいますよね……
「一体、何をしているんですか?」
「え、えーと、これは……彼女を止めるためと、落とし前をつけるために……み、みたいな、感じ、ですか、ね?」
私が答えると、葉河瀨さんは右手で顔を覆って、深いため息をつきました。どうやら、私の声は届いたようです。
「ああ、もう。本当に、何故そうなるのですか……」
それから、葉河瀨さんは再び深いため息を吐きながら、とても落胆した様子の声で、そう呟きました。
えーと、これは、落とし前が足りなかった、ということですよね、きっと。たしかに、葉河瀨さんの分になったときには、彼女は気絶していたみたいですし……
彼女が目覚めたら、奥歯も二本くらい抜いた方が良いのでしょうか?
五徳を使えば、なんとかなりそうな気もしますが、抜歯はちょっと難しいかもしれませんね……
それとも、彼女が去った後に左手の爪も剥ぐ、という方が妥当ですかね?
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【完結】貴方の子供を産ませてください♡〜妖の王の継承者は正妻志望で学園1の銀髪美少女と共に最強スキル「異能狩り」で成り上がり復讐する〜
ひらたけなめこ
キャラ文芸
【完結しました】【キャラ文芸大賞応援ありがとうございましたm(_ _)m】
妖の王の血を引く坂田琥太郎は、高校入学時に一人の美少女と出会う。彼女もまた、人ならざる者だった。一家惨殺された過去を持つ琥太郎は、妖刀童子切安綱を手に、怨敵の土御門翠流とその式神、七鬼衆に復讐を誓う。数奇な運命を辿る琥太郎のもとに集ったのは、学園で出会う陰陽師や妖達だった。
現代あやかし陰陽譚、開幕!
キャラ文芸大賞参加します!皆様、何卒応援宜しくお願いいたしますm(_ _)m投票、お気に入りが励みになります。
著者Twitter
https://twitter.com/@hiratakenameko7
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
こんこん公主の後宮調査 ~彼女が幸せになる方法
朱音ゆうひ
キャラ文芸
紺紺(コンコン)は、亡国の公主で、半・妖狐。
不憫な身の上を保護してくれた文通相手「白家の公子・霞幽(カユウ)」のおかげで難関試験に合格し、宮廷術師になった。それも、護国の英雄と認められた皇帝直属の「九術師」で、序列は一位。
そんな彼女に任務が下る。
「後宮の妃の中に、人間になりすまして悪事を企む妖狐がいる。序列三位の『先見の公子』と一緒に後宮を調査せよ」
失敗したらみんな死んじゃう!?
紺紺は正体を隠し、後宮に潜入することにした!
ワケアリでミステリアスな無感情公子と、不憫だけど前向きに頑張る侍女娘(実は強い)のお話です。
※別サイトにも投稿しています(https://kakuyomu.jp/works/16818093073133522278)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる