176 / 191
第三章 仔猫殿下と、はつ江ばあさん
仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その十七
しおりを挟む
面子の揃いつつある旧カワウソ村の役場跡では……
「バービー殿、守備はいかがでござるか?」
「全然オッケーだよ! 見張りたおしてくれて、ありがとね!」
「いえいえで、ござるよ」
……五郎左衛門が気絶させた見張りたちを縛り、ゴーグルをかけたバービーが工具をカチャカチャと動かしていた。
「しかし、これが伝説の『超・魔導機☆』でござるか……、なんというか想像よりも……」
そう言いながら、五郎左衛門は「超・魔導機・改」へ目を向けた。
レリーフの施された、六角形の巨大な本体。
それを支える、鈍色をした金属製の支柱。
支柱の中央には、艶やかな木材でできたハンドル。
その姿はまさしく……
「そうそう! 商店街の福引でよく見るやつっぽいよね!」
……福引に使うアレだった。
「なんというか、伝説の魔導機にしては、庶民的ないでたちなのでござるな……」
力なく五郎左衛門が呟くと、バービーは作業を続けながらケラケラと笑い出した。
「あははは! たしかに! でも、この時代に作られた願いを叶える系の魔導機って、みんなこんな感じだよ。ビンゴに使うアレみたいな形のものあるし」
「へえ……、そうだったのでござるか……」
「そうそう! ……よっし、終わりっと!」
バービーはそう言って手を止めると、目をつむって伸びをした。その様子に、五郎左衛門が目を輝かせた。
「まことでござるか!? バービー殿!」
「この状況で嘘つくわけないじゃん! そりゃもう完璧にこなしたんだから!」
バービーは得意げな笑みを浮かべると、工具をポシェットにしまい、「超・魔導機・改」をポンポンと叩いた。
「素人仕事だったけど、割と頑張って改造してた感じかな。でも、ま、アタシにかかれば、すぐに直せるけどね!」
「お見事でござる! バービー殿!」
「でしょー? ただ、動作確認する前に、誰か専門知識のある人に、見てもらいたいとこだけど……」
「それなら、ご安心を! ナベリウス館長から、採点要員を送るから安心するように、と言伝があったでござる!」
「マジ? それなら、超助かる! でも、そこそこ厳重に警備されてるのに、どうやって来るのかな?」
「ふむ……、言われてみれば拙者もそこまでは聞いていなかったで……」
五郎左衛門はしょんぼりした表情で、聞いていなかったでござる、と答えようとした。
まさにそのとき!
ヒュゥゥゥゥゥゥ……
「ん?」
「何だろ、この音?」
二人の頭上から、空気を切る音が響き……
ズドーン!
「のわっ!?」
「きゃぁ!?」
……何かが轟音と共に天井を突き破り、床にめり込んだ。
「やだ、なに、なに!? 何が落ちてきたの!?」
「バービー殿! ここは拙者に任せるでござる!」
バービーをかばいながら、五郎左衛門は何かがめり込んだ床をのぞき込んだ。
そこにいたのは……
「うーん……、さすがにオーク族の方の
フルスイングは、衝撃がありますね……」
「そ、その声は!? 魔界考古学界の第一人者、ボウラック博士でござるか!?」
「え、マジ!? あの、『超・魔導機☆』研究でも超有名なポバール先生!?」
……忍者とヤマンバギャルが丁寧に説明したとおり、直径72.93cmに変形したポバール・ボウラックだった。
そして、その後からは……
ふぃぃぃ~……
「これ、スライム! 姫たる麻呂を追い越していくとは、なにごとでおじゃるか!?」
「この声は、ナベリウス館長のお宅の、カトリーヌ殿でござるか!?」
「え!? この間まで博物館でウスベニクジャバッタの自動人形の代役をしてた、本物のウスベニクジャバッタのカトリーヌ!?」
……またしても懇切丁寧な説明を受けながら、気の抜けた羽音と共にカトリーヌが舞い降りた。
カトリーヌはポバールの頭に乗ると、虹色に輝く美しい後翅をしまった。それから、五郎左衛門とバービーを見上げてぴょいんと跳ねた。
「おお! 忍犬にハネトカゲか! なかなかに見事な変装でおじゃるな!」
カトリーヌの言葉をうけ、五郎左衛門は困惑した表情で軽く頭を下げた。
「えーと、ありがたきお言葉でござるが……、お二人はなぜこちらに?」
「うむ! その件ついては、スライムをもとの大きさに戻してから話すでおじゃる! ……ぬぅぉりゃぁあ!」
カトリーヌがとても武闘派な感じの掛け声をかけると、ポバールは見る見るうちに、バービーの背丈と同じくらいの大きさに戻っていった。
「……皆さま、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。改めまして、ポバール・ボウラックです。本日は、魔界王立博物館専属修理士の実技試験の採点に参りました」
「え……、マジ!? 採点官って、ポバール先生なの!? めちゅくちゃ緊張するんですけど!」
「ははは。ナベリウス館長もおっしゃっていましたが、貴女の腕ならなんら心配はありませんよ。さ、修理した箇所を拝見いたしましょう」
ポバールはそういうと、「超・魔導機・改」のもとに、プルプルと近づいていった。そして、体全体で「超・魔導機・改」をつつみプルプルした。
その後しばらくすると「超・魔導機・改」から離れ、バービーの方を向いてプルンと震えた。
「うん、無理やり引きちぎられていた細かい回路も、当時使われていた補修剤で、すべて元通りに修復されています。ウワサ通りの見事な腕前ですね。これなら、王立博物館の専属修理士としても、まったく問題ありません」
ポバールの言葉に、バービーはつけまつ毛を大量に盛った目を、パチクリとさせた。
「え……と、それじゃ、試験は……?」
「おめでとうございます。文句なしに合格です」
ポバールがプルプルとしながら発表すると……
「……ぃよっしゃぁ!」
バービーは涙をにじませながら、拳を空に突き上げて飛び跳ね……
「おめでとうでござる! バービー殿!」
五郎左衛門は笑顔で拍手を送り……
「うむ! よくやったでおじゃるよ、ハネトカゲ!」
……カトリーヌもぴょんぴょん跳ねながら祝福した。
かくして、バービーの悲願が達成されながら、「超・魔導機☆」は本来の姿を取り戻したのだった。
「バービー殿、守備はいかがでござるか?」
「全然オッケーだよ! 見張りたおしてくれて、ありがとね!」
「いえいえで、ござるよ」
……五郎左衛門が気絶させた見張りたちを縛り、ゴーグルをかけたバービーが工具をカチャカチャと動かしていた。
「しかし、これが伝説の『超・魔導機☆』でござるか……、なんというか想像よりも……」
そう言いながら、五郎左衛門は「超・魔導機・改」へ目を向けた。
レリーフの施された、六角形の巨大な本体。
それを支える、鈍色をした金属製の支柱。
支柱の中央には、艶やかな木材でできたハンドル。
その姿はまさしく……
「そうそう! 商店街の福引でよく見るやつっぽいよね!」
……福引に使うアレだった。
「なんというか、伝説の魔導機にしては、庶民的ないでたちなのでござるな……」
力なく五郎左衛門が呟くと、バービーは作業を続けながらケラケラと笑い出した。
「あははは! たしかに! でも、この時代に作られた願いを叶える系の魔導機って、みんなこんな感じだよ。ビンゴに使うアレみたいな形のものあるし」
「へえ……、そうだったのでござるか……」
「そうそう! ……よっし、終わりっと!」
バービーはそう言って手を止めると、目をつむって伸びをした。その様子に、五郎左衛門が目を輝かせた。
「まことでござるか!? バービー殿!」
「この状況で嘘つくわけないじゃん! そりゃもう完璧にこなしたんだから!」
バービーは得意げな笑みを浮かべると、工具をポシェットにしまい、「超・魔導機・改」をポンポンと叩いた。
「素人仕事だったけど、割と頑張って改造してた感じかな。でも、ま、アタシにかかれば、すぐに直せるけどね!」
「お見事でござる! バービー殿!」
「でしょー? ただ、動作確認する前に、誰か専門知識のある人に、見てもらいたいとこだけど……」
「それなら、ご安心を! ナベリウス館長から、採点要員を送るから安心するように、と言伝があったでござる!」
「マジ? それなら、超助かる! でも、そこそこ厳重に警備されてるのに、どうやって来るのかな?」
「ふむ……、言われてみれば拙者もそこまでは聞いていなかったで……」
五郎左衛門はしょんぼりした表情で、聞いていなかったでござる、と答えようとした。
まさにそのとき!
ヒュゥゥゥゥゥゥ……
「ん?」
「何だろ、この音?」
二人の頭上から、空気を切る音が響き……
ズドーン!
「のわっ!?」
「きゃぁ!?」
……何かが轟音と共に天井を突き破り、床にめり込んだ。
「やだ、なに、なに!? 何が落ちてきたの!?」
「バービー殿! ここは拙者に任せるでござる!」
バービーをかばいながら、五郎左衛門は何かがめり込んだ床をのぞき込んだ。
そこにいたのは……
「うーん……、さすがにオーク族の方の
フルスイングは、衝撃がありますね……」
「そ、その声は!? 魔界考古学界の第一人者、ボウラック博士でござるか!?」
「え、マジ!? あの、『超・魔導機☆』研究でも超有名なポバール先生!?」
……忍者とヤマンバギャルが丁寧に説明したとおり、直径72.93cmに変形したポバール・ボウラックだった。
そして、その後からは……
ふぃぃぃ~……
「これ、スライム! 姫たる麻呂を追い越していくとは、なにごとでおじゃるか!?」
「この声は、ナベリウス館長のお宅の、カトリーヌ殿でござるか!?」
「え!? この間まで博物館でウスベニクジャバッタの自動人形の代役をしてた、本物のウスベニクジャバッタのカトリーヌ!?」
……またしても懇切丁寧な説明を受けながら、気の抜けた羽音と共にカトリーヌが舞い降りた。
カトリーヌはポバールの頭に乗ると、虹色に輝く美しい後翅をしまった。それから、五郎左衛門とバービーを見上げてぴょいんと跳ねた。
「おお! 忍犬にハネトカゲか! なかなかに見事な変装でおじゃるな!」
カトリーヌの言葉をうけ、五郎左衛門は困惑した表情で軽く頭を下げた。
「えーと、ありがたきお言葉でござるが……、お二人はなぜこちらに?」
「うむ! その件ついては、スライムをもとの大きさに戻してから話すでおじゃる! ……ぬぅぉりゃぁあ!」
カトリーヌがとても武闘派な感じの掛け声をかけると、ポバールは見る見るうちに、バービーの背丈と同じくらいの大きさに戻っていった。
「……皆さま、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。改めまして、ポバール・ボウラックです。本日は、魔界王立博物館専属修理士の実技試験の採点に参りました」
「え……、マジ!? 採点官って、ポバール先生なの!? めちゅくちゃ緊張するんですけど!」
「ははは。ナベリウス館長もおっしゃっていましたが、貴女の腕ならなんら心配はありませんよ。さ、修理した箇所を拝見いたしましょう」
ポバールはそういうと、「超・魔導機・改」のもとに、プルプルと近づいていった。そして、体全体で「超・魔導機・改」をつつみプルプルした。
その後しばらくすると「超・魔導機・改」から離れ、バービーの方を向いてプルンと震えた。
「うん、無理やり引きちぎられていた細かい回路も、当時使われていた補修剤で、すべて元通りに修復されています。ウワサ通りの見事な腕前ですね。これなら、王立博物館の専属修理士としても、まったく問題ありません」
ポバールの言葉に、バービーはつけまつ毛を大量に盛った目を、パチクリとさせた。
「え……と、それじゃ、試験は……?」
「おめでとうございます。文句なしに合格です」
ポバールがプルプルとしながら発表すると……
「……ぃよっしゃぁ!」
バービーは涙をにじませながら、拳を空に突き上げて飛び跳ね……
「おめでとうでござる! バービー殿!」
五郎左衛門は笑顔で拍手を送り……
「うむ! よくやったでおじゃるよ、ハネトカゲ!」
……カトリーヌもぴょんぴょん跳ねながら祝福した。
かくして、バービーの悲願が達成されながら、「超・魔導機☆」は本来の姿を取り戻したのだった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる