仔猫殿下と、はつ江ばあさん

鯨井イルカ

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第三章 仔猫殿下と、はつ江ばあさん

仔猫殿下と、はつ江ばあさん・その十七

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 面子の揃いつつある旧カワウソ村の役場跡では……

「バービー殿、守備はいかがでござるか?」

「全然オッケーだよ! 見張りたおしてくれて、ありがとね!」

「いえいえで、ござるよ」

 ……五郎左衛門が気絶させた見張りたちを縛り、ゴーグルをかけたバービーが工具をカチャカチャと動かしていた。
 
「しかし、これが伝説の『超・魔導機☆』でござるか……、なんというか想像よりも……」

 そう言いながら、五郎左衛門は「超・魔導機・改」へ目を向けた。

 レリーフの施された、六角形の巨大な本体。
 それを支える、鈍色をした金属製の支柱。
 支柱の中央には、艶やかな木材でできたハンドル。

 その姿はまさしく……

「そうそう! 商店街の福引でよく見るやつっぽいよね!」

 ……福引に使うアレだった。

「なんというか、伝説の魔導機にしては、庶民的ないでたちなのでござるな……」

 力なく五郎左衛門が呟くと、バービーは作業を続けながらケラケラと笑い出した。

「あははは! たしかに! でも、この時代に作られた願いを叶える系の魔導機って、みんなこんな感じだよ。ビンゴに使うアレみたいな形のものあるし」

「へえ……、そうだったのでござるか……」

「そうそう! ……よっし、終わりっと!」

 バービーはそう言って手を止めると、目をつむって伸びをした。その様子に、五郎左衛門が目を輝かせた。

「まことでござるか!? バービー殿!」

「この状況で嘘つくわけないじゃん! そりゃもう完璧にこなしたんだから!」

 バービーは得意げな笑みを浮かべると、工具をポシェットにしまい、「超・魔導機・改」をポンポンと叩いた。

「素人仕事だったけど、割と頑張って改造してた感じかな。でも、ま、アタシにかかれば、すぐに直せるけどね!」

「お見事でござる! バービー殿!」

「でしょー? ただ、動作確認する前に、誰か専門知識のある人に、見てもらいたいとこだけど……」

「それなら、ご安心を! ナベリウス館長から、採点要員を送るから安心するように、と言伝があったでござる!」

「マジ? それなら、超助かる! でも、そこそこ厳重に警備されてるのに、どうやって来るのかな?」

「ふむ……、言われてみれば拙者もそこまでは聞いていなかったで……」

 五郎左衛門はしょんぼりした表情で、聞いていなかったでござる、と答えようとした。
 まさにそのとき!

  ヒュゥゥゥゥゥゥ……

「ん?」

「何だろ、この音?」

 二人の頭上から、空気を切る音が響き……


  ズドーン!

「のわっ!?」

「きゃぁ!?」

 ……何かが轟音と共に天井を突き破り、床にめり込んだ。

「やだ、なに、なに!? 何が落ちてきたの!?」

「バービー殿! ここは拙者に任せるでござる!」

 バービーをかばいながら、五郎左衛門は何かがめり込んだ床をのぞき込んだ。

 そこにいたのは……

「うーん……、さすがにオーク族の方の
フルスイングは、衝撃がありますね……」

「そ、その声は!? 魔界考古学界の第一人者、ボウラック博士でござるか!?」

「え、マジ!? あの、『超・魔導機☆』研究でも超有名なポバール先生!?」

 ……忍者とヤマンバギャルが丁寧に説明したとおり、直径72.93cmに変形したポバール・ボウラックだった。

 そして、その後からは……

  ふぃぃぃ~……

「これ、スライム! 姫たる麻呂を追い越していくとは、なにごとでおじゃるか!?」

「この声は、ナベリウス館長のお宅の、カトリーヌ殿でござるか!?」

「え!? この間まで博物館でウスベニクジャバッタの自動人形の代役をしてた、本物のウスベニクジャバッタのカトリーヌ!?」

 ……またしても懇切丁寧な説明を受けながら、気の抜けた羽音と共にカトリーヌが舞い降りた。
 カトリーヌはポバールの頭に乗ると、虹色に輝く美しい後翅をしまった。それから、五郎左衛門とバービーを見上げてぴょいんと跳ねた。

「おお! 忍犬にハネトカゲか! なかなかに見事な変装でおじゃるな!」

 カトリーヌの言葉をうけ、五郎左衛門は困惑した表情で軽く頭を下げた。

「えーと、ありがたきお言葉でござるが……、お二人はなぜこちらに?」

「うむ! その件ついては、スライムをもとの大きさに戻してから話すでおじゃる! ……ぬぅぉりゃぁあ!」

 カトリーヌがとても武闘派な感じの掛け声をかけると、ポバールは見る見るうちに、バービーの背丈と同じくらいの大きさに戻っていった。

「……皆さま、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。改めまして、ポバール・ボウラックです。本日は、魔界王立博物館専属修理士の実技試験の採点に参りました」

「え……、マジ!? 採点官って、ポバール先生なの!? めちゅくちゃ緊張するんですけど!」

「ははは。ナベリウス館長もおっしゃっていましたが、貴女の腕ならなんら心配はありませんよ。さ、修理した箇所を拝見いたしましょう」

 ポバールはそういうと、「超・魔導機・改」のもとに、プルプルと近づいていった。そして、体全体で「超・魔導機・改」をつつみプルプルした。
 その後しばらくすると「超・魔導機・改」から離れ、バービーの方を向いてプルンと震えた。

「うん、無理やり引きちぎられていた細かい回路も、当時使われていた補修剤で、すべて元通りに修復されています。ウワサ通りの見事な腕前ですね。これなら、王立博物館の専属修理士としても、まったく問題ありません」

 ポバールの言葉に、バービーはつけまつ毛を大量に盛った目を、パチクリとさせた。

「え……と、それじゃ、試験は……?」

「おめでとうございます。文句なしに合格です」

 ポバールがプルプルとしながら発表すると……

「……ぃよっしゃぁ!」

 バービーは涙をにじませながら、拳を空に突き上げて飛び跳ね……

「おめでとうでござる! バービー殿!」

 五郎左衛門は笑顔で拍手を送り……

「うむ! よくやったでおじゃるよ、ハネトカゲ!」

 ……カトリーヌもぴょんぴょん跳ねながら祝福した。


 かくして、バービーの悲願が達成されながら、「超・魔導機☆」は本来の姿を取り戻したのだった。
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