仔猫殿下と、はつ江ばあさん

鯨井イルカ

文字の大きさ
上 下
146 / 191
第二章 フカフカな日々

ビックリな一日・その四

しおりを挟む
 シーマ十四世殿下一行は、魔王の自信作「未確認飛行物体型魔導機ジョージさん一号」に乗り込み、鉱山の国への空路を進んでいた。
 全体的に銀色な機内では、はつ江が窓に貼りつくようにして、めまぐるしく過ぎていく外の景色を眺めていた。

「ほうほう。このユーフォーはずいぶんと速いんだねぇ」

 感心するはつ江の言葉に、隣で同じく外の景色を眺めていたシーマもコクコクとうなずいた。

「ああ、本当だな。ひょっとしたら、魔界の乗り物の中で一番速いんじゃないかな?」

 そんな二人の言葉を受けて、中央に設置された運転パネルを操作していた魔王が、コクリとうなずく。

「うむ、現在ある乗り物の中では、これが最速だな。もっとも、初代魔王のころは、もっと早い飛行魔導機もたくさんあったそうだが」

「ほうほう、そうだったのかい。でも、なんでなくなっちまったんだい?」

 はつ江が問い返すと、魔王はパネルを操作しながら、そうだなぁ、と呟いた。

「まあ、色々と諸説はあるんだが……、『そもそも、乗り物で空を飛ぶ必要って、あんまりなくね?』ってことに、みんなが気づいたっていうのが一番の理由だろうな」

「乗り物でお空を飛ぶ必要があんまりない?」

 キョトンとした表情ではつ江が首を傾げると、シーマが尻尾の先をピコピコと動かした。

「乗り物を高速飛行させることに魔力を使うくらいなら、転移魔術を使った方が早いんだよ」

「あれまぁよ、そうなのかい!」

「ああ。大型の飛行魔導機を飛ばす魔力があれば、魔界中はおろかはつ江の世界にだって、乗客分くらいの人数を転移させることができるからな」

「はえー、そういうもんなんだねぇ」

 はつ江は、シーマの説明にコクコクとうなずきながら納得した。すると、魔王がパネルを操作しながら、ふぅむ、と声を漏らした。

「まあ、魔力以外で空を飛ばすこともできるが、燃料のコストだとか環境目への配慮とかを考えると、やっぱり転移魔法使っちゃった方が手っとり早いし、飛行魔導機は下火になっているな。でも、個人的には空飛ぶ乗り物って、ロマンがあって好きなんだけどなぁ……」

 魔王がどこか淋しげにそう言うと、シーマが片耳をパタパタと動かした。

「まあ、そういうロマンを追い求める人たちがそこそこいるし、レジャーとしても人気があるから……、飛行魔導機がまったくなくなることはないんじゃないか?」

「そうだぁね、好きな人が一人でも残ってれば、まったくなくなっちまうってことはねぇだぁよ!」

 二人のフォローを受けて、魔王は柔らかに微笑んだ。

「そうだな。飛行魔導機の競技なんかも続いているし……、なくなってしまうことはないな」

 そんなこんなで、一行が魔界の航空事情について話しているうちに、「未確認飛行物体型魔導機ジョージさん一号」は、紫色の草原の上空に差しかかった。
 シーマは窓の外の景色を見ると、耳と尻尾をピンと立てた。

「おっ! はつ江、そろそろ鉱山の国に到着するぞ!」

「そうかい、そうかい! ということは、お山も見えるのかい?」

「ああ、あっちに見えるのがそうだ!」

 シーマが指さした先には、どんぶりをひっくり返したような形をした、巨大な岩山があった。その裾野には、石造の大きな街が広がっている。

「あれまぁよ、ずいぶんと大きなお山なんだねぇ」

「そうだろう! あの山からは、地中の魔力が固まってできた宝石が、たくさん採れるんだ!」

「ほうほう、それはすごいねぇ!」

 二人の話に、魔王が、ふむ、と声を漏らした。

「魔界に出回っている魔力宝石の大半は、ここで採掘されているな」

「へぇー、そうなのかい。でも、それだと採り尽くしちゃったりはしないのかい?」

「ああ、そのへんは問題ない。魔力宝石は、他の宝石と違って生成されるのに必要な年月が短いからな。それに、採掘する量も厳格に管理されているんだ」

 魔王が説明すると、はつ江は納得した様子でコクコクとうなずいた。

「こっちの人たちは、ちゃんとしてるんだねぇ」

「まあ、資源はムダにしないにこしたことはないからな。さて、そろそろ着陸だから、二人は座ってシートベルトを着用してくれ」

 魔王がそう言いながらパネルを操作すると、窓際の壁から二人掛の座席が現れた。シーマとはつ江はピョインと座り、シートベルトを締めた。


 そんなこんなで、「未確認飛行物体型魔導機ジョージさん一号」が着陸態勢に入るなか、鉱山の麓に聳える石造りの城では――

「遅い! アイツはいつまで我が輩を待たせれば気が済むのだ!?」

 ――ライオンの頭をした男性が、苛立った表情で天鵞絨張りの玉座に座っていた。

 そんなライオンの元に、兵士の鎧をつけたヒョウの獣人が、息を切らせながら駆け寄ってきた。

「ぷ、プルソン様! た、た、大変です!」

「そんなに慌てて、一体なにごとなのだ?」

「は、はい! 城のバルコニーに、なにやらよく分からない円盤状の物が不時着しまして……」

「なにやらよく分からない円盤、だと?」

「そのとおりであります! それで、その円盤から『ワレワレハマカイジンダ』という機械的な声と、『なに言ってるんだこのバカ兄貴!』という可愛らしい声と、『わはははは! ヤギさんはお茶目だぁね!』という元気ハツラツな声が聞こえてきました!」

 ヒョウの報告に、プルソンはたてがみと尻尾をしおしおとさせながら脱力した。

「報告ご苦労……、ソイツは間違いなく魔王一行なのだ……」

「そうでしたか……、陛下は相変わらず、個性的な現れ方をなさいますね……」

 玉座の間には、プルソンとヒョウの力ない声が響いた。
 かくして、わりとネコ科大集合になりそうな予感がしながらも、シーマ十四世殿下一行は鉱山の国に到着したのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】華麗に婚約破棄されましょう。~卒業式典の出来事が小さな国の価値観を変えました~

ゆうぎり
恋愛
幼い頃姉の卒業式典で見た婚約破棄。 「かしこまりました」 と綺麗なカーテシーを披露して去って行った女性。 その出来事は私だけではなくこの小さな国の価値観を変えた。 ※ゆるゆる設定です。 ※頭空っぽにして、軽い感じで読み流して下さい。 ※Wヒロイン、オムニバス風

処理中です...