仔猫殿下と、はつ江ばあさん

鯨井イルカ

文字の大きさ
上 下
116 / 191
第二章 フカフカな日々

いいんじゃないかな?

しおりを挟む
   突如として現れたマダム・クロ、もといバッタ仮面ブラックの活躍により、地下研究室の片付けは無事に完了した。

「さてさて、じゃあアタシはこの辺で、おいとましようかしらね」

 バッタ仮面ブラックは、魔法陣の中にヒンガシモチツツキの大群を吸い込みながらそう言った。すると、魔王がコクリと頷いた。

「友……じゃなくて、マダ……でもなく、バッタ仮面ブラックさん、ありがとうございました。さあ! 良い子のみんな、バッタ仮面ブラックさんにさよならを言おう!」

 魔王が高らかにそう言うと、シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力した。

「わー、バッタ仮面ブラックさん、さようならー」
「バッタ仮面ぶらっくさんや、またね!」
「バッタ仮面ブラックさん! さよーならー!」
「みみーみみー!」
「バッタ仮面ブラック様、さようなら」
「オウジアリモドキの仮面よ、さらばでおじゃる!」
「またなー!」

 良い子のみんなの挨拶を受けて、バッタ仮面ブラックは仮面の下でニコリと微笑んだ。そして、硬い肉球のついた手をポフリと叩くと、黒い霧となってどこかへ消えていった。その様子を見て、魔王は再びコクリと頷いた。

「うん、じゃあそういうことで、ご飯の支度にもどろうか」

 魔王の言葉に、シーマは力なくため息を吐いた。

「ああ、そうだな……」

「そうだぁね! ご飯がすんだら、またお手伝いを考えないとね!」

 脱力するシーマに続いて、はつ江が元気いっぱいにそう言った。すると、ヴィヴィアンが気まずそうに首をカクカクと動かした。

「いえ……はつ江様、勝負はもうつきましたわ……」

 ヴィヴィアンの言葉に、はつ江はキョトンとした表情で首を傾げた。

「あれまぁよ、そうなのかい?」

「ええ、そうですわ」

 ヴィヴィアンは返事をすると、カトリーヌに顔を向けた。

「この勝負、カトリーヌさんの勝ちでございすますわ!」

「な、何を言うのでおじゃるか!?」

 ヴィヴィアンの発言を受け、カトリーヌはピョインと跳びはねた。

「だって、カトリーヌさんがいなければ、モロコシ様を助けることはかないませんでしたから……今回は、悔しくはありますが、カトリーヌさんの!」

「そんなことないのでおじゃる! 麻呂のほうこそ、ヴィヴィアンが扉をつきやぶらなければ、何も手出しができなかったのでおじゃるよ……だから、悔しいでおじゃるが、この勝負はヴィヴィアンの勝ちでおじゃる!」

「カトリーヌさん、何を馬鹿なことを言うんですの!? カトリーヌさんの勝ちですわ!」

「ヴィヴィアンこそ、何をたわけたことを抜かしているのでおじゃるか!? ヴィヴィアンの勝ちったら勝ちでおじゃる!」

 直翅目乙女たちは、今までとは真逆の方向性でイザコザし始めた。一同がハラハラ見守る中、ミズタマがパサリと翅を動かした。

「はぁー、やっぱりムラサキダンダラオオイナゴとウスベニクジャクバッタはすげーよな……、俺なんか全然役にたってなかったし……」

 ミズタマがため息まじりにそう呟くと、ヴィヴィアンとカトリーヌが一斉に顔を向けた。その途端、ミズタマはピョインと跳びはねた。

「な、なんだよ!? 何か文句あるのかよ!?」

「文句だなんてとんでもないですわ、ミズタマさん! 功績度合いでいえば、貴方が一番なのですわよ!」

「そうでおじゃるよ! ミズタマがいなければ、モロコシの居場所がすぐには分からなかったのでおじゃるよ!」

「そ、そうか……」

 女子たちの言葉を受けて、ミズタマは照れくさそうに首をカクカクと動かした。直翅目たちのやり取りを見て、シーマは尻尾の先をピコピコと動かした。

「じゃあ、今回は引き分けってことで、いいんじゃないかな?」

 シーマがそう言うと、モロコシがニッコリと笑ってピョコンと跳びはねた。

「うん! さんせー! だから、今度みんなで一緒におでかけしようよ!」

 モロコシの言葉を受けて、直翅目たちは一斉にピョインと跳びはねた。

「そうですわね!」
「うむ! そうするでおじゃるか!」
「おう、そうだな!」

 直翅目たちの返事を受けて、モロコシは耳と尻尾をピンと立てて、うん、と頷いた。

「それから、殿下も、はつ江おばあちゃんも、ミミちゃんも、魔王さまも、五郎左衛門さんも……みんな、みんな一緒!」

 モロコシが楽しそうにピョコピョコと跳びはねると、はつ江はニッコリと笑った。そして、モロコシの頭をポフポフと撫でた。

「そうだねぇ、それじゃあ、皆に美味しいお弁当をたぁんとつくらないとねぇ」

「本当!? やったー!」

「みっみー!」

 はつ江の言葉を受けて、モロコシとミミが嬉しそうにピョコピョコと跳ね出した。その姿を見て、シーマは不安げに魔王を見上げた。

「兄貴……はつ江は、いつまでこっちにいるんだ?」

「ん? あ、ああ。リッチーが帰って来るまでだから……来週いっぱいは、こっちにいてもらう予定だ」

 魔王の答えを聞くと、シーマは耳と尻尾をピンと立てた。

「そうか! それなら、来週の週末なら、全員で遊びに行けるな!」

「あ、ああ。そうだな」

 魔王が答えると、シーマはニッコリと笑った。

「よーし! じゃあ、みんなでお昼ご飯を食べながら、お出かけのスケジュールを決めるぞ!」

 シーマがそう声をかけると、一同は同時にコクリと頷いた。

「うんうん、賛成だぁよ!」
「さんせーい!」
「みみみー!」
「では、アタクシは親方様に、勤務シフトの調整を依頼しておきますわ」
「麻呂も館長に、外出許可をもらうのでおじゃるよ!」
「バービー姐さんには、来週もミミのことは任せろ、って言わないとな」

 それから、一同はそれぞれの行きたい場所を口にしながら、中庭を目指して階段を上っていった。ただ一人、魔王を除いて。

「もしも、予定が変更になった、とか言い出したら……シーマ、怒るよなぁ……」

 魔王は淋しそうな表情を浮かべて、ため息まじりにそう呟いた。

「兄貴ー! 何モタモタしてるんだ!? 置いていくぞ!」

「あ、す、すまない! 今行くから!」

 それから、階上から響くシーマの声を受けて、魔王も階段を上がっていった。

 かくして、若干の不安を残しながらも、仔猫殿下と、はつ江ばあさんと、猫とバッタとネズミたちと、柴犬と、ときどき魔王の休日は、過ぎていったのであった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...