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第一章 シマシマな日常
ガクッ
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赤く染まった空。
中略。
ここは魔界。
魔のモノたちが住まう禁断の土地。
そんな魔界の一角に聳える岩山に築かれた白亜の王宮のダイニングで、テーブルに大人数が集まっていた。
「こんなに賑やかな朝ごはんは、はじめてだねぇ」
はつ江はニコニコと微笑んでそう言いながら、人数分のお浸しをテーブルに並べていた。
「そうだな。いつもは僕と兄貴とはつ江の三人だからな」
はつの言葉に同意しながら、シーマも人数分の焼き魚をテーブルに並べる。
「そういえば、魔王は来てないの?」
「言われみると、昨日の夜から姿を見ていないな……」
そして、黒ローブと灰色ローブが、ご飯と味噌汁を並べながら辺りをキョロキョロと見渡した。すると、席についたマロが耳を伏せて尻尾をユラユラと揺らした。
「作業が難航しているのでしょうか……」
マロが呟くと、バステトとウェネトも沈んだ表情を浮かべた。
「お薬、間に合うかな……」
「……」
ウェネトが不安げに呟き、バステトが小さくため息を吐くと、ダイニングは沈んだ空気に包まれた。すると、シーマが尻尾の先をピコピコと動かしながら、コホンと咳払いをした。
「あー、えーと、さっき兄貴に聞いてきた話だと、ギリギリ間に合う見込みだけどちょっとまだ予断を許さない状況だ、っていうことだった……」
シーマの言葉を受けて、バステトがケホッと咳き込んだ。それから、口をパクパクと動かすと、隣に座ったマロがふんふんと鼻を鳴らしながらコクコクと頷いた。
「今回の音楽会、もしも抗魔法物質の作成が間に合わない場合は、ウェネトさんが歌姫、レディが竪琴、僕が笛、という編成でえんそうします、とレディは言っています」
マロがバステトの言葉を代弁すると、灰色ローブが目深に被ったフードの下で目を見開いた。
「ちょっと、待ってくれ! それだと、今度はウェネトの声が出なくなるんだろ!?」
灰色ローブの言葉に、バステトとウェネトは同時にコクリと頷いた。それから、バステトが再びパクパクと口を動かした。
「それでも、今回の音楽祭は、亡くなった方の魂や、この世界にやって来る魂や、他の世界に遺された人のために、中止にするわけにはいかないのです。勝手なことをした以上、それなりの責任は負ってもらわないと、とレディは言っています」
再びマロが代弁すると、バステトとウェネトは同時にコクリと頷いた。
「もともと、声が出なくなってでも歌姫になりたいって願ったのは、私だから……」
ウェネトが淋しそうに呟くと、黒ローブが気まずそうな表情で頬を掻いた。
「えーと、でも、かならず声が出なくなるって決まったわけじゃないんでしょ?」
黒ローブが尋ねると、バステト、ウェネト、マロは悲しそうに首を振った。
「いいえ、お医者様が精密に検査をしたので、間違いはありません」
「熱砂の国にある咽頭科の先生は、魔界随一の腕だから」
マロとウェネトの言葉に、ダイニングは更に重い空気に包まれた。
「……わはははは! みんな心配性だぁね!」
しかし、そんな空気を打ち払うように、はつ江がカラカラと笑い出した。
「ヤギさんなら、絶対に間に合わせてくれるだぁよ!」
はつ江がそう言いきると、シーマが尻尾をピンと立ててニコリと笑った。
「……そうだな! 兄貴は色々と問題も多いけど、すごく器用だし、なんたって魔界の全ての知識を持っているんだ! だから、安心してくれ!」
シーマの言葉を受けて、一同は穏やかに微笑んだ。
「殿下、はつ江さん、心強いお言葉、ありがとうございます」
「殿下、おばあちゃん、ありがとう!」
「……!」
バステト、ウェネト、マロはシーマとはつ江に向かって、ペコリと頭を下げた。その様子を見て、はつ江はニッコリと笑った。
「わはははは! 気にすることはねぇだぁよ! それに、万が一ヤギさんのお薬がちょっと遅れるようなら、薬が来るまで私がドジョウすくいでもするだぁよ!」
はつ江がそう言うと、シーマが尻尾の先をクニャリと曲げた。
「ドジョウすくい? 舞台に、ドジョウを放ってすくうのか?」
「わはははは! 違うだぁよ! ドジョウをすくうところを真似た踊りだぁよ!」
シーマの質問に、はつ江はカラカラと笑いながら答えた。すると、黒ローブが、うーん、と声を漏らしながら首を傾げた。
「でも、ドジョウすくいだけだと、稼げる時間がちょっと短いよね……」
「そうだな……」
黒ローブの言葉に、灰色ローブも同意した。
「僕たちも何かできればいいんだけど……魔法のある世界で、隠し芸とかしてもな……」
黒ローブが淋しに呟くと、シーマが片耳をパタパタと動かした。
「いや、魔術を使わない手品や、ジャグリングなんかは魔界でも人気があるぞ」
シーマがそう言うと、黒フードは首を傾げた。
「ジャグリングは無理だけど、手品だとどういうのが人気なの?」
黒ローブが質問すると、シーマは口元に手を当てて、ふぅむ、と呟いた。
「そうだなぁ……たとえば、他の生き物に変身とかは、魔術でも難しいし変身薬も貴重で滅多に見られないから、結構人気だな」
シーマの答えに、黒ローブはガクッと肩を落とした。
「さすがに、そこまで大がかりな手品はできないなぁ……」
「魔法を使わずに変身、か……」
灰色ローブも、落胆した表情でポツリと呟いた。しかし、灰色ローブは、不意にハッとした表情を浮かべた。
「あー……殿下、この城に段ボールとか画用紙とか絵の具はあるか?」
灰色ローブが尋ねると、シーマは尻尾をクニャリと曲げて首を傾げた。
「ああ。あるけど、一体何に使うんだ?」
「変身の手品……のようなものはできるかもしれない。観客に受けるかどうかは一かばちかだが」
灰色ローブが答えると、シーマは尻尾をピンと立てて目を輝かせた。
「本当か!?」
シーマの問いかけに、灰色ローブはコクリと頷いた。
「ああ。だが、受けるかどうかは、本当に一かばちかだからな」
灰色ローブが念を押すと、黒ローブがおずおずとした表情で首を傾げた。
「その手品、僕にも手伝えることはある?」
黒ローブが尋ねると、灰色ローブは再びコクリと頷いた。
「ああ。というか、むしろお前がいないと始まらない。だから、是非力を貸してくれ」
灰色ローブの言葉に、黒ローブはフードの下で目を輝かせた。
「うん! 分かったよ!」
黒ローブは、声を弾ませて返事をする。その姿を見て、はつ江はニコリと微笑んだ。
「ありがとうね! 頭巾ちゃんたちも力を貸してくれるなら、百人力だぁよ!」
はつ江がそう言うと、シーマもニコリと微笑んだ。
「ああ、時間が稼げることが分かれば、兄貴のプレッシャーも軽くなるよ。ありがとうな、二人とも」
はつ江とシーマの言葉を受けて、ローブの二人はタジタジとした表情を浮かべた。
「いやいや、僕たちもかなり迷惑かけちゃったから……」
「ふ、ふん。借りを返すだけだ」
ローブの二人が照れくさそうにする様子を見て、はつ江とシーマは満足げな表情でコクコクと頷いた。
そんな四人のやりとりを見て、バステト、マロ、ウェネトは深々と頭を下げた。
「皆さん、ご協力いただき、本当に……本当にありがとうございます」
「みんな……ありがとう! よーし! ご飯を食べたら、時間までしっかり竪琴の練習するんだから!」
マロとウェネトがそう言うと、バステトも凛々しい表情でコクリと頷いた。そんな三人の反応を受けて、はつ江はカラカラと笑った。
「わはははは! そんじゃあ今日は忙しくなりそうだから、みんなしっかり朝ごはんを食べるんだぁよ!」
はつ江が声をかけると、他の六人は凛々しい表情でコクリと頷いた。
「いただきます!」
「いただます」
「いただきまーす!」
「……!」
「……いただきます」
「いただきまーす」
それから六人は、声を合わせてそう言った。はつ江はニッコリと笑いながら、コクコクと頷いた。
「たーんと召し上がれ!」
はつ江の言葉を皮切りに、一同は食事を始めた。
こうして、何とか打開策が見つかった感じになりながら、音楽会当日が幕を開けたのだった。
中略。
ここは魔界。
魔のモノたちが住まう禁断の土地。
そんな魔界の一角に聳える岩山に築かれた白亜の王宮のダイニングで、テーブルに大人数が集まっていた。
「こんなに賑やかな朝ごはんは、はじめてだねぇ」
はつ江はニコニコと微笑んでそう言いながら、人数分のお浸しをテーブルに並べていた。
「そうだな。いつもは僕と兄貴とはつ江の三人だからな」
はつの言葉に同意しながら、シーマも人数分の焼き魚をテーブルに並べる。
「そういえば、魔王は来てないの?」
「言われみると、昨日の夜から姿を見ていないな……」
そして、黒ローブと灰色ローブが、ご飯と味噌汁を並べながら辺りをキョロキョロと見渡した。すると、席についたマロが耳を伏せて尻尾をユラユラと揺らした。
「作業が難航しているのでしょうか……」
マロが呟くと、バステトとウェネトも沈んだ表情を浮かべた。
「お薬、間に合うかな……」
「……」
ウェネトが不安げに呟き、バステトが小さくため息を吐くと、ダイニングは沈んだ空気に包まれた。すると、シーマが尻尾の先をピコピコと動かしながら、コホンと咳払いをした。
「あー、えーと、さっき兄貴に聞いてきた話だと、ギリギリ間に合う見込みだけどちょっとまだ予断を許さない状況だ、っていうことだった……」
シーマの言葉を受けて、バステトがケホッと咳き込んだ。それから、口をパクパクと動かすと、隣に座ったマロがふんふんと鼻を鳴らしながらコクコクと頷いた。
「今回の音楽会、もしも抗魔法物質の作成が間に合わない場合は、ウェネトさんが歌姫、レディが竪琴、僕が笛、という編成でえんそうします、とレディは言っています」
マロがバステトの言葉を代弁すると、灰色ローブが目深に被ったフードの下で目を見開いた。
「ちょっと、待ってくれ! それだと、今度はウェネトの声が出なくなるんだろ!?」
灰色ローブの言葉に、バステトとウェネトは同時にコクリと頷いた。それから、バステトが再びパクパクと口を動かした。
「それでも、今回の音楽祭は、亡くなった方の魂や、この世界にやって来る魂や、他の世界に遺された人のために、中止にするわけにはいかないのです。勝手なことをした以上、それなりの責任は負ってもらわないと、とレディは言っています」
再びマロが代弁すると、バステトとウェネトは同時にコクリと頷いた。
「もともと、声が出なくなってでも歌姫になりたいって願ったのは、私だから……」
ウェネトが淋しそうに呟くと、黒ローブが気まずそうな表情で頬を掻いた。
「えーと、でも、かならず声が出なくなるって決まったわけじゃないんでしょ?」
黒ローブが尋ねると、バステト、ウェネト、マロは悲しそうに首を振った。
「いいえ、お医者様が精密に検査をしたので、間違いはありません」
「熱砂の国にある咽頭科の先生は、魔界随一の腕だから」
マロとウェネトの言葉に、ダイニングは更に重い空気に包まれた。
「……わはははは! みんな心配性だぁね!」
しかし、そんな空気を打ち払うように、はつ江がカラカラと笑い出した。
「ヤギさんなら、絶対に間に合わせてくれるだぁよ!」
はつ江がそう言いきると、シーマが尻尾をピンと立ててニコリと笑った。
「……そうだな! 兄貴は色々と問題も多いけど、すごく器用だし、なんたって魔界の全ての知識を持っているんだ! だから、安心してくれ!」
シーマの言葉を受けて、一同は穏やかに微笑んだ。
「殿下、はつ江さん、心強いお言葉、ありがとうございます」
「殿下、おばあちゃん、ありがとう!」
「……!」
バステト、ウェネト、マロはシーマとはつ江に向かって、ペコリと頭を下げた。その様子を見て、はつ江はニッコリと笑った。
「わはははは! 気にすることはねぇだぁよ! それに、万が一ヤギさんのお薬がちょっと遅れるようなら、薬が来るまで私がドジョウすくいでもするだぁよ!」
はつ江がそう言うと、シーマが尻尾の先をクニャリと曲げた。
「ドジョウすくい? 舞台に、ドジョウを放ってすくうのか?」
「わはははは! 違うだぁよ! ドジョウをすくうところを真似た踊りだぁよ!」
シーマの質問に、はつ江はカラカラと笑いながら答えた。すると、黒ローブが、うーん、と声を漏らしながら首を傾げた。
「でも、ドジョウすくいだけだと、稼げる時間がちょっと短いよね……」
「そうだな……」
黒ローブの言葉に、灰色ローブも同意した。
「僕たちも何かできればいいんだけど……魔法のある世界で、隠し芸とかしてもな……」
黒ローブが淋しに呟くと、シーマが片耳をパタパタと動かした。
「いや、魔術を使わない手品や、ジャグリングなんかは魔界でも人気があるぞ」
シーマがそう言うと、黒フードは首を傾げた。
「ジャグリングは無理だけど、手品だとどういうのが人気なの?」
黒ローブが質問すると、シーマは口元に手を当てて、ふぅむ、と呟いた。
「そうだなぁ……たとえば、他の生き物に変身とかは、魔術でも難しいし変身薬も貴重で滅多に見られないから、結構人気だな」
シーマの答えに、黒ローブはガクッと肩を落とした。
「さすがに、そこまで大がかりな手品はできないなぁ……」
「魔法を使わずに変身、か……」
灰色ローブも、落胆した表情でポツリと呟いた。しかし、灰色ローブは、不意にハッとした表情を浮かべた。
「あー……殿下、この城に段ボールとか画用紙とか絵の具はあるか?」
灰色ローブが尋ねると、シーマは尻尾をクニャリと曲げて首を傾げた。
「ああ。あるけど、一体何に使うんだ?」
「変身の手品……のようなものはできるかもしれない。観客に受けるかどうかは一かばちかだが」
灰色ローブが答えると、シーマは尻尾をピンと立てて目を輝かせた。
「本当か!?」
シーマの問いかけに、灰色ローブはコクリと頷いた。
「ああ。だが、受けるかどうかは、本当に一かばちかだからな」
灰色ローブが念を押すと、黒ローブがおずおずとした表情で首を傾げた。
「その手品、僕にも手伝えることはある?」
黒ローブが尋ねると、灰色ローブは再びコクリと頷いた。
「ああ。というか、むしろお前がいないと始まらない。だから、是非力を貸してくれ」
灰色ローブの言葉に、黒ローブはフードの下で目を輝かせた。
「うん! 分かったよ!」
黒ローブは、声を弾ませて返事をする。その姿を見て、はつ江はニコリと微笑んだ。
「ありがとうね! 頭巾ちゃんたちも力を貸してくれるなら、百人力だぁよ!」
はつ江がそう言うと、シーマもニコリと微笑んだ。
「ああ、時間が稼げることが分かれば、兄貴のプレッシャーも軽くなるよ。ありがとうな、二人とも」
はつ江とシーマの言葉を受けて、ローブの二人はタジタジとした表情を浮かべた。
「いやいや、僕たちもかなり迷惑かけちゃったから……」
「ふ、ふん。借りを返すだけだ」
ローブの二人が照れくさそうにする様子を見て、はつ江とシーマは満足げな表情でコクコクと頷いた。
そんな四人のやりとりを見て、バステト、マロ、ウェネトは深々と頭を下げた。
「皆さん、ご協力いただき、本当に……本当にありがとうございます」
「みんな……ありがとう! よーし! ご飯を食べたら、時間までしっかり竪琴の練習するんだから!」
マロとウェネトがそう言うと、バステトも凛々しい表情でコクリと頷いた。そんな三人の反応を受けて、はつ江はカラカラと笑った。
「わはははは! そんじゃあ今日は忙しくなりそうだから、みんなしっかり朝ごはんを食べるんだぁよ!」
はつ江が声をかけると、他の六人は凛々しい表情でコクリと頷いた。
「いただきます!」
「いただます」
「いただきまーす!」
「……!」
「……いただきます」
「いただきまーす」
それから六人は、声を合わせてそう言った。はつ江はニッコリと笑いながら、コクコクと頷いた。
「たーんと召し上がれ!」
はつ江の言葉を皮切りに、一同は食事を始めた。
こうして、何とか打開策が見つかった感じになりながら、音楽会当日が幕を開けたのだった。
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