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第一章 シマシマな日常
ポツリ
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迷子な三毛猫の対応をしていたシーマ十四世殿下一行は、昼食を終えて本日は使われていない研修室に移動していた。
「えーと……さっきナベリウス館長に、防犯用映像記録装置の映像を見られるように設定してもらったから、ここをこうして……」
シーマはそう言いながら、長机の上に置かれた「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」の画面をポチポチと操作した。すると、画面一面に博物館の各所の映像が映し出された。シーマの右隣に座ったはつ江は、画面を覗き込むと、ほうほう、と声を漏らした。
「そのピコピコは凄いんだぁね」
「みー」
はつ江の膝の上で、三毛猫も感心したように声を漏らして、コクコクと頷いた。すると、片耳をパタパタと動かして、尻尾の先をクニャリと曲げた。
「うーん……でも、映像が多すぎるから、この子の親御さんを探すのは大変そうだな……」
シーマが弱音を吐くと、左隣に座った五郎左衛門がニッコリと笑った。
「大丈夫でござるよ、殿下。館長のお話だと、ここをこうすると……」
五郎左衛門はそう言いながら、画面の右上をタシタシと二回叩いた。すると、画面には文字を入力する欄が表示された。五郎左衛門が指で「ネコ」と書き込むと、画面の中央には砂時計のイラストとともに「ちょっと待ってね」という文字が表示された。四人が画面を見つめているうちに砂時計の砂は全て落ち、画面上にはネコ科の来場者が映った映像だけが表示された。
「これで、ネコ科の方々の映像だけになったでござるよ」
「本当だ!ありがとうな、五郎左衛門」
シーマがニッコリと笑うと、五郎左衛門は笑顔で、なんのこれしき、と答えてから、クルンと巻いた尻尾をブンブンと振った。はつ江はその様子をニコニコと眺めてから、三毛猫の頭をポフポフとなでた。
「それじゃあ、ミケちゃんや」
「み?」
はつ江が声を掛けると、三毛猫はキョトンとした表情ではつ江の顔を見上げた。はつ江はにこりと笑うと、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を指さした。
「この中に、ミケちゃんのお父さんかお母さんが居たら、教えてほしいだぁよ」
「おじいさまかおばあさま、兄上や姉上でも構わないでござるよ!」
はつ江の言葉に五郎左衛門が続くと、三毛猫は、みー、と答えてから、コクコクと頷いた。そして、真剣な表情で画面を見つめた。しばらく画面を眺めていた三毛猫だったが、全ての映像を見終えると耳をぺたんと伏せた。
「みー……」
そして、悲しげな声を出しながら、首をふるふると横に振った。
「うーん、この中には居なかったようでござるな」
三毛猫に続いて五郎左衛門も残念そうに声を出すと、シーマが尻尾の先をピコピコと動かしながら画面を覗き込んだ。
「あ!まだ次のページに、他の映像があるみたいだぞ」
シーマの言葉を聞くと、三毛猫は伏せていた耳をピンと立てた。はつ江はそんな三毛猫の頭をポフポフとなでてから、ニッコリと笑った。
「それじゃあ、そっちに居るかもしれねぇから、見てみようね」
「みー!」
はつ江に声を掛けられた三毛猫は元気よく返事をしてから、再び真剣な表情で画面を覗き込んだ。
それから、一同は次々と映像を見ていったが……
「みー……」
……最期の映像を見終わると、三毛猫は再び耳を伏せて悲しげな声を出した。悲しそうにする三毛猫を見て、シーマは腕を組んで、片耳をパタパタと動かした。
「うーん、見つからなかったか……」
「これで、また振り出しに戻ってしまったでござるな……」
シーマに続いて五郎左衛門も残念そうな表情を浮かべて、ポリポリと頬を掻いた。すると、はつ江が不意に目をこらしながら、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を覗き込んだ。
「あれまぁよ!シマちゃん、ゴロちゃん、ちょっとこれを見ておくれ!」
はつ江が目を見開いて声を上げると、シーマと五郎左衛門も画面を覗き込んだ。
「はつ江、一体何があったんだ……あ!これは!?」
「三毛殿……のようでござるな……」
シーマと五郎左衛門の言葉通り、画面には博物館の入場口で一人ポツリと立ち尽くす三毛猫の姿が映っていた。映像の中の三毛猫はキョロキョロと辺りを見渡すと、トコトコと博物館の中に入っていった。
「ミケちゃんや、今日は一人でここに来ちゃったのかい?」
「みー」
はつ江が心配そうに尋ねると、三毛猫はコクコクと頷いた。すると、五郎左衛門が困惑した表情を浮かべて、ポリポリと頬を掻いた。
「うーむ。たしかに、未就学児の入場料は無料でござるし、入場ゲートは自動になっているでござるから……幼子が一人で来てしまうことも可能でござるな……」
「これだと、もうボク達だけでなんとかするより、街の警官隊に頼んだ方がいいかもしれないな……」
五郎左衛門に続いてシーマが呟くと、三毛猫は目を見開いた。
「みー!みみー!」
そして、みーみー、と声を出しながら、両手でパシパシと机を叩き始めた。
「あれまぁよ!ミケちゃんや、どうしたんだい!?」
はつ江が慌てて声を掛けたが、三毛猫は相変わらず、みーみー、と言いながら机を叩き続けている。
「警官隊のところには、行きたくないのか?」
「どうも、そのようでござるな……」
シーマと五郎左衛門も困惑した表情で、そう呟いた。
一同の困惑が極まってしまった、まさにその時!
ピンポーン
研修室の中に、呼び鈴の音が響いた。
不意に鳴り響いた呼び鈴の音に、はつ江は首を傾げた。
「あれまぁよ、お客さんかね?ゴロちゃん」
はつ江に声を掛けられた五郎左衛門も、キョトンとした表情で首を傾げた。
「はて?本日は、殿下とはつ江殿の来客以外はなかったはずでござるが……」
五郎左衛門が困惑していると、机の上に置かれた「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」が、ガタガタと震えだした。一同が驚いて目を向けると、画面いっぱいにシャロップシュの顔が映し出されていた。
「やっほー!みんなー!そろそろ十五時だから、おやつを頼んでおいたよ!」
元気いっぱいなシャロップシュの顔を見ると、シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力した。
「ありがとうございます、ナベリウス館長。でも、特別警備体制を敷いている時に、おやつなんて頼んでもよかったのですか?」
シーマが脱力しながら問いかけると、シャロップシュはニッコリと笑った。
「いーの、いーの!三毛猫ちゃんも一人で不安だろうし、甘い物でも食べて元気だしてね!それじゃ!」
シャロップシュがそう言い終わると、画面は瞬時に暗くなった。
「で、殿下。ここはひとまず、お言葉に甘えましょうでござる」
五郎左衛門が苦笑混じりに声を掛けると、シーマは脱力しながら、そうだな、と答えた。
こうして四人は、研修室を後にして従業員入り口に向かうことになった。
「お待たせいたしましたでござる!……おや?」
従業員入り口の扉を開けた五郎左衛門は、目の前の人物を見て動きを止めた。そこには、赤いチュニックを着てアップリケのついた黒い長ズボンをはいた仔猫が、リンゴの入ったカゴを抱えて立っていた。
フカフカとした茶トラ模様の毛並み。
焦げ茶色の飾り毛がついた小さな耳。
ボタンのように丸い緑色の目。
ピンク色の小さな鼻。
シーマ十四世殿下の友人にしてバッタの申し子、薄茶トラの仔猫モロコシだ。
「あ!五郎左衛門さんだ!こんにちはー!」
モロコシは五郎左衛門の姿を見ると、リンゴのカゴを抱えながらペコリと頭を下げた。
「こんにちはでござる!モロコシ殿!」
続いて五郎左衛門もニッコリと笑ってから、制帽を手に取ってペコリと頭を下げた。すると、五郎左衛門の後ろから、シーマと三毛猫を抱っこしたはつ江がパタパタと駆けてきた。
「あ!モロコシじゃないか!」
「モロコシちゃん、こんにちは!」
シーマとはつ江が声を掛けると、モロコシは目を細めて尻尾をピンと立てた。
「殿下!はつ江おばあちゃん!こんにちはー!」
モロコシが嬉しそうにそう言ってペコリと頭を下げているうちに、シーマとはつ江も従業員入り口の扉の前にたどり着いた。
「モロコシちゃんや、今日もお手伝いかい?」
はつ江がニッコリと笑いながら尋ねると、モロコシもニッコリと笑って頷いた。
「うん!リンゴのお届けにきましたー!……あれ?」
はつ江の問いかけに元気よく答えたモロコシだったが、抱っこされていた三毛猫を見るとキョトンとした表情で首を傾げた。
「ミミちゃん?どうしてここに居るの?」
モロコシが尋ねると、シーマと五郎左衛門は目を見開いた。
「モ、モロコシ!この子のこと、知ってるのか!?」
「三毛殿はどこのお子さんなのでござるか!?」
そして、モロコシに詰め寄りながら矢継ぎ早に尋ねた。二人の剣幕に、モロコシは耳を伏せながら尻尾をパタパタと動かして後ずさりした。
「ふ、二人とも、ちょっと落ち着いてよぉ……」
「これこれ、二人ともモロコシちゃんがビックリしてるから、ちょっと落ち着くだぁよ」
「みー」
モロコシとはつ江と三毛猫に声を掛けられると、シーマと五郎左衛門はハッとした表情を浮かべて、同時にコホンと咳払いをした。
「悪かった、モロコシ。実は、この子が一人で博物館に迷い込んじゃったみたいで……」
「親御さんを探していたところだったのでござるよ」
シーマと五郎左衛門が事情を説明すると、モロコシはふんふんと鼻を鳴らしながら、そうなんだー、と言って頷いた。
「モロコシちゃん、ミケちゃんがどこのお家の子か知ってるのかい?」
はつ江が尋ねると、モロコシはコクリと頷いた。
「うん!えっとねー……商店街の『おしゃれ泥棒・ウェロックス♪』っていう服屋さんの子だよ!ミミちゃんっていうの!」
モロコシが答えると、はつ江に抱っこされたミミがコクコクと頷いた。
「みー!みー!」
「どうやら、ミミ殿で間違い無いようでござるな」
頷くミミの姿を見て、五郎左衛門がホッとした表情でため息を吐いた。続いてシーマもホッとした表情を浮かべてから、モロコシに向かってにこりと笑いかけた。
「助かったよ、モロコシ」
「どういたしましてー」
はつ江もミミの背中をポンポンとなでながら、ニッコリと笑った。
「よかっただぁね、ミミちゃん。モロコシちゃんや、悪いけど帰りにミミちゃんをお家に連れて行ってくれるかね?」
はつ江が問いかけると、モロコシはニッコリと笑って、うん、と元気よく返事をした。しかし、その途端にミミは目を見開くと、はつ江の腕からピョインと飛び降りた。
「あれまぁよ!?ミミちゃんや、どうしたんだい?」
「みー!みみみみー!みみー!」
はつ江が声を掛けたが、ミミは、みーみー、と声を上げながらピョコピョコと飛び跳ねた。そして、クルリと踵を返し、廊下の奥に走り去っていってしまった。
「あ!ミミ!どこに行くんだ!?」
「ミミ殿!待つでござるよ!」
シーマと五郎左衛門が慌てて声を掛けたが、ミミの姿は既に廊下の奥へ消えてしまっていた。シーマは困惑した表情を浮かべると、はつ江とモロコシに向かって首を傾げた。
「はつ江、モロコシ。ちょっと、ミミを追いかけてくるから、そこで待っていてくれるか?」
シーマの言葉に、はつ江とモロコシはコクリと頷いた。
「分かっただぁよ!」
「うん!分かったー!」
二人の返事を受けて、シーマはうんうんと頷いてから、五郎左衛門に顔を向けた。
「五郎左衛門、一緒にミミを追いかけてくれるか?」
「もちろん!合点承知でござる!」
シーマに声を掛けられた五郎左衛門は、凜々しい表情で胸の辺りをポンと叩いた。
かくして、シーマ十四世殿下と柴崎五郎左衛門は、ミミちゃんを追いかけることになったのだった。
「えーと……さっきナベリウス館長に、防犯用映像記録装置の映像を見られるように設定してもらったから、ここをこうして……」
シーマはそう言いながら、長机の上に置かれた「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」の画面をポチポチと操作した。すると、画面一面に博物館の各所の映像が映し出された。シーマの右隣に座ったはつ江は、画面を覗き込むと、ほうほう、と声を漏らした。
「そのピコピコは凄いんだぁね」
「みー」
はつ江の膝の上で、三毛猫も感心したように声を漏らして、コクコクと頷いた。すると、片耳をパタパタと動かして、尻尾の先をクニャリと曲げた。
「うーん……でも、映像が多すぎるから、この子の親御さんを探すのは大変そうだな……」
シーマが弱音を吐くと、左隣に座った五郎左衛門がニッコリと笑った。
「大丈夫でござるよ、殿下。館長のお話だと、ここをこうすると……」
五郎左衛門はそう言いながら、画面の右上をタシタシと二回叩いた。すると、画面には文字を入力する欄が表示された。五郎左衛門が指で「ネコ」と書き込むと、画面の中央には砂時計のイラストとともに「ちょっと待ってね」という文字が表示された。四人が画面を見つめているうちに砂時計の砂は全て落ち、画面上にはネコ科の来場者が映った映像だけが表示された。
「これで、ネコ科の方々の映像だけになったでござるよ」
「本当だ!ありがとうな、五郎左衛門」
シーマがニッコリと笑うと、五郎左衛門は笑顔で、なんのこれしき、と答えてから、クルンと巻いた尻尾をブンブンと振った。はつ江はその様子をニコニコと眺めてから、三毛猫の頭をポフポフとなでた。
「それじゃあ、ミケちゃんや」
「み?」
はつ江が声を掛けると、三毛猫はキョトンとした表情ではつ江の顔を見上げた。はつ江はにこりと笑うと、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を指さした。
「この中に、ミケちゃんのお父さんかお母さんが居たら、教えてほしいだぁよ」
「おじいさまかおばあさま、兄上や姉上でも構わないでござるよ!」
はつ江の言葉に五郎左衛門が続くと、三毛猫は、みー、と答えてから、コクコクと頷いた。そして、真剣な表情で画面を見つめた。しばらく画面を眺めていた三毛猫だったが、全ての映像を見終えると耳をぺたんと伏せた。
「みー……」
そして、悲しげな声を出しながら、首をふるふると横に振った。
「うーん、この中には居なかったようでござるな」
三毛猫に続いて五郎左衛門も残念そうに声を出すと、シーマが尻尾の先をピコピコと動かしながら画面を覗き込んだ。
「あ!まだ次のページに、他の映像があるみたいだぞ」
シーマの言葉を聞くと、三毛猫は伏せていた耳をピンと立てた。はつ江はそんな三毛猫の頭をポフポフとなでてから、ニッコリと笑った。
「それじゃあ、そっちに居るかもしれねぇから、見てみようね」
「みー!」
はつ江に声を掛けられた三毛猫は元気よく返事をしてから、再び真剣な表情で画面を覗き込んだ。
それから、一同は次々と映像を見ていったが……
「みー……」
……最期の映像を見終わると、三毛猫は再び耳を伏せて悲しげな声を出した。悲しそうにする三毛猫を見て、シーマは腕を組んで、片耳をパタパタと動かした。
「うーん、見つからなかったか……」
「これで、また振り出しに戻ってしまったでござるな……」
シーマに続いて五郎左衛門も残念そうな表情を浮かべて、ポリポリと頬を掻いた。すると、はつ江が不意に目をこらしながら、「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」を覗き込んだ。
「あれまぁよ!シマちゃん、ゴロちゃん、ちょっとこれを見ておくれ!」
はつ江が目を見開いて声を上げると、シーマと五郎左衛門も画面を覗き込んだ。
「はつ江、一体何があったんだ……あ!これは!?」
「三毛殿……のようでござるな……」
シーマと五郎左衛門の言葉通り、画面には博物館の入場口で一人ポツリと立ち尽くす三毛猫の姿が映っていた。映像の中の三毛猫はキョロキョロと辺りを見渡すと、トコトコと博物館の中に入っていった。
「ミケちゃんや、今日は一人でここに来ちゃったのかい?」
「みー」
はつ江が心配そうに尋ねると、三毛猫はコクコクと頷いた。すると、五郎左衛門が困惑した表情を浮かべて、ポリポリと頬を掻いた。
「うーむ。たしかに、未就学児の入場料は無料でござるし、入場ゲートは自動になっているでござるから……幼子が一人で来てしまうことも可能でござるな……」
「これだと、もうボク達だけでなんとかするより、街の警官隊に頼んだ方がいいかもしれないな……」
五郎左衛門に続いてシーマが呟くと、三毛猫は目を見開いた。
「みー!みみー!」
そして、みーみー、と声を出しながら、両手でパシパシと机を叩き始めた。
「あれまぁよ!ミケちゃんや、どうしたんだい!?」
はつ江が慌てて声を掛けたが、三毛猫は相変わらず、みーみー、と言いながら机を叩き続けている。
「警官隊のところには、行きたくないのか?」
「どうも、そのようでござるな……」
シーマと五郎左衛門も困惑した表情で、そう呟いた。
一同の困惑が極まってしまった、まさにその時!
ピンポーン
研修室の中に、呼び鈴の音が響いた。
不意に鳴り響いた呼び鈴の音に、はつ江は首を傾げた。
「あれまぁよ、お客さんかね?ゴロちゃん」
はつ江に声を掛けられた五郎左衛門も、キョトンとした表情で首を傾げた。
「はて?本日は、殿下とはつ江殿の来客以外はなかったはずでござるが……」
五郎左衛門が困惑していると、机の上に置かれた「よい子のニコニコお手伝いボード(仮称)」が、ガタガタと震えだした。一同が驚いて目を向けると、画面いっぱいにシャロップシュの顔が映し出されていた。
「やっほー!みんなー!そろそろ十五時だから、おやつを頼んでおいたよ!」
元気いっぱいなシャロップシュの顔を見ると、シーマはヒゲと尻尾をダラリと垂らして脱力した。
「ありがとうございます、ナベリウス館長。でも、特別警備体制を敷いている時に、おやつなんて頼んでもよかったのですか?」
シーマが脱力しながら問いかけると、シャロップシュはニッコリと笑った。
「いーの、いーの!三毛猫ちゃんも一人で不安だろうし、甘い物でも食べて元気だしてね!それじゃ!」
シャロップシュがそう言い終わると、画面は瞬時に暗くなった。
「で、殿下。ここはひとまず、お言葉に甘えましょうでござる」
五郎左衛門が苦笑混じりに声を掛けると、シーマは脱力しながら、そうだな、と答えた。
こうして四人は、研修室を後にして従業員入り口に向かうことになった。
「お待たせいたしましたでござる!……おや?」
従業員入り口の扉を開けた五郎左衛門は、目の前の人物を見て動きを止めた。そこには、赤いチュニックを着てアップリケのついた黒い長ズボンをはいた仔猫が、リンゴの入ったカゴを抱えて立っていた。
フカフカとした茶トラ模様の毛並み。
焦げ茶色の飾り毛がついた小さな耳。
ボタンのように丸い緑色の目。
ピンク色の小さな鼻。
シーマ十四世殿下の友人にしてバッタの申し子、薄茶トラの仔猫モロコシだ。
「あ!五郎左衛門さんだ!こんにちはー!」
モロコシは五郎左衛門の姿を見ると、リンゴのカゴを抱えながらペコリと頭を下げた。
「こんにちはでござる!モロコシ殿!」
続いて五郎左衛門もニッコリと笑ってから、制帽を手に取ってペコリと頭を下げた。すると、五郎左衛門の後ろから、シーマと三毛猫を抱っこしたはつ江がパタパタと駆けてきた。
「あ!モロコシじゃないか!」
「モロコシちゃん、こんにちは!」
シーマとはつ江が声を掛けると、モロコシは目を細めて尻尾をピンと立てた。
「殿下!はつ江おばあちゃん!こんにちはー!」
モロコシが嬉しそうにそう言ってペコリと頭を下げているうちに、シーマとはつ江も従業員入り口の扉の前にたどり着いた。
「モロコシちゃんや、今日もお手伝いかい?」
はつ江がニッコリと笑いながら尋ねると、モロコシもニッコリと笑って頷いた。
「うん!リンゴのお届けにきましたー!……あれ?」
はつ江の問いかけに元気よく答えたモロコシだったが、抱っこされていた三毛猫を見るとキョトンとした表情で首を傾げた。
「ミミちゃん?どうしてここに居るの?」
モロコシが尋ねると、シーマと五郎左衛門は目を見開いた。
「モ、モロコシ!この子のこと、知ってるのか!?」
「三毛殿はどこのお子さんなのでござるか!?」
そして、モロコシに詰め寄りながら矢継ぎ早に尋ねた。二人の剣幕に、モロコシは耳を伏せながら尻尾をパタパタと動かして後ずさりした。
「ふ、二人とも、ちょっと落ち着いてよぉ……」
「これこれ、二人ともモロコシちゃんがビックリしてるから、ちょっと落ち着くだぁよ」
「みー」
モロコシとはつ江と三毛猫に声を掛けられると、シーマと五郎左衛門はハッとした表情を浮かべて、同時にコホンと咳払いをした。
「悪かった、モロコシ。実は、この子が一人で博物館に迷い込んじゃったみたいで……」
「親御さんを探していたところだったのでござるよ」
シーマと五郎左衛門が事情を説明すると、モロコシはふんふんと鼻を鳴らしながら、そうなんだー、と言って頷いた。
「モロコシちゃん、ミケちゃんがどこのお家の子か知ってるのかい?」
はつ江が尋ねると、モロコシはコクリと頷いた。
「うん!えっとねー……商店街の『おしゃれ泥棒・ウェロックス♪』っていう服屋さんの子だよ!ミミちゃんっていうの!」
モロコシが答えると、はつ江に抱っこされたミミがコクコクと頷いた。
「みー!みー!」
「どうやら、ミミ殿で間違い無いようでござるな」
頷くミミの姿を見て、五郎左衛門がホッとした表情でため息を吐いた。続いてシーマもホッとした表情を浮かべてから、モロコシに向かってにこりと笑いかけた。
「助かったよ、モロコシ」
「どういたしましてー」
はつ江もミミの背中をポンポンとなでながら、ニッコリと笑った。
「よかっただぁね、ミミちゃん。モロコシちゃんや、悪いけど帰りにミミちゃんをお家に連れて行ってくれるかね?」
はつ江が問いかけると、モロコシはニッコリと笑って、うん、と元気よく返事をした。しかし、その途端にミミは目を見開くと、はつ江の腕からピョインと飛び降りた。
「あれまぁよ!?ミミちゃんや、どうしたんだい?」
「みー!みみみみー!みみー!」
はつ江が声を掛けたが、ミミは、みーみー、と声を上げながらピョコピョコと飛び跳ねた。そして、クルリと踵を返し、廊下の奥に走り去っていってしまった。
「あ!ミミ!どこに行くんだ!?」
「ミミ殿!待つでござるよ!」
シーマと五郎左衛門が慌てて声を掛けたが、ミミの姿は既に廊下の奥へ消えてしまっていた。シーマは困惑した表情を浮かべると、はつ江とモロコシに向かって首を傾げた。
「はつ江、モロコシ。ちょっと、ミミを追いかけてくるから、そこで待っていてくれるか?」
シーマの言葉に、はつ江とモロコシはコクリと頷いた。
「分かっただぁよ!」
「うん!分かったー!」
二人の返事を受けて、シーマはうんうんと頷いてから、五郎左衛門に顔を向けた。
「五郎左衛門、一緒にミミを追いかけてくれるか?」
「もちろん!合点承知でござる!」
シーマに声を掛けられた五郎左衛門は、凜々しい表情で胸の辺りをポンと叩いた。
かくして、シーマ十四世殿下と柴崎五郎左衛門は、ミミちゃんを追いかけることになったのだった。
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