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第一章 シマシマな日常
サッパリ
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湿った空気が漂う地下迷宮の第二階層で、シーマ十四世殿下一行は天井に図形が描かれていること発見した。
「五郎左衛門さん。ちょっと止まってー」
「了解したでござる!」
肩車をされるモロコシに声をかけられた五郎左衛門は、元気の良い返事をしながら歩みを止めた。
「モロコシ、また見つかったのか?」
はつ江に背負われたシーマが眠たげに答えると、モロコシは凜々しい表情をしながらコクリと頷いた。
「うん!今お絵かき帳に描くね!」
モロコシは五郎左衛門の頭のうえに置かれたお絵かき帳のページをめくり、フンフンと鼻を鳴らしながら割とどこにでも書けるペンを動かした。その様子を見た魔王は、口元に手を当てて、ふぅむ、と呟き天井を見上げた。
「モロコシ君が図形を見つけたのは、これで七回目か。しかし……何なのだろうな、これは」
魔王の視線の先には、ボートを横から眺めた姿に似た図形が描かれている。
「歴代魔王を呼び出す魔法陣にも似ていないし……古代文字には、似ている物があったが、前の六個と合わせても意味が通らないし……」
魔王の呟きに、シーマが尻尾の先をピコピコと動かしながら、不安げな表情を浮かべて首を傾げた。
「兄貴でも分からないのか?」
「ああ、今回ばかりはサッパリだな……」
魔王が肩を落としていると、不意にはつ江が、うーん、と唸りながら、眉間に皺を寄せて目を閉じた。
「はつ江!?どうした!?膝が痛くなったのならすぐに降りるぞ!?」
うなり声に驚いたシーマが大きな目を見開いて慌てると、はつ江は目を開いて軽く後ろを振り向きながらカラカラと笑った。
「違うだぁよシマちゃん!ただ、この形どっかで見た気がするんだけど、どうも思い出せなくてねぇ……」
そう言うと、はつ江は再び不意に梅干しを食べてしまったときのような表情を浮かべて、うーん、と唸った。いつになく真剣に悩むはつ江に対して、五郎左衛門とモロコシが笑顔を向けた。
「はつ江殿!大丈夫でござるよ!また新しい図形を見つけたら、思い出すかもしれないでござるから!」
「そうだよー。はつ江おばあちゃん、何か思い出したら教えて?ボクがお絵かき帳に描いておくから」
こんがり色コンビに励まされ、はつ江はしかめていた表情を元に戻した。
「そうだねぇ!ありがとう、二人とも」
はつ江がいつものようにカラカラと笑うと、背負われたシーマがてんてんと肩を叩く。
「はつ江、このボクも一緒にいるんだから、きっと何とかしてやるぞ!それに、ボクも見たことあるような気がするし!」
シーマが気取った表情を浮かべてそう言うと、はつ江は再び軽く後ろを向いた。そして、後ろ手でシーマの背中をあやすようにポンポンと軽く叩いた。
「そうかい!それは、凄く頼もしいねぇ!」
「もー!またそうやって子供あつかいして!」
シーマが尻尾をパシパシと縦に振りながら抗議すると、その様子を見た魔王が軽く微笑んで、モロコシと五郎左衛門に顔を向けた。
「モロコシ君、天井の図形は写し終わったかな?」
「はい!バッチリです!」
モロコシが凜々しい表情を浮かべて返事をすると、魔王は軽く頷いてから口を開いた。
「よし。では、先に進むとしようか」
魔王が号令をかけると、四人は同時に頷いた。そして、一行は再び迷宮の奥へと脚を進めた。
その後、六回ほど同じような図形を発見し、その度に一行は脚を止めて、モロコシが図形を書き写した。はつ江は相変わらず図形をどこで見たのか思い出そうとしていたが、詳しいことは思い出せずにいた。
そうこうしているうちに、一行は通路を抜けて小部屋のようになった場所に出た。部屋の中心には、謁見の間にあった地下迷宮の入り口と同じくらいの大きさの穴と、はつ江の膝と同じ高さほどの立て看板と、毛糸玉とはさみが置かれたテーブルが用意されていた。
「ふむ、この階層はここまでのようだな」
脚を止めた魔王が腕を組みながら頷くと、シーマがはつ江の背中からぴょんと飛び降りた。
「はつ江、世話になったな」
「別に良いだぁよ!おかげで、体がスッカリ鍛えられただぁよ!」
力こぶを見せるポーズをしながらカラカラと笑うはつ江の後ろで、モロコシも五郎左衛門の肩からぴょいんと飛び降りた。
「五郎左衛門さん。ありがとうございましたー」
「いやいや、何のこれしき!でござるよ」
ペコリと頭を下げるモロコシに向かって、五郎左衛門がニッコリと笑って答えた。
「……さて、問題はここからだが」
しばらく四人の姿を微笑ましく見ていた魔王だったが、表情を引き締めると立て看板に近づき、そこに記された文字を読み上げた。
「この毛糸とはさみを使って、この穴を降りるための物を作って下さい……だ、そうだ」
「毛糸とはさみでか?」
魔王が読み上げた内容に、シーマが眉間に皺を寄せて尻尾をゆらゆらと左右に振りながら怪訝そうに尋ねた。
「殿下、魔王さま、魔法で作れる?」
モロコシが尻尾を垂らしながら不安げな表情で尋ねると、魔王は部屋の中を見渡してから口元に手を当て、ふぅむ、と呟いた。
「いつもならば可能だと思うが……どうもここは使える魔法が限られているようだ……」
魔王がそう言うと、シーマが部屋の壁に近づいて、尻尾をゆらゆらと動かしながら目をこらした。
「本当だ。この部屋が許可する魔法しか使えなくなるような術式が描いてある……でも、どんな魔法が使えるのか解読するだけでも、相当時間がかかりそうだな……」
シーマが肩を落とすと、魔王がウキウキとした顔ではつ江に近づいた。
「はつ江。そのポシェットの中に、術式解読用のガジェットが……」
「相当時間がかかりそうだと言ったばかりだろ!このバカ兄貴!」
シーマが尻尾を縦に大きく振りながらたしなめると、魔王はシュンとした表情を浮かべて肩を落とした。
「だって、難しそうな術式なら、解読するのも楽しそうだからつい……」
シーマが無言でジトっとした視線を向けると、魔王はさらにガックリと肩を落とした。
「……えーと、しかしながら、この毛糸だと縄ばしごを編むにしても少し不安があるでござるな……」
五郎左衛門がその場の空気を取り繕うように挙手をしながらそう言うと、魔王の背中をポンポンと叩いていたはつ江の手が止まった。
「はつ江?どうしたんだ?」
シーマがキョトンとした表情を浮かべて首を傾げると、はつ江はニッコリと笑顔を浮かべた。
「天井に描いてあった絵が何だったか、思い出しただぁよ!」
「なに!?本当か!?」
シーマが黒目を大きくさせて驚くと、はつ江はカラカラと笑いながら頷いた。
「本当だぁよ!モロコシちゃんや、さっきのお絵かき帳を見せてくれるかい?」
「うん!どうぞー!」
はつ江はモロコシからお絵かき帳を受け取ると、ページをパラパラとめくり、納得したように頷いた。
「うんうん。モロコシちゃんが上手に描いてくれたから、ちゃんと出来そうだぁね」
「えへへー!」
はつ江がモロコシの頭をポフポフと撫でると、モロコシは目を細めながら尻尾を立てて喜んだ。
「それで、どうするのでござるか?」
五郎左衛門が小首を傾げながら尋ねると、まあまかせるだぁよ、と言いながら、はつ江はテーブルに近づいた。そして、毛糸玉から毛糸を自分の腕の長さほど引き出し、置いてあったはさみでチョキンと切り離した。
「そんなに短い毛糸で、ここを降りる物を作れるのか?」
シーマが尻尾の先をピコピコと動かしながら怪訝そうに尋ねると、はつ江はカラカラと笑った。
「多分、このくらいで大丈夫だぁよ!あとは、これをこうして……」
そう言うと、はつ江は毛糸の両端どうしを結んで輪を作り、両手の親指と小指にかけた。
「ひさしぶりだから、ちょっと指が動きづらいかねぇ」
そう言いながらも、はつ江は指を器用に動かして毛糸のかかる位置をかえながら、モロコシが書き写した図形を再現していく。
「……これでハシゴが出来ただぁよ!」
そして、最後に菱形が横に四つ並んだ図形を毛糸で表現した。
要は、あやとりの四段ばしごだ。
「ほう……はつ江の世界には、糸で作った輪を指にかけたり外したりして色々な物を再現する遊びがある、と書物で読んだことがあったが……天井の図形はその手順を現していたのだな」
魔王が感心したように呟くと、シーマが尻尾をゆらゆらと動かしながら、うーん、と呟いた。
「でも、流石に毛糸のままだと、ボク達が下に降りるのには使えな……」
シーマがそう言いかけると、はつ江の手にかけられた四段ばしごから目映い光があふれ出し、一同は思わず目をギュッと閉じた。
まぶたの裏に感じる光が落ち着くと、一同はゆっくりと目を開いた。すると、先ほどまであった立て看板と、毛糸玉とはさみを載せたテーブルが消え、長いハシゴが現れていた。
「あれまぁよ!」
「わー!ハシゴだー!」
はつ江とモロコシが目を丸くしながら驚くと、五郎左衛門がクルリと巻いた尻尾を左右にブンブンと振りながら、円らな黒い目を細めて喜んだ。
「これで次の階層に行けるでござるな!」
「そうだな。それにしても、糸の輪で再現した物を具現化する魔法……いや、召喚か……?何にせよ、なかなか面白そうだ……」
ハシゴを出現させた魔法に興味津々の魔王に向かって、シーマは再びジトッとした視線を向けた。
「……兄貴。頼むから、変な新魔法を開発しようとか考えないでくれよ……」
シーマの言葉に魔王はギクリとした表情を浮かべてから、コホンと咳払いをした。
「何はともあれ、はつ江のおかげで、この階層の試練は突破できたようだ。礼を言うぞ」
魔王の言葉に、シーマ、モロコシ、五郎左衛門も同時に頷く。
「どういたしましてだぁよ」
はつ江がニッコリと笑いながらそう言うと、魔王はコクリと小さく頷いた。
「では、下の階に降りたら……」
そう言うと、魔王は爽やかな笑みを浮かべて手を握りしめた。
「……おやつの時間だ!」
魔王の言葉に、四人は手を振り上げて、おー!、と勢いよく返事をした。
第一階層の試練突破を突破したときよりも、一同は意気揚々としながら第三階層へと進んでいくのであった。
「五郎左衛門さん。ちょっと止まってー」
「了解したでござる!」
肩車をされるモロコシに声をかけられた五郎左衛門は、元気の良い返事をしながら歩みを止めた。
「モロコシ、また見つかったのか?」
はつ江に背負われたシーマが眠たげに答えると、モロコシは凜々しい表情をしながらコクリと頷いた。
「うん!今お絵かき帳に描くね!」
モロコシは五郎左衛門の頭のうえに置かれたお絵かき帳のページをめくり、フンフンと鼻を鳴らしながら割とどこにでも書けるペンを動かした。その様子を見た魔王は、口元に手を当てて、ふぅむ、と呟き天井を見上げた。
「モロコシ君が図形を見つけたのは、これで七回目か。しかし……何なのだろうな、これは」
魔王の視線の先には、ボートを横から眺めた姿に似た図形が描かれている。
「歴代魔王を呼び出す魔法陣にも似ていないし……古代文字には、似ている物があったが、前の六個と合わせても意味が通らないし……」
魔王の呟きに、シーマが尻尾の先をピコピコと動かしながら、不安げな表情を浮かべて首を傾げた。
「兄貴でも分からないのか?」
「ああ、今回ばかりはサッパリだな……」
魔王が肩を落としていると、不意にはつ江が、うーん、と唸りながら、眉間に皺を寄せて目を閉じた。
「はつ江!?どうした!?膝が痛くなったのならすぐに降りるぞ!?」
うなり声に驚いたシーマが大きな目を見開いて慌てると、はつ江は目を開いて軽く後ろを振り向きながらカラカラと笑った。
「違うだぁよシマちゃん!ただ、この形どっかで見た気がするんだけど、どうも思い出せなくてねぇ……」
そう言うと、はつ江は再び不意に梅干しを食べてしまったときのような表情を浮かべて、うーん、と唸った。いつになく真剣に悩むはつ江に対して、五郎左衛門とモロコシが笑顔を向けた。
「はつ江殿!大丈夫でござるよ!また新しい図形を見つけたら、思い出すかもしれないでござるから!」
「そうだよー。はつ江おばあちゃん、何か思い出したら教えて?ボクがお絵かき帳に描いておくから」
こんがり色コンビに励まされ、はつ江はしかめていた表情を元に戻した。
「そうだねぇ!ありがとう、二人とも」
はつ江がいつものようにカラカラと笑うと、背負われたシーマがてんてんと肩を叩く。
「はつ江、このボクも一緒にいるんだから、きっと何とかしてやるぞ!それに、ボクも見たことあるような気がするし!」
シーマが気取った表情を浮かべてそう言うと、はつ江は再び軽く後ろを向いた。そして、後ろ手でシーマの背中をあやすようにポンポンと軽く叩いた。
「そうかい!それは、凄く頼もしいねぇ!」
「もー!またそうやって子供あつかいして!」
シーマが尻尾をパシパシと縦に振りながら抗議すると、その様子を見た魔王が軽く微笑んで、モロコシと五郎左衛門に顔を向けた。
「モロコシ君、天井の図形は写し終わったかな?」
「はい!バッチリです!」
モロコシが凜々しい表情を浮かべて返事をすると、魔王は軽く頷いてから口を開いた。
「よし。では、先に進むとしようか」
魔王が号令をかけると、四人は同時に頷いた。そして、一行は再び迷宮の奥へと脚を進めた。
その後、六回ほど同じような図形を発見し、その度に一行は脚を止めて、モロコシが図形を書き写した。はつ江は相変わらず図形をどこで見たのか思い出そうとしていたが、詳しいことは思い出せずにいた。
そうこうしているうちに、一行は通路を抜けて小部屋のようになった場所に出た。部屋の中心には、謁見の間にあった地下迷宮の入り口と同じくらいの大きさの穴と、はつ江の膝と同じ高さほどの立て看板と、毛糸玉とはさみが置かれたテーブルが用意されていた。
「ふむ、この階層はここまでのようだな」
脚を止めた魔王が腕を組みながら頷くと、シーマがはつ江の背中からぴょんと飛び降りた。
「はつ江、世話になったな」
「別に良いだぁよ!おかげで、体がスッカリ鍛えられただぁよ!」
力こぶを見せるポーズをしながらカラカラと笑うはつ江の後ろで、モロコシも五郎左衛門の肩からぴょいんと飛び降りた。
「五郎左衛門さん。ありがとうございましたー」
「いやいや、何のこれしき!でござるよ」
ペコリと頭を下げるモロコシに向かって、五郎左衛門がニッコリと笑って答えた。
「……さて、問題はここからだが」
しばらく四人の姿を微笑ましく見ていた魔王だったが、表情を引き締めると立て看板に近づき、そこに記された文字を読み上げた。
「この毛糸とはさみを使って、この穴を降りるための物を作って下さい……だ、そうだ」
「毛糸とはさみでか?」
魔王が読み上げた内容に、シーマが眉間に皺を寄せて尻尾をゆらゆらと左右に振りながら怪訝そうに尋ねた。
「殿下、魔王さま、魔法で作れる?」
モロコシが尻尾を垂らしながら不安げな表情で尋ねると、魔王は部屋の中を見渡してから口元に手を当て、ふぅむ、と呟いた。
「いつもならば可能だと思うが……どうもここは使える魔法が限られているようだ……」
魔王がそう言うと、シーマが部屋の壁に近づいて、尻尾をゆらゆらと動かしながら目をこらした。
「本当だ。この部屋が許可する魔法しか使えなくなるような術式が描いてある……でも、どんな魔法が使えるのか解読するだけでも、相当時間がかかりそうだな……」
シーマが肩を落とすと、魔王がウキウキとした顔ではつ江に近づいた。
「はつ江。そのポシェットの中に、術式解読用のガジェットが……」
「相当時間がかかりそうだと言ったばかりだろ!このバカ兄貴!」
シーマが尻尾を縦に大きく振りながらたしなめると、魔王はシュンとした表情を浮かべて肩を落とした。
「だって、難しそうな術式なら、解読するのも楽しそうだからつい……」
シーマが無言でジトっとした視線を向けると、魔王はさらにガックリと肩を落とした。
「……えーと、しかしながら、この毛糸だと縄ばしごを編むにしても少し不安があるでござるな……」
五郎左衛門がその場の空気を取り繕うように挙手をしながらそう言うと、魔王の背中をポンポンと叩いていたはつ江の手が止まった。
「はつ江?どうしたんだ?」
シーマがキョトンとした表情を浮かべて首を傾げると、はつ江はニッコリと笑顔を浮かべた。
「天井に描いてあった絵が何だったか、思い出しただぁよ!」
「なに!?本当か!?」
シーマが黒目を大きくさせて驚くと、はつ江はカラカラと笑いながら頷いた。
「本当だぁよ!モロコシちゃんや、さっきのお絵かき帳を見せてくれるかい?」
「うん!どうぞー!」
はつ江はモロコシからお絵かき帳を受け取ると、ページをパラパラとめくり、納得したように頷いた。
「うんうん。モロコシちゃんが上手に描いてくれたから、ちゃんと出来そうだぁね」
「えへへー!」
はつ江がモロコシの頭をポフポフと撫でると、モロコシは目を細めながら尻尾を立てて喜んだ。
「それで、どうするのでござるか?」
五郎左衛門が小首を傾げながら尋ねると、まあまかせるだぁよ、と言いながら、はつ江はテーブルに近づいた。そして、毛糸玉から毛糸を自分の腕の長さほど引き出し、置いてあったはさみでチョキンと切り離した。
「そんなに短い毛糸で、ここを降りる物を作れるのか?」
シーマが尻尾の先をピコピコと動かしながら怪訝そうに尋ねると、はつ江はカラカラと笑った。
「多分、このくらいで大丈夫だぁよ!あとは、これをこうして……」
そう言うと、はつ江は毛糸の両端どうしを結んで輪を作り、両手の親指と小指にかけた。
「ひさしぶりだから、ちょっと指が動きづらいかねぇ」
そう言いながらも、はつ江は指を器用に動かして毛糸のかかる位置をかえながら、モロコシが書き写した図形を再現していく。
「……これでハシゴが出来ただぁよ!」
そして、最後に菱形が横に四つ並んだ図形を毛糸で表現した。
要は、あやとりの四段ばしごだ。
「ほう……はつ江の世界には、糸で作った輪を指にかけたり外したりして色々な物を再現する遊びがある、と書物で読んだことがあったが……天井の図形はその手順を現していたのだな」
魔王が感心したように呟くと、シーマが尻尾をゆらゆらと動かしながら、うーん、と呟いた。
「でも、流石に毛糸のままだと、ボク達が下に降りるのには使えな……」
シーマがそう言いかけると、はつ江の手にかけられた四段ばしごから目映い光があふれ出し、一同は思わず目をギュッと閉じた。
まぶたの裏に感じる光が落ち着くと、一同はゆっくりと目を開いた。すると、先ほどまであった立て看板と、毛糸玉とはさみを載せたテーブルが消え、長いハシゴが現れていた。
「あれまぁよ!」
「わー!ハシゴだー!」
はつ江とモロコシが目を丸くしながら驚くと、五郎左衛門がクルリと巻いた尻尾を左右にブンブンと振りながら、円らな黒い目を細めて喜んだ。
「これで次の階層に行けるでござるな!」
「そうだな。それにしても、糸の輪で再現した物を具現化する魔法……いや、召喚か……?何にせよ、なかなか面白そうだ……」
ハシゴを出現させた魔法に興味津々の魔王に向かって、シーマは再びジトッとした視線を向けた。
「……兄貴。頼むから、変な新魔法を開発しようとか考えないでくれよ……」
シーマの言葉に魔王はギクリとした表情を浮かべてから、コホンと咳払いをした。
「何はともあれ、はつ江のおかげで、この階層の試練は突破できたようだ。礼を言うぞ」
魔王の言葉に、シーマ、モロコシ、五郎左衛門も同時に頷く。
「どういたしましてだぁよ」
はつ江がニッコリと笑いながらそう言うと、魔王はコクリと小さく頷いた。
「では、下の階に降りたら……」
そう言うと、魔王は爽やかな笑みを浮かべて手を握りしめた。
「……おやつの時間だ!」
魔王の言葉に、四人は手を振り上げて、おー!、と勢いよく返事をした。
第一階層の試練突破を突破したときよりも、一同は意気揚々としながら第三階層へと進んでいくのであった。
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