【R18】ディストピアで聖職者は反乱分子の首魁の執着に蝕まれ乱されていく

鯨井イルカ

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欲と約束

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 シュウは床に倒れたまま、動かなくなった聖職者が運ばれて行くさまを呆然と眺めていた。
 顔の判別はつかなかったが、この城塞に派遣されたということは言葉を交わしたこともあった人間なのかもしれない。胸のあたりが鈍く痛む。

「さて、シュウ。そろそろ始めるぞ」

「……」

 痛みの上に革靴が乗せられた。圧迫感はあるが痛みを悪化させるほどではない。少なくともすぐに約束を反故にする気はないようだ。ならば、いつものように口や手で欲を満たしてやればこの場をしのぐことはできるはずだ。

 取り入るために学習し知識と技術を身につけはした。しかしなぜ欲の子らの愛情にこのような行為が伴うのかは、生殖もカミサマが管理している人間にとって理解できることではなかった。それに、理解したいとも思わない。

 ともかく早く終わらせてしまえばいい。動かない手の代わりにおもむろに口を開くと、見上げた顔に笑みが浮かび胸から足が離れる。

「へえ、物わかりがいいじゃねぇか」

「それはどうも」

「ただ、今日は『愛し合う』約束だし」

「うわっ!?」

 不意に拘束された身体を抱きかかえあげられた。そのまま天蓋付の寝台へ運ばれ横向きに寝かされる。

「はは、そう身構えるなって」

 トウヤは白いレース生地の囲いを閉じると、傍に座り軽く頭をなでた。その指には珍しく指輪が一つもない。

「お前にも気持ちよくなってもらうだけだからさ」

「いえ、僕は別に……」

「ん? お前はなにがあっても俺に従うんじゃなかったのか?」

「……はい」

「そうそう、それでいいんだ。ほら、気持ちよくしてもらうんだからお礼は?」

「ありがとう、ございます」

「よし、いい子だ」

 頭に置かれた手は雑に髪をなでてから、詰め襟の上着のボタンを外しにかかった。

「そのまま身を委ねてろ」

 薄いシャツの上で、開かれた襟から滑り込んだ掌が這い回る感触と生ぬるい体温を感じる。しかし、それ以外に僅かな快感すらない。むしろ、汚らわしいものに触れられている嫌悪感が吐き気と共にこみ上げてくる。

 相手に快感を与える方法は一通り学習したが、自分が快感を与えられた場合に反応をするのが正しいのかは学んでいなかった。事前に追究していればこの場をもっと円滑にやり過ごすことができたのに。後悔とともに深いといきがもれた。その反動で、苦い柑橘系の香りが肺をみたしていく。

 不快極まりない状況だが、あいかわらずその香りだけは心を落ち着かせた。心なしか吐き気も収まっていく。

 シュウはそれからしばらくの間、軽く目を閉じ心地良い香りに集中し胸を這う感触を受け流していた。
 
「……そろそろ、か」

 不意に、低い呟きが耳に入った。

「……っ!?」
  
 その途端、触れられていた部分が熱を帯び始めた。

「な? ……え?」

 わけも分からないうちに、肌全体が粟立ち熱が身体の奥に浸透していく。
 
「どうだ? 気持ちよくなってきただろ」

「そん、な、こと、ない、です」

「なら、まだ続けてやるよ」

「っ」

 掌は胸を這い続け、そのうちに下腹部の奥からかすかな疼きが生じた。

「……ぅ、……ぁ」

 自然と内腿をすりあわせるように脚が動き出す。ただシャツ越しになでられているだけなのになぜ。熱と疼きに犯されはじめた頭の中に疑問符が浮かぶ。そんな中、トウヤが鋭い犬歯を覗かせながら笑んだ。

「さて、欲の子らの感覚はいかがですか? 聖職者様」

「な……」

 バカ丁寧な言葉が俄に冷静さを取り戻させた。欲の子らと同じように刺激を拾う身体、それに昨晩の昏倒とも思える眠り、考えられることは一つだった。

「お? まだそんな反抗的な顔できるのか」

「……黙りなさい。何を飲ませたんですか」

「ははっ、なんだ媚薬でも盛られたと思ってんのか? 聖職者様ってば妄想が大胆♡」

「っふざけないでください! そうでもしなければ、こんな……」

「気持ちよくて仕方なくなるはずがない?」

「……」

 睨みつけると、トウヤは胸から手を離し大げさに肩をすくめた。

「はいはい、悪かったって。確かに昨日は少しばかり寝付きがよくなる薬は使わせてもらったよ」

「なら……」

「でもな、こっちの反応についてはむしろ逆だ」

「は……? ぎゃ……く?」

「そう。まあ、欲の子らと人間の違いなんて突き詰めれば性行為で生まれるか否かくらいだからな。そこに大きな差をつけようとするなら……、まあ、そんなことは置いといてだな」

「……っ」

 視界を塞ぐように笑みを浮かべた顔が近づく。息を飲むと苦い柑橘系の香りを感じた。

「つまるところ、すました顔で取り繕ってるだけで、所詮はお前も俺と同じ生き物だってことだ」

「そんなこと、ない、です……」

「まあ、そう言うだろうよ。でも」

「……っ」

 再び胸に温かい掌が触れた。そして、次の瞬間。


「いくら否定しようが、身体の反応は止められないだろ?」

「いっ♡♡♡!?」

 爪の先がシャツ越しに胸の突起を弾いた。その途端、甘い刺激が全身を駆け抜けた。

「はははは! 可愛い声じゃねーか!!」

「いま……、のは……? っぅ♡♡♡!?」

 回答の代わりに指先がもう片方にも伸び、シャツを広げながら両の突起の先端に押しつける。生地のザラついた刺激だけでふたたび全身が粟立った。

「ぅ♡♡♡、んっ♡♡♡」

 なんとか快感から逃れようと身をよじるが、それがかえって先端を擦りつけることになってしまう。

「へえ、聖職者さまは乳首をいじってほしくてしかたないみたいだな」

「ちがっ♡♡♡、これっは♡♡♡」

「ははっ、別に言い訳なんてしなくても今日は好きなだけいじってやるよ」

「んひっ♡♡♡!!」

 再び指先に弾かれ痛みにも似た快感が身体を跳ねさせた。そのまま指はシャツごと突起を摘まみ上げる。

「っぁ♡♡♡!?」

「ほーら、シャツのザラザラに擦り付けながら乳首シコシコしてやろうな」

「っやめ♡♡、それ、つら……っぃ♡♡♡」

「つらいか? なら、気持ちよくなるまでつづけてやらないと」

「っあ♡♡、や♡♡、きもちっ♡♡♡、きもちいいですっ、から♡♡♡、もう……」

「お、ようやく気持ちよくなってくれたのか。なら、遠慮せずもっとよがっとけよ」

「んん゛っ♡♡♡!!」

 嘲笑とともに突起がきつく捻り上げられ、かと思えば指の腹であやすようになでられ、ときに爪の先で素早く掻かれ、ふたたび捻り上げられる。緩急をつけた刺激に翻弄されるうちに自然と口元が緩んでいった。

「うん、いい感じになってきたな。なら、乳首はこんなところか」

「ふぁ……♡♡?」

 おもむろに指が離れていく。シュウは快楽の余韻のなか無意識のうちにアッシュグレーの瞳を見つめていた。

「ははっ。そんな淋しそうにしなくても、すぐに別のところで気持ちよくしてやるから」

「そんなの、いらな……っひ♡♡♡♡!?」

 否定の言葉は突如として下半身を襲った刺激によって遮られた。わけの分からぬまま視線を落とすと、丈が長い上着の裾を押し上げる性器に指が軽く触れていた。

「服越しでこんなに感じるなんて、聖職者様はずいぶんと淫乱なんだな」

「そんなこと……な、ぁぅ♡♡♡」

 裏筋をなぞるよように指先が上下に動き出し、それにあわせて腰が震えはじめる。

 精液の排出自体は、聖域でもカミサマの管理のもの定期的に行われていた。しかし、そのときは僅かな快感と鼓動の早まり、そして虚脱感を伴うのみでここまでの刺激を感じたことはなかった。やはり何かがおかしい。

「なにがそんなことないだ、こんなにしておいて」

「ひぐっ♡♡♡♡!?」

 不意に指先が狙い澄ましたかのように鈴口を弾いた。途端に腰が大きく跳ね大量の先走りが零れだす。

「お、黒い服でも分かるくらいに濡れてきた。手も口も上手かったし、やっぱり相当な淫乱だ」

「これはっ……♡♡、びや、くの……せいで……ぅ♡♡♡」

「まだ言うか。ま、そう思いたいなら思ってればいいさ」

「っぁ♡」

 丈の長い裾が捲られるかすかな刺激でまた腰が跳ねる。それでも手は容赦なくズボン越しに性器を揉み込んだ。

「ぁあぁあぁっ♡♡♡!?」

「ほら、聞こえるか? お前の出した先走りでグチュグチュいってるのが」

「やだっ♡、はなしっ……」

「なんだ聞こえないのか。なら、もっと分かりやすくしてやらなきゃな」

「くぅぅぅっっ♡♡♡!?」

 扱くように動き出した手によって、先走りに濡れた性器に下着が絡みつく。 

「とめっ♡♡、とめてくらさ……っ♡♡♡!!!」

「そう言うわりには腰が動きっぱなしじゃねーか。このまま、無駄撃ちしちまえよ」

「……♡♡♡!!!」

 手の動きが速まり下半身全体が激しい痺れに包まれ、今までに感じたことがないほどの快感が押し寄せる。
 あと少しで射精へ至る。そう思った瞬間。

「……と、言いたいところだが」

「ぁぇ……♡♡♡?」

 張り詰めた性器が解放された。
 行き場を失った熱が下腹部で渦を巻き、視界は生理的な涙で滲んでいく。

「悪い悪い。でも今日は愛し合うっていう約束だからな、俺も気持ちよくしてもらわないと」

「んっ♡」

 頬に軽く唇が落とされる。それだけで快感が全身を震わせた。それでも、絶頂へ至るにはまだ足りない。

「今から拘束は外してやるが、命が惜しいなら間違っても逃げだしたりすんなよ」

「……ん」

 ぼやけた思考の中で頷くと、目の前の笑みが微かに和らぎ髪が雑になでられた。

「よし、いい子だ。ま、そんなトロ顔さらして逃げられるわけもねーけどな」

「……っぁ♡♡」

 反論をする間もなく腕と脚の拘束が解かれ仰向けに転がされる。すると、すぐに苦い柑橘系の香りを纏う身体に覆い被された。おのずと鼓動が速まる。

「安心しろ、今日はまだナカは使わないでいてやるから」

 心地よい香りのなかに楽しげな声が響き、ベルトが外されズボンごと下着が下ろされる。

「んぅ♡♡」

 限界まで屹立した性器が外気に触れまた全身が粟立った。

「可愛い反応だな。さて」

 跨がったままトウヤもベルトを外し、ズボンの前を寛げて自身をとりだした。血管の浮き立つ長大なそれ。取り入るために行っていた手淫や口淫で飽きるほど目にしていたはずだった。

「……っ♡♡♡」

 しかし、今日は見るだけで喉が鳴り視線を外すことすらかなわない。

「はは、期待してるみだいだな。なら、お望み通り気持ちよくしてやるよ」

「ぅぁあぁっ♡♡♡!?」

 性器どうしを合わせるように握りこまれ、身体全体が大きく跳ねた。凄まじい熱と硬さに押しつぶされ、射精感が一気に高まる。

「あー……、先走りグチョグチョで、下手な娼妓よりいいわ……」

「っくぁっ♡!!!?」

 鷹揚な声とは裏腹に、手の動きは容赦ない速さで張り詰めた性器を更に追い詰めていく。

「っも♡、もうっ……っぅ♡♡♡!!」

「ああ、そろそろ出そうか? なら、ちゃんとイクって言えよ。そうしないとお仕置きだからな」

「っぁ♡♡♡、わっ、かりまし、た♡♡♡♡、ィ……くっっぅぅぅぅ♡♡♡!!!!」

 激しい刺激に追い立てられ、あまりの快感に頭の中が白くはじけ精液が噴き出す。

「ぅぁ……♡♡♡」

 このまま余韻のなかでぼやけた意識を手放してしまいたい。しかし、そんな甘い考えはすぐにかき消された。

「よしよし、気持ちよかったみたいだな。じゃ、続きだ」

「ひぐっ♡♡♡!?」

 絶頂を迎え敏感な性器が休む間もなく上下に扱かれる。それだけではなく、トウヤの性器までも動き出し吐き出した精液を纏わせてさらなる刺激に見舞われる。

「ほら、ずりゅずりゅされて気持ちいいな?」

「やっ♡♡♡、なんれっ♡♡♡!? イキました♡♡♡♡、も、イキまひらからや、め♡♡♡♡」

「言ったろ? 今日は愛し合う約束だって。まあ、色々やることもあるし俺が一回出したら終わりにしてやるから」

「そん、な……っぅ♡♡♡」

「お、またビクビクしてきたな。ちゃんと何回イッてもいいけどちゃんと報告しろよ」

「っく♡♡!!」

 不意に手の締め付けを強められ、熱い精液が再び鈴口から迸った。

「っぃ……く……♡♡♡」

「そうだ、えらいえらい。あー、ビクビクして具合がいいわ」

「っうぁ……♡♡♡ っは……、っはぁ……♡♡」

「息が荒くなってきたな……、もう少し愉しみたいところだが、流石に初日から飛ばしすぎるのもか。俺もあと少しだからへばるなよ」

「は、ひ……♡♡♡」

「よし、いい子だ。ほら、いくぞ」

「ぁあぁあぁっ♡♡♡♡!!??」

 激しくなった手と性器の動きに促され、三度身体は絶頂へと上り詰めていく。

「ぃく……♡♡♡、イくぅぅぅっぅぅぅ♡♡♡♡♡!!」

「……くっ」

 すり合わされた性器からほぼ同時に精液が零れだし、半端に脱がされた黒い服を汚していった。
 白濁を吐ききると、快感に綻びた口元に軽く唇が落とされた。

「……っ♡♡」

「……っはは、気持ちよかったぜ」

「んっ」

 虚脱感に浸る間もなく上体を起こされきつく抱きしめられ、苦い柑橘系の香りが肺を満たしていく。

「……シュウ。もう、どこにもいくなよ」

 トウヤの呼吸に合わせ首元の蠍が脈打つ。

「返事は?」

「……わかり、ました」

「よし。約束、だ」

「はい」

 心地のよい香りのなか、シュウは力なく頷いた。
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