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第一章

有能な人間に不幸はつきものだけど……

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 目が覚めてから二日後に、王立病院を退院した。
 医師からは痛み止めと化膿止めを渡されて、しばらく家で療養するように告げられた。犯罪の被害者だということで入院費や治療費は請求されなかったけど、長い間自宅療養するには手持ちの金額がこころもとない。
 これから、どうしようかな……。
 ため息を吐きながら歩いてるうちに、自宅にたどり着いた。ひとまず、今日はもう眠ってしまおうか。

「あ、えーと、フォルテさん、ですか?」

 不意に駆けられた声に振り返ると、緑色のつなぎを着て帽子を被った男性が立っていた。手には、大きな木箱を抱えてる。どうやら、宅配便のようだ。

「あ、はい、そうですが」

「ちょうどよかった! これ、お届け物です!」

「ああ、どうも」

「いえいえ! それでは、私はこれで!」

 宅配員はそう言うと、スタスタと去っていった。
 荷物を受け取るなんて、久しぶりだな。えーと、送り主は……、父さんと母さんか……。

 家に入って木箱を開けると、中には日持ちのする食料と、売ればかなりの額になる宝石、一通の手紙が入っていた。あまり乗り気はしないけど、一応手紙を読むことにしようか。えーと、なになに……。

  フォルテへ
  なんだか大変なことに
  なっていると聞きました
  私もお父さんも
  忙しくてそちらにはいけませんが、
  せめてもの償いとして
  これを送ります。
  もしも辛くなったら、
  いつでも帰ってきて
  いいんですからね。

 いつでも帰ってきていい、か。
 
 それだけは、絶対にごめんだな。

 父さんも母さんも、王都から離れた港街で商人をしてる。二人とも商才があるらしく、家は裕福な方だった。
 でも、取り引き相手に薄ら笑いを浮かべてペコペコと頭を下げる二人を見て、絶対にあんな風にはなりたくないと思った。だから、誰からも称えられて胸を張って仕事ができる、勇敢なダンジョン探索者になりたかった。
 たとえば、史上最年少で最難関ダンジョンを攻略した、ベルムさんのような……。
 
 子供のころを思い出したら、自然と深いため息がこぼれてしまった。
 
 幸い僕には魔術の才能もあったしこの固有スキルもある。だから、初等教育のころから成績優秀で、教師や同級生から一目置かれていた。
 でも、十三歳になって、この王都にある全寮制のダンジョン探索者養成学校に入ってから、少し厄介なことも出てきた。養成学校に入れば、簡単なダンジョンへ実習にいくことになる。

 そのときに、僕の優秀さに、周りのヤツらがまったくついてこられなかった。

 自分のところに、敵を引きつけていられないタンク職。
 攻撃力が低すぎて、僕の半分もモンスターにダメージを与えられない攻撃職。
 回復のタイミングが遅いうえに、まともに回復ができない回復職。
 学校にいたのは、そんなヤツらばかりだった。そいつらのおかげで、ダンジョン探索実習の成績だけはいつもギリギリだった。
 しかも、あいつら、役に立たないだけじゃなくて、聞こえよがしの陰口まで言ってきたし……。
 まあ、有能な人間が周りから疎外されるのは、世の中の常なのかもしれないけど……。

 学生時代を思い出してしまい、またしても口から深いため息がこぼれた。

 本当に、学生時代はろくなことがなかったな……。
 だから、養成学校を卒業すると同時に、ベルムさんのパーティーに入ることができたときは、本当に嬉しかった。同期に同じ学校の奴もいなかったし、ベルムさんのパーティーに入れるくらいなら有能なやつらばかりだろうから。

 でも、そこでも同期のヤツらは少しも役に立たなかった。

 おかげで、簡単な依頼にも手こずった。しかも、周りのヤツらは、失敗を全部僕が悪いことにしてベルムさんに報告していた。でも、ベルムさんはあいつらの言葉だけを信じずに、僕を任務に同行させて事実を確認する、と言ってくれた。その時は、本当に嬉しかった。だから、僕も精一杯実力を発揮した。

 それなのに――

  ……命令を無視して、強力すぎる魔術を詠唱した。
  そのおかげで、ターゲットの大型モンスターどころか……
  弓術師のルクスがとっさに狙いを……
  二人がいなければ……

 ――ベルムさんも、他のヤツらと同じで、僕だけを責めた。
 
 まさか、ベルムさんまで、有能な人間を妬んで排除するような人間だとは思わなかった。
 本当に、ずっと憧れていた気持ちを、返して欲しい……。

  ぐぅぅぅぅ

 ああ、嫌なことを思い出していたら、お腹が空いてきた。
 ひとまず、食事をして、送られてきた宝石を換金してこよう。それでできた資金で、しばらくはゆっくり療養して、英気を養うことにしよう。
 たとえ優秀な人間が報われない世界だとしても、強く生きていかないとないんだから……。
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