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第一章

今更、何なんですか?

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 次の依頼は僕がメインの攻撃役になる、という結論で作戦会議は終了した。

「それじゃあさっそく、ギルドに魔の森への進入許可証をもらいにいこうぜ!」

「なんなら、そのまま依頼に出かけちゃう?」

「良いですね! 善は急げと昔から言いますもんね!」

 三人は浮き足立ちながら、そんな話をしだした。たしかに、あまりグズグズしてても仕方ないよな。
 あれ? でも……

「ん? どうした、フォルテ?」

「あ、いや。僕の方はそれなりの装備をしてるけど、みんなはその装備で大丈夫なの?」

 あそこは、奥地にある遺跡からモンスターがあふれ出して、森全体がダンジョン化してる危険な場所だ。
 それなのに、マルスが装備してるのは安物の革鎧だし、ヘレナの装備も動きやすそうだけど防御力は低そうだし、アメリアにいたっては学校の卒業記念品のあまり性能がよくないローブを着てる。

「……大丈夫、大丈夫! な、二人とも!」

「そうだよ! この装備でいくつも依頼を成功させてるんだから!」

「そうですよ! それに、あの森のモンスターたちは、主の大型モンスターが倒されて、かなり弱体化したそうですから」
 
「そうか……」

 少し不安は残るけど、コイツらがそう言うなら、きっと大丈夫なんだろう。それに、ギルドに申請したときに、コイツらがいると危険、と判断されれば進入許可はおりないはずだ。

「じゃあ、ギルドに行ったら、その足で魔の森まで向かおう」

「おう!」
「さんせーい!」
「そういたしましょう!」

 中型の殲滅っていう地味な仕事だけど、少しは本気を出すことにしよう。「魔の森」で僕が活躍したって耳に入れば、ベルムさんも悔しがるはずだから。

 それから、事務所を出てギルドへ向かった。

「じゃあ、俺たちで手続きしてくるから、フォルテはここで待っててくれ」
「じゃあ、いってくるねー!」
「フォルテさん、少しだけお待ちくださいね」

「あ、待って、ボクも一緒に……」
 
 ……手続きにいく、と言う間もなく、三人は混雑する各種申請の窓口へ向かっていった。
 まあ、全員で行く必要もないか……。ひとまず、壁際によけていよう。ダンジョン探索者には荒っぽい奴も多いから、ぶつかってトラブルになっても面倒だし――

  ドンッ

「わっ!?」
「うわっ!?」

 ――と思っていた矢先に、思いっきりぶつかってしまった。

「す、すみません!」

「いや、こちらこそすまなかった……ん? お前は、フォルテ、だったか?」

 聞き覚えのある声に名前を呼ばれ顔を上げると、白い鎧を着た見覚えのある男性が困惑した表情を浮かべていた。

「リーダ……、いえ、ベルムさん?」

「ああ」

 あんまりにも、よりによってな人にぶつかってしまった。

「あ、えーと、お久しぶり、です……」

「あ、ああ。そう、だな」

「えーと、その、今日は、お仕事で、こちらに?」

「まあ、そんなところ、だな……」

「そう、ですか……」

 挨拶と世間話はしてみたものの……、気まずい。ものすごく、気まずい。
 いや、でも、僕にはもう何の関係もない人なんだから、変に緊張することもない、のか?

「えーと、新しい働き口は、もう見つかったのか?」

 ……うん。
 こんな無神経なことを聞く人に、気を遣う必要はないな。
 
「ええ。リーダーにクビにしていただいたおかげで、いいパーティーに巡り会えましたよ。これから、魔の森で初仕事です」

「……そうか」

「はい。同級生だったやつがリーダーのパーティーに、誘われましたから」

「お前と同期のやつが、リーダー?」

「はい、マルスってやつです」

「……マルス、だと?」

 不意に、ベルムさんの表情が険しくなった。何か、まずいことをいってしまったのかな……。

「おい、その話は本当なのか?」

「え、は、はい。本当、です」

「やつは、お前の固有スキルや戦い方について、知っているのか?」

「はい、まあ、同級生ですから。それで、僕の戦い方なら絶対に活躍できるからうちに来てくれって……」

「そうか……、なら、悪いことは言わない。依頼が始まる前に、そのパーティーは辞めろ」

 ……は?
 いきなり、何を言い出すんだ、この人。

「規程を破った以上、うちのパーティーに戻すことはできない。だが、あのパーティーだけは、ダメだ」

「ダメだって言われましても……、こちらにも生活がありますし……」
 
「当面の生活なら、この間渡した退職金で、どうにかなるだろ?」

「いや、ちょっと、事情があって、それは使えなくて……」

「なら、個人向けの依頼にしておけ。割の良い依頼が、いくつもあったはずだ」

 ……この僕に、雑用をしろと?
 そんなに、僕が他のパーティーで活躍するのが、気に入らないのか……。

「おい、フォル……」
「うるさいですね!」
 
 思わず、大声を出してしまった。周りの視線が一斉にこちらに向いたけど、もう知らない。

「一体、いまさら何様のつもりなんですか!?」

「いや、フォルテ、何様ということでは、なくてだな……」

「大体、そんなにマルスのパーティーに行って欲しくないなら、僕を理不尽にクビにしなければよかったじゃないでですか!?」

「……理不尽、だと?」

 ……またしても、ベルムさんの目付きと声が険しくなった。
 相変わらず、迫力がある……でも、ここで怯んでなんていられない。

「そ、そうですよ! 大体、『魔の森』の主を倒せたのは、僕がいたからじゃないですか! それなのに、難癖をつけてクビにするなんて、不条理以外になんて言えばいいんですか!?」

「……そうか、お前は、そう思っているのか」

 ベルムさんは、深いため息を吐いた。

「それなら、俺はもう失礼させてもらう。せいぜい、次のパーティーで、するといい。命がけでな」

「ええ、貴方なんかに言われなくても、もとからそのつもりですよ!」
 
 そう叫んでも、ベルムさんは少しも振り返らなかった。
 まったく、せっかく、心機一転だと思ったのに、台無しだよ……。
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