#ザマァミロ

鯨井イルカ

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5件目 調子に乗ったSNSアカウント

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 電車に揺られながら、SNSのトップページから、スカッとした体験談募集のコメントを外した。
 それでも――

「挨拶を返さないから、灯油とライターで火だるまにしてやりました!」

「満員電車で足を踏まれたから、転ばせて圧死させてやりました!」

「歩きタバコをしていたから、鎌でアキレス腱を切ってやりました!」

「喫煙所に入ってきてまでタバコに文句を言うから、全員で押さえつけて灰皿の中身を飲ませてやりました!」

「SNSで偉そうに上からものを言っていたから、住所を特定してみんなで火を点けてやりました!」

 ――こんなメッセージが、休む間もなく送られてくる。それも、画像つきで。
 送り主は、相変わらず「アザミ」と名乗っている誰かだ。しかも、毎回IDが違うから、全員別人。

 ……私が「#ザマァミロ」を始めたのは、みんなにスカッとした気分になってもらって、「いいね」をたくさんもらいたかったからなのに。こんな、残酷な話を集めたかったわけじゃないのに……。

 それなのに、またメッセージが大量に送られてくる。

 でも、もう読みたくない。
 きっと、また気持ちの悪い話と画像が、送られてきているから……。

「ねえ、『#ザマァミロ』って知ってる?」

「あ、うん。知ってる知ってる」

 不意に聞こえた声に顔を上げると、向かいの座席で女子高生らしき二人組がスマホを手にお喋りをしていた。

「最近、昔の話ばっかりで、新しい話でてきてないよね」

「そうそう、楽しみにしてたのに、ずっと更新がなくてつまんないからさ、体験談送ってみたんだ」

「え、本当!? いつ、いつ!?」

「うん、ついさっきだよ」

 ……ついさっき?
 じゃあ、この子が……、誰かを燃やしたか、圧死させたか、アキレス腱を切ったか、灰皿の中身を飲ませたか、放火をしたの? そんな……、普通の女の子にしか見えないのに……。

「ねえ、あの人さっきから、こっち見てるよ……」

「え? うそ……」

 まずい、気づかれちゃった……。私が、「#ザマァミロ」の発信主だとはバレてないと思うけど、あんまり刺激しないようにしないと……。


「……気持ち悪いから、どっかの駅で、階段から突き落とさない?」

「うん、そうだね……、つきまとわれたりしたら、やだし……」


 ……冗談を言っているんだと信じたいけど、この子たちなら本当にやりかねない。だって、あの気持ちの悪い話のどれかを送ってきた子なんだから。

 だから、はやく、逃げないと……。


「あ、あの人もう降りるみたいだよ……、どうする?」

「うーん、この駅で降りると、次に乗るときに絶対座れないよね……」

「そうだよね……じゃあ、今回はやめとこうか」

「うん、そうしよう」

 良かった、諦めてくれた……。


「でも、次に見つけたら絶対に突き落とそうね!」

「うん! そうしようね!」


 ……この時間帯のこの車両には、もう絶対に乗らないようにしよう。
 あーあ、この電車だと乗り換えもなくて楽だったのに……、でも、命の方が大事か……。最近は、週に二、三日しか出社しなくて良いんだから、少しくらいの不便は我慢しなきゃね。

 それから、なんとかトラブルにも巻き込まれず、無事に家に着いた。

 今日は残業なしで帰れたのに……、これといって、することが見つからないな。
 今までなら、SNSの更新をするところだったんだけど……、もう「#ザマァミロ」を更新する気になれない。

 でも、今までずっと続けてきたことだから、いきなり止めるのもなんかもったいないんだよね……。そうだ、ちょっとだけ、メッセージを覗いてみようかな。
 変な体験談が多かったのはタイミングが悪かっただけで、もう今まで通りの体験談が送られてきてるかもしれないし。

 うん、きっと、そうに決まってる。

 えーと、また新着メッセージがたくさんきてるな。内容は……。

「メッセージを送ってるのに、適当にあしらうアカウントがあるんで、住所を特定しました!」

「楽しみにしてるのに、勝手に更新をしなくなったアカウントがあるんで、居場所を特定しました!」

「メッセージを送っても、返事すらしないアカウントがあるんで、本名を特定しました!」

「人の体験談を使って、『いいね』を稼いでるあさましいアカウントがあるんで、顔写真を撮りました!」


 ……え?
 何、これ?

 なんで、ここの住所とか、外観の写真とか、私の本名とか、顔写真とかが送られてきてるの?


「過去記事の使い回しで『いいね』を稼いでるんで、罰として石を投げつけてやろうと思います!」

 これは、大きな石の画像つき……。

「読者の希望を無視してぬるい話ばかり発信してるんで、罰として頭をかち割りにいこうと思います!」

 これは、金属バットの画像つき……。

「人の体験談を自分の手柄のように発信してるんで、罰として指を削ぎ落としにいこうと思います!」
 
 こっちは、錆びた和剃刀の画像……。

「気取った書きぶりがムカつくんで、燃やしにいこうと思います!」

 こっちは、多分、火炎ビンの画像だ……。

 えーと、これ、悪ふざけだよね?
 いや、悪ふざけにしても、悪質すぎるけど……。

「だって、悪いのはそっちなんだから、これくらいの報いを受けて、当然だと思います!」
「だって、悪いのはそっちなんだから、これくらいの報いを受けて、当然だと思います!」
「だって、悪いのはそっちなんだから、これくらいの報いを受けて、当然だと思います!」
「だって、悪いのはそっちなんだから、これくらいの報いを受けて、当然だと思います!」

 えーと、警察に連絡……、いや、でも、SNSの嫌がらせなんてすぐに取り合ってくれるのかな?

   バンッ!
 
 わっ!?
 何、今の音!?
 玄関から聞こえたような……、怖いけど見にいかなきゃ……。
 ドアスコープなんて、初めて覗くな……、どうか誰もいませんように……。


「だって、悪いのはそっちなんだから、これくらいの報いを受けて、当然だと思います!」


 ……なんで、金属バットを構えたおじさんが、笑顔でドアの前に立ってるの? 

  ガシャンッ!
 
 うわぁっ!?
 今度は、窓が……。
 ひとまず、ドアはチェーンもかけてあるし、確認してこないと……。



「だって、悪いのはそっちなんだから、これくらいの報いを受けて、当然だと思います!」
「だって、悪いのはそっちなんだから、これくらいの報いを受けて、当然だと思います!」
「だって、悪いのはそっちなんだから、これくらいの報いを受けて、当然だと思います!」
「だって、悪いのはそっちなんだから、これくらいの報いを受けて、当然だと思います!」


 なんなの、あいつら?
 石とか、ビンとか、包丁とか持って、家の前の道路に並んで……。

  バンッ!
  バンッ!
  メキッ!
  バキッ!
  ドカッ!

 玄関から聞こえる音が、だんだん変わっていく……。

  ガシャンッ!
  ガシャンッ!
  ガシャンッ!
  ガシャンッ!

 窓ガラスが、どんどん割れていく……。
 助けて……。
 誰か……。
 助けて……。
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