#ザマァミロ

鯨井イルカ

文字の大きさ
上 下
2 / 6

2件目 パワハラ上司

しおりを挟む
 えーと……、「このアカウントでは、皆様から寄せられた、スカッとする話を発信していきます。スカッとする話をお持ちの方は、メッセージでご連絡ください。#ザマァミロ」、これでよしっと。

 最近はまた新しい体験談が来るようになったけど、どれもどこかで聞いたことがある話ばっかりなんだよね。なんかもうちょっと、新鮮味のある話がいいのに……。
 

  シュレッダーの刃って
  すごいんですね。
  まるで、油ねんどに
  へらが食い込むみたいに、
  指に食い込んで。


 ……アザミさんのことは、もう忘れよう。
 あれからメッセージも来てないし、深く関わりたくもないし……。

 でも、あれくらいインパクトのある話を載せたら、「いいね」をたくさんもらえたりするのかな……?
 いや、でも、あんな話を載せたら、絶対に炎上しちゃうだろうし……、あ、新しいメッセージだ。

 ひとまず、アザミさんのことは忘れて、このメッセージを読もうかな。
 えーと、なになに……
 
「はじめまして、アザミと申します。いつも楽しく拝見しています」

 え……、アザミ!?
 まさか、あのアザミさん……、あ、でもIDが違う。同じ名前の別人か。

「この間、職場であった体験談なのですが、お役に立てますでしょうか? 僕からの提供ということは、明示しても構いませんので」

 また職場の話か……。
 まあ、聞くだけは、聞いてみようかな。

「アザミさん。ご連絡ありがとうございます、よろしければぜひ、体験談をお聞かせください」

「ありがとうございます。僕は会社の上司に嫌われていて、いつも暴言を吐かれていたんです。役に立たない、だとか、仕事がろくにできない、だとか、今のままだとどこにいっても通用しない、だとか。それで、仕事も雑用ばかり押しつけられていたんです」

 ああ、このタイプはあれか。
 使えないだとか、お荷物だとか言われていたけど、本当はすごく有能な人で、転職したり他の部署に移ったりした途端に活躍する話だ。
 マンネリではあるけど、まだまだ需要がある話の系統だし、このまま教えてもらおうかな。

「そうだったんですか。それは、つらかったんですね」

「そうなんです! でも、そんな上司に、ようやく天罰が下ったんです!」

 適当に同意をしてみると、さっきよりも早くメッセージが返ってきた。
 天罰が下ったってことは、自分が抜けたことによって元いた会社とか部署がめちゃくちゃになる、系統の話かな。その系統の話もまだまだ需要があるから、新しい記事にちょうど良いや。

「あるときですね、上司が僕を資料室に呼び出して、ファイリングした資料の並べ方が悪いって、言いがかりをつけてきたんです。順番を間違えてたところが、ところどころあっただけなのに」

 あー、資料の並べ方は、けっこう大事だったりするからなぁ。

「それで、最初は聞き流していたんですが、段々こらえられなくなってきて……」

 まあ、その気持ちは分からなくもないけど、聞き流していい注意でもないような……。



「頭にきて、資料が入った棚を蹴りつけてやったんです」



 ……え?


「そしたら、運良く十五センチ幅のファイルが、上司の頭に落ちてくれて」


「しかも、角度が良かったらしくて、頭の半分くらいが凹んでくれたんです!」


「いやぁ、本当に面白いくらい凹んでましたよ! それで、上司は鼻と耳から、血とか半透明の液体とかをだらだら垂れ流して」


「しかも、うー、とか、あー、とかだらしなく呻きながら、ビクビク痙攣してたんです!」


「いつも威張り散らしてるやつの無様な格好が見られて、本当にスカッとしました!」


 スマホの画面に、またグロい内容のメッセージが、次々と表示される。

「そのときの画像があるんで送ります!」


 いらない、なんて言う間もなく、画面に写真が表示された。

 うつ伏せに倒れた、頭が凹んで耳と鼻から血を垂れ流した男性。
 頭の周りに広がる血溜まりには、ところどころにベージュ色の塊が混じっている。


「僕の体験談を発信するときは、ぜひ、使ってください!」
 
 
 目元は黒い線で塗りつぶされているけど、こんな写真載せられるわけない。
 
「どうです、僕の体験談、使えそうですか?」 

「そうですね、検討してみます」

「はい! ぜひ! 詳しく聞きたいことがあれば、いつでも連絡してくださいね!」

「そうですね、もし聞きたいことがあれば、そういたします」

 詳細なんて、聞くつもりもないけど、当たり障りのない返信をしておこう。
 たしかに私だって、苦手な上司に痛い目に遭って欲しいなんて思ったことは、ある。
 でも――

「ぜひそうしてください! 多分、探せばもっと写りの良い写真もあると思うんで、必要ならいつでも送りますから!」

 ――血と脳を垂れ流した写真を嬉しそうに勧めてくる人には、深く関わらない方が良いに決まってるから。


「それじゃあ、僕はこれで失礼いたします」

「はい、体験談ありがとうございました」

 このアザミさんも、メッセージの削除だけして、しばらく放っておこう。
 それにしてもこの前のアザミさんといい、事故に見せかけてグロい仕返しをしてる人って、けっこういるのかな……?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鯨井イルカ
ホラー
 主人公の見た悪夢を主軸として進む、オムニバス形式の短編ホラーです。  作中に若干の残酷な描写があります。

たまご

蒼河颯人
ホラー
──ひっそりと静かに眺め続けているものとは?── 雨の日も風の日も晴れの日も どんな日でも 眺め続けているモノがいる あなたのお家の中にもいるかもしれませんね 表紙画像はかんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html) で作成しました。

ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

leon
ホラー
元特殊作戦群の隊員が親友の娘「詩織」を連れてゾンビが蔓延する世界でどのように生き、どのように死んでいくかを語る

バベル病院の怪

中岡 始
ホラー
地方都市の市街地に、70年前に建設された円柱形の奇妙な廃病院がある。かつては最先端のモダンなデザインとして話題になったが、今では心霊スポットとして知られ、地元の若者が肝試しに訪れる場所となっていた。 大学生の 森川悠斗 は都市伝説をテーマにした卒業研究のため、この病院の調査を始める。そして、彼はX(旧Twitter)アカウント @babel_report を開設し、廃病院での探索をリアルタイムで投稿しながらフォロワーと情報を共有していった。 最初は何の変哲もない探索だったが、次第に不審な現象が彼の投稿に現れ始める。「背景に知らない人が写っている」「投稿の時間が巻き戻っている」「彼が知らないはずの情報を、誰かが先に投稿している」。フォロワーたちは不安を募らせるが、悠斗本人は気づかない。 そして、ある日を境に @babel_report の投稿が途絶える。 その後、彼のフォロワーの元に、不気味なメッセージが届き始める—— 「次は、君の番だよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイコさんの噂

長谷川
ホラー
 最近ネットで大流行している都市伝説『サイコさん』。田舎町の高校に通う宙夜(ひろや)の周囲でもその噂は拡散しつつあった。LIME、Tmitter、5ちゃんねる……あらゆる場所に出没し、質問者のいかなる問いにも答えてくれる『サイコさん』。ところが『サイコさん』の儀式を実践した人々の周囲では、次第に奇怪な出来事が起こるようになっていた。そしてその恐怖はじわじわと宙夜の日常を侵食し始める……。  アルファポリス様主催第9回ホラー小説大賞受賞作。  ※4話以降はレンタル配信です。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

心霊都市の大学生

はるさめ☀️
ホラー
心霊現象が多発し、人々が恐れを抱く都市――うらめ市。 不吉な噂だらけのこの街にある大学に、受験に失敗した脳筋・銀崎誠二は晴れて入学することに。 銀崎は仲間たちと共にホラーなキャンパスライフを満喫する。

処理中です...