ようこそ残飯食堂へ

ようこそ残飯食堂へ

六 死

 「な、なな……ひぐっ」
声にならない。目の前の状況に、全身の筋肉がひっくり返りそうだった。金城は血を頭から大量に噴き出して、床に突っ伏して動かなくなった。死んだ。人が、目の前で本当に死んだ。
「うわぁあ！！ああぁっ！！」
椅子から転げ落ち、俺はその場から逃げようと後ずさった。
「お客様、ご注文はいかがなさいます？」
「おっお前！人死んでんだぞっ？頭おかしいんじゃねえのか？」
「……ここは、食堂ですので。私はお客様に美味しい料理をお出しすることがお仕事です」
「はぁっ？」
俺は助けを求めようと、ズボンの中をまさぐってスマホを出した。しかし、通話ボタンを押しても一向に何にも繋がらない。ここは圏外だった。
「クソっ！」
スマホを床に投げつけ、俺は店の扉がある暗闇の方へ駆けていく。ここから早く出たい。逃げたい。誰か助けてくれ。
  真っ暗闇の向こうに伸ばした手は、壁にぶつかる。扉があった。汗ばんだ手でドアノブを掴む。汗で滑ってなかなか掴めない。力を込めてドアノブをガチャガチャと回す。扉はセメントで固められたかのように開く気配はない。俺は扉の向こう側の人に助けを求めようとゴンゴン拳で叩いた。数十分と同じことを繰り返したあと、全てが無駄だと悟り、俺はその場にずるずると座り込んだ。

 ぐきゅるるる。腹が減った。いらつきや疲労感が体中を這いずり回る。頭を抱え込んで丸くなり、この現実から逃げようとした。
 
  結局のところ、現実逃避は空腹の本能には勝てなかった。俺は恐る恐る、あの席に戻った。すると、金城の死体はなくなっていた。もう何が何だか分からない。空腹のあまり、涙ぐみそうな自分もいた。鼻の奥がツンと痛む。
「進藤様、ご注文はお決まりでしょうか？」
メイドは問いかける。「水を……水をください」俺は言った。
 メイドは深くお辞儀をして、丁寧な給仕を施してくれた。まるでさっきの出来事がなかったかのように。