醜さが美しい

港にて

八月　向日葵畑で佇む後ろ姿のあなたは
白いワンピースで　そよ風の形を辿っていた
甘栗色の髪は光り　振り向く笑顔が眩しくて
僕はつい　その場から逃げてしまった

遠くへ遠くへ逃げていった
北か南かもわからない　どこか辺境の地を目指し


港にて
にこりと泥の船の前に立つ　一人の爺がいた
皺だらけの左手をそろそろと動かして
手招きをする
僕はとうとう逃げ切れてほっとした

失われた八月は　二度とやってこない
幸福な夢は悪夢に変わり
生ぬるい夜風は　僕を犯して過ぎ去るのだ

愛してました
その台詞はこわごわと　蝉の鳴き声に食われて消える
船の上　霧の中を潜り　見知らぬ郷へ手を伸ばす
そしてまた季節から逃げる季節が始まる