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五話 追放⑤

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「わ、悪い……」
「なんだガキ? 邪魔すんな」

 俺とグリンの間に割って入った一人の少女。フードを目深に被り顔も見えない。

「邪魔してんのはそっち」
「はあ!?」

 怒るグリンを無視してスタスタ受付の方へ進んでいく少女。

「な、待てよ!」

 無視されたグリンが少女で手を伸ばす。その手は少女のフードを掴み、そして、その素顔をさらけ出させた。

 耳だ。耳がある。銀色の耳が。ピンッとした三角の猫の耳が。

「な、獣人か!?」

 銀色の髪にその頭の頂点に二つのピンッとした三角の耳。短めのボブのヘアスタイルに翡翠の大きな瞳。十五、六の幼き少女。

「じゅ、獣人……」
「うわっ、初めて見た……」

 少女のフードが取られてギルド内がざわつき始める。それもそうか。今となっては獣人はほとんど見かけることがなくなった。

 獣人。人と獣ハーフ。元々数は少なく珍しい存在ではあったが、十五年前の魔族大侵攻の際に誰が流したのか獣人がこの元凶だというデマにより人間に虐殺され更にその数を減らした。今ではもう絶滅したと言われる程に。

「獣人がこんなところに何の用だ? また何か起こす気か?」

 当時のデマは今でも根強く残っている。獣人は不幸の象徴、悪しき存在。全て悪い意味で人々の頭の中に。

「……傭兵登録に来た。それだけ」
「傭兵!? 獣人が!? ハハッ!」

 傭兵とは冒険者に雇われ共にダンジョンに潜る存在。ダンジョンに潜るにはパーティーを組むことが必須である。しかし、そのパーティーが何らかの事情で組めない者であったり、人数制限があるダンジョンに足りない場合などに傭兵を雇いダンジョンに潜る。

「おもしれー。なら、俺が雇ってやるよ獣人」

 グリンは上から目線で獣人の少女へ。しかし、少女は

「……えー。私弱いのと組むのは嫌だー」 

 めんどくさそうに断った。

「ああっ!?」
「だって、あなた達私より弱い。弱いのと組むと私が楽できない。疲れる。めんどくさい。……それより、あなた」

 翡翠の瞳と目が合う。少女は俺へと向いて

「私を雇わにゃ……ない?」

 そう告げてきた。

「ああっ!? おっさんをだと!?」
「この人、あなた達より強い。雇われるならこっちがいい。楽」
「……はっ! 残念だったな! そのおっさんはもう冒険者辞めんだよ!」

 まだ誰も辞めるなんて言ってない。それどころかパーティーを追放されることすら理解できていない。突然のことが多すぎる。
 
「え? 辞める? そうなんだ。じゃあ、しょうがない。まあ、初めに声かけてくれたしあなた達に雇われてあげるよ」

 少女はあっさり諦める。この少女からすれば雇い主など誰でもいいのだろう。自分が楽出来るか疲れるかの違いぐらいで。

「はあ? こいつ何様のつもり!?」
「それな! こっちから願い下げだっての!」

 取り巻き二人は激しく激高する。だが、

「……いいぜ。雇ってやるよ」

 グリンは違った。

「はあ!? グリン何考えてんの!?」
「それな!! イミフ過ぎっ!」
「一人減ったんだから補充する必要があるだろ? 丁度いいだろ」
「丁度いいっ!? こんなやつ嫌なんですけどー!?」
「それな!」
「いいって。……俺に考えがある」

 揉める二人に何やらボソッとグリンが呟く。何を言ったのかまでは分からないがニヤッと嫌な笑みをしていたのは分かった。

「じゃ、これからよろしく頼む。キングス・クラウンへようこそ猫娘」
「キングス・クラウン?」
「俺達のパーティーの名前だ」
「……これがじじいが言ってたキングス・クラウン……?」

 ボソッと少女が呟く。この子はキングス・クラウンを知っている?

「あん? じじい?」
「メルデスのじじい。わしに何かあったらキングス・クラウンの……誰かに頼れと言ってた」
「メルデス……!?」

 少女の口から発せられた一人の男の名前。その男の名を俺はよく知っていた。彼は

「メッ………」
「おーよく分かってるじじいだな。早速だが、ダンジョンに行くぞ。付いて来い」

 俺が少女へ声をかけるのを防ぐかのように強引にグリンが割り込む。そして、少女を連れ扉へ。

「えーまた行くのー?」
「それな。めんでー」
「うっせ。さっさとこいお前ら。それにお前もだ猫娘。雇い主に逆らうか?」
「……しかたにゃ……ない」

 グリン達は扉を出て行く。残された俺など気にもかけぬ様子で
。三人が出て行き、獣人の少女も付いていく。扉を出る直前チラッと俺と目が合った。
 迷い無き澄んだ瞳と目が合った時、俺はぶん殴られた気がした。
 
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