上 下
7 / 100

七話 成功の影に ②

しおりを挟む
「昨日はよく休めたか?」
  
 次の日。私とシオンさんは約束通り冒険者ギルドで会っていた。

「はい! バッチリです!」

 昨日は気絶することもなく早くから休めたお陰で体も元気。筋肉痛はしっかりあるけど、この一週間でもう慣れた。むしろ、筋肉痛があるのが普通で少ない今は普通じゃないぐらい。

「そうか。じゃあ、気をつけてな。いってらっしゃい」
「……え?」

 え? いってらっしゃい? いってらっしゃいってシオンさんは?

「俺冒険者登録してねえしクエストに同行することは出来ねえからな。だから、いってらっしゃい」
「ええ!?」

 シオンさん冒険者登録してないの!? てっきりシオンさんと一緒にクエストに行くんだと思ってたのに。

「ほら、さっさと行ってこい。ゴブリン討伐だっけ? 気をつけてな」

 ひらひらと手を振って送り出すシオンさん。シオンさんと一緒だと思ってたのに。まあ、そんなこと考えてもしょうがないよね。シオンさん全く動く様子ないし。

「いってきます!」

 シオンさんに送り出され、私は一人でクエストへと向かった。





「ゴブリンがよくいるのは森か草原で群れで行動する」

 ギルドから出て、近くの草原へとやって来た。爽やかな風が吹き、さんさんと太陽が照らす良い天気で気持ちがいい。

「ゴブリンの群れと遭遇した場合、無理をせず退却することを推奨する。退却が出来ない場合は、個別に対処するべし。ふむふむ」

 草原を歩きながら、私は図鑑のゴブリンのページを読んでいた。ゴブリンは人間の子供ぐらいの小さな体で知能の低い低級魔物。知能も低く、力も弱い。ただし、群れには注意。

「これぐらいなら余裕で倒せそう。だって冒険者が初めに受けるクエストが薬草採取かこのゴブリン討伐な訳だし」

 新米冒険者が初めに受けれるクエストはこの二つ。私は薬草採取をやって、その時にシオンさんと出会った訳だけど。あれから一週間とはいえ、あれだけ鍛えたんだもん。ゴブリンぐらい余裕のはず。

「草原にはいないなぁ。じゃあ、森の方かな」

 あたりをキョロキョロ見回すけどそれらしい姿は見つからない。なら、あの前に見える森の中にいるんだろう。そう思い、森の方へと足をすすめる。

「森、ん? ……あっ! スライム!」

 森の方へと足をすすめている途中、同じく森の方へと進む青っぽい物体を見つけた。スライムだ。

「スライム。ううっ。嫌な思い出が」

 スライムと初めて出会ったことを思い出す。危うく食べられそうになり逃げだしたあのことを。

「いや、あの頃の私とは違う。私は強くなった。出来る! ……それにこっちに気づいてないみたいだし」

 自分を奮い立たせ剣を抜く。幸い、スライムは私の前で森の方へと進み、後ろにいる私の事には気づいてないみたい。チャンス!

「スライムは核を潰す。核、あっ。あれか」

 以前は見つけられなかったスライムの核。今回はすんなりと見つけられた。青い山状の体の頂点あたりにあった小さな丸い物体。あれが多分核だろう。

「よし。いける。やああああ!」

 構えた剣を勢いよく核へと振り下ろす。振り下ろした剣は核を簡単に真っ二つにした。

「……や、やった! スライムを倒した!」

 核を潰されたスライムの山状だった体はその形を崩し、地面に水たまりのようになっていた。

「よーし。この調子でゴブリンも!」

 壊れたスライムの核を剣で取り出し腰に着けていた袋へと入れる。ギルドで討伐した証として渡すために。証拠がないと討伐したことも認められず、お金ももらえない。核を入れ、袋の口をぎゅっと閉め、再び森へと歩き進める。



 その後も森へ向け歩き、ついに森の入り口へと到着した。

「この森の中にゴブリンが……」

 晴天の空の下、森の中は爽やかな空気で満たされ清涼なものだった。森へ柔らかな太陽の陽が注ぎ、木々は陽に照らされ輝き、地面に影を作る。風は吹き抜け、草木が揺れる。明るく、清涼な森。

 しかし、私にはそうは感じれなかった。

 森の入り口で足が止まる。目の前には清涼なはずの森。だけど、一歩が踏み出せない。緊張。不安。恐怖。様々な思いが私の足を重くする。

 見渡す限り何もなく不安などなかった草原から、障害物ばかりでどこに敵が潜んでいるか分からない森へと変わる。清涼な森なのに私には禍々しいもののよう見える。前の森とは違う。誰の手も加わらず、自然そのものの森。危険が潜むことが当たり前の森。そのことで私は一歩を踏み出せずにいた。

「………………ダメ」

 私は呟く。否定の言葉を。私を否定する言葉を。

「決めたんだから」

 呟きは森の中へと吸い込まれて消えた。弱き私の意志とともに。

「私は強くなる! こんなところで止まっていられない! 進み続けるのみ!」

 弱き意志と決別し私は森の中へと一歩踏み出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...