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第1部

第8話

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『奏多さん、次のコスイベどうしますか?』
あのコスイベからかなり期間が空いており、琉斗から電話がかかってきた。
本当は奏多も参加したかったが…少し考えてから返した。
「ごめん、暫く忙しくて参加出来そうにないんだ」
『え、あ、そうですか…』
「うん。ごめんね、それじゃあ」
電話を切ると奏多は深くため息をついた。
あの女の子達の話は、誰にも言えなかった。
自分達がそういう気持ちが無くても他人から見えたら意味がないと思うとコスプレが出来なくなっていた。

誰かを不快にさせるならコスプレをしちゃダメだと…。

スマホをしまうと、奏多は自分の仕事場に戻り仕事に集中しだした。
何もかも忘れる様に…。
そのおかげもあってか、定時で帰れることになり会社から出てまだ明るい空を見上げながら悩み出した。
このまま真っ直ぐ帰るのはもったいない…と思い、奏多は電車に乗ると前にマルスの広告があった駅で降りた。
色んなお店もある為、せっかくだから家族にお土産を持って帰ろうと思い色々回った。
(愛佳が好きなのは、タルトだし、母さんはケーキで、父さんはプリンが好きなんだよな…あ…)
店を回っていると、マルスのカラーであるライトグリーンのケーキがありじーっとショーケースを見てしまった。
すると店員さんが気づき奏多に声をかけてきた。
「いかがですか?季節限定のマスカットケーキなんですよ!」
「え、あ、すみません、見ていただけで…」
「あら、そうですか…あ、いらっしゃいませー」
店員さんは他のお客様の方に行ってしまったが、奏多はじっとそのケーキを見てしまった。
あのコスイベの時から狂恋自体からも離れていてログインやデイリーなどの最低限のことしかしていなかった。だがケーキから目を離せず奏多はそのマスカットケーキと家族の好きそうなのを選んでいき買ったのであった。
商品を受け取り早く帰ろうと歩いていると奏多の目にある物が入り、ピタリと止まった。

それはマルスの新イベントの広告だった…。

前回のイベントとは打って変わり、執事服を思わせる衣装で肌色が少なくメガネもかけていて奏多は頭の中で叫んでいた。
(これはやばい!めちゃくちゃマルスかっこいい!撮らなきゃ!!)
すぐにスマホを用意して撮影を開始した。何枚も連写をして撮ると満足そうに笑って、その場を去ろうとした。
(このマルスかっこいいな…これを琉斗さんがコスプレしたら……)
そこでピタリと止まってしまった。
奏多の頭の中で、新衣装のマルスのコスプレをした琉斗が出てきたからだ。
執事らしい立ち振る舞いをしている琉斗が微笑んで、口を開き出てきた名前は…

主人公でもレオンでもない『奏多さん』だった。

その瞬間、ポロリと涙が流れてしまい奏多は人の邪魔にならない様に端に寄ってポロポロ流れる涙をハンカチで拭った。
周りから視線が来て気まずかったが、何とか落ち着かせようとしていると「奏多さん?」と聞いた事がある可愛らしい声がして、顔を上げた。
そこにいたのはロリータ衣装に身を包んだゆいだった。
一瞬誰だか分からなかった奏多だったが、すぐにゆいだと気づくと涙を拭って声を掛けた。
「ゆいさん、お、お疲れ様です…可愛らしいですね…」
「えへへ、そうでしょう?僕、こういう衣装大好きで…じゃなくてどうしたんですか!?」
その場で一回転してウィンクをしてから語り出したゆいだったが、すぐに我に帰ると奏多の腕を掴んで不安そうに見つめてきた。
すぐに奏多は「大丈夫だよ」と伝えたが、ゆいはジーッと見つめてきていて疑っていた。
圧に押されそうになったが「本当に大丈夫だよ」と伝えると、漸く離してくれた。
「でも泣いていたのは見逃せませんよ、コスイベだって来なくなっちゃったじゃないですか」
「うっ…それは……」
痛いところを突かれてどうやって答えようと悩んでいると、ゆいが先に口を開いた。
「それに琉斗が悲しんでいましたよ?」
「え…?」
まさかの言葉に自分の鼓動がドキッと早くなったのに奏多は気づいた。
琉斗が悲しんでいると知り、どうして…と考えていると、周りの不思議そうな視線に気づき、ゆいが手を掴んできてその場から離れた。
歩きながら奏多は恐る恐る問いかけた。
「あ、あの…琉斗さんが、悲しんでいたって…」
「ああ、そのままの意味ですよ、奏多さんとコスプレ出来なくて寂しがっていました…」
「そ、そっか…」
相手にバレない様に少し嬉しそうに笑みを浮かべると、人が少ないところでゆいがピタリと止まって振り返り真剣な表情で問いかけてきた。
「もう、コスプレしないんですか?」
「今、忙しいし…レオンだって他に素敵な人がいるから…」
「………なるほど…」
真剣な表情で何かを考えだしたゆい。奏多はじっと見つめていると勢いよく手を掴まれてしまった。
びっくりしながら相手を見ていると、ゆいがニッコリ笑って言ってきた。

「ちょっと、私に付き合ってくれますか?」
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