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「あはっ、お姉ちゃんの婚約者……私が寝取っちゃった!
悔しい? ねぇ悔しい? 悔しいよね。毎日、屋敷に訪ねてくる一途な人だったもん……。
でもね、ちょっと誘惑したら私の物になっちゃった。ほんと男って馬鹿だよね。胸を揉ませてあげたらすーぐその気になって、腰打ち付けてくるんだもん。
でも気持ちよかったなぁ。大きさも硬さも今までの男とは全然違うかったし……考えただけで濡れてきちゃう。
今日も会うことになってて、どんな下着履いて行こうかなぁ。お姉ちゃんも一緒に選んでくれない?」
と、いきなりワケのわからないことを言い出してきたのは、妹のマーハ。
私はしばらくの間、「はてな」と小首を傾げて一体なにを言っているんだろうと考える。
だけど、答えという答えは出てこない。出てくるはずもない。
だって――婚約者いないし、私に。
でも、嘘を言ってからかってるようには見えないし、マーハからしたら私の婚約者を寝取ったことになってる。
ということは、マーハがまったく私と関係ない男を婚約者だと思っているパターンか。それとも、私の知らない音が婚約者を名乗っているパターンか。
そのどちらかだろう。
とは言え、私に被害があるわけでもないから、マーハの好きなようにさせてあげた方がいいかな。
すでに肉体関係はあるし、思い出すだけで発情してしまうみたいだし。
「いいよ。一緒に選ぼうか下着」
「ぷぷぷ、強がりは見っともないからやめてよ! 悔しかったら悔しがってもいいんだよ? ほら、私のこの大きな胸貸してあげる。気持ちいいよ、モチモチで。
あっ、ごめ~ん。顔面ブサイクでチビでまな板のお姉ちゃんにこんなこと言ってもわからないか」
「……私のことはどうでもよくて、どうするの? 下着選ばないの?」
「はぁ? 何本気にしちゃってるの? 未だにダサい子どもパンツ履いてるお姉ちゃんに、大人の下着を選べるわけないし、そもそも私に似合わない物なんてないから」
……確かに。私は身長が140センチぐらいしかない上に胸にもまったく栄養が行ってない。
だから、マーハが持ってるようなスケスケの下着なんて持ってないから助言のしようもない。
それにしても凄いなぁマーハは。ナルシストにも程があるでしょ。似合わない下着は無い……か。
なら今度、ヒョウ柄のパンツでもプレゼントしてあげようかな。絶対に似合わないだろうけど。
「それなら、私行くね」
「行くってどこに」
「今日、論文発表があるって言ったでしょ」
「……そうだったけ。まぁなんでもいいや。私はシャワー浴びてくる」
そう言って、マーハは浴場に歩を進めるのだった。
……さて、私は学園に行こうかな。
「ねぇ! 一体どういうこと!? さっき一緒にいたイケメンは誰!」
学園で論文発表があった日から数日が経過したある日、マーハからそんなことを言われた。
確かに私はさっきまで、論文発表を終えた後に知り合った男性と街を歩いていたけど。
「どうしてマーハがそんなことを気にするの?」
「それで、誰!」
「……第二王子のアレス様よ」
「はぁ!? 何で!?」
「何でって私の発表した論文が気に入ったみたいで……ただそれだけよ。一緒にいたのは論文について話がしたいって言われたから。私と彼が男女の関係だからではないわ」
「そんなことわかってるわよ!」
……失礼ね。もしかしたら、私にも浮ついた話の一つや二つあってもおかしくないでしょ?
まぁないけど。
「それじゃあ何?」
私はそう淡々と問いかけた。
「私にアレス様を紹介して!」
「え? 何で? マーハには私から寝取った婚約者? がいるでしょ?」
「そんな奴もう捨てるわ! それより紹介してくれるの、どうなの!?」
そのときだった。屋敷のチャイムが鳴り、男の人の声が聞こえてきたのは。
「マーハちゃん。屋敷に忘れ物してたから届けに来たよ」
へぇ、いい人っぽい。忘れ物を届けに来てくれるなんて、マーハにはもったいない。
私は一目見たくて玄関を開けてみる。そこに立っていたのは――ぽっちゃりした男性だった。
「こんにちは、マーハの姉のユリです。ごめんなさいね、妹が忘れ物をしたばかりに」
「いえ、気にしないでください。これ、マーハちゃんの忘れ物です」
「本人に渡しておくわね」
そう言いながら、マーハの忘れ物を受け取った私だったのだが、その後ろで――
「一体、どういうこと? 何で、そんな他人みたいな……」
と、マーハが青ざめた表情で立ち尽くしていた。
「お姉ちゃんとゴードンは婚約していたんじゃないの……?」
「私とゴードンくん? はこれが初対面よ」
「じゃ、じゃあ……私は何のためにこんなデブと……」
「マーハ。私の容姿をイジるのはいいけど、ほかの人の容姿を悪く言うのはダメだっていつも言ってるでしょ」
「お姉さん、俺は大丈夫ですから。それに、もう俺たち夫婦ですから。これぐらい、軽く流してみせますよ」
……はにゃ? 夫婦? どういうこと?
「な、何適当なこと言ってるの!」
「マーハちゃん落ち着いて……。赤ちゃんができたら結婚しようって言ってたじゃないか」
「そんなの知らないわよ! 何で勝手に婚姻届出してるのよ!」
「じゃあ、お腹の中にいる赤ちゃんはどうするんだ! 俺は中絶するだなんて許さないぞ!」
あーあー、こりゃ完全に修羅場だ。
お姉ちゃんもう知らない。
私はこっそりこの場からフェードアウトすることにした。
後は、二人で仲良く夫婦喧嘩してもらうとしようかな。
……にしても、赤ちゃんかぁ。
このまま離婚したら、マーハ――バツイチ子持ちの16歳……か。
……詰みましたね、これ。
他人の婚約者を寝取ろうとするからこんなことになるんだよ。マーハにはこれからこのことを教訓にして、頑張ってもらいたいところです。
~完~
悔しい? ねぇ悔しい? 悔しいよね。毎日、屋敷に訪ねてくる一途な人だったもん……。
でもね、ちょっと誘惑したら私の物になっちゃった。ほんと男って馬鹿だよね。胸を揉ませてあげたらすーぐその気になって、腰打ち付けてくるんだもん。
でも気持ちよかったなぁ。大きさも硬さも今までの男とは全然違うかったし……考えただけで濡れてきちゃう。
今日も会うことになってて、どんな下着履いて行こうかなぁ。お姉ちゃんも一緒に選んでくれない?」
と、いきなりワケのわからないことを言い出してきたのは、妹のマーハ。
私はしばらくの間、「はてな」と小首を傾げて一体なにを言っているんだろうと考える。
だけど、答えという答えは出てこない。出てくるはずもない。
だって――婚約者いないし、私に。
でも、嘘を言ってからかってるようには見えないし、マーハからしたら私の婚約者を寝取ったことになってる。
ということは、マーハがまったく私と関係ない男を婚約者だと思っているパターンか。それとも、私の知らない音が婚約者を名乗っているパターンか。
そのどちらかだろう。
とは言え、私に被害があるわけでもないから、マーハの好きなようにさせてあげた方がいいかな。
すでに肉体関係はあるし、思い出すだけで発情してしまうみたいだし。
「いいよ。一緒に選ぼうか下着」
「ぷぷぷ、強がりは見っともないからやめてよ! 悔しかったら悔しがってもいいんだよ? ほら、私のこの大きな胸貸してあげる。気持ちいいよ、モチモチで。
あっ、ごめ~ん。顔面ブサイクでチビでまな板のお姉ちゃんにこんなこと言ってもわからないか」
「……私のことはどうでもよくて、どうするの? 下着選ばないの?」
「はぁ? 何本気にしちゃってるの? 未だにダサい子どもパンツ履いてるお姉ちゃんに、大人の下着を選べるわけないし、そもそも私に似合わない物なんてないから」
……確かに。私は身長が140センチぐらいしかない上に胸にもまったく栄養が行ってない。
だから、マーハが持ってるようなスケスケの下着なんて持ってないから助言のしようもない。
それにしても凄いなぁマーハは。ナルシストにも程があるでしょ。似合わない下着は無い……か。
なら今度、ヒョウ柄のパンツでもプレゼントしてあげようかな。絶対に似合わないだろうけど。
「それなら、私行くね」
「行くってどこに」
「今日、論文発表があるって言ったでしょ」
「……そうだったけ。まぁなんでもいいや。私はシャワー浴びてくる」
そう言って、マーハは浴場に歩を進めるのだった。
……さて、私は学園に行こうかな。
「ねぇ! 一体どういうこと!? さっき一緒にいたイケメンは誰!」
学園で論文発表があった日から数日が経過したある日、マーハからそんなことを言われた。
確かに私はさっきまで、論文発表を終えた後に知り合った男性と街を歩いていたけど。
「どうしてマーハがそんなことを気にするの?」
「それで、誰!」
「……第二王子のアレス様よ」
「はぁ!? 何で!?」
「何でって私の発表した論文が気に入ったみたいで……ただそれだけよ。一緒にいたのは論文について話がしたいって言われたから。私と彼が男女の関係だからではないわ」
「そんなことわかってるわよ!」
……失礼ね。もしかしたら、私にも浮ついた話の一つや二つあってもおかしくないでしょ?
まぁないけど。
「それじゃあ何?」
私はそう淡々と問いかけた。
「私にアレス様を紹介して!」
「え? 何で? マーハには私から寝取った婚約者? がいるでしょ?」
「そんな奴もう捨てるわ! それより紹介してくれるの、どうなの!?」
そのときだった。屋敷のチャイムが鳴り、男の人の声が聞こえてきたのは。
「マーハちゃん。屋敷に忘れ物してたから届けに来たよ」
へぇ、いい人っぽい。忘れ物を届けに来てくれるなんて、マーハにはもったいない。
私は一目見たくて玄関を開けてみる。そこに立っていたのは――ぽっちゃりした男性だった。
「こんにちは、マーハの姉のユリです。ごめんなさいね、妹が忘れ物をしたばかりに」
「いえ、気にしないでください。これ、マーハちゃんの忘れ物です」
「本人に渡しておくわね」
そう言いながら、マーハの忘れ物を受け取った私だったのだが、その後ろで――
「一体、どういうこと? 何で、そんな他人みたいな……」
と、マーハが青ざめた表情で立ち尽くしていた。
「お姉ちゃんとゴードンは婚約していたんじゃないの……?」
「私とゴードンくん? はこれが初対面よ」
「じゃ、じゃあ……私は何のためにこんなデブと……」
「マーハ。私の容姿をイジるのはいいけど、ほかの人の容姿を悪く言うのはダメだっていつも言ってるでしょ」
「お姉さん、俺は大丈夫ですから。それに、もう俺たち夫婦ですから。これぐらい、軽く流してみせますよ」
……はにゃ? 夫婦? どういうこと?
「な、何適当なこと言ってるの!」
「マーハちゃん落ち着いて……。赤ちゃんができたら結婚しようって言ってたじゃないか」
「そんなの知らないわよ! 何で勝手に婚姻届出してるのよ!」
「じゃあ、お腹の中にいる赤ちゃんはどうするんだ! 俺は中絶するだなんて許さないぞ!」
あーあー、こりゃ完全に修羅場だ。
お姉ちゃんもう知らない。
私はこっそりこの場からフェードアウトすることにした。
後は、二人で仲良く夫婦喧嘩してもらうとしようかな。
……にしても、赤ちゃんかぁ。
このまま離婚したら、マーハ――バツイチ子持ちの16歳……か。
……詰みましたね、これ。
他人の婚約者を寝取ろうとするからこんなことになるんだよ。マーハにはこれからこのことを教訓にして、頑張ってもらいたいところです。
~完~
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