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「――今日、お前を俺の屋敷に呼んだのはほかでもない。お前には俺のために死んでもらう」
そう言ったのは私の婚約者、ロイド伯爵。そして、私は『しがない』聖女。
そんな私たちの間に、愛と呼ぶべきものはない。
だからこそ、ロイド伯爵は私に死ねと言ったのだ。
「それは、どうしてでしょう?」
「前々から考えていた。俺はこのままお前と結婚してもいいのかと……。そして、俺は決心したのだ。やはりお前ではダメだと。俺はリーフィアと結婚するべきだ……と」
「しかし、リーフィア様は可愛らしいお嬢様だと聞きます。噂では、毎日のように告白を受けているとか……」
「ああ。お陰で俺は未だに名前を覚えてもらった程度。だから、俺は考えたのだ。今からお前にもそれを教えてやる」
やれやれ、この人は何を言っているのか。
私の記憶では、ロイド伯爵がリーフィア様を好きになってから、もう半年が経っているはず。
それなのに、まだ名前だけとなると、脈が薄いどころか、無いでしょう。
そもそも、リーフィア様にとって、ロイド伯爵は告白してくる中の1人……ぐらいの認識だと思う。
……私も平民上がりですが、それなりに整っているのですが、何が不満なのでしょう。
「いいか? ただ、婚約破棄ではダメだ。自分のためにそこまでしてくれるなんて……と思ってもらえるだけ。だから、愛する者を失った可哀想な俺を演出する必要がある。リーフィアは平民にも優しいと聞くからな。これで、気を引けるはずだ」
……なるほど? 頭がおかしいようです。
自分のいいように考えすぎで、気持ち悪い。
リーフィア様も可哀想に。こんなキモい男に優しくしてもらえるという妄想を抱かれるなんて……。
私だったら嫌ですね。死んでも嫌です。
「仕方ないですね、分かりました。でも、本当にいいのですか? 私は聖女。この国を守っています。私が死んだとなれば、抑え込んでいた魔物たちが一斉に――」
「――問題ない。お前がいなくてもこの国は平和だ。そもそも私はお前を聖女だと思ったことはない」
「そうですか。……それでは、さようなら」
こうして私は命を絶った。
ロイド伯爵が用意していたナイフを使って……。
はぁ。私はまた死ぬのですね。これで、何回目でしょう。死因が自殺になるとは思いませんでしたが……。
でも、私は『死がない』聖女。私が満足するまで、魂が死ぬことはない。何度でも生まれ変わり、本当の愛を見つけるために――。
~ロイド伯爵視点~
「――ふざけないで!」
あの聖女が言った通り、魔物が国を襲った。もう街の中にまで侵入している。
俺はリーフィアを助けようと、彼女の屋敷に訪れたのだが――俺は頬を叩かれていた。
「あの子は私のたった1人の友達だったのに……。どうすれば、あなたに好きになってもらえるのか、真剣に悩んでいたのに……。それなのに、あなたがあの子を殺した!」
「違う! 俺は殺していない! 本当だ、信じてほしい!」
「嘘っ! あの子はいつまでも私の友達でいてくれると言っていた。だから、自分から死ぬことはありえない!」
「どうして、信じてくれない」
「あなたがあの子の名前を呼ばないからよ!」
そう言われて、初めて気づいた。
俺は一度も名前を呼んだことがない。それどころか、名前すら知らないことに。
あいつの趣味も、好きな食べ物も、何も知らない。知ろうとしていなかったのか、俺は……。
でも、そんなことは関係がない。
俺が好きなのは、リーフィアだ。
「あの子……ううん、アイシャのいない世界なんて、滅べばいい。だから、もうすぐあなたの元へ行くわ」
「ま、待て! そっちは危ない! リーフィア! お前だけは愛してみせるから!」
「その言葉、アイシャに言って欲しかった……」
それが、リーフィアの最期の言葉だった。
侵入していた魔物に群がられ、無残にも殺されてしまったのだ。俺の目の前で……。
……どうしてこうなった。
俺はただ、リーフィアに好きになってもらいたかっただけなのに……。
「お前のせいだ。お前が俺の婚約者になったから! 許せない……。許せない、許せない許せない許せない。アイシャアアアァァァァァアア――――あ?」
【完】
そう言ったのは私の婚約者、ロイド伯爵。そして、私は『しがない』聖女。
そんな私たちの間に、愛と呼ぶべきものはない。
だからこそ、ロイド伯爵は私に死ねと言ったのだ。
「それは、どうしてでしょう?」
「前々から考えていた。俺はこのままお前と結婚してもいいのかと……。そして、俺は決心したのだ。やはりお前ではダメだと。俺はリーフィアと結婚するべきだ……と」
「しかし、リーフィア様は可愛らしいお嬢様だと聞きます。噂では、毎日のように告白を受けているとか……」
「ああ。お陰で俺は未だに名前を覚えてもらった程度。だから、俺は考えたのだ。今からお前にもそれを教えてやる」
やれやれ、この人は何を言っているのか。
私の記憶では、ロイド伯爵がリーフィア様を好きになってから、もう半年が経っているはず。
それなのに、まだ名前だけとなると、脈が薄いどころか、無いでしょう。
そもそも、リーフィア様にとって、ロイド伯爵は告白してくる中の1人……ぐらいの認識だと思う。
……私も平民上がりですが、それなりに整っているのですが、何が不満なのでしょう。
「いいか? ただ、婚約破棄ではダメだ。自分のためにそこまでしてくれるなんて……と思ってもらえるだけ。だから、愛する者を失った可哀想な俺を演出する必要がある。リーフィアは平民にも優しいと聞くからな。これで、気を引けるはずだ」
……なるほど? 頭がおかしいようです。
自分のいいように考えすぎで、気持ち悪い。
リーフィア様も可哀想に。こんなキモい男に優しくしてもらえるという妄想を抱かれるなんて……。
私だったら嫌ですね。死んでも嫌です。
「仕方ないですね、分かりました。でも、本当にいいのですか? 私は聖女。この国を守っています。私が死んだとなれば、抑え込んでいた魔物たちが一斉に――」
「――問題ない。お前がいなくてもこの国は平和だ。そもそも私はお前を聖女だと思ったことはない」
「そうですか。……それでは、さようなら」
こうして私は命を絶った。
ロイド伯爵が用意していたナイフを使って……。
はぁ。私はまた死ぬのですね。これで、何回目でしょう。死因が自殺になるとは思いませんでしたが……。
でも、私は『死がない』聖女。私が満足するまで、魂が死ぬことはない。何度でも生まれ変わり、本当の愛を見つけるために――。
~ロイド伯爵視点~
「――ふざけないで!」
あの聖女が言った通り、魔物が国を襲った。もう街の中にまで侵入している。
俺はリーフィアを助けようと、彼女の屋敷に訪れたのだが――俺は頬を叩かれていた。
「あの子は私のたった1人の友達だったのに……。どうすれば、あなたに好きになってもらえるのか、真剣に悩んでいたのに……。それなのに、あなたがあの子を殺した!」
「違う! 俺は殺していない! 本当だ、信じてほしい!」
「嘘っ! あの子はいつまでも私の友達でいてくれると言っていた。だから、自分から死ぬことはありえない!」
「どうして、信じてくれない」
「あなたがあの子の名前を呼ばないからよ!」
そう言われて、初めて気づいた。
俺は一度も名前を呼んだことがない。それどころか、名前すら知らないことに。
あいつの趣味も、好きな食べ物も、何も知らない。知ろうとしていなかったのか、俺は……。
でも、そんなことは関係がない。
俺が好きなのは、リーフィアだ。
「あの子……ううん、アイシャのいない世界なんて、滅べばいい。だから、もうすぐあなたの元へ行くわ」
「ま、待て! そっちは危ない! リーフィア! お前だけは愛してみせるから!」
「その言葉、アイシャに言って欲しかった……」
それが、リーフィアの最期の言葉だった。
侵入していた魔物に群がられ、無残にも殺されてしまったのだ。俺の目の前で……。
……どうしてこうなった。
俺はただ、リーフィアに好きになってもらいたかっただけなのに……。
「お前のせいだ。お前が俺の婚約者になったから! 許せない……。許せない、許せない許せない許せない。アイシャアアアァァァァァアア――――あ?」
【完】
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