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1話

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 毒殺してもいいのは、毒殺される覚悟がある人だけ。
 そんな言葉が、この世界には……ないわね。

 でも、意味はわかるでしょ。
 要は同じことをされても文句を言うなってこと。

 物騒だと思われるかもしれないけど、この世は弱肉強食の世界だから、やらなければやられるだけ。

 そう、その相手が婚約者だろうが、妹だろうが変わらない。



 私には両親に勝手に決められた婚約者がいる。
 貴族なら政略結婚はよくあることだし、私としては別に恋愛なんてものに興味はないからどうでもよかった。

 相手がブスでも、頭が禿げていても、デブでも……。

 私に危害さえ加えなければ、子作りさえする。
 私以外に本命の女がいても構わないし、そのことでワーワー騒ぐほど女々しくもなかった。

 それなのに、奴らはあろうことか私を毒殺する計画を立てていた。

 その瞬間から、奴らは私にとっての敵になった。



 今日は私と『敵』が婚約して1年が経つ記念日。
 だが、私たちはもはや婚約者とは呼べない関係で、お祝いなんてしないだろう……と思っていた。

「エルミアナ、今日で俺たちが婚約して1年が経つ。
 お前は祝いなど嬉しくないかもしれないが、マリアンヌが俺たちのために豪勢な食事を手配してくれた。
 だから、せめて今日だけは婚約者らしくしないか」

 そう提案してくる『敵』の一人。
 彼の近くには幼いころから時を同じくして育ったもう一人の『敵』がいる。

 私の妹だ。
 昔はそこそこ仲が良かったと記憶しているけど、どうしてこうなったのかしら。

 流石の私も血を分けた妹を殺すというのは、気が引ける思いだけど、やらなければやられるだけだ。
 彼女もそのつもりで、この祝いの席を設けたに違いない。

「そう、マリアンヌが……。
 ところで一つ疑問があるのだけど、いいかしら?」

「ああ、いいぞ」

「あなたと妹はいつ知り合ったの?
 見合いの日、妹はいなかった。あなたが私の実家に顔を出すこともなかったはず……。
 それなのに、どうして顔見知りなの? ……いいえ、顔見知りなのはいいとして、どうしてテーブルに並ぶ料理がすべて、彼の好物なのかしら?
 これは、私と彼を祝う席なのでしょう? でしたら、私の好きな物があってもいいはずなのに、どうしてなのかしら?」

「……そ、それは…………」

「……そう。やっぱりあなたと妹は……」

 と、あからさまに落ち込んでみせた。

 別に初めから好きでもなんでもないから、この二人がくっつこうがどうでもいいけど。
 
 それにしても、こいつらは馬鹿ね。
 
 私は自分の前に置かれている皿を見て、思った。

「……まぁ、そのことは後回しにしましょう。
 あなたが望むなら、婚約を破棄することも考えにいれましょう」

「すまない……」

「謝るくらいなら、初めから浮気なんてしないでください」

「まぁまぁお姉様、カイン様も反省しているみたいですし、許してあげてください」

「マリアンヌ。自分のことを棚に上げていますが、あなたも同罪ですからね?」

 まったく、どこまでいっても馬鹿のままね。

「ところで、マリアンヌ。
 どうして私の料理だけ、お皿に取り分けられているのかしら?」

「だってお姉様、無理なダイエットしてるでしょ? ダメだよ、ちゃんと食べないと。その体見ればわかるもん」

「まぁ、それはそうかもしれませんけど。
 でも、これは言い逃れできないでしょ?」

 私は目の前に置かれていた木のスプーンを指差した。

 しかし、マリアンヌはそれのどこがおかしいのかわからないようで、首を傾げる。

「いい? マリアンヌ。この屋敷の食器はすべて銀食器で、木で作られたものなんてないのよ。
 そうでしょう? カイン」

「あ、あぁ……」

「じゃあ、どうして木の食器なんてあるのかしら?
 浮気されて疑い深くなっている私には、銀食器を使われたくないとしか思えないのだけど」

「でも、お姉様。実家にいたころは、木の食器で食べていたでしょ?」

「それは、お父様とお母様を信頼しているからよ。
 わざわざ、実の娘に毒を盛る親がいるとも思えないですし」

「じゃ、じゃあ、お母様は私たちが毒を盛ったと言いたいの?」

「そうね。今のあなたたちはとてもじゃないけど、信用できないわね」

 そう言って、『敵』の前に置かれている銀のスプーンを奪い取る。

「もし、これで色が変色したら、あなたたちは毒を盛っていたということになる」

 私は木の食器に入れられたスープに銀のスプーンを入れると、あら不思議。
 銀のスプーンは黒ずんでしまった。

「このことはお父様とお母様に報告します。いいですね?」

「す、すまない! このことは誰にも言わないでくれ!」

「どうしてですか?」

「俺はマリアンヌが好きなんだ。お前の両親にこのことを言われると、離れ離れになってしまう」

「……ん? なにか勘違いしていませんか?」

「勘違い?」

「えぇ。私はあなたと妹、両方を報告します。
 だから、犯罪者同士、仲良くできますよ?」

 それに、ここで死ぬあなたたちには関係ないことです。

「ふ、ふん! パパとママがお姉様の言うことなんか信じるはずない!
 パパとママは私が好きなんだから!」

「そうね。お父様もお母様もマリアンヌには甘かったわね」

「ほ、ほらね! だから、カイン様も安心してください!
 後で料理を処分すれば、証拠も残りません!」

「そ、そうなのか……?」

「はい! だから、冷めないうちに食べましょう?」

「そうだな……」

 はぁ、本当に馬鹿ですね、この人たち。
 上手くいきすぎて、怖いぐらい。

 そう、毒を盛っているのがあなたたちだけだとは、思わない方がいいですよ?
 毒を盛る時間ならいくらでもありましたから、余裕でした。

 あれだけ『あんあん』嬌声をあげていたら、私の足音になんて気づかないでしょうし。

 ……さてと、私も毒入りの食事を食べますか。
 私だけ体内に毒が検出されないのはおかしいし、姿をくらませても私が犯人だと言っているようなもの。

 まぁ、安心してください。
 このときのために、私は毎日のように毒を摂取し続けてきたのですから。
 多少の毒ぐらいなら、耐性ができているはずです。

 私の体が痩せ細っているのは、毒を摂取したときに食べた物をすべて戻してしまっていたせいです。
 そのことに、マリアンヌは気づかなかったようですが。

 それでは、いただきます。



 あれから数日、まったく気分が良くなりませんが、一応なんとか生きてます。

 今は治療院で治療中です。

 それで、あの『敵』二人ですが……死んだみたいです。
 まぁ、毒耐性がある私ですらこうなのですから、なんの耐性も持たない人が摂取すれば死にますよね。

 ……それに、なぜだか元・婚約者にとある悪名がつけられるのでした。

 それは……婚約者に無理やり毒物を飲ませて反応を楽しむサイコパス鬼畜野郎、というもの。

 そりゃあ、私の体内からいろいろな毒物が検出されたら、こうなりますよね。

 だって、元・婚約者が住む屋敷には拷問部屋があり、そこに私が摂取していた毒物がすべて揃っていたのですから。























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