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1話

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「――ぁん、ジュリアン様、そこは……っ」

 そんな明らかにやることをやっている声が、婚約者であるジュリアンの寝室から聞こえてきた。
 それに、さっきの声には聞き覚えがある。

「アンナ、もう我慢できない。入れるぞ……」

 ……やっぱりか。
 今、ジュリアンとやっているのは妹のアンナ。
 最近、妙に突っかかってくると思ったら、そういうことだったのか。

「あぁん……っ、ジュリアン様ぁ……」

 私はアンナの喘ぎ声を聞いて、ニヤリと笑った。

 これでもう、逃げられませんよ?



 婚約者の浮気現場を目撃した私は、ジュリアンから慰謝料を貰うための証拠集めとして、探偵を雇った。

 本当なら、浮気しているのではないか? 

 という疑惑を抱いた時点で雇うべきだったが、雇うには多大なお金が必要だった。
 だから、浮気現場を見るまでは動くに動けなかったのだ。

「しかし、探偵は凄いのね」

 と、目の前に投影されている『私』を見て、呟いた。
 
 これは、『記録魔法』で私を『撮影』したものなのだが、鏡で見た自分そのものだ。
 しかも、扱い方も簡単で、『撮影』した『私』を閉じ込めた魔石に魔力を込めれば、空中に投影される。

「これなら、浮気の証拠を集めるのも簡単ね」

 後は探偵に任せるとして、私はそのときが来るまで、ジュリアンに悟られないように普通でいよう。



 ――で、本日。
 ついに浮気の証拠を突きつける。

 といっても、あれから1週間しか経っていない。

 というのも、ジュリアンが浮気を隠そうとしていなかったらしく、証拠を容易に集めることができたとのこと。

「それにしても、これはやりすぎでしょ……」

 私の口から乾いた笑いが出た。

 現在、私はジュリアンとの話し合いの場に来ているのだが、見知らぬ女性が10人近くいた。
 どうやら、ジュリアンはその全員と関係を持っていたそう。

 これは、黒通り越して真っ黒だ。
 よく今まで、浮気現場に遭遇しなかったものです。

「それで、なにか言い分はありますか?
 聞き入れはしませんが、聞くだけ聞いてあげます」

「フンッ。言い分なんてあるか。良い男にはそれだけ女が集まるってだけだ。
 それに、お前も男を連れてるじゃないか」

「ああ、この方は弁護士のミッシェルさんです」

「弁護士だぁ?」

「はい。あなたなんかより、とても頼りになる人です。
 大体、このような場に私が1人で来るはずないでしょう? 今までどれだけの方が、浮気を突きつけた男に逆上されて、泣き寝入りすることになったことか。
 私はそんなの嫌なので、しっかり証拠を提示して、きちんと手順を踏んで、あなた方から慰謝料を貰います。
 それは、浮気された者の権利なので」


 
 それからは、探偵によって集められた証拠を1つずつ提示していき、全員に慰謝料の請求が認められた。
 まだ正確な慰謝料の金額は伝えられていないが、かなりの金額になるそう。

 ちなみに、アンナは浮気の証拠があるにも関わらず、なかなか浮気していたことを認めはしなかった。
 そのときのアンナは、とても正気の沙汰ではなく、ほかの加害者からドン引きされていた。

 ……もちろん、諸悪の根源であるジュリアンも、まったく懲りていなかった。
 ジュリアンの実家はたしかにお金持ちで、支払いが求められる金額など端金かもしれない。

 でも、婚約者がいるにも関わらず、これだけの女性と関係を持った人を、このまま家に置くわけがない。

 だから、きっと強気でいられるのは今だけ。


 ――そう思っていたのだが、ジュリアンはなにも変わらなかった。
 実家から勘当されたにも関わらず、借金したお金を見せびらかし、いろいろな女性と関係を持ち。

 ついには、子どもまで作ってしまった。

 が、もちろんジュリアンは責任なんて取るはずもなく、借金を返さないまま逃亡。
 しかし、すぐに見つかり、鉱山に連行された。
 
 今はそこで慰謝料と借金の返済のため、働いているらしい。

 それで、私の妹であるアンナは、両親に慰謝料を払ってもらう気満々だったが、私がそれを許すわけがない。
 それに、両親も払う気などさらさらなく、妹はやばいところからお金を借り――泡風呂に沈んだ。

 
 そして、今現在。なぜか私は浮気された挙句、逆上された被害者である女性に持ち上げられている。

 もちろん、その被害者というのはみな、貴族の方で……私は毎日のように茶会へ招かれ、忙しい日々を送っているのだった。

                    ~完~








 

 
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