悪役令嬢に転生した私ですが、断罪イベントは回避します。義姉は私に罪を被せようとしたみたいですが、信用ゼロのあなたを誰が信じるとでも?

無名 -ムメイ-

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1話

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 それはもう第一印象は最悪だった。というのも私、楠木楓は悪役令嬢らしき人物に転生してしまったのだ。
 正直、悪役令嬢と言われてもあまりピンとはこないが、生前、妹がプレイしていた乙女ゲームにそのような単語が出ていたはず。

 それを遠目にボーッと眺めていたが、どうやら悪役令嬢には断罪イベントがあるらしい。
 私としては謂れのない罪で裁かれるのと同義であり、断罪される意味がない。
 だから、何としてでも回避しなければならないのだが……私の印象は最悪だ。

 何せ、誰も私に近づいてこない。

 なので、初めの第一歩として挨拶から始めてみることにした。その際、表情も気をつけた。
 私が転生した女の子、イザベラは少し目尻がつり上がっていて、怒っているように見えなくもない。
 それを解消するために笑顔を絶やさず、使用人に愛想を振りまいた。

 すると。

「――最近、イザベラ様の印象が良くなった気がします」

「――私は洗濯物を干すのを手伝ってもらいました」

「――後はエリザベス様も心変わりしてくれればよいのですが……」

 だいぶ、私の印象が良くなってきた。やっぱり、仕事を手伝ったのが大きかったのかもしれない。
 ここで、新たな情報が出てきた。私はイザベラという少女に転生したが、彼女の記憶を引き継いでいるわけじゃない。

 だが、転生してしばらく時間が経過したから大体のことは把握している。
 エリザベスはイザベラの義理の姉だ。血の繋がった父親が再婚した際の連れ子らしい。
 どうやらイザベラとエリザベスは仲がいいというか、良く一緒にいたみたいで、印象が悪いのはエリザベスのせいかもしれない。

 なので、あまり関わらない方がいいだろう。

 私はエリザベスに注意しつつ、好感度を上げ続けるのだった。



 転生して1ヶ月が経過し、私の印象は改善された。
 どうやらイザベラの父親はかなりの親バカらしく、昔の可愛らしい娘が戻ってきたととても喜んでいた。
 まあ、中身はただのどこにでもいる女子高校生だけど。
 義理の母親は実の娘であるエリザベスのせいで、性格が変わったことを気にしていたらしかったが、それも解消することができた。

 のだが、最近少し気になることがあって……。

「最近、屋敷の中でも外でも私の悪い噂が広がってるんだけど、何か知ってる?」

 仲良くなった使用人の1人に聞いてみる。

「イザベラ様が12歳なのに男遊びをしているって話ですか? それとも麻薬を密売しているって話でしょうか?」

「……両方ともね。まあ別にそれでどう思われようが構わないけど、何より解せないのがエリザベスの評判がいいことよ」

「たしかにその話もよく聞きますね。貧しい孤児院に多額の寄付をしたとか何とか……」

 こんなのエリザベスが犯人なのが丸分かりだ。
 私の悪評を広めて、自分の評価は上げる。私には何がしたいのかまったく分からない。
 
「イザベラ様、大丈夫です! 私たちは誰もその情報が正しいだなんて思っていませんよ!」

「まあ、そりゃね。だって、私が外出するとき、誰かしらが尾行してるの気づいてるから」

「まっ、まさかっ、そんなはず……」

「気づかれてないとでも? そのお陰で身内に疑われることはないからいいんだけど……」

「……どうかしましたか?」

「いや、何でもない」

 杞憂ならいいんだけど、そろそろエリザベスが仕掛けてきそうな気がする。



 杞憂は杞憂で終わらなかった。

 ある日の朝、私は眠気まなこを擦りながら階段を降りていた。

 そのときだ。不意に私の体が宙に浮いた。
 何者かに背後を押されたのだ。

 階段は10段程度と短いが、その材質は硬い。
 ゆえに頭から落ちれば、大怪我を負う。

 咄嗟のこともあって、手をつくことができなかった私は顔面から落ちた。



 目覚めたとき、私の周りには父親や継母、使用人たちがいた。その中にはエリザベスも含まれている。

「イザベラっ、大丈夫か! 私が誰だか分かるかい?」

「分かりますわ、お父様」

「よかった! 無事で!」

 うぇっ、急に抱きしめないでほしい。
 普通に嫌悪感が半端ない。私はイザベラに転生してはいるものの、私からしてみれば新しくできた父親に抱きしめられているようなものだからだ。

 まあ、大事にされているのだと分かるから、拒否はできないけど。

 そんなとき、1人の女性が声を上げた。
 エリザベスだ。

「――おかしいでしょ! 何で私を階段から突き落とそうとしたイザベラが心配されるのよ!
 みんなも知っているでしょ! イザベラが何をしているのか! 何でそんな奴を心配するの!」

 あぁ、階段から突き落としたエリザベスだったのか。
 分かりきってはいたけど……これは妬みかしら?

 だとしたら、それは褒められた感情じゃないね。

 私は説教の1つでもしてあげようとベッドから起き上がろうとした。
 が、すぐに父親が「起き上がって大丈夫?」と心配してくる。もちろんそれは嬉しいことだが、今は……。

「エリザベスお姉様、何がしたくてこのような暴挙に出たのか、私には理解できません。
 ですが、お姉様のしたことはまったくの無意味であることは分かります。
 私は1ヶ月の間、ひたすら好感度を上げていました。それで今までの過ちが消えるわけではないですが、上書きできると思ったからです。
 お姉様はそれが気に食わなかったのでしょう? どうして私がみんなと仲良くできているのか、理解できなかったのでしょう?
 だから、私を悪者にすることで、自分を上げたかった。違いますか?」

「違ッ――」

「――違いませんよね? そうでないなら、何のためにこのようなことを? 今回は大丈夫でしたが、お姉様がしたことは犯罪です。殺人未遂で逮捕されてもいい案件です。
 本当に違うのだと思うのなら、自分が何をしたいのかよく考えた方がいいですよ。次、私に害をなそうなら、いくらお姉様でも容赦はしません。
 いいですか? お姉様」

「チッ」

 エリザベスは1つ舌打ちをして、部屋から出て行こうとする。この場から今すぐ離れたかったのだろう。

 だが。

「待ちなさい、エリザベス。今までお前を自由にし過ぎた。今回の一件は、私にも非があると思っている。
 だから、私が1からお前を教育し直す。いいな? イザベラ」

「えっ、私ですか? ……まあ、いいと思います。お姉様な多分、寂しかったんだと思いますので」

「――ということだ、エリザベス。覚悟しておいてくれ」



 こうして、私は断罪イベント? を回避することができた。

 エリザベスが今後どうなるかは、彼女のやる気次第ですが、今のところは窮屈な生活に耐えているようです。

 めでたし、めでたし。

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