5 / 12
第2章
真夏の記憶
しおりを挟む
「お~いっ、そっちもっと手動かしてねぇ~っ!」
私は、夕暮れに照らされる放課後。普段慣れない美術室で後輩達に指示を出していた。まるでやる気のない後輩達に苛立ちを隠せずにいると、後ろからぽんっと肩を叩かれる。
「菜摘・・・」
肩を叩いたのは菜摘。部活は終わったのだろうか。にんまりと笑った顔でこちらを見つめている。
「優姫ったらどういう風の吹き回しなんかね。あんたが体育祭のパネル長なんて!なに?3年だからって舞い上がっちゃってんの?」
どうせこんなこと言われるんだろうと思ったわ。
「いいでしょ?青春らしくて。なんも高校に思い出無いよりマシなんだけど」
ふんっ、と鼻を鳴らすと菜摘を放置し、色塗りの作業に戻った。
「あ~らそうかよ、じゃ私もやっちゃおっかなぁ」
誘うような身振り素振りで、後ろから話しかけてくる。う、うざったい。
それに・・・。
「もうパネル係のメンバーは締め切ってるけど?」
ピッと絵の具の付いた筆を菜摘に向けて言い放つ。だけど菜摘は顔色1つ変えずに、私の手から筆を奪い取った。
「馬鹿じゃねん。誰がパネルって言った?」
菜摘はそのまま私の隣に座って、大きく広げられたパネルをマジマジと見つめると、スラスラと私がもっとも難しいと思っていた場所を難なく塗り尽くした。
「あんたパネル向いてるよ・・・」
悔しいけど私はそう言った。後輩達からも感動の拍手が巻き起こっている。
それに菜摘は得意気になって、ふふんとドヤ顔をかますと、よいっしょと立ち上がり、私を見下してこう言った。
「私中学は美術部ですからね?まぁ知ってると思いますけど。まぁだけど、もうメンバー確定してんのならしゃあないわ。私、応援団なるから」
そこらに投げ捨てた自分のスクールバッグを取って、美術室を出ていこうとする。
「ま、待って!」
菜摘の足は急ブレーキが掛かったように止まった。
「あんたさ、応援団とか・・・まじ?」
悪夢だ。私は菜摘が応援団になった体育祭を知っている。あれは地獄だ!
それは中学2年の時の事。1年の頃から2人で憧れていた先輩が、最後3年で応援団長を務めるという事で、私達は速攻入団届を出した。
放課後まで先輩と一緒にいれることが本当に嬉しくて、私も菜摘も体育祭は頑張ろうという話になった。
翌日、待ちに待った体育祭で、練習の成果を発揮できる晴れ舞台。 応援合戦の時間がやって来た。菜摘と私はこの日の為に私が作ったミサンガを見つめると笑いあった。
そして、応援合戦開始の合図。
「紅組ーっ!第1応援歌用意っ!」
先輩の声がグラウンドに響く。そうそうこの時よ・・・。
「ひゃあああああああっほぅ!」
はっ!?
その瞬間どれだけ恥ずかしかったか、どれだけ死のうと思ったか!
菜摘は興奮の余り、奇声を上げて、踊り出した。私は内心ずぅっと、お願いしますやめて下さいと念じていた。
他の団員も全員ドン引き。会場ドン引き。私もドン引き。
しかし、その後まもなく燃え尽きたのか、ばたりと倒れた菜摘は保健室に運ばれた。菜摘のいないまま体育祭は進み、幕を閉じた。紅組は応援賞完敗。
菜摘が目を覚ましたのは翌日で、更に昨日の記憶が無いようなので、この事は全校で無かったことにした。菜摘を本気で心配したなぁ、この時は。
っていう黒歴史のお話。
「マジよ?中2んときは体調悪くて倒れたっぽいし、そのリベンジ的なやつだよ」
ひひっと歯を見せて笑う。こっちは笑ってる場合じゃねんだよ。
ちなみに応援団はまだ決まっていない。これから受付という感じだ。訳は、パネル係は時間の関係で2週間前からメンバーが決まり、応援団は特に時間をかけるのは練習くらいなので、あまり時間は長く用意されない。
くそぅ、応援団もう締め切ってれば良かったのに!
どうにかならないかと私は必死に考えを頭の中で巡らせた。しかし、その間に菜摘は「じゃ、期待しとけよ!」と美術室から出ていってしまった。
あぁ、これはヤバイな。
ガクッと気を落とし、地面に這いつくばると後輩が集まってきて心配してくれた。
「いい子達よ・・・」
その後、私は寝てしまったとか。どうしようもない先輩でゴメンね!
私は、夕暮れに照らされる放課後。普段慣れない美術室で後輩達に指示を出していた。まるでやる気のない後輩達に苛立ちを隠せずにいると、後ろからぽんっと肩を叩かれる。
「菜摘・・・」
肩を叩いたのは菜摘。部活は終わったのだろうか。にんまりと笑った顔でこちらを見つめている。
「優姫ったらどういう風の吹き回しなんかね。あんたが体育祭のパネル長なんて!なに?3年だからって舞い上がっちゃってんの?」
どうせこんなこと言われるんだろうと思ったわ。
「いいでしょ?青春らしくて。なんも高校に思い出無いよりマシなんだけど」
ふんっ、と鼻を鳴らすと菜摘を放置し、色塗りの作業に戻った。
「あ~らそうかよ、じゃ私もやっちゃおっかなぁ」
誘うような身振り素振りで、後ろから話しかけてくる。う、うざったい。
それに・・・。
「もうパネル係のメンバーは締め切ってるけど?」
ピッと絵の具の付いた筆を菜摘に向けて言い放つ。だけど菜摘は顔色1つ変えずに、私の手から筆を奪い取った。
「馬鹿じゃねん。誰がパネルって言った?」
菜摘はそのまま私の隣に座って、大きく広げられたパネルをマジマジと見つめると、スラスラと私がもっとも難しいと思っていた場所を難なく塗り尽くした。
「あんたパネル向いてるよ・・・」
悔しいけど私はそう言った。後輩達からも感動の拍手が巻き起こっている。
それに菜摘は得意気になって、ふふんとドヤ顔をかますと、よいっしょと立ち上がり、私を見下してこう言った。
「私中学は美術部ですからね?まぁ知ってると思いますけど。まぁだけど、もうメンバー確定してんのならしゃあないわ。私、応援団なるから」
そこらに投げ捨てた自分のスクールバッグを取って、美術室を出ていこうとする。
「ま、待って!」
菜摘の足は急ブレーキが掛かったように止まった。
「あんたさ、応援団とか・・・まじ?」
悪夢だ。私は菜摘が応援団になった体育祭を知っている。あれは地獄だ!
それは中学2年の時の事。1年の頃から2人で憧れていた先輩が、最後3年で応援団長を務めるという事で、私達は速攻入団届を出した。
放課後まで先輩と一緒にいれることが本当に嬉しくて、私も菜摘も体育祭は頑張ろうという話になった。
翌日、待ちに待った体育祭で、練習の成果を発揮できる晴れ舞台。 応援合戦の時間がやって来た。菜摘と私はこの日の為に私が作ったミサンガを見つめると笑いあった。
そして、応援合戦開始の合図。
「紅組ーっ!第1応援歌用意っ!」
先輩の声がグラウンドに響く。そうそうこの時よ・・・。
「ひゃあああああああっほぅ!」
はっ!?
その瞬間どれだけ恥ずかしかったか、どれだけ死のうと思ったか!
菜摘は興奮の余り、奇声を上げて、踊り出した。私は内心ずぅっと、お願いしますやめて下さいと念じていた。
他の団員も全員ドン引き。会場ドン引き。私もドン引き。
しかし、その後まもなく燃え尽きたのか、ばたりと倒れた菜摘は保健室に運ばれた。菜摘のいないまま体育祭は進み、幕を閉じた。紅組は応援賞完敗。
菜摘が目を覚ましたのは翌日で、更に昨日の記憶が無いようなので、この事は全校で無かったことにした。菜摘を本気で心配したなぁ、この時は。
っていう黒歴史のお話。
「マジよ?中2んときは体調悪くて倒れたっぽいし、そのリベンジ的なやつだよ」
ひひっと歯を見せて笑う。こっちは笑ってる場合じゃねんだよ。
ちなみに応援団はまだ決まっていない。これから受付という感じだ。訳は、パネル係は時間の関係で2週間前からメンバーが決まり、応援団は特に時間をかけるのは練習くらいなので、あまり時間は長く用意されない。
くそぅ、応援団もう締め切ってれば良かったのに!
どうにかならないかと私は必死に考えを頭の中で巡らせた。しかし、その間に菜摘は「じゃ、期待しとけよ!」と美術室から出ていってしまった。
あぁ、これはヤバイな。
ガクッと気を落とし、地面に這いつくばると後輩が集まってきて心配してくれた。
「いい子達よ・・・」
その後、私は寝てしまったとか。どうしようもない先輩でゴメンね!
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
もう二度とあなたの妃にはならない
葉菜子
恋愛
8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。
しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。
男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。
ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。
ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。
なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。
あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?
公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。
ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる