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21 暴れ竜
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ロタの町は王都ほどではないが賑わっている。温泉が湧いているため、貴族の療養地としても人気が高い。
リーチェはララと一緒に宿屋の露天風呂に入りに来ていた。
「ぷはぁ~。生き返る」
馬車に座っているだけとはいえ、ずっと揺れる場所に腰掛けているのは疲れるものだ。
立ち湯で首まで浸かりながら、リーチェは横にいるララを見つめた。
ララは赤い髪をバレッタで留めあげ、せっかく湯に浸かっているのに暗い瞳をしていた。
「ララ?」
「……あ、うん。ごめん、私は先にあがるね。マル……いえ、家族に手紙も書きたいし」
「う、うん。じゃあ後でね」
リーチェはそう言って、離れていくララの背中を見届けた。
間もなく四人組のふくよかな女性達がララと入れ違いでやってきて、リーチェの両隣に入ってしまった。
全員生首状態で、リーチェを挟み、女性達の会話が弾む。
ここで適当にうなずいていたら同じパーティの一員のようだ。リーチェは少々気まずさを覚えはじめた。
(仕方ない。のぼせてきたし、そろそろ出ましょう……)
そう思って立ち湯から出て行こうとしたところで、左隣の女性の言葉に気を取られた。
「しっかし、暴れ竜が出るなんて災難だね~。商館もいっぱいで泊まれなかったし。これじゃあ南へ行けないじゃないか」
「仕方ないから大回りになるけど、東の街道から迂回して南国へ行くしかないかねぇ。西は魔の森だから進めないし」
リーチェ達が向かおうとしているのは西だ。しかし南に暴れ竜が出ると知って、聞き流すことはできなかった。
リーチェはなけなしの勇気を振り絞り、女性達に声をかける。
「暴れ竜が出ているんですか?」
突如話しかけてきたリーチェに目を丸くしつつも、気の良さそうな女性が答えてくれる。
「ああ。もう七日くらい前からかねぇ。普段は西の森にいる竜が南に下りてきて暴れているらしいんだよ」
「落石で道も塞がれちゃってるから、流通も滞っててねぇ。うちの商隊も南の街道を通れなくて引き返してきたんだよ」
商人は街道以外通れない決まりがあるし、規則をやぶって他の道を行こうとすると盗賊に襲われやすくなってしまう。
「街道が通れなくなっているんですか……それは困りますね……」
リーチェは顎に手をあてて考え込んだ。
(このまま放っておけば、竜がこの町や他の町にやってきて人々に被害が出るかもしれない……)
ロジェスチーヌ家の娘として看過できなかった。
竜が人々に直接の危害を加えることはなかったとしても、間接的な悪影響はある。商隊が通れないとなると、いずれ小麦が足りなくなってしまうだろう。
シューレンベルグ王国は小麦の生産が少ないため、周辺国からの輸入に頼っているのだ。
ロジェスチーヌ伯爵領でもそれは同じで、小麦は輸入し、生産量の多いレモンや葡萄酒、オリーブ油などを輸出していた。
(ただでさえ国内で小麦は値上がりしているのに。周辺国から足元を見られて小麦の値段を上げられてしまうかもしれない……)
そうなれば、民への影響は計り知れない。もちろん他の穀物で庶民の食卓はある程度は補えるだろうが、それを商いとする者にとっては死活問題だ。下手したら死人が出る。
「魔物がどうにかいなくなれば良いんだけど……」
リーチェはぽつりとつぶやいた。
もとより採石場にたどり着くためには竜や魔物をどうにかしなければならない問題があったのだ。
(ハーベル様と相談してみよう)
お忍びだったため、ロタの町はあっさりと通り過ぎるつもりだったが、代官に会って対応状況を聞く必要があるかもしれない。
「それより、アンタもしかして、あのイケメン二人の連れかい?」
そうニヤニヤしながら女性に問われて、リーチェは瞬きした。
(もしかして、ハーベル様とダン副長のことかな?)
「え、えぇ。まぁ……」
「二人とも、ここいらじゃ見ないくらいの美形だよねぇ」
「目の保養だよぉ」
「お嬢ちゃん、どっちかと付き合っているのかい?」
根掘り葉掘り聞かれそうな空気を察し、リーチェは「ありがとうございました」と、お礼を言って湯船から出た。
もし連れがハーベル王子一行で、リーチェは婚約者だと知られたら騒がれかねない。
「ふぅ~。のぼせちゃった……」
タオルで髪を拭いながら廊下を歩いていると、遊戯室の扉が開いていてハーベルとダンの姿がかいま見えた。
リーチェは先ほど女性達に言われたことを思い出した。
(そうよね。ハーベル様はファンクラブが作られるほど格好良いもの……)
生来の強面だが、最近はリーチェと笑顔の練習をしているためか雰囲気も柔らかくなり、とっつきやすくなったと評判だ。
(私、そんな素敵な人とお付き合いしているんだ……)
そう思うと途端に照れてきて、リーチェは湯上がりだけではない熱がある頬を押さえた。
「ん……?」
ふと、廊下から外を眺めると、宿屋の玄関から出たララの姿が目に入る。
ララは宿屋の外で見知らぬ男性に手紙らしき物を渡していた。夕明かりで辺りは暗くなってきていたが、わずかに見えるララの表情は険しい。
「ララ……?」
手紙を送るには飛脚便を使うのが一般的だ。だが、ララが手紙を渡した男は黒ずくめで、そういう生業の者にはとても見えない。
モヤモヤした感情を抱えたままリーチェが客室に帰ると、しばらくしてララが戻ってきた。
「ララ、手紙出してきたの?」
そうリーチェが尋ねると、ララはぎこちない笑みを浮かべた。
「ええ。王都まで定期便があるみたいだから」
「……そう」
(宿に飛脚が手紙を受け取りにくる地域もあるし、おかしいことではない……はず、よね?)
そう思い、リーチェは生まれた違和感に蓋をした。
◇◆◇
庁舎に入ると大きなホールがあり、そこで代官が揉み手をしてリーチェ達を待ち構えていた。
昨夜ハーベルと話し合い、会う手はずを整えたのだ。
「ようこそおいでくださいました、リーチェお嬢様。……いえ、今はヴィラ・ロレイン男爵でしたね。爵位授与のお祝いの言葉が遅くなってしまい、申し訳ありません」
秀でた額に汗をかきながら代官は頭を下げた。
お忍びで領主の娘と王子まで現れたのだから、彼が慌てるのも当然だ。
リーチェ達は簡単に挨拶を終え、応接室に案内された。
「ええっと……私めにお尋ねになりたいことは南の街道の暴れ竜への対応について、でしたな」
ハンカチで汗を拭きながら、代官は言う。
聞けば、魔物が現れることは今までもあったが、竜は初めてのことで対応に困っているらしい。
現在は物見塔から平原にいる竜を監視しているが、大きな動きはないという。
「ロジェスチーヌ伯爵には早馬を出して状況をお伝えしております。もし竜がこの町に進路を向けてきたら困りますから、防衛のために傭兵も集めています」
「そうですか……」
リーチェは顎に手を当てる。
(代官も頑張ってくれているけど、寄せ集めの傭兵集団で何とかなるとは思えない……)
それに下手に攻撃したら竜が逆上して襲いかかってくる可能性もある。
かといって、リーチェの父親が治安部隊を送ってくるまで持たないかもしれない。
この町が無事だったとしても他の町に被害が出る可能性もある。早急に対処しなければならない問題だ。
「攻撃しておびき寄せ、森に帰るよう誘導するしかないだろうな。その場合は少人数の方が動きやすい」
ハーベルがリーチェの隣でそう言った。
「俺とダンで、その役目を引き受けよう。リーチェ達には後方支援を頼みたい」
リーチェはハーベルの言葉に慌てて首を振る。
「しっ、しかし、ハーベル様にそのような囮行為はさせられません! するなら私が……!」
「構わない。我が国の民が困っていたら何とかしてやるのが王子の務めだ。俺は騎士団長だし、それほど弱くはない。ここは任せてくれ」
そこまで言われたら、リーチェも引かざるを得なかった。同時にハーベルのロジェスチーヌの領民への気遣いに胸が熱くなる。
「……ありがとうございます、ハーベル様」
「ああ。さっそく準備を整えて出よう」
ハーベルの言葉にダンとララも表情を引き締めて、うなずいた時──。
突然、応接室に兵士がひとり入ってきた。
「何事だ!? 来客中だぞ!!」
叱りつける代官だったが、兵士はただならぬ表情を崩さない。
「申し訳ありません! 至急、お伝えしなければならないことがありまして……っ! 暴れ竜が、この町に向かって来ています!!」
その場の空気が変わる。
すぐさま動いたのはハーベルだった。
「竜の位置は分かるか? あと、どれくらいで到着する?」
「は、はい……! 六時の方向です。あの速度だと、おそらく……この町には三時間ほどで、たどり着くと思われます!」
「……時間がないな」
ダンが舌打ちした。
ララは震えを押し殺すように己の腕を抱いて、リーチェのそばに寄る。
「町に緊急警報を発令せよ! 領民の避難を最優先だ」
ハーベルがそう言うと、代官は青ざめつつ首を縦に振った。
「はっ、はいぃぃっ!!」
代官はどちらかというとハーベルの形相に怯えている。
「避難所に人々を集めた後、城門を閉じろ! 城壁の上に傭兵部隊を待機させ、指示があるまでは動くな。俺達は外へ出て少し離れた場所で竜を迎え撃つ。……それで良いか、リーチェ」
そうハーベルに問われて、リーチェは目を丸くしつつ首肯した。
リーチェの領地のことだから彼女の意向を確認してくれたのだろう。
しかしハーベルの指示はリーチェのやろうとしていたことと同じ──いや、それ以上に的確で完璧だった。
代官が逃げるように部屋を駆け出て行く。竜のことを懸念してのことだろうが、よほどハーベルの顔も怖かったのだろう。
それにまったく気付いている様子のないハーベルがリーチェ達に向かって言う。
「予定より早くなったが……皆、覚悟は良いな?」
「はいっ!!」
一同は──青ざめているララ以外──大きくうなずいた。
リーチェはララと一緒に宿屋の露天風呂に入りに来ていた。
「ぷはぁ~。生き返る」
馬車に座っているだけとはいえ、ずっと揺れる場所に腰掛けているのは疲れるものだ。
立ち湯で首まで浸かりながら、リーチェは横にいるララを見つめた。
ララは赤い髪をバレッタで留めあげ、せっかく湯に浸かっているのに暗い瞳をしていた。
「ララ?」
「……あ、うん。ごめん、私は先にあがるね。マル……いえ、家族に手紙も書きたいし」
「う、うん。じゃあ後でね」
リーチェはそう言って、離れていくララの背中を見届けた。
間もなく四人組のふくよかな女性達がララと入れ違いでやってきて、リーチェの両隣に入ってしまった。
全員生首状態で、リーチェを挟み、女性達の会話が弾む。
ここで適当にうなずいていたら同じパーティの一員のようだ。リーチェは少々気まずさを覚えはじめた。
(仕方ない。のぼせてきたし、そろそろ出ましょう……)
そう思って立ち湯から出て行こうとしたところで、左隣の女性の言葉に気を取られた。
「しっかし、暴れ竜が出るなんて災難だね~。商館もいっぱいで泊まれなかったし。これじゃあ南へ行けないじゃないか」
「仕方ないから大回りになるけど、東の街道から迂回して南国へ行くしかないかねぇ。西は魔の森だから進めないし」
リーチェ達が向かおうとしているのは西だ。しかし南に暴れ竜が出ると知って、聞き流すことはできなかった。
リーチェはなけなしの勇気を振り絞り、女性達に声をかける。
「暴れ竜が出ているんですか?」
突如話しかけてきたリーチェに目を丸くしつつも、気の良さそうな女性が答えてくれる。
「ああ。もう七日くらい前からかねぇ。普段は西の森にいる竜が南に下りてきて暴れているらしいんだよ」
「落石で道も塞がれちゃってるから、流通も滞っててねぇ。うちの商隊も南の街道を通れなくて引き返してきたんだよ」
商人は街道以外通れない決まりがあるし、規則をやぶって他の道を行こうとすると盗賊に襲われやすくなってしまう。
「街道が通れなくなっているんですか……それは困りますね……」
リーチェは顎に手をあてて考え込んだ。
(このまま放っておけば、竜がこの町や他の町にやってきて人々に被害が出るかもしれない……)
ロジェスチーヌ家の娘として看過できなかった。
竜が人々に直接の危害を加えることはなかったとしても、間接的な悪影響はある。商隊が通れないとなると、いずれ小麦が足りなくなってしまうだろう。
シューレンベルグ王国は小麦の生産が少ないため、周辺国からの輸入に頼っているのだ。
ロジェスチーヌ伯爵領でもそれは同じで、小麦は輸入し、生産量の多いレモンや葡萄酒、オリーブ油などを輸出していた。
(ただでさえ国内で小麦は値上がりしているのに。周辺国から足元を見られて小麦の値段を上げられてしまうかもしれない……)
そうなれば、民への影響は計り知れない。もちろん他の穀物で庶民の食卓はある程度は補えるだろうが、それを商いとする者にとっては死活問題だ。下手したら死人が出る。
「魔物がどうにかいなくなれば良いんだけど……」
リーチェはぽつりとつぶやいた。
もとより採石場にたどり着くためには竜や魔物をどうにかしなければならない問題があったのだ。
(ハーベル様と相談してみよう)
お忍びだったため、ロタの町はあっさりと通り過ぎるつもりだったが、代官に会って対応状況を聞く必要があるかもしれない。
「それより、アンタもしかして、あのイケメン二人の連れかい?」
そうニヤニヤしながら女性に問われて、リーチェは瞬きした。
(もしかして、ハーベル様とダン副長のことかな?)
「え、えぇ。まぁ……」
「二人とも、ここいらじゃ見ないくらいの美形だよねぇ」
「目の保養だよぉ」
「お嬢ちゃん、どっちかと付き合っているのかい?」
根掘り葉掘り聞かれそうな空気を察し、リーチェは「ありがとうございました」と、お礼を言って湯船から出た。
もし連れがハーベル王子一行で、リーチェは婚約者だと知られたら騒がれかねない。
「ふぅ~。のぼせちゃった……」
タオルで髪を拭いながら廊下を歩いていると、遊戯室の扉が開いていてハーベルとダンの姿がかいま見えた。
リーチェは先ほど女性達に言われたことを思い出した。
(そうよね。ハーベル様はファンクラブが作られるほど格好良いもの……)
生来の強面だが、最近はリーチェと笑顔の練習をしているためか雰囲気も柔らかくなり、とっつきやすくなったと評判だ。
(私、そんな素敵な人とお付き合いしているんだ……)
そう思うと途端に照れてきて、リーチェは湯上がりだけではない熱がある頬を押さえた。
「ん……?」
ふと、廊下から外を眺めると、宿屋の玄関から出たララの姿が目に入る。
ララは宿屋の外で見知らぬ男性に手紙らしき物を渡していた。夕明かりで辺りは暗くなってきていたが、わずかに見えるララの表情は険しい。
「ララ……?」
手紙を送るには飛脚便を使うのが一般的だ。だが、ララが手紙を渡した男は黒ずくめで、そういう生業の者にはとても見えない。
モヤモヤした感情を抱えたままリーチェが客室に帰ると、しばらくしてララが戻ってきた。
「ララ、手紙出してきたの?」
そうリーチェが尋ねると、ララはぎこちない笑みを浮かべた。
「ええ。王都まで定期便があるみたいだから」
「……そう」
(宿に飛脚が手紙を受け取りにくる地域もあるし、おかしいことではない……はず、よね?)
そう思い、リーチェは生まれた違和感に蓋をした。
◇◆◇
庁舎に入ると大きなホールがあり、そこで代官が揉み手をしてリーチェ達を待ち構えていた。
昨夜ハーベルと話し合い、会う手はずを整えたのだ。
「ようこそおいでくださいました、リーチェお嬢様。……いえ、今はヴィラ・ロレイン男爵でしたね。爵位授与のお祝いの言葉が遅くなってしまい、申し訳ありません」
秀でた額に汗をかきながら代官は頭を下げた。
お忍びで領主の娘と王子まで現れたのだから、彼が慌てるのも当然だ。
リーチェ達は簡単に挨拶を終え、応接室に案内された。
「ええっと……私めにお尋ねになりたいことは南の街道の暴れ竜への対応について、でしたな」
ハンカチで汗を拭きながら、代官は言う。
聞けば、魔物が現れることは今までもあったが、竜は初めてのことで対応に困っているらしい。
現在は物見塔から平原にいる竜を監視しているが、大きな動きはないという。
「ロジェスチーヌ伯爵には早馬を出して状況をお伝えしております。もし竜がこの町に進路を向けてきたら困りますから、防衛のために傭兵も集めています」
「そうですか……」
リーチェは顎に手を当てる。
(代官も頑張ってくれているけど、寄せ集めの傭兵集団で何とかなるとは思えない……)
それに下手に攻撃したら竜が逆上して襲いかかってくる可能性もある。
かといって、リーチェの父親が治安部隊を送ってくるまで持たないかもしれない。
この町が無事だったとしても他の町に被害が出る可能性もある。早急に対処しなければならない問題だ。
「攻撃しておびき寄せ、森に帰るよう誘導するしかないだろうな。その場合は少人数の方が動きやすい」
ハーベルがリーチェの隣でそう言った。
「俺とダンで、その役目を引き受けよう。リーチェ達には後方支援を頼みたい」
リーチェはハーベルの言葉に慌てて首を振る。
「しっ、しかし、ハーベル様にそのような囮行為はさせられません! するなら私が……!」
「構わない。我が国の民が困っていたら何とかしてやるのが王子の務めだ。俺は騎士団長だし、それほど弱くはない。ここは任せてくれ」
そこまで言われたら、リーチェも引かざるを得なかった。同時にハーベルのロジェスチーヌの領民への気遣いに胸が熱くなる。
「……ありがとうございます、ハーベル様」
「ああ。さっそく準備を整えて出よう」
ハーベルの言葉にダンとララも表情を引き締めて、うなずいた時──。
突然、応接室に兵士がひとり入ってきた。
「何事だ!? 来客中だぞ!!」
叱りつける代官だったが、兵士はただならぬ表情を崩さない。
「申し訳ありません! 至急、お伝えしなければならないことがありまして……っ! 暴れ竜が、この町に向かって来ています!!」
その場の空気が変わる。
すぐさま動いたのはハーベルだった。
「竜の位置は分かるか? あと、どれくらいで到着する?」
「は、はい……! 六時の方向です。あの速度だと、おそらく……この町には三時間ほどで、たどり着くと思われます!」
「……時間がないな」
ダンが舌打ちした。
ララは震えを押し殺すように己の腕を抱いて、リーチェのそばに寄る。
「町に緊急警報を発令せよ! 領民の避難を最優先だ」
ハーベルがそう言うと、代官は青ざめつつ首を縦に振った。
「はっ、はいぃぃっ!!」
代官はどちらかというとハーベルの形相に怯えている。
「避難所に人々を集めた後、城門を閉じろ! 城壁の上に傭兵部隊を待機させ、指示があるまでは動くな。俺達は外へ出て少し離れた場所で竜を迎え撃つ。……それで良いか、リーチェ」
そうハーベルに問われて、リーチェは目を丸くしつつ首肯した。
リーチェの領地のことだから彼女の意向を確認してくれたのだろう。
しかしハーベルの指示はリーチェのやろうとしていたことと同じ──いや、それ以上に的確で完璧だった。
代官が逃げるように部屋を駆け出て行く。竜のことを懸念してのことだろうが、よほどハーベルの顔も怖かったのだろう。
それにまったく気付いている様子のないハーベルがリーチェ達に向かって言う。
「予定より早くなったが……皆、覚悟は良いな?」
「はいっ!!」
一同は──青ざめているララ以外──大きくうなずいた。
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