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18 魔鉱石
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リーチェは深夜、ベッドの中でマルクルートの記憶を思い返していた。
ハーベルがリーチェ殺しの濡れ衣を着せられた後に起こることだ。
(マルクが身に着けているペンダントの存在が勝負を分ける……)
かつて、世界のあらゆる場所を破壊し、多くの死者をだして王都を混乱の渦に叩き落とした邪竜。
リーチェの祖父が率いる魔法士達がどうにか封じたが、それは不完全な封印だった。そのため封印が万が一弱まった時のための救済策として、邪竜の血を固めてペンダントを作ったのだ。
邪竜を封印してある神殿で、ペンダントの石に持ち主の血を垂らすことによって邪竜と契約できる。それを幼い日のマルクが知り、封印に参加した魔法士からペンダントを奪って口封じで殺したのだ。
マルクルートでは、ララとハーベルが親しくなっていくことにマルクが嫉妬する。そしてマルクがララを監禁し、彼女を開放することを条件に、ハーベルに邪竜の眠る神殿に向かわせる。あらかじめ小瓶に入れておいたマルクの血をハーベルの手でペンダントにかけさせ、マルクはハーベルに邪竜を復活させた。そしてマルクは遠距離から精神交流によって邪竜と契約したのだ。
マルクは邪竜と契約しておきながらそれを隠して勇者として邪竜と戦い、頃合いを見て邪竜を引っ込ませて倒したふりをして英雄と讃えられることになる。
そしてハーベルは邪竜が復活した時に目撃者がいたことが仇となり、邪竜を復活させた大罪人として投獄されてしまうのだ。
「何度思い返しても、ハーベル様が可哀想……」
マルクの腹黒さが嫌らしいし、ハーベルの気持ちを踏みにじる行為が心底不快だった。
ゲームの制作陣はマルクをヤンデレ扱いしているが、リーチェからしたら、彼はヤンデレというより、ただの性格の悪い粘着男である。
(マルクは手下と共に邪竜を倒し、人々から英雄だと称賛されて王太子に選ばれる。そしてハーベル様は囚人塔に入れられ、ひっそりと毒殺されてしまう……)
「……そんなことさせるものですか」
(でも、ペンダントはマルクが持っているとして、今の私に何ができるかしら……)
「邪竜を復活させないのが一番だけど……万が一にも復活してしまった時のために準備をしておいた方がいいわよね」
リーチェの記憶だと、邪竜が現れるのは今年の秋頃だ。まだ半年ほど時間がある。
「それまでに私ができることは……やっぱり付与魔法の強化かな」
今のままだと一時間ほどしか使えない。
もっと付与魔法の効力を上げたり持続時間を伸ばせないと邪竜には立ち向かえないだろう。
「付与魔法の効果を上げるためには、魔鉱石を使うのが一番だけど……」
魔鉱石には魔法を増幅させる力があることが分かっている。
家にある魔鉱石を使った実験では、付与魔法をかけると効果が長くなることも実証済だ。
魔法士なら誰もが一度は魔鉱石の利用を夢見るが、実現できた者はほとんどいない。
というのも、魔鉱石が採掘できる場所はたいてい竜や魔物の巣になっているためだ。
魔鉱石が生まれるには魔素と呼ばれる気体が必要なのだが、魔物も魔素を好む性質がある。
「……まぁ、それはどうにかなるか」
祖父との修行のおかげで、攻撃魔法が使えなくても大抵の魔物はかわせる自信があった。
しかし、大量に採掘するには自分一人の力ではどうにもならない。──とはいえ、さすがに一般人が魔物の巣に行くのは危険すぎるから、この辺りもどうにかしなければならない問題だ。
「学園を留守にするのも心配なのよね……」
魔鉱石を採掘に行くとなると長期間学園を不在にすることになる。
とはいえ、王立学園では年に数回、研究発表しなければならない決まりがある。その調査のためと主張すれば、校外活動の申請は通る可能性が高いのだけど。
問題は婚約者であり上官であるハーベルが許可してくれるかどうかだった。
◇◆◇
「駄目だ」
すげなく却下されてしまい、リーチェは戸惑う。
「えっ、何故……?」
「危険だ。竜や魔物の巣窟にきみを送り出せない」
「危険は承知の上です」
「何故そうまでして行こうとする? 論文のためだけと言うならば、もっと簡単なテーマを選んでも良いんじゃないか?」
付与魔法を持続させるため、という理由では納得してもらえなかった。それはハーベルにとっても利点があることだろうに、彼にとってはリーチェが危険な目に合うことの方が避けたいらしい。
「……それは、そうなのですが……」
リーチェは言葉を濁した。
けれど、さすがに邪竜が復活してしまうから、と理由を正直に言うわけにはいかない。
ハーベルが心配してくれているのは嬉しかったが、いつか来る危険を回避するためには保守的なやり方だけでは難しい。マルクが事件の鍵となるペンダントを保有しているし、ハーベルに罪を着せることができなかったとしても、邪竜が復活してしまえば王都に住む人々に甚大な被害が出てしまうのだ。
リーチェがうまく説明ができずに苦心していると、ハーベルが降参したように嘆息した。
「……仕方ない。どうしてもと言うなら俺も行こう」
「えっ、ハーベル様もですか!?」
(そばで彼を守れるのは安心ではあるけど……さすがに王子を魔物のねぐらに連れて行くのは躊躇してしまう……)
「きみは俺が部下をみすみす危険な場所へ送るような男だと思っているのか? しかも婚約者である可憐な女性を」
(さらっと褒め言葉を混ぜ込んでくるのは止めてほしい……)
心の準備をしておらず、リーチェの顔面が熱を帯びる。
「しかし……」
「研究発表は科や学年が違っていても良いし、一人でもグループでも可能だ。俺は仮にも騎士団長だから、きみの役に立てるはずだ」
そこまで強く押されて断れるはずもなく……結局、リーチェはハーベルと共同研究をすることになったのだ。
ハーベルがリーチェ殺しの濡れ衣を着せられた後に起こることだ。
(マルクが身に着けているペンダントの存在が勝負を分ける……)
かつて、世界のあらゆる場所を破壊し、多くの死者をだして王都を混乱の渦に叩き落とした邪竜。
リーチェの祖父が率いる魔法士達がどうにか封じたが、それは不完全な封印だった。そのため封印が万が一弱まった時のための救済策として、邪竜の血を固めてペンダントを作ったのだ。
邪竜を封印してある神殿で、ペンダントの石に持ち主の血を垂らすことによって邪竜と契約できる。それを幼い日のマルクが知り、封印に参加した魔法士からペンダントを奪って口封じで殺したのだ。
マルクルートでは、ララとハーベルが親しくなっていくことにマルクが嫉妬する。そしてマルクがララを監禁し、彼女を開放することを条件に、ハーベルに邪竜の眠る神殿に向かわせる。あらかじめ小瓶に入れておいたマルクの血をハーベルの手でペンダントにかけさせ、マルクはハーベルに邪竜を復活させた。そしてマルクは遠距離から精神交流によって邪竜と契約したのだ。
マルクは邪竜と契約しておきながらそれを隠して勇者として邪竜と戦い、頃合いを見て邪竜を引っ込ませて倒したふりをして英雄と讃えられることになる。
そしてハーベルは邪竜が復活した時に目撃者がいたことが仇となり、邪竜を復活させた大罪人として投獄されてしまうのだ。
「何度思い返しても、ハーベル様が可哀想……」
マルクの腹黒さが嫌らしいし、ハーベルの気持ちを踏みにじる行為が心底不快だった。
ゲームの制作陣はマルクをヤンデレ扱いしているが、リーチェからしたら、彼はヤンデレというより、ただの性格の悪い粘着男である。
(マルクは手下と共に邪竜を倒し、人々から英雄だと称賛されて王太子に選ばれる。そしてハーベル様は囚人塔に入れられ、ひっそりと毒殺されてしまう……)
「……そんなことさせるものですか」
(でも、ペンダントはマルクが持っているとして、今の私に何ができるかしら……)
「邪竜を復活させないのが一番だけど……万が一にも復活してしまった時のために準備をしておいた方がいいわよね」
リーチェの記憶だと、邪竜が現れるのは今年の秋頃だ。まだ半年ほど時間がある。
「それまでに私ができることは……やっぱり付与魔法の強化かな」
今のままだと一時間ほどしか使えない。
もっと付与魔法の効力を上げたり持続時間を伸ばせないと邪竜には立ち向かえないだろう。
「付与魔法の効果を上げるためには、魔鉱石を使うのが一番だけど……」
魔鉱石には魔法を増幅させる力があることが分かっている。
家にある魔鉱石を使った実験では、付与魔法をかけると効果が長くなることも実証済だ。
魔法士なら誰もが一度は魔鉱石の利用を夢見るが、実現できた者はほとんどいない。
というのも、魔鉱石が採掘できる場所はたいてい竜や魔物の巣になっているためだ。
魔鉱石が生まれるには魔素と呼ばれる気体が必要なのだが、魔物も魔素を好む性質がある。
「……まぁ、それはどうにかなるか」
祖父との修行のおかげで、攻撃魔法が使えなくても大抵の魔物はかわせる自信があった。
しかし、大量に採掘するには自分一人の力ではどうにもならない。──とはいえ、さすがに一般人が魔物の巣に行くのは危険すぎるから、この辺りもどうにかしなければならない問題だ。
「学園を留守にするのも心配なのよね……」
魔鉱石を採掘に行くとなると長期間学園を不在にすることになる。
とはいえ、王立学園では年に数回、研究発表しなければならない決まりがある。その調査のためと主張すれば、校外活動の申請は通る可能性が高いのだけど。
問題は婚約者であり上官であるハーベルが許可してくれるかどうかだった。
◇◆◇
「駄目だ」
すげなく却下されてしまい、リーチェは戸惑う。
「えっ、何故……?」
「危険だ。竜や魔物の巣窟にきみを送り出せない」
「危険は承知の上です」
「何故そうまでして行こうとする? 論文のためだけと言うならば、もっと簡単なテーマを選んでも良いんじゃないか?」
付与魔法を持続させるため、という理由では納得してもらえなかった。それはハーベルにとっても利点があることだろうに、彼にとってはリーチェが危険な目に合うことの方が避けたいらしい。
「……それは、そうなのですが……」
リーチェは言葉を濁した。
けれど、さすがに邪竜が復活してしまうから、と理由を正直に言うわけにはいかない。
ハーベルが心配してくれているのは嬉しかったが、いつか来る危険を回避するためには保守的なやり方だけでは難しい。マルクが事件の鍵となるペンダントを保有しているし、ハーベルに罪を着せることができなかったとしても、邪竜が復活してしまえば王都に住む人々に甚大な被害が出てしまうのだ。
リーチェがうまく説明ができずに苦心していると、ハーベルが降参したように嘆息した。
「……仕方ない。どうしてもと言うなら俺も行こう」
「えっ、ハーベル様もですか!?」
(そばで彼を守れるのは安心ではあるけど……さすがに王子を魔物のねぐらに連れて行くのは躊躇してしまう……)
「きみは俺が部下をみすみす危険な場所へ送るような男だと思っているのか? しかも婚約者である可憐な女性を」
(さらっと褒め言葉を混ぜ込んでくるのは止めてほしい……)
心の準備をしておらず、リーチェの顔面が熱を帯びる。
「しかし……」
「研究発表は科や学年が違っていても良いし、一人でもグループでも可能だ。俺は仮にも騎士団長だから、きみの役に立てるはずだ」
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