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第二章
友人との休暇
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約束していた通り、ユージェニーがアイラ領に遊びにやって来た。
身分に関係なく、ここまで深い付き合いのある友人は初めてだ。ヴィクトリアはそわそわしながらユージェニーの到着を待っていたが、それは両親も同様だった。
クーデター騒ぎの時に随分と助けてもらったのを話していたため、父も母もユージェニーに対しては大きな好感を抱いている。どんなもてなしをしようか、客間の装飾は、食事の内容は、と楽しそうに話し合っていた。
馬車で到着したユージェニーは、公爵家総出の歓迎を受けて一瞬だけ戸惑ったが、すぐに微笑んで優雅に礼をした。
「ユージェニー・ソマーズ・デラリアと申します。温かい歓迎に感謝いたしますわ」
「よく来てくれたわ、ユージェニー。荷物はこれで全部かしら? 客間に運ばせるわ」
ユージェニーは侍女を二人連れていたが、その内の一人を荷物と一緒に客間に案内することにした。ヴィクトリアが使用人に指示を出している間、母のセルマが進み出る。
「ユージェニーさん、ようこそいらっしゃいました。セルマ・リーヴズ・アイラですわ。張り切っておもてなしさせていただくわね」
「アイラ公爵夫人、お会いできて光栄ですわ」
「ヴィクトリアとリアムの恩人だと聞いております。こちらこそ、会えて嬉しいわ」
セルマはにこやかにユージェニーの手を握った。
「こちらへどうぞ、お茶の準備をしているのよ。よろしければデラリア領のお話も聞かせていただきたいわ」
「ええ、喜んで」
ぐいぐいと迫るセルマに押されつつ、ユージェニーは笑顔で対応している。ちらっと向けられた視線で助けを求められた気がしたが、ヴィクトリアは黙って小さく首を振った。
母はヴィクトリア以上に活動的で情熱に溢れた人物だ。一度走り出したら父以外には止められないのだが、父は微笑ましくその暴走を見守るだけなので、結果的に最後まで走り切ってしまう。
母セルマの厄介なところは、事前に念入りな下調べと準備をきっちりと行うところだろうか。走り出す方向を間違えないので結果的には上手くいくのだが、周囲は振り回される。
「お母様、ユージェニーも馬車の旅で疲れておりますから」
「そうね、ゆっくりしてもらいましょう。さあ、こちらよ」
うきうきとユージェニーを招く母に、ヴィクトリアとリアムは苦笑を交わした。
「お母様がごめんなさい、ユージェニー」
「いえ……。驚きましたが、こんなに快く迎えていただいてとても嬉しいですわ」
歓迎会を兼ねた夕食を終え、ヴィクトリアはユージェニーを自室に招いた。少し疲れた様子ではあったが、食事自体は楽しんでくれたようだったのでホッとする。
あの学期末パーティーから二週間以上経っている。その間の近況報告をしたくて、ヴィクトリアは「二人で話したい」と母をどうにか押し留めることに成功した。
「デラリア領はどう? 立て直しは順調かしら」
「はい! ヴィクトリア様のお陰ですわ。水害を受けた地域への支援もうまく回っております」
ユージェニーの笑顔には少しの曇りもない。二年前の水害で農作物がダメージを受けたデラリア領だが、近頃は布製品や細工物の人気が高まり、そちらの税収でどうにか危機を凌いでいる。そろそろ農耕の方も復活し始めることだろう。
「私の話よりも、ヴィクトリア様ですわ。どうなったのです、例の件は」
ユージェニーが意味深に視線を向けるのは、壁際に立つリアムだ。見られたことに気付いたリアムが狼狽えるのに、ユージェニーは「あらあら」と口元を抑える。
「あの反応からすると?」
「ええ、お父様に許可をいただいたわ。わたくしの次の婚約者はリアムよ」
堂々と頷いたヴィクトリア。リアムは真っ赤になっているが、黙ったまま従者としての顔を崩さずにいる。
「おめでとうございますわ! 最後に聞いたのは、公爵閣下に婚約を却下されたという話でしたから、心配しておりましたの!」
「ありがとう、ユージェニー。でも、正式な婚約はまだなの」
「前の婚約が解消されてから、日が浅いですものね。仕方ありませんわ」
自分のことのように喜んでくれるユージェニーに、ヴィクトリアはふわりと顔を綻ばせた。
「ユージェニーはどうかしら。お相手探しは」
「なかなか難しいですわね。この年になると、良い方にはもう婚約者がいらっしゃることが多いですから」
「だったら、夜会用のドレスを持ってきてもらって正解だったわ。ユージェニーがいる間、お父様が我が屋敷で夜会を開いてくれるそうよ。わたくしの友人として招待するから、妙な男も寄って来ないはず」
「畏れ多いことですけど、ありがたいですわ」
ユージェニーも今は婚約者がいない。アイラ公爵家の縁戚と繋がりを持てるのは、彼女にとっても、またデラリア伯爵家にとっても益のある話であるはずだ。
少し安心したような顔をしたユージェニーは、けれどすぐに眉を下げた。
「お兄様が、私の婚約をすごく心配なさっていて。でも、ヴィクトリア様との縁を利用するのもおこがましい、ってずっと騒ぐんですのよ。お兄様はヴィクトリア様を崇拝してらっしゃるようで、もう、うるさいったら」
「わたくし、ユージェニーのお兄様とは面識がないはずだけど」
「ヴィクトリア様が我が領の布や細工物に支援してくださってから、ずっとこうなのです。最近では領地に像を建てるべきだとか馬鹿なことを言い出して、家族総出で止めた所ですわ」
「……それはさすがに困るわね」
渋い顔をしたヴィクトリアに、ユージェニーもこくこくと頷く。
「ヴィクトリア様は嫌がられるわ、と言ったらすぐに撤回なさったけれど。お兄様があんな調子では、ヴィクトリア様を我が家に招待するのを躊躇してしまいますわ……」
二人して困った顔を見合わせ、笑ってしまった。
それからしばらく話した後、ヴィクトリアは控えているリアムを見て、ふと思い出したことがあった。
「そうだわ、ユージェニー。ひとつ注意してほしいことがあるの」
「はい、なんでしょう?」
「三日ほど前だったかしら。ティールームで怪しい男に声をかけられたのよ。商人らしい恰好をしているけれど、振る舞いが貴族のようでちぐはぐな印象を受けたわ。商人のハーバートと名乗ったけれど、この数日で調べさせた結果では、そういった名前の商人が出入りした記録がどの店でも見つからなくて」
「それは……、確かに怪しいですわね」
「……他国の貴族が、お忍びで来ているのだとは思うわ。それで、その男。リアムにそっくりなのよ」
ユージェニーは目を丸くした。
彼女もリアムの生い立ちを知っている。すぐにヴィクトリアたちと同じ結論に至ったようだった。
「もしや、リアム卿を探して? 血縁の可能性があるということですか?」
「恐らくはね。最初も、わたくしではなくリアムに話しかけたから。その時は人目もあって拒絶したけれど、わざわざ別の国まで探しに来るような人が、それで諦めるとは思えないわ」
「では、私もアイラ領にいる間は、気を付けた方がよいのですね」
「ええ。わたくしと一緒にいたら、きっと遭遇するでしょう。目的がリアムだけとも限らないし、先に言っておかなくてはと思って」
生き別れの家族を探しにきただけならば、話し合いでどうとでもなるだろう。だが、身分を隠しているとなると、やはり別の目的があるのではないかと勘繰ってしまう。
第三王子が廃された直後、という時期も、どこか引っかかる。
「何もなければ、それでよいの。ただ、疑うだけ損は無いわ」
「そうですわね」
備えるに越したことはない。父も同じ意見だった。
ただ、巻き込まれるかもしれないユージェニーには申し訳なく思う。
何事もなければいいのに、という願いは、しかし往々にして叶わないものなのだ。
身分に関係なく、ここまで深い付き合いのある友人は初めてだ。ヴィクトリアはそわそわしながらユージェニーの到着を待っていたが、それは両親も同様だった。
クーデター騒ぎの時に随分と助けてもらったのを話していたため、父も母もユージェニーに対しては大きな好感を抱いている。どんなもてなしをしようか、客間の装飾は、食事の内容は、と楽しそうに話し合っていた。
馬車で到着したユージェニーは、公爵家総出の歓迎を受けて一瞬だけ戸惑ったが、すぐに微笑んで優雅に礼をした。
「ユージェニー・ソマーズ・デラリアと申します。温かい歓迎に感謝いたしますわ」
「よく来てくれたわ、ユージェニー。荷物はこれで全部かしら? 客間に運ばせるわ」
ユージェニーは侍女を二人連れていたが、その内の一人を荷物と一緒に客間に案内することにした。ヴィクトリアが使用人に指示を出している間、母のセルマが進み出る。
「ユージェニーさん、ようこそいらっしゃいました。セルマ・リーヴズ・アイラですわ。張り切っておもてなしさせていただくわね」
「アイラ公爵夫人、お会いできて光栄ですわ」
「ヴィクトリアとリアムの恩人だと聞いております。こちらこそ、会えて嬉しいわ」
セルマはにこやかにユージェニーの手を握った。
「こちらへどうぞ、お茶の準備をしているのよ。よろしければデラリア領のお話も聞かせていただきたいわ」
「ええ、喜んで」
ぐいぐいと迫るセルマに押されつつ、ユージェニーは笑顔で対応している。ちらっと向けられた視線で助けを求められた気がしたが、ヴィクトリアは黙って小さく首を振った。
母はヴィクトリア以上に活動的で情熱に溢れた人物だ。一度走り出したら父以外には止められないのだが、父は微笑ましくその暴走を見守るだけなので、結果的に最後まで走り切ってしまう。
母セルマの厄介なところは、事前に念入りな下調べと準備をきっちりと行うところだろうか。走り出す方向を間違えないので結果的には上手くいくのだが、周囲は振り回される。
「お母様、ユージェニーも馬車の旅で疲れておりますから」
「そうね、ゆっくりしてもらいましょう。さあ、こちらよ」
うきうきとユージェニーを招く母に、ヴィクトリアとリアムは苦笑を交わした。
「お母様がごめんなさい、ユージェニー」
「いえ……。驚きましたが、こんなに快く迎えていただいてとても嬉しいですわ」
歓迎会を兼ねた夕食を終え、ヴィクトリアはユージェニーを自室に招いた。少し疲れた様子ではあったが、食事自体は楽しんでくれたようだったのでホッとする。
あの学期末パーティーから二週間以上経っている。その間の近況報告をしたくて、ヴィクトリアは「二人で話したい」と母をどうにか押し留めることに成功した。
「デラリア領はどう? 立て直しは順調かしら」
「はい! ヴィクトリア様のお陰ですわ。水害を受けた地域への支援もうまく回っております」
ユージェニーの笑顔には少しの曇りもない。二年前の水害で農作物がダメージを受けたデラリア領だが、近頃は布製品や細工物の人気が高まり、そちらの税収でどうにか危機を凌いでいる。そろそろ農耕の方も復活し始めることだろう。
「私の話よりも、ヴィクトリア様ですわ。どうなったのです、例の件は」
ユージェニーが意味深に視線を向けるのは、壁際に立つリアムだ。見られたことに気付いたリアムが狼狽えるのに、ユージェニーは「あらあら」と口元を抑える。
「あの反応からすると?」
「ええ、お父様に許可をいただいたわ。わたくしの次の婚約者はリアムよ」
堂々と頷いたヴィクトリア。リアムは真っ赤になっているが、黙ったまま従者としての顔を崩さずにいる。
「おめでとうございますわ! 最後に聞いたのは、公爵閣下に婚約を却下されたという話でしたから、心配しておりましたの!」
「ありがとう、ユージェニー。でも、正式な婚約はまだなの」
「前の婚約が解消されてから、日が浅いですものね。仕方ありませんわ」
自分のことのように喜んでくれるユージェニーに、ヴィクトリアはふわりと顔を綻ばせた。
「ユージェニーはどうかしら。お相手探しは」
「なかなか難しいですわね。この年になると、良い方にはもう婚約者がいらっしゃることが多いですから」
「だったら、夜会用のドレスを持ってきてもらって正解だったわ。ユージェニーがいる間、お父様が我が屋敷で夜会を開いてくれるそうよ。わたくしの友人として招待するから、妙な男も寄って来ないはず」
「畏れ多いことですけど、ありがたいですわ」
ユージェニーも今は婚約者がいない。アイラ公爵家の縁戚と繋がりを持てるのは、彼女にとっても、またデラリア伯爵家にとっても益のある話であるはずだ。
少し安心したような顔をしたユージェニーは、けれどすぐに眉を下げた。
「お兄様が、私の婚約をすごく心配なさっていて。でも、ヴィクトリア様との縁を利用するのもおこがましい、ってずっと騒ぐんですのよ。お兄様はヴィクトリア様を崇拝してらっしゃるようで、もう、うるさいったら」
「わたくし、ユージェニーのお兄様とは面識がないはずだけど」
「ヴィクトリア様が我が領の布や細工物に支援してくださってから、ずっとこうなのです。最近では領地に像を建てるべきだとか馬鹿なことを言い出して、家族総出で止めた所ですわ」
「……それはさすがに困るわね」
渋い顔をしたヴィクトリアに、ユージェニーもこくこくと頷く。
「ヴィクトリア様は嫌がられるわ、と言ったらすぐに撤回なさったけれど。お兄様があんな調子では、ヴィクトリア様を我が家に招待するのを躊躇してしまいますわ……」
二人して困った顔を見合わせ、笑ってしまった。
それからしばらく話した後、ヴィクトリアは控えているリアムを見て、ふと思い出したことがあった。
「そうだわ、ユージェニー。ひとつ注意してほしいことがあるの」
「はい、なんでしょう?」
「三日ほど前だったかしら。ティールームで怪しい男に声をかけられたのよ。商人らしい恰好をしているけれど、振る舞いが貴族のようでちぐはぐな印象を受けたわ。商人のハーバートと名乗ったけれど、この数日で調べさせた結果では、そういった名前の商人が出入りした記録がどの店でも見つからなくて」
「それは……、確かに怪しいですわね」
「……他国の貴族が、お忍びで来ているのだとは思うわ。それで、その男。リアムにそっくりなのよ」
ユージェニーは目を丸くした。
彼女もリアムの生い立ちを知っている。すぐにヴィクトリアたちと同じ結論に至ったようだった。
「もしや、リアム卿を探して? 血縁の可能性があるということですか?」
「恐らくはね。最初も、わたくしではなくリアムに話しかけたから。その時は人目もあって拒絶したけれど、わざわざ別の国まで探しに来るような人が、それで諦めるとは思えないわ」
「では、私もアイラ領にいる間は、気を付けた方がよいのですね」
「ええ。わたくしと一緒にいたら、きっと遭遇するでしょう。目的がリアムだけとも限らないし、先に言っておかなくてはと思って」
生き別れの家族を探しにきただけならば、話し合いでどうとでもなるだろう。だが、身分を隠しているとなると、やはり別の目的があるのではないかと勘繰ってしまう。
第三王子が廃された直後、という時期も、どこか引っかかる。
「何もなければ、それでよいの。ただ、疑うだけ損は無いわ」
「そうですわね」
備えるに越したことはない。父も同じ意見だった。
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