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第一章
心から欲しいと願うもの
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「王太子殿下、わたくしの我が儘でお時間をいただき、ありがとうございます」
「構わない。ヴィクトリア嬢も鬱憤が溜まっているだろうと、陛下が仰っていたからな」
ヴィクトリアに与えられた時間はここまでだ。リアムにエスコートされ、壇上から降りる。
王太子は講堂全体に朗々と響く声で告げた。
「退学となった者はこの場で逮捕とする。裁判までは牢で過ごすように」
呆然自失のギルバートとポーラ以外が、「えっ」と口々に驚きの声を上げた。
まさか、退学だけで済むと思っていたのだろうか。今回の件はクーデターだと国王が認めたのだ。本格的に計画が動き出していたら、裁判などと言わずに処刑だった。
ただ国の上層部でも、学生の戯言だからと情状酌量を求める者と、クーデターと認めたならば厳罰に処すべきだという者で別れていると聞いている。裁判の結果次第では極刑もあり得るだろう。
今回退学になったのは、実際にアイラ公爵家の資金を横領したり、ヴィクトリアに手を出した者だけだ。ギルバートたちに何となく賛同しながらも、特に行動を起こさなかった者は目溢しされている。それだけでも、かなりの温情措置だ。
ただ、それぞれの家長にはすべての事情が説明されているため、各家でどのような処分が下されるかまではまだ分からない。
ここまで来たら、もうヴィクトリアには手の届かない話だ。
近くで待っていてくれていたユージェニーの所へ行くと、彼女はデリックをじっと見つめていた。
「ユージェニー?」
「ヴィクトリア様、デリックはどうなるのでしょう」
「まだ分からないけれど……、主犯二人にいろいろと吹き込んでいたようだから、どういう立場で計画に関わっていたのかが裁判の焦点になるのではないかしら。首謀者の一人と判断される可能性も十分にあるわ」
「そうですか……」
沈んだ面持ちに、実はまだデリックに未練があるのかと思ったが。
ユージェニーは困ったようにため息を吐いた。
「デリックのせいで、フィエン子爵は爵位返上を考えているらしいのです。そうなると、彼の弟との婚約話も消えてしまいますわ。もう最終学年ですのに、婚約者がいないなんて困りました。うちは兄が家を継ぎますから、いつまでも未婚の私がぶらさがっているわけには参りませんのよ。できればデラリアの商品を扱ってくれる、貿易や運送に強い家がいいですわね」
どこまでも逞しいユージェニーに、ヴィクトリアは笑ってしまった。
「良かったら、お父様に頼んで探していただきましょうか。アイラの縁戚に良い条件の令息が何人かいたはずよ」
「まあ、本当ですか? それはありがたいですわ」
王太子の号令で連れて行かれる罪人たちを見送りながら、ユージェニーは力強く言う。
「ヴィクトリア様が紹介してくださるなら、デリックみたいなクソ男には引っかからずに済みそうですもの」
「……ユージェニー、お口が悪くてよ」
二人でクスクス笑っている間に、学長がダンスパーティーの開始を宣言したようだった。それまで息をひそめていた生徒たちは、緊張から解放された明るい顔でパートナーと寄り添っている。
中には暗い顔をしている者もいるが、彼らの本番は今日家に帰ってからだろう。
「私はもうパートナーがいませんので、適当にお誘いを受けることにしますわ。ヴィクトリア様たちはどうぞ楽しんでください」
「……えっと?」
言われたことの意味が分からず、ヴィクトリアは何度か瞬きをした。ヴィクトリアのパートナーだったはずの男も、ついさっき連行されていったのだが。
ユージェニーは悪戯っぽく目を光らせ、あら、と声を弾ませた。そして、ヴィクトリアの耳元で囁く。
「真っ赤なドレスは、リアム卿の瞳の色でしょう? お二人で踊ればよろしいではありませんか。今のお二人なら、誰も疑問には思いませんことよ」
取り繕う間もなく、顔が熱くなったのが分かった。視界の端でリアムが不思議そうにしているが、そちらを見ることができない。
もちろん、そのつもりで赤い色を選び、特急でドレスを作ってもらったのだ。だが、こうして口に出して指摘されると恥ずかしくなる。
それに、リアムの方がどう思っているかなど、ヴィクトリアには分からない。忠誠心が突き抜けていることは知っているが、それは恋愛感情とはまた違うだろう。
もじもじと視線を落としたヴィクトリアに、ユージェニーは呆れた声を出した。
「ヴィクトリア様、そちらに関しては随分と初心ですのねえ」
「う、うるさいわよ」
「まあ、知っておりましたが。では少々お待ちくださいね」
「えっ、ユージェニー!?」
さっさとヴィクトリアから離れたユージェニーは、控えていたリアムを手招いて何事かを小声で吹き込んでいる。リアムはハッとした顔になって、ヴィクトリアを見た。
(な、なに。何を言ったのユージェニー)
ユージェニーに追い立てられたリアムが、おずおずとヴィクトリアの前に出てきて、跪いた。差し出された手が小さく震えている。
「ヴィクトリアお嬢様、その」
「ええ、はい」
「ユージェニー嬢が、お嬢様がダンスパーティーで誰とも踊らないのはアイラ家の恥だとおっしゃられて」
「そ、そうね。でも今日は状況が特殊だから、そこまで気にしなくても」
「それで、きっと相手のいない令息がダンスを申し込んでくるはずだと」
リアムはぎゅっと眉を寄せて、思い詰めたような表情になった。
「ですから……、その前に、私と踊ってくださいませんか……?」
ヴィクトリアは小さく息を呑んだ。
「……ユージェニーに、わたくしを誘えと言われたの?」
「い、いいえ」
「そう、それなら……。喜んで、お受けしますわ、リアム」
リアムの手を取ると、彼は少しだけ目を見開いた後、ふわりと笑った。幸せそうな、けれどどこか儚い笑みだ。
「ありがとう、ございます」
噛み締めるようにそう言って、リアムはヴィクトリアを講堂の真ん中まで誘《いざな》った。
するすると周りの生徒が場所を空ける。ヴィクトリアはリアムと向かい合って、二人でダンスを踊るのは初めてだったと思い出した。
リアムの手が腰に添えられる。もう震えてはいなかった。
音楽に合わせて一歩を踏み出す。何もせずともぴったりと息が合った。くるくる、くるくると、思い通りに体が動く。
ステップを踏みながら、ヴィクトリアは笑い声を零した。
「ふふっ」
「お嬢様?」
「リアムって、ダンスが上手かったのね」
「そうでしょうか。普段は踊らないので、あまり自信が……」
嘆くような声に、誘うのをあんなに躊躇っていた理由が分かった。
ステップと一緒に心も軽くなる。こんなに楽しいダンスは今までになかった。
ふわふわとした気分のまま、固い顔をしているリアムに微笑みかけた。
「ねえリアム、好きよ」
「はい、ありがとうございます」
「そうじゃなくて」
ユージェニーが言っていた通りだ。ヴィクトリアはずっと前から、リアムのことを愛していた。
好きという言葉に乗せた心が同じなのだから、そう簡単に伝わるはずもない。
「どういう意味か分かって返事をしているの?」
「……えっ」
リアムの足元が狂った。
「お、お嬢様、それは、その」
「なあに?」
「つまり俺のこと、いや、私のこと……?」
あまりにも動揺しているリアムがおかしくて、笑いが止まらない。ずっと笑っているヴィクトリアにムッとしたのか、リアムはさっとヴィクトリアの腰を掴んだ。
「きゃ」
突然持ち上げられ、くるりとターンする。それでも二人の呼吸は乱れない。真っ赤なドレスの裾が広がって、落ち着いた。
「お戯れが過ぎます、お嬢様」
「からかってなんかいないわよ? わたくしの本心だもの」
音楽が終わって、ヴィクトリアたちは足を止めた。向かい合ったまま、リアムは沈黙する。
こんなにも動揺してくれるのなら、期待してもいいのだろうか。勢いのまま告白してしまったけれど。
徐々に不安が湧き上がって来たヴィクトリアは、きゅっと唇を引き結んでリアムを見上げた。
ダンスの高揚感にあてられてしまった。リアムの気持ちが分からないからと怖気づいて、ユージェニーに呆れられたばかりだというのに。
「あの、お嬢様」
リアムが慌てたように口を開いて、そのまま停止した。
「……言って、リアム」
うろ、と視線を彷徨わせてから、リアムはゆっくりと話し始める。
「私は、お嬢様に拾っていただいてから、ずっと……。この心を、ヴィクトリアお嬢様に捧げています」
「知っているわ」
「だから……、愛も、情も、敬意も、忠誠も、すべてここに。すべてがお嬢様のものです。……その、恋も」
ほとんど消え入るような声だったが、確かに聞こえた。
「私はずっと、お嬢様だけのものです。だから、お嬢様が望む何者にもなれます。忠実な従者でも、愛情深い恋人でも」
「リアム」
「欲しいものは何でもおっしゃってください。あなたが美しいと思うもの、欲しいと願うもの、どんな手を使っても私が用意します。……ただ、私自身がその一番でありたいと、強欲にもそう思ってしまいます。従者の身で、許されることではないと分かっていますが」
言い募るリアムを見ていると、胸がどきどきしてたまらなかった。最初は目元だけがほんのりと赤らんでいたのが、今では首まで真っ赤だ。それがかわいくて、苦しくて、ヴィクトリアは指でリアムの口を塞いだ。
「まどろっこしいわ。リアム、つまり?」
「……お慕いしております、ヴィクトリアお嬢様」
悩ましげな吐息が、ヴィクトリアの指を撫でた。
ええ、と。ヴィクトリアは晴れやかな気分で頷いた。
「心配しなくても、わたくしの一番はリアムよ。だから……」
この世で最も美しいと思うものを、手に入れるために。
「わたくしにもできることがあると、証明させてくれる?」
「構わない。ヴィクトリア嬢も鬱憤が溜まっているだろうと、陛下が仰っていたからな」
ヴィクトリアに与えられた時間はここまでだ。リアムにエスコートされ、壇上から降りる。
王太子は講堂全体に朗々と響く声で告げた。
「退学となった者はこの場で逮捕とする。裁判までは牢で過ごすように」
呆然自失のギルバートとポーラ以外が、「えっ」と口々に驚きの声を上げた。
まさか、退学だけで済むと思っていたのだろうか。今回の件はクーデターだと国王が認めたのだ。本格的に計画が動き出していたら、裁判などと言わずに処刑だった。
ただ国の上層部でも、学生の戯言だからと情状酌量を求める者と、クーデターと認めたならば厳罰に処すべきだという者で別れていると聞いている。裁判の結果次第では極刑もあり得るだろう。
今回退学になったのは、実際にアイラ公爵家の資金を横領したり、ヴィクトリアに手を出した者だけだ。ギルバートたちに何となく賛同しながらも、特に行動を起こさなかった者は目溢しされている。それだけでも、かなりの温情措置だ。
ただ、それぞれの家長にはすべての事情が説明されているため、各家でどのような処分が下されるかまではまだ分からない。
ここまで来たら、もうヴィクトリアには手の届かない話だ。
近くで待っていてくれていたユージェニーの所へ行くと、彼女はデリックをじっと見つめていた。
「ユージェニー?」
「ヴィクトリア様、デリックはどうなるのでしょう」
「まだ分からないけれど……、主犯二人にいろいろと吹き込んでいたようだから、どういう立場で計画に関わっていたのかが裁判の焦点になるのではないかしら。首謀者の一人と判断される可能性も十分にあるわ」
「そうですか……」
沈んだ面持ちに、実はまだデリックに未練があるのかと思ったが。
ユージェニーは困ったようにため息を吐いた。
「デリックのせいで、フィエン子爵は爵位返上を考えているらしいのです。そうなると、彼の弟との婚約話も消えてしまいますわ。もう最終学年ですのに、婚約者がいないなんて困りました。うちは兄が家を継ぎますから、いつまでも未婚の私がぶらさがっているわけには参りませんのよ。できればデラリアの商品を扱ってくれる、貿易や運送に強い家がいいですわね」
どこまでも逞しいユージェニーに、ヴィクトリアは笑ってしまった。
「良かったら、お父様に頼んで探していただきましょうか。アイラの縁戚に良い条件の令息が何人かいたはずよ」
「まあ、本当ですか? それはありがたいですわ」
王太子の号令で連れて行かれる罪人たちを見送りながら、ユージェニーは力強く言う。
「ヴィクトリア様が紹介してくださるなら、デリックみたいなクソ男には引っかからずに済みそうですもの」
「……ユージェニー、お口が悪くてよ」
二人でクスクス笑っている間に、学長がダンスパーティーの開始を宣言したようだった。それまで息をひそめていた生徒たちは、緊張から解放された明るい顔でパートナーと寄り添っている。
中には暗い顔をしている者もいるが、彼らの本番は今日家に帰ってからだろう。
「私はもうパートナーがいませんので、適当にお誘いを受けることにしますわ。ヴィクトリア様たちはどうぞ楽しんでください」
「……えっと?」
言われたことの意味が分からず、ヴィクトリアは何度か瞬きをした。ヴィクトリアのパートナーだったはずの男も、ついさっき連行されていったのだが。
ユージェニーは悪戯っぽく目を光らせ、あら、と声を弾ませた。そして、ヴィクトリアの耳元で囁く。
「真っ赤なドレスは、リアム卿の瞳の色でしょう? お二人で踊ればよろしいではありませんか。今のお二人なら、誰も疑問には思いませんことよ」
取り繕う間もなく、顔が熱くなったのが分かった。視界の端でリアムが不思議そうにしているが、そちらを見ることができない。
もちろん、そのつもりで赤い色を選び、特急でドレスを作ってもらったのだ。だが、こうして口に出して指摘されると恥ずかしくなる。
それに、リアムの方がどう思っているかなど、ヴィクトリアには分からない。忠誠心が突き抜けていることは知っているが、それは恋愛感情とはまた違うだろう。
もじもじと視線を落としたヴィクトリアに、ユージェニーは呆れた声を出した。
「ヴィクトリア様、そちらに関しては随分と初心ですのねえ」
「う、うるさいわよ」
「まあ、知っておりましたが。では少々お待ちくださいね」
「えっ、ユージェニー!?」
さっさとヴィクトリアから離れたユージェニーは、控えていたリアムを手招いて何事かを小声で吹き込んでいる。リアムはハッとした顔になって、ヴィクトリアを見た。
(な、なに。何を言ったのユージェニー)
ユージェニーに追い立てられたリアムが、おずおずとヴィクトリアの前に出てきて、跪いた。差し出された手が小さく震えている。
「ヴィクトリアお嬢様、その」
「ええ、はい」
「ユージェニー嬢が、お嬢様がダンスパーティーで誰とも踊らないのはアイラ家の恥だとおっしゃられて」
「そ、そうね。でも今日は状況が特殊だから、そこまで気にしなくても」
「それで、きっと相手のいない令息がダンスを申し込んでくるはずだと」
リアムはぎゅっと眉を寄せて、思い詰めたような表情になった。
「ですから……、その前に、私と踊ってくださいませんか……?」
ヴィクトリアは小さく息を呑んだ。
「……ユージェニーに、わたくしを誘えと言われたの?」
「い、いいえ」
「そう、それなら……。喜んで、お受けしますわ、リアム」
リアムの手を取ると、彼は少しだけ目を見開いた後、ふわりと笑った。幸せそうな、けれどどこか儚い笑みだ。
「ありがとう、ございます」
噛み締めるようにそう言って、リアムはヴィクトリアを講堂の真ん中まで誘《いざな》った。
するすると周りの生徒が場所を空ける。ヴィクトリアはリアムと向かい合って、二人でダンスを踊るのは初めてだったと思い出した。
リアムの手が腰に添えられる。もう震えてはいなかった。
音楽に合わせて一歩を踏み出す。何もせずともぴったりと息が合った。くるくる、くるくると、思い通りに体が動く。
ステップを踏みながら、ヴィクトリアは笑い声を零した。
「ふふっ」
「お嬢様?」
「リアムって、ダンスが上手かったのね」
「そうでしょうか。普段は踊らないので、あまり自信が……」
嘆くような声に、誘うのをあんなに躊躇っていた理由が分かった。
ステップと一緒に心も軽くなる。こんなに楽しいダンスは今までになかった。
ふわふわとした気分のまま、固い顔をしているリアムに微笑みかけた。
「ねえリアム、好きよ」
「はい、ありがとうございます」
「そうじゃなくて」
ユージェニーが言っていた通りだ。ヴィクトリアはずっと前から、リアムのことを愛していた。
好きという言葉に乗せた心が同じなのだから、そう簡単に伝わるはずもない。
「どういう意味か分かって返事をしているの?」
「……えっ」
リアムの足元が狂った。
「お、お嬢様、それは、その」
「なあに?」
「つまり俺のこと、いや、私のこと……?」
あまりにも動揺しているリアムがおかしくて、笑いが止まらない。ずっと笑っているヴィクトリアにムッとしたのか、リアムはさっとヴィクトリアの腰を掴んだ。
「きゃ」
突然持ち上げられ、くるりとターンする。それでも二人の呼吸は乱れない。真っ赤なドレスの裾が広がって、落ち着いた。
「お戯れが過ぎます、お嬢様」
「からかってなんかいないわよ? わたくしの本心だもの」
音楽が終わって、ヴィクトリアたちは足を止めた。向かい合ったまま、リアムは沈黙する。
こんなにも動揺してくれるのなら、期待してもいいのだろうか。勢いのまま告白してしまったけれど。
徐々に不安が湧き上がって来たヴィクトリアは、きゅっと唇を引き結んでリアムを見上げた。
ダンスの高揚感にあてられてしまった。リアムの気持ちが分からないからと怖気づいて、ユージェニーに呆れられたばかりだというのに。
「あの、お嬢様」
リアムが慌てたように口を開いて、そのまま停止した。
「……言って、リアム」
うろ、と視線を彷徨わせてから、リアムはゆっくりと話し始める。
「私は、お嬢様に拾っていただいてから、ずっと……。この心を、ヴィクトリアお嬢様に捧げています」
「知っているわ」
「だから……、愛も、情も、敬意も、忠誠も、すべてここに。すべてがお嬢様のものです。……その、恋も」
ほとんど消え入るような声だったが、確かに聞こえた。
「私はずっと、お嬢様だけのものです。だから、お嬢様が望む何者にもなれます。忠実な従者でも、愛情深い恋人でも」
「リアム」
「欲しいものは何でもおっしゃってください。あなたが美しいと思うもの、欲しいと願うもの、どんな手を使っても私が用意します。……ただ、私自身がその一番でありたいと、強欲にもそう思ってしまいます。従者の身で、許されることではないと分かっていますが」
言い募るリアムを見ていると、胸がどきどきしてたまらなかった。最初は目元だけがほんのりと赤らんでいたのが、今では首まで真っ赤だ。それがかわいくて、苦しくて、ヴィクトリアは指でリアムの口を塞いだ。
「まどろっこしいわ。リアム、つまり?」
「……お慕いしております、ヴィクトリアお嬢様」
悩ましげな吐息が、ヴィクトリアの指を撫でた。
ええ、と。ヴィクトリアは晴れやかな気分で頷いた。
「心配しなくても、わたくしの一番はリアムよ。だから……」
この世で最も美しいと思うものを、手に入れるために。
「わたくしにもできることがあると、証明させてくれる?」
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