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第一章

Ⅲ 「軍議」

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 あれから、数回、勇者の襲来があった。悉く魔王様が撃退し、事無きを得ている。やはり魔王様は凄い。勇者との闘いを経て、更に強くなられている。我ら六魔将も真の力を求められた時の為に、今まで以上に修練に励んでいる。意外なことに、その修練に一番熱心なのがあのオードだ。また勇者に挑みかかる気かと心配したが、あれ以来、魔王様の待機命令におとなしく従っている。

 物思いにふけるガイの表情が暗くなる。皮肉にも勇者の襲来により、魔軍の士気はここ数百年で最も高まっている言っていい。魔王様や六魔将の力も増している。これまで任務以外でほとんど口も聞かなかった魔将達の結束も強くなっている。

 勇者リーバ。いや、奴は自らを勇者と名乗らなかったか。人の身でありながら、復活を果たし、魔軍に挑み続ける者。問題はその尋常ではない成長速度だ。皆、口には出さないが、あの者の力は既に六魔将を超えつつある。魔王様もあの強さの域に達して尚強くなられているのは驚愕しかないが・・・もしかして、あの勇者の成長速度はそれよりも・・・いや、やめよう。

 初めて言われた時は疑問しかなかったが、我らが真の力で魔王様をお護りする時があるのかもしれない。私もオードに負けないよう修練に励むとしよう。


 「・・・ガイ。どう思う?・・・ん?聞こえておるのかガイ?」

「し、失礼しました!少し考え事を。」

「ははは、お前にしては珍しいな。」

「本当に。ガイ殿は少しお疲れのようでありんすね。」
そう言って妖艶な笑みを浮かべるのは、輪環の魔将リーン。魔将随一の魔力を持つ魔女。通常の魔法の威力も凄まじいが、戦輪(チャクラム)と呼ばれる円盤状の刃に魔力を込め、それを無数に飛ばし自在に操る、全方位からの攻撃を得意とする。

「ガイ殿は働き過ぎなのよねぇ。魔王様もですけど。」
宝飾の魔将ネレスも続く。宝玉の瞳、水晶の肌。全身が一つの煌びやかに彩られた至高の美術品のような姿。魔軍が誇るもう一人の魔女。幻惑系の魔法で敵うものはなく、その身に攻撃を届かせることすら至難である。

 二人は魔将の中でも知恵者で通っている。この二人も交え、勇者の進軍ルートから復活地点について議論が続いていた。

 勇者はこちらの意図に気付いているのか、毎回、微妙に違うルートを使って進軍してきていた。使用している街道から、人間の勢力圏にある三つの国まで絞られたが特定に至っていない。それどころか、勇者が人間の国から何らかの援助を受けている場面はこれまで一度として確認されていない。

「いっそ、人間の国を滅ぼしてしまえばいいではないか。」
両拳を突き合わせて、拳の魔将トレッドが言う。敢えて武器を用いず、その拳で全てを粉砕する。オードに並ぶ、魔軍における攻撃面の要。

「おお、トレッド!気が合うな!」
オードも続く。この二人は相変わらず好戦的に過ぎる。

「二人ともよせ・・・。それならばとっくに魔王様から指令が下っておるわ。魔王様が今、我らに求められておるのはそういうことではない・・・。」
闇影の魔将ローグが間に入る。シャドウと呼ばれる実体なきガス状の生命体。相手の影に潜み、気付かれずに必殺の一撃を放つ、ある意味では魔軍最強の男。かつて魔王様に挑んだ最後の魔族でもある。暗殺が得意だが、今では魔王様に心酔し、戦う際には自らの能力を暴露した上で戦いに臨む。潔い暗殺を暗殺と呼んでいいのかは疑問だが、魔王様は気に入られたのか、魔力を帯びた伸縮自在の漆黒の布を贈られている。その布を器用に体に巻き付けているお陰で、我々にもローグの姿が認識できる。この布は攻撃にも用いるらしいが、私はまだ見たことがない。


 魔王様と六魔将が全員で顔を突き合わせて尚、答えが出ぬまま、時間だけが過ぎる。今日も進展なしかと思われたが、リーンが何かに思い至ったのか、ネレスと何やら小声で話をしている。ネレスも頷いた。

「魔王様、少し考え方を変えてみたんでありんすが・・・。」

「申してみよ。」

「ありえないと、笑わないでおくんなましね?我々は今迄、勇者の復活地点を人間の国のどこかだと思ってきたわけでありんすが・・・」
リーンの指先が踊り、地図に描かれた勇者の進軍ルートに器用に魔力で線を引いていく。

「我らが発見した、更にもっと奥・・・。」
リーンは勇者が発見された地点から、魔軍の城とは逆方向に、街道沿いに次々と線を引いていく。その線は人間の国からどんどん離れていく。

「あ・・・!」
思わずガイの口から声が漏れる。確かに・・・。いや、しかしあり得るのか?

その引かれた線の終着は、どれも妖精の森近くに辿りついていた。

~つづく~

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