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序章
Ⅰ 不屈(たおれぬもの)
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千年もの間、君臨し続ける魔王がいた。超一流の剣技に、圧倒的な魔力を備え、修練も怠らない。魔族ながら武神とも称される力をもって、数多の勇者をことごとく退け、魔王の中の魔王と呼ばれる存在。
しかし、その魔王の時代は、一人の、「不屈(たおれぬもの)」と呼ばれた勇者によって終わりを告げようとしていた。
---ギィィンッ!
鈍く重い金属音が静まり返った部屋に響き渡る。魔王の頬に一筋、冷たい汗が流れた。
「よくもここまで・・・」
初めは、こうではなかった。比較的浅い階層の守護者によって撃退の報告を受けた。勇者とは名ばかりの、勇気と蛮勇を履き違えた者の末路。この千年で幾度となく受けた報告だった。違うのはその後だった。しばらく経って、倒したはずの勇者がまた現れたとの報告を受けた。以前勇者を退けた守護者を倒し、更に進撃を続けているという。
「(単身乗り込んだと見せて、サポーターがいたということか?厄介なことだ)」
魔王城に繋がる見通しの良い一本道まで一度兵を退かせ、そこで迎え撃つ様に指示を出す。程なくして、城門を守る魔門兵が放った業火の魔法により討伐は完了したとの報告を受ける。サポーターの存在は遂に確認できなかった。が、死体は遂に発見されなかった。人間の体は脆い。業火の魔法により骨ごと焼き尽くされても不思議はない。が、装備品の破片すら残らないというのは解せない。報告によれば、勇者の装備は魔石が埋め込まれ強化された最上級の物だ。私は一抹の不安を覚えた。
数ヵ月後、勇者来襲との一報を受け、耳を疑った。身体的特徴が二度倒したはずの勇者と同じだったからだ。魔門兵がしくじったのか?いや、そんなことはあり得ない。更に力をつけ、城門を突破する勢いだと言う。私は魔軍を統べる六人の魔将に討伐を命じた。
程なくして勇者を討伐したという報告を受けた。が、やはり死体は残らなかった。
最後の一撃を加えた魔将より信じられない報告を受ける。勇者の首を刎ねた瞬間、霧のように消えたというのだ。一体どういうことだ。転移魔法の類ではないことは確かだ。
それから、数カ月に一度、その勇者の襲撃を受けるようになった。どうやって帰還しているかの謎は依然解けぬままだ。しかも勇者はどんな修練を積んでいるのか、来るたびに力を増している。その都度、勇者を退けたものの、遂に魔将まで傷を負うようになった。
魔軍の中でも高い知性を持つ上位の者は全て魔王の支配下にある。魔王の魔力の供給を受ければ復活も可能だ。が、部下をことごとくやられるというのはお世辞にも気分が良いものではない。私はその勇者が現れても無理に手出しせず、謁見の間まで連れてくるように命じた。当然、魔将達からは猛反発を受けたが、いざというときは、「真の姿」で私を守るように命じることで納得させた。
思った通り、勇者は道を塞がぬ限り、無用な殺戮を行わなかった。その振る舞いに敵ながら好感をもった。人間は相手が弱いと見るや執拗に襲ってくる者も多い。勇者にも武人の心があるのだ。
遂に勇者と対面した。威風堂々たる佇まいは正に勇者。が、力の差は歴然だった。私は一太刀で勇者を斬り伏せた。
・・・その筈だ。確かに手応えはあった。床には勇者から噴き出した赤いものがそこら中に飛び散っている。・・・が、やはり死体はない。私は勇者の再訪を確信した。
信じがたい事だが、勇者は人の身でありながら、何らかの方法で復活していることは間違いない。私は配下の魔物たちに、勇者の復活地点の特定を命じた。
~つづく~
しかし、その魔王の時代は、一人の、「不屈(たおれぬもの)」と呼ばれた勇者によって終わりを告げようとしていた。
---ギィィンッ!
鈍く重い金属音が静まり返った部屋に響き渡る。魔王の頬に一筋、冷たい汗が流れた。
「よくもここまで・・・」
初めは、こうではなかった。比較的浅い階層の守護者によって撃退の報告を受けた。勇者とは名ばかりの、勇気と蛮勇を履き違えた者の末路。この千年で幾度となく受けた報告だった。違うのはその後だった。しばらく経って、倒したはずの勇者がまた現れたとの報告を受けた。以前勇者を退けた守護者を倒し、更に進撃を続けているという。
「(単身乗り込んだと見せて、サポーターがいたということか?厄介なことだ)」
魔王城に繋がる見通しの良い一本道まで一度兵を退かせ、そこで迎え撃つ様に指示を出す。程なくして、城門を守る魔門兵が放った業火の魔法により討伐は完了したとの報告を受ける。サポーターの存在は遂に確認できなかった。が、死体は遂に発見されなかった。人間の体は脆い。業火の魔法により骨ごと焼き尽くされても不思議はない。が、装備品の破片すら残らないというのは解せない。報告によれば、勇者の装備は魔石が埋め込まれ強化された最上級の物だ。私は一抹の不安を覚えた。
数ヵ月後、勇者来襲との一報を受け、耳を疑った。身体的特徴が二度倒したはずの勇者と同じだったからだ。魔門兵がしくじったのか?いや、そんなことはあり得ない。更に力をつけ、城門を突破する勢いだと言う。私は魔軍を統べる六人の魔将に討伐を命じた。
程なくして勇者を討伐したという報告を受けた。が、やはり死体は残らなかった。
最後の一撃を加えた魔将より信じられない報告を受ける。勇者の首を刎ねた瞬間、霧のように消えたというのだ。一体どういうことだ。転移魔法の類ではないことは確かだ。
それから、数カ月に一度、その勇者の襲撃を受けるようになった。どうやって帰還しているかの謎は依然解けぬままだ。しかも勇者はどんな修練を積んでいるのか、来るたびに力を増している。その都度、勇者を退けたものの、遂に魔将まで傷を負うようになった。
魔軍の中でも高い知性を持つ上位の者は全て魔王の支配下にある。魔王の魔力の供給を受ければ復活も可能だ。が、部下をことごとくやられるというのはお世辞にも気分が良いものではない。私はその勇者が現れても無理に手出しせず、謁見の間まで連れてくるように命じた。当然、魔将達からは猛反発を受けたが、いざというときは、「真の姿」で私を守るように命じることで納得させた。
思った通り、勇者は道を塞がぬ限り、無用な殺戮を行わなかった。その振る舞いに敵ながら好感をもった。人間は相手が弱いと見るや執拗に襲ってくる者も多い。勇者にも武人の心があるのだ。
遂に勇者と対面した。威風堂々たる佇まいは正に勇者。が、力の差は歴然だった。私は一太刀で勇者を斬り伏せた。
・・・その筈だ。確かに手応えはあった。床には勇者から噴き出した赤いものがそこら中に飛び散っている。・・・が、やはり死体はない。私は勇者の再訪を確信した。
信じがたい事だが、勇者は人の身でありながら、何らかの方法で復活していることは間違いない。私は配下の魔物たちに、勇者の復活地点の特定を命じた。
~つづく~
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