上 下
18 / 48
第二章 安土桃山時代編

疑惑の愛宕山連歌会

しおりを挟む
「信長さま、こうでしょうか?」

 明智光秀は式鬼≪銀鋼シロガネ ゼロ≫に乗り込み、機体を三回転させて天に向って拳を突き上げた。

「まあまあだな。悪くないぞ。それが<トリプルアクセル 天龍昇>という技だ」

 信長は光秀の成長に対して、満足げにうなづいた。

(あれ、また、いろいろとイケない動画を見たんでしょうかね?)

 安東要は興味深げにささやいた。

(自分の子孫の演技は間違いなく見てるようじゃ。最後の奴は適当だろう)

 晴明はいい加減な推理で断言した。

「だが、光秀、わしにはとっておきがあるのじゃ。<スクエアアクセル! 超天龍昇!> しかも、これを技を発動すれば10秒間無敵タイムで、さらに動く速さが通常の4倍になるのじゃ!」

 信長は四回転ジャンプから、超天龍昇を放っていた。

(あれ、何か混じってません? 普通は四回転ジャンプとか、クアドループジャンプというのが正式名称のはず?)

 安東要が鋭い突っ込みをした。

(たぶん、あれは英霊とかでバトルするあれとか、機動なんとかが混じっておる。もう何が元ネタか解らないというある意味、オリジナル必殺技じゃな)

 清明が何を言いたいかは、かなりのアニメオタクしか解らない話であった。

「信長さま、私も動画を見ていて、実は必殺技を思いつきました」

 明智光秀は黒い碁石のようなものを自分の周囲にばら撒いて、刀を地面に突き刺した。
 黒い石は光秀を中心に同心円状に広がり、まるで光秀を護る守護陣のようだった。
 光秀の愛刀は備前近景びぜんちかかげで、備前は日本刀の聖地と言われ、護り刀としてほとんどの武将が所持していた。日本刀の約半分が備前刀といわれている。

「これが攻防一体の技<黒石陣>です。この黒い霊石は姿の見えない敵に反応して炙り出し、攻撃は背中の銃<種子島>で行います」

 光秀は得意げに技の解説をした。

「光秀、おぬしもやるようになったの。なかなかじゃな」

 信長は光秀の工夫に満足げにうなづく。

(あれもわかる人には解るし、なかなか高度なネタだな。しかも、技の弱点を克服する工夫もされている。ハイセンスオタクにしか解らない技と言えよう)

 晴明が説明してくれたが、そもそも意味がわからない。

(僕も何が何だか分からなくなってきました。確か、車〇〇〇の風〇の〇〇〇ですかね?)

 メガネ君が謎解きに加わる。

(そのあたりじゃな。明智光秀は清和源氏、清和天皇の流れを汲む武家の名門で美濃で栄えた土岐氏の末裔じゃ。土岐氏は一介の油売り斉藤道三に国を乗っ取られて、光秀は道三に仕えていたが、弘治2年〔1556年〕に長良川の戦い〔道三、義龍父子の争い〕で義龍に明智城を攻められ一族が離散して、その後、越前の朝倉義景に10年間仕え、将軍足利義昭に仕えたり、信長に見出されるまでは結構、大変な人生を歩んでいる。で、明智光秀の先祖に源頼光みなもとのよりみつという武将がいて、藤原保昌ふじわらのほうしょうと四天王 の渡辺綱わたなべつな坂田公時さかたきんとき碓井貞光うすいさだみつ卜部季武うらべすえたけなどと大江山の酒呑童子討伐したり、土蜘蛛を退治したり、京都の一条戻り橋で鬼を切ったりと妖怪バスターズ的活躍をしている。ちなみに、坂田公時さかたきんときは相模国の足柄山でクマと相撲を取ったという金太郎だけど、その怪力無双の噂を聞いた源頼光みなもとのよりみつがスカウトしたらしい。明智光秀は結構、正当な源氏の血筋で、実は<天鴉アマガラス>の剣の民かもしれないということじゃな。しかも、妖怪バスターズ的能力も秘めてるということじゃ。それはともかく、この福知山市の大江山の酒呑童子討伐ルートと、明智光秀の本能寺進軍ルートがぴったり重なるんじゃ。どちらも京都から北西の方向で『老の坂』を必ず通るのだが、古代からここは関所があったり、交通の要衝でもある)

 晴明はここでお茶をすすって一息入れた。
 声だけの存在の神霊のはずだが、実体があるのかもしれない。

(それはどういことなんですか?)

 安東要はちょっと身を乗り出した。

(まあ、単ある偶然とも言えるが、6月2日の本能寺の変の数日前、5月27日に明智光秀は愛宕山の勝軍地蔵しょうぐんじぞうに戦勝祈願に向かっておみくじを何回も引いていたりする。一説においては凶ばかりでたとか。そして、28日に愛宕百韻の連歌会であの有名な『ときは今天が下しる五月哉』という発句を詠むことになる)

 晴明の話をメガネ君が引き継ぐ。

(明智光秀が本能寺の変を起こす決意を詠んだという句ですね。『ときは今天が下しる五月哉』は『土岐氏の末裔である光秀がまさに今天下を治める五月になった』という意味に解釈されていますね。その続きは『水上まさる庭の夏山』行祐という句で光秀の決意に念を押し、『花落つる池の流れをせきとめて』紹巴と詠まれて、当時の人気連歌師の紹巴が「暗殺計画は失敗するのでやめた方がいい」と忠告したという解釈もあるといいますね)

(そうじゃ、連歌師の紹巴は後に本能寺の変を察知しながら報告しなかったと秀吉から詰問され、自らの日記を改ざんして『ときは今天が下なる五月哉』という5月の情景を詠んだ句だったと弁明した。連歌や和歌は暗号を含んでいて、過去の出来事と重ねあわせることによって、余人に知られることなく真意を伝えることができるという。その解釈の秘伝を伝えたものを『古今伝授』といい、天皇家や公家の間で一子相伝で伝えられている。今はその『古今伝授』は細川藤孝〔幽斎〕に伝えられてるそうじゃ)

 その時、信長が突然、話に割り込んできた。

(清明殿、今、光秀に問いただしていたのだが、その愛宕山連歌会に碧い目をした金髪の女がいたらしい。イエスズ会代表として)

(まさか、それはイスパニア帝国の手の者では?)

 晴明もあまりの展開に少し驚いていた。

(その連歌会、怪しいことこの上ない。どうにか乗り込むことはできぬか?)

(わかりました。移動迷宮をそちらの時代に転移させてみます。さて、本能寺の変の本当の黒幕に会えるかもしれませんのう)

 急展開に安東要も言葉がでなかった。
 『古今伝授』の伝承者、細川幽斎、人気連歌師の紹巴、謎の金髪碧眼の女、本能寺の変のすべての謎を解くために安倍清明とオタク軍団と織田信長は時を少し遡る。

 明智光秀が涙目であるのは言うまでもないが、意外とこの方も何者かにハメられた説が有力になってきた。
 東日本を崩壊から救うという目的はどうなったんだ?という話もあるが、ちゃんと話は繋がるので安心してねと言っておく。












-----------あとがき--------------------------------------------------- 

次回、『愛宕山連歌会の戦い』とかですかね。

ついに敵の正体が少しは明らかになってくるかも?


和歌というのは結構、奥深いと言うか、過去に詠まれた和歌の意味を重ねあわせることによって、解釈が違ってきます。

『古今伝授』の話もなろうでは数件ヒットするけど、あまりその謎には触れられていない感じもしますが、結構、面白いです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ドール

奈落
SF
TSFの短い話です 目覚めると、その部屋の中は様々なアンティークドールに埋め尽くされていた。 身動きの取れない俺の前に、男が運んできた鏡に映された俺の姿は…

それでも僕は空を舞う

みにみ
SF
この空を覆う 恐怖 悲しみ 畏怖 敬意 美しさ 大地を覆う 恐怖 幸せ  それを守るために空に舞う、1人の男と それを待つ1人の女の物語

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

楽将伝

九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語 織田信長の親衛隊は 気楽な稼業と きたもんだ(嘘) 戦国史上、最もブラックな職場 「織田信長の親衛隊」 そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた 金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか) 天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

処理中です...