人狼戦記～少女格闘伝説外伝～

常闇の剣

　秋月玲奈は走りながら＜常闇とこやみの剣＞を振るった。
　大地から黒い球体状の闇が浮かび上がってくる。
　無数の闇が風船のように浮遊すると、黒虎ブラックタイガーに向かって集結していく。

「猫鬼びょうき！」

　玲奈が叫ぶと、巨大な虎が踵きびすを返してきた。
　ふわりとその背中に飛び乗った。
　犬神いぬがみは黒虎ブラックタイガーの喉笛のどぶえを捉えて動きを封じている。
　黒虎ブラックタイガーの足に無数の闇がまとわりつきながら身体を侵食していく。

「結界術＜闇凪やみなぎ＞！」

　＜常闇とこやみの剣＞が淡い蛍光につつまれた。
　黒虎ブラックタイガーの周囲の闇も一緒に輝いていった。
　その光景は光の雲が黒虎ブラックタイガーの手足を縛って動きを封じているように見えた。
　犬神いぬがみも猫鬼びょうきに並ぶように戻って来た。

「準備完了。カオルちゃん、後は任せるわ」

「了解。封印術＜常闇とこやみ＞！」

　風守カオルは九字の印を結びながら、巨大な球体の闇で黒虎ブラックタイガーを包み込んだ。
　そのまま球体の闇を縮小していった。
　やがて、手のひらぐらいまで小さくなった球体は＜闇凪やみなぎの剣＞の中に吸収されていった。

「封印完了。もう冥界に送ったから当分出てこないわ」

　風守カオルはほっと一息つく。

「やっぱ、専門家は凄いわね」

　神沢勇がひょこり姿を現す。
　
「ほんとです」

　風森怜も安堵の表情で同意する。

「向こうの方もそろそろ大詰めらしいわ」

　風守カオルはイヤホンで通信を聴いていた。

「とりあえず、合流しますか」

　秋月玲奈は額の汗を拭きながら呼吸を整える。

（カオルちゃん、至急、神沢隊に合流してください）

　ノーテンキな月読真奈つくよみまなの声が上ずっている。
　秘密結社＜天鴉アマガラス＞の最終兵器、妖星＜クルド＞のオペレーターにしては珍しい態度である。

（どうしたの？）

（＜天照アマテラス＞がかわされたの）

（ありえないわ）

　＜天照アマテラス＞とは、地球の衛星軌道上を周回している妖星＜クルド＞から放たれる高密度レーザー砲である。
　誤差数ミリもない高精度の射撃が可能で、時差も0.0001秒以下である。
　外れるはずがない。

（魔女ランダの力よ）

　月読真奈つくよみまなはつぶやいた。