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王都炎上篇

第23話 《嘘の予言》

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 レーベの家は、そう遠く離れていなかった。商業区から離れた、静かな住宅地の更に奥……一際大きな家が彼(彼女?)の家だ。
 黒い外壁に、美しい花の模様が描かれている。門には特にセキュリティはかかっていなかった。

 ここまで来る間は、他愛のない会話をしていた。
 レーベは水の都マステマ出身だという。この大陸の最南端に位置していて、とても綺麗な場所だと言っていた。イブキが初めて立ち寄ったのもマステマだ。その時は、観光する時間もなく、強制的にエネガルムの審判所へ転移させられたが……。
 
 他にも、魔法七星について話した。
 魔法七星は、7つの属性ごとに席が決められているらしい。
 『炎』 『水』 『雷』 『風』 『氷』 『土』 『空間(重力魔法を含む)』
 と別れているのだという。
 
「まあ、その上に上位属性も存在するんだけど、基本はこの七つね」

 とレーベは言っていた。
 ハーレッドがいい例だろう。彼は炎魔法の上位、爆炎魔法を扱っていた。

 レーベの本職は、《魔法研究者》らしい。新しい魔法を開発したり、加護について研究したりなどしているそうだ。
 魔法って、奥が深い。

 ――家へ入ると、玄関は吹き抜けになっていた。よくわからない絵画などが展示されている。ようやく、イブキはフードを取っ払った。

「綺麗にしてるのね。レーベって、一人暮らしなの?」

「そうよん。相方募集中なの。カワイイ子、知らない? 出会いを求めて酒場に毎夜通っているんだけど、タイプの子がいなくてねぇ」

「そうなんだ……?」

 レーベが鼻歌まじりでリビングへ向かう。そこは、キッチンとテーブル、ソファがあるだけの、よく整頓された場所だった。レーベは、結構几帳面なタイプらしい。

「全然物がないね」

「書斎はゴチャゴチャしちゃってるのよ」

「書斎?」

「仕事を家に持ち帰ってるのよ。結構大変なのよ、魔法研究者って。まあ、魔術を使うあなたには関係ないのだろうけどねん」

「ど、どうだろうね」
 

 レーベが、果物のジュースを用意してくれたので、イブキはソファに腰掛けて喉を潤した。レーベはまたお酒を用意して呑んでいる。
 
(あとは、予言の書がどこにあるか、ね)

 無意識の内に、辺りを見渡してしまう。壁には綺羅びやかなアクセサリーが埋め込まれていた。

「わたし、レーベがどういう研究をしているか見てみたいな。書斎を見せてくれない?」

 レーベはお酒を運ぶ手を止めた。

「それは無理なお願いよ。言ったでしょ? あの部屋は散らかっていてね、あまり人に見せたくないのよ」

「えー……」

 イブキの首元のタトゥーが、真っ赤に輝く。魔術を使う前兆だ。
 すると、レーベがお酒を地面に落として倒れた。お酒が床に溢れてしまったが、レーベはいびきをかいて眠ってしまっている。

(ほんと、便利な魔術だなぁ……)

 イブキが使う《眠りの魔術》は、精神をいつも以上に集中させる必要がある。原理はわかっていないが、「眠れ」と命じるだけで対象は眠ってしまうのだ。

 眠っているレーベを横目に、リビングを後にする。すぐ傍の階段を登ると、三つの扉が待っていた。
 プレートが掛けられていて、それぞれ『寝室』『プライベートルーム』『書斎』となっていた。今回、用があるのは書斎だ。

 書斎の扉を開けて電気をつける。中は綺麗に整理されていた。高そうな絨毯。壁の左右には本棚。真ん中には椅子と机。

(散らかってるなんて、嘘だ……)

 机の上には、書類が重ねられている。その横に、見覚えのある本が置いてあった。……あの塔で管理されている『予言の書』に違いなかった。

「こ、こんな簡単に……?」

 イブキは呆れて苦笑した。こんな簡単に見つかると思っていなかったし、なによりレーベの警戒心も希薄すぎる。
 時間がない。さっそく、イブキは机の前に行って予言の書に目を通した。

(あれ……?)

 たしかに、竜人族の予言に違いはない。
 読み進めるが……内容が、まったく頭に入ってこなかった。イブキが想像していたものと違う。予言は確かに存在した。けれど、これは――。

「あらぁ、見ちゃったのねぇ」

 イブキは息を呑んで振り返る。扉により掛かるようにして、レーベが立っていた。口元に嘲笑を浮かべ、イブキをじっと見つめている。

(なんで……!? こんなに、簡単に眠りの魔術が解けるなんて……)

「なんだかアタシィ、耐性があるみたいねぇ。ま、《災禍の魔女》を警戒していて正解だったわ」

 なるほど、効き目は人それぞれということか。だとしてもこれは誤算だ。
 ここまで来て、今更引けやしない。イブキは本を閉じて、睨み返す。

「レーベ、これはどういうこと?」

 予言の書の内容が信じられない。竜人族の予言は、想像しているよりも闇が深そうだ。
 予言によると、王都を火の海にするのは竜人族で間違いはない。だが、その王都炎上をとしてるのは――。

 ――目の前の魔法七星、レーベだったのだ。

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