23 / 25
王都炎上篇
第23話 《嘘の予言》
しおりを挟む
レーベの家は、そう遠く離れていなかった。商業区から離れた、静かな住宅地の更に奥……一際大きな家が彼(彼女?)の家だ。
黒い外壁に、美しい花の模様が描かれている。門には特にセキュリティはかかっていなかった。
ここまで来る間は、他愛のない会話をしていた。
レーベは水の都マステマ出身だという。この大陸の最南端に位置していて、とても綺麗な場所だと言っていた。イブキが初めて立ち寄ったのもマステマだ。その時は、観光する時間もなく、強制的にエネガルムの審判所へ転移させられたが……。
他にも、魔法七星について話した。
魔法七星は、7つの属性ごとに席が決められているらしい。
『炎』 『水』 『雷』 『風』 『氷』 『土』 『空間(重力魔法を含む)』
と別れているのだという。
「まあ、その上に上位属性も存在するんだけど、基本はこの七つね」
とレーベは言っていた。
ハーレッドがいい例だろう。彼は炎魔法の上位、爆炎魔法を扱っていた。
レーベの本職は、《魔法研究者》らしい。新しい魔法を開発したり、加護について研究したりなどしているそうだ。
魔法って、奥が深い。
――家へ入ると、玄関は吹き抜けになっていた。よくわからない絵画などが展示されている。ようやく、イブキはフードを取っ払った。
「綺麗にしてるのね。レーベって、一人暮らしなの?」
「そうよん。相方募集中なの。カワイイ子、知らない? 出会いを求めて酒場に毎夜通っているんだけど、タイプの子がいなくてねぇ」
「そうなんだ……?」
レーベが鼻歌まじりでリビングへ向かう。そこは、キッチンとテーブル、ソファがあるだけの、よく整頓された場所だった。レーベは、結構几帳面なタイプらしい。
「全然物がないね」
「書斎はゴチャゴチャしちゃってるのよ」
「書斎?」
「仕事を家に持ち帰ってるのよ。結構大変なのよ、魔法研究者って。まあ、魔術を使うあなたには関係ないのだろうけどねん」
「ど、どうだろうね」
レーベが、果物のジュースを用意してくれたので、イブキはソファに腰掛けて喉を潤した。レーベはまたお酒を用意して呑んでいる。
(あとは、予言の書がどこにあるか、ね)
無意識の内に、辺りを見渡してしまう。壁には綺羅びやかなアクセサリーが埋め込まれていた。
「わたし、レーベがどういう研究をしているか見てみたいな。書斎を見せてくれない?」
レーベはお酒を運ぶ手を止めた。
「それは無理なお願いよ。言ったでしょ? あの部屋は散らかっていてね、あまり人に見せたくないのよ」
「えー……」
イブキの首元のタトゥーが、真っ赤に輝く。魔術を使う前兆だ。
すると、レーベがお酒を地面に落として倒れた。お酒が床に溢れてしまったが、レーベはいびきをかいて眠ってしまっている。
(ほんと、便利な魔術だなぁ……)
イブキが使う《眠りの魔術》は、精神をいつも以上に集中させる必要がある。原理はわかっていないが、「眠れ」と命じるだけで対象は眠ってしまうのだ。
眠っているレーベを横目に、リビングを後にする。すぐ傍の階段を登ると、三つの扉が待っていた。
プレートが掛けられていて、それぞれ『寝室』『プライベートルーム』『書斎』となっていた。今回、用があるのは書斎だ。
書斎の扉を開けて電気をつける。中は綺麗に整理されていた。高そうな絨毯。壁の左右には本棚。真ん中には椅子と机。
(散らかってるなんて、嘘だ……)
机の上には、書類が重ねられている。その横に、見覚えのある本が置いてあった。……あの塔で管理されている『予言の書』に違いなかった。
「こ、こんな簡単に……?」
イブキは呆れて苦笑した。こんな簡単に見つかると思っていなかったし、なによりレーベの警戒心も希薄すぎる。
時間がない。さっそく、イブキは机の前に行って予言の書に目を通した。
(あれ……?)
たしかに、竜人族の予言に違いはない。
読み進めるが……内容が、まったく頭に入ってこなかった。イブキが想像していたものと違う。予言は確かに存在した。けれど、これは――。
「あらぁ、見ちゃったのねぇ」
イブキは息を呑んで振り返る。扉により掛かるようにして、レーベが立っていた。口元に嘲笑を浮かべ、イブキをじっと見つめている。
(なんで……!? こんなに、簡単に眠りの魔術が解けるなんて……)
「なんだかアタシィ、耐性があるみたいねぇ。ま、《災禍の魔女》を警戒していて正解だったわ」
なるほど、効き目は人それぞれということか。だとしてもこれは誤算だ。
ここまで来て、今更引けやしない。イブキは本を閉じて、睨み返す。
「レーベ、これはどういうこと?」
予言の書の内容が信じられない。竜人族の予言は、想像しているよりも闇が深そうだ。
予言によると、王都を火の海にするのは竜人族で間違いはない。だが、その王都炎上を引き起こそうとしてるのは――。
――目の前の魔法七星、レーベだったのだ。
黒い外壁に、美しい花の模様が描かれている。門には特にセキュリティはかかっていなかった。
ここまで来る間は、他愛のない会話をしていた。
レーベは水の都マステマ出身だという。この大陸の最南端に位置していて、とても綺麗な場所だと言っていた。イブキが初めて立ち寄ったのもマステマだ。その時は、観光する時間もなく、強制的にエネガルムの審判所へ転移させられたが……。
他にも、魔法七星について話した。
魔法七星は、7つの属性ごとに席が決められているらしい。
『炎』 『水』 『雷』 『風』 『氷』 『土』 『空間(重力魔法を含む)』
と別れているのだという。
「まあ、その上に上位属性も存在するんだけど、基本はこの七つね」
とレーベは言っていた。
ハーレッドがいい例だろう。彼は炎魔法の上位、爆炎魔法を扱っていた。
レーベの本職は、《魔法研究者》らしい。新しい魔法を開発したり、加護について研究したりなどしているそうだ。
魔法って、奥が深い。
――家へ入ると、玄関は吹き抜けになっていた。よくわからない絵画などが展示されている。ようやく、イブキはフードを取っ払った。
「綺麗にしてるのね。レーベって、一人暮らしなの?」
「そうよん。相方募集中なの。カワイイ子、知らない? 出会いを求めて酒場に毎夜通っているんだけど、タイプの子がいなくてねぇ」
「そうなんだ……?」
レーベが鼻歌まじりでリビングへ向かう。そこは、キッチンとテーブル、ソファがあるだけの、よく整頓された場所だった。レーベは、結構几帳面なタイプらしい。
「全然物がないね」
「書斎はゴチャゴチャしちゃってるのよ」
「書斎?」
「仕事を家に持ち帰ってるのよ。結構大変なのよ、魔法研究者って。まあ、魔術を使うあなたには関係ないのだろうけどねん」
「ど、どうだろうね」
レーベが、果物のジュースを用意してくれたので、イブキはソファに腰掛けて喉を潤した。レーベはまたお酒を用意して呑んでいる。
(あとは、予言の書がどこにあるか、ね)
無意識の内に、辺りを見渡してしまう。壁には綺羅びやかなアクセサリーが埋め込まれていた。
「わたし、レーベがどういう研究をしているか見てみたいな。書斎を見せてくれない?」
レーベはお酒を運ぶ手を止めた。
「それは無理なお願いよ。言ったでしょ? あの部屋は散らかっていてね、あまり人に見せたくないのよ」
「えー……」
イブキの首元のタトゥーが、真っ赤に輝く。魔術を使う前兆だ。
すると、レーベがお酒を地面に落として倒れた。お酒が床に溢れてしまったが、レーベはいびきをかいて眠ってしまっている。
(ほんと、便利な魔術だなぁ……)
イブキが使う《眠りの魔術》は、精神をいつも以上に集中させる必要がある。原理はわかっていないが、「眠れ」と命じるだけで対象は眠ってしまうのだ。
眠っているレーベを横目に、リビングを後にする。すぐ傍の階段を登ると、三つの扉が待っていた。
プレートが掛けられていて、それぞれ『寝室』『プライベートルーム』『書斎』となっていた。今回、用があるのは書斎だ。
書斎の扉を開けて電気をつける。中は綺麗に整理されていた。高そうな絨毯。壁の左右には本棚。真ん中には椅子と机。
(散らかってるなんて、嘘だ……)
机の上には、書類が重ねられている。その横に、見覚えのある本が置いてあった。……あの塔で管理されている『予言の書』に違いなかった。
「こ、こんな簡単に……?」
イブキは呆れて苦笑した。こんな簡単に見つかると思っていなかったし、なによりレーベの警戒心も希薄すぎる。
時間がない。さっそく、イブキは机の前に行って予言の書に目を通した。
(あれ……?)
たしかに、竜人族の予言に違いはない。
読み進めるが……内容が、まったく頭に入ってこなかった。イブキが想像していたものと違う。予言は確かに存在した。けれど、これは――。
「あらぁ、見ちゃったのねぇ」
イブキは息を呑んで振り返る。扉により掛かるようにして、レーベが立っていた。口元に嘲笑を浮かべ、イブキをじっと見つめている。
(なんで……!? こんなに、簡単に眠りの魔術が解けるなんて……)
「なんだかアタシィ、耐性があるみたいねぇ。ま、《災禍の魔女》を警戒していて正解だったわ」
なるほど、効き目は人それぞれということか。だとしてもこれは誤算だ。
ここまで来て、今更引けやしない。イブキは本を閉じて、睨み返す。
「レーベ、これはどういうこと?」
予言の書の内容が信じられない。竜人族の予言は、想像しているよりも闇が深そうだ。
予言によると、王都を火の海にするのは竜人族で間違いはない。だが、その王都炎上を引き起こそうとしてるのは――。
――目の前の魔法七星、レーベだったのだ。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる