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王都炎上篇
第21話 《次の手がかり》
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イブキは咳払いをして、単刀直入に訊くことにした。
「一年前の予言についてだけど」
最後まで聞かずに、フィオは床を――正しくは、下の階層を指差した。
「じゃあ、下にれっつごー」
「えっ、教えてくれんの? ふつー、《災禍の魔女》には教えなくない?」
我ながら本末転倒な事を言っているとイブキは自覚していたが、言わずにはいられなかった。だってこの子、おかしい。
「お友達が欲しかったから、全然いいよぉ」
(なんでそうなる? 一悶着覚悟してたのに!)
フィオは続ける。まあ、今回は良しとしよう。
「でもあたし、丁度その時期に入れ替わりで大司教になったから、その頃の予言は詳しくは知らない。前任の大司教が、急にいなくなっちゃったんだよねー。下の本棚に、世界中の予言を時系列ごとにまとめてあるから、見に行こー」
あの本棚に予言がまとめられている? 確かに、本がずらりと並んでいたが、あんな方法で管理されているとは。
フィオを追って、イブキも階段まで戻っていく。どれくらいか降りて、降りて、降りて――フィオが一つの本棚の前で立ち止まった。
「一年前の予言は、ここー。どの予言を《災禍の魔女》は探してるのー?」
首をかしげて純粋無垢な仕草で問いかけるフィオ。イブキは棚を見上げながら、
「竜人族に関する予言よ。エネガルムを竜人族が火の海にする、っていう……」
「わかった。あたしも一緒に探すー」
背の小さい二人には、高い位置の本棚が届かないと思われた。だがその心配は杞憂で終わった。近くのパネルで、本棚の上段と下段を入れ替えることができるようになっていたからだ。便利……。
取り出した本には目次があった。そこに、大まかな予言の内容が書いてあり、そのページまでめくると、詳細が書いてあった。
自然災害が起きる予言、別大陸で起こる感染症についての予言など、様々だ。
しかし、肝心の竜人族に関する予言が見当たらない。2時間ほど掛けて、管理されている本の目次を全て網羅したが、情報が全く無い。
イブキは隣で眠りこけているフィオへ疑いの眼差しを向けた。
「予言が見当たらないわよ。全然管理できてないじゃん。うちの『総務部門』が知ったら激おこ案件よ」
いつも、稟議申請と、備品管理と、経費管理と……総務部門とは激戦を繰り広げてきた。まあ、イブキは入社してまもなかったので、観戦していただけだが。
「そーむ……? 全ての予言は、ここにあるはずだよー」
フィオは当たり前のように言い切る。一つ、予言についてのシステムで、確認したいことがあったのを思い出した。
「そういえば、リムル神のお告げは、どうやって世界中に広められるの?」
「大司教が、各大陸の司教にそれぞれの予言を伝えるんだよー。そして、大陸ごとの代表組織に伝えられるの。この大陸なら、魔法七星。別の大陸なら、別の組織、ってねー。このヴォルシオーネ大陸では、予言は大司教から直接魔法七星に伝えられてるよー」
これは初耳だった。全大陸の予言を統括しているのが『大司教』で、個別に大陸の予言を統括しているのが『司教』らしい。うーむ、難しい。
「誰かが、『本』を持ち出すことはありえる?」
「魔法七星の誰かなら。貸し出した履歴を探ってみるねー」
フィオは、近くのパネルを操作して、ログを遡り始めた。そして、「おぅ」と変な声を上げた。
「一人、竜人族に関する予言の本を、一年前から借り続けてる人がいるー」
「やっぱちゃんと管理できてないじゃん!! 一年って!!」
「入れ替わりの時期だったから、仕方ないよぅー」
フィオが操作するパネルを覗き込む。そこには、ある人物の名前が記載されていた。イブキは声に出して読み上げてみた。
「……レーベ=シルビオ? 誰?」
「魔法七星の一人だよー。シルフの加護……風魔法を使うよ」
「どこにいるの?」
イブキは会いに行く気満々だ。このレーベとやらが怪しい。まずは直接会って話をしたいところだ。そいつが、竜人族討伐の指揮を取った魔法七星なら、囚われた竜人族たちの手がかりもあるかもしれない。
正直、竜人族の件はイブキには直接関係のない話だ。だが、関わった以上放っておくことはできない。
イブキが努めていたブラック企業でも、そうだった。
『仲間を見捨ててはいけない』。誰かがサビ残する時は、みんなも一緒だ。今回の件も、似たようなもの?だ。
イブキの問いかけに、フィオは「んー」と小さく唸った。
「レーベは、お酒大好き。この時間はいつも、広場前の酒場で呑んでるらしい」
「ありがとう。早速、行ってみるわ。ところで……一つ聞きたいんだけど。《災禍の魔女》の予言って、本当なの?」
「うん」
「即答かい!」
希望を一ミリも持たせてくれないフィオ。
「お告げを聞いたの、あたしだもんねー」
「……予言なんて、信じね―」
イブキはいつもどおりの悪態を付く。
すると、フィオは階段に視線を落とした。
「あたしも、こんなこと、したくない」
「じゃあなんで……」
「大司教になるには、前任者が予言を受けて、後任を指名するのー。けど前任者が行方不明になったから、代わりの誰かを探す必要があった。適正があったのが、あたしだけだったから、仕方なく」
どうして、こんな少女が大司教に選ばれたのかイブキはわかっていなかった。だが、なるほど。魔法と同じで、お告げを聞くのにも素質が関係しているということだろうか。
「家族は、賛成してくれたの?」
「ううん。家族はいないよ。あたしは、孤児だったからねー」
当たり前にいうフィオに、イブキは言葉を失った。どうにか取り繕おうとしていると、フィオが不器用な笑みを浮かべた。
「早く行かないと、レーベに会えないよー」
「わ、わかってるわよ」
フィオに急かされ、イブキは階段を降り始める。だが途中で足を止めた。まだ、フィオが見送ってくれている。
イブキは少しだけ声を張り上げた。
「また、遊びに来るから!」
フィオの反応を伺う前に、イブキは駆け出す。
魔法七星、レーベ=シルビオ――。いったい、どんな人物なのだろうか?
「一年前の予言についてだけど」
最後まで聞かずに、フィオは床を――正しくは、下の階層を指差した。
「じゃあ、下にれっつごー」
「えっ、教えてくれんの? ふつー、《災禍の魔女》には教えなくない?」
我ながら本末転倒な事を言っているとイブキは自覚していたが、言わずにはいられなかった。だってこの子、おかしい。
「お友達が欲しかったから、全然いいよぉ」
(なんでそうなる? 一悶着覚悟してたのに!)
フィオは続ける。まあ、今回は良しとしよう。
「でもあたし、丁度その時期に入れ替わりで大司教になったから、その頃の予言は詳しくは知らない。前任の大司教が、急にいなくなっちゃったんだよねー。下の本棚に、世界中の予言を時系列ごとにまとめてあるから、見に行こー」
あの本棚に予言がまとめられている? 確かに、本がずらりと並んでいたが、あんな方法で管理されているとは。
フィオを追って、イブキも階段まで戻っていく。どれくらいか降りて、降りて、降りて――フィオが一つの本棚の前で立ち止まった。
「一年前の予言は、ここー。どの予言を《災禍の魔女》は探してるのー?」
首をかしげて純粋無垢な仕草で問いかけるフィオ。イブキは棚を見上げながら、
「竜人族に関する予言よ。エネガルムを竜人族が火の海にする、っていう……」
「わかった。あたしも一緒に探すー」
背の小さい二人には、高い位置の本棚が届かないと思われた。だがその心配は杞憂で終わった。近くのパネルで、本棚の上段と下段を入れ替えることができるようになっていたからだ。便利……。
取り出した本には目次があった。そこに、大まかな予言の内容が書いてあり、そのページまでめくると、詳細が書いてあった。
自然災害が起きる予言、別大陸で起こる感染症についての予言など、様々だ。
しかし、肝心の竜人族に関する予言が見当たらない。2時間ほど掛けて、管理されている本の目次を全て網羅したが、情報が全く無い。
イブキは隣で眠りこけているフィオへ疑いの眼差しを向けた。
「予言が見当たらないわよ。全然管理できてないじゃん。うちの『総務部門』が知ったら激おこ案件よ」
いつも、稟議申請と、備品管理と、経費管理と……総務部門とは激戦を繰り広げてきた。まあ、イブキは入社してまもなかったので、観戦していただけだが。
「そーむ……? 全ての予言は、ここにあるはずだよー」
フィオは当たり前のように言い切る。一つ、予言についてのシステムで、確認したいことがあったのを思い出した。
「そういえば、リムル神のお告げは、どうやって世界中に広められるの?」
「大司教が、各大陸の司教にそれぞれの予言を伝えるんだよー。そして、大陸ごとの代表組織に伝えられるの。この大陸なら、魔法七星。別の大陸なら、別の組織、ってねー。このヴォルシオーネ大陸では、予言は大司教から直接魔法七星に伝えられてるよー」
これは初耳だった。全大陸の予言を統括しているのが『大司教』で、個別に大陸の予言を統括しているのが『司教』らしい。うーむ、難しい。
「誰かが、『本』を持ち出すことはありえる?」
「魔法七星の誰かなら。貸し出した履歴を探ってみるねー」
フィオは、近くのパネルを操作して、ログを遡り始めた。そして、「おぅ」と変な声を上げた。
「一人、竜人族に関する予言の本を、一年前から借り続けてる人がいるー」
「やっぱちゃんと管理できてないじゃん!! 一年って!!」
「入れ替わりの時期だったから、仕方ないよぅー」
フィオが操作するパネルを覗き込む。そこには、ある人物の名前が記載されていた。イブキは声に出して読み上げてみた。
「……レーベ=シルビオ? 誰?」
「魔法七星の一人だよー。シルフの加護……風魔法を使うよ」
「どこにいるの?」
イブキは会いに行く気満々だ。このレーベとやらが怪しい。まずは直接会って話をしたいところだ。そいつが、竜人族討伐の指揮を取った魔法七星なら、囚われた竜人族たちの手がかりもあるかもしれない。
正直、竜人族の件はイブキには直接関係のない話だ。だが、関わった以上放っておくことはできない。
イブキが努めていたブラック企業でも、そうだった。
『仲間を見捨ててはいけない』。誰かがサビ残する時は、みんなも一緒だ。今回の件も、似たようなもの?だ。
イブキの問いかけに、フィオは「んー」と小さく唸った。
「レーベは、お酒大好き。この時間はいつも、広場前の酒場で呑んでるらしい」
「ありがとう。早速、行ってみるわ。ところで……一つ聞きたいんだけど。《災禍の魔女》の予言って、本当なの?」
「うん」
「即答かい!」
希望を一ミリも持たせてくれないフィオ。
「お告げを聞いたの、あたしだもんねー」
「……予言なんて、信じね―」
イブキはいつもどおりの悪態を付く。
すると、フィオは階段に視線を落とした。
「あたしも、こんなこと、したくない」
「じゃあなんで……」
「大司教になるには、前任者が予言を受けて、後任を指名するのー。けど前任者が行方不明になったから、代わりの誰かを探す必要があった。適正があったのが、あたしだけだったから、仕方なく」
どうして、こんな少女が大司教に選ばれたのかイブキはわかっていなかった。だが、なるほど。魔法と同じで、お告げを聞くのにも素質が関係しているということだろうか。
「家族は、賛成してくれたの?」
「ううん。家族はいないよ。あたしは、孤児だったからねー」
当たり前にいうフィオに、イブキは言葉を失った。どうにか取り繕おうとしていると、フィオが不器用な笑みを浮かべた。
「早く行かないと、レーベに会えないよー」
「わ、わかってるわよ」
フィオに急かされ、イブキは階段を降り始める。だが途中で足を止めた。まだ、フィオが見送ってくれている。
イブキは少しだけ声を張り上げた。
「また、遊びに来るから!」
フィオの反応を伺う前に、イブキは駆け出す。
魔法七星、レーベ=シルビオ――。いったい、どんな人物なのだろうか?
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