10 / 25
王都炎上篇
第10話 《竜人族ハーレッド》
しおりを挟む「おおおおおッ!!」
ドナーが雄叫びを上げ、赤目の男――ハーレッドへと立ち向かう。地面を蹴り、弾かれたように前へ。
ドナーの拳に炎が宿る。射程距離内へ入った。そしてまた、技名を叫びながら殴りかかった。
「マッスル……ブロー!!」
その拳は一直線に、ハーレッドの顔面へ打ち込まれる――。
はずだった。
代わりに、吹き飛ばされたのはドナーの巨体だった。ドナーの体が宙を舞う。だが流石はドナーだ。空中で体勢を立て直し、しっかりと地面へ着地した。
「ドナルド副団長!!」
慌ててシャルが駆け寄る。と、ドナーの胸部に、鋭い三本の傷ができていた。まるで、なにかに切り裂かれたかのようだ。傷は深く、血がとめどなく流れ出ている。堪らずにドナーが膝をついた。
「ぐうっ……! なんだ、あれは……! 我が筋肉が……!」
「そんなこと言っている場合じゃ――」
シャルが言葉を飲む。
イブキとシャルは、ハーレッドへ目を向けてその傷の意味を理解した。
ハーレッドの右手が、巨大な真紅の鉤爪になっていた。溶岩のように赤く滾る様は、次の獲物を探し舌なめずりしているようにも見える。
鉤爪の大きさだけ見れば、簡単にイブキをつかめるだろう。その鋭利な爪先から、ドナーの血がぽたりと地面へ落ちる。ハーレッドは「ほう」と感心したような声を出した。
「食らう直前、炎魔法で壁を作り衝撃を和らげたか。見た目によらず器用だな」
「ふっ……! お前こそ、そんな魔法は見たこと無いがな……!」
ハーレッドは自分の右手に視線を移し、空へと掲げた。
「これは魔法などではない。我が一族に伝わる力、《竜爪》だ。竜人族は、炎魔法以外扱えない。だが、俺の炎魔法は少し違うぞ」
言葉の意味を理解するのに、そう時間はかからなかった。
ドナーとシャルへ手を向けるハーレッド。すると、シャルたちの目前の空間が夏の陽炎のように揺らめいた。
離れた場所で呆然と立ち尽くすイブキは、なんとか魔術を使おうと必死だ。
(二人を守らないと! 早く、発動しなさいよ!!!)
必死にあの時の感覚を思い出そうとするイブキの鼻先に、不快な匂いが届いた。
――焦げ臭い。
シャルが慌ててハーレッドへ雷魔法の照準を合わせる。が、間に合わない。
「爆炎魔法、《エクスプロード》」
ハーレッドが唱える直前、ドナーがシャルを抱きかかえるように庇う――。
瞬間、巨大な爆発が荒野全体を揺るがした。爆風で巻き上がる砂塵に、イブキは視界を覆われてしまう。
強い風の吹くこの荒野では、二人の様子が見えるようになるまでそう時間はかからなかった。
シャルは無事だった。呆然と立ち尽くしてはいるが、大きな傷はない。
その足元に、ドナーが背中を焼かれ倒れていた。体をぴくりとも動かさない。シャルを庇い、まともに爆発を受けたのだ。ただで済むわけがない。
「ドナー!!!」
イブキは全力で駆け寄って、ドナーの傷の具合を見た。
息はしている。だが、こんなにひどい火傷は見たことがない。最初に切り裂かれた傷の血も止まっていないし、危険な状態だった。
「イブキさん、ドナルド副団長を頼みます」
静かに告げるシャルは、怒りに満ちた目でハーレッドを睨みつけている。イブキは呼び止めたが、今の彼女には聞く耳すら持ってもらえない。
(だめだ、あいつには勝てない……)
ハーレッドは、立ち向かう意思を見せるシャルへ、嘲笑してみせた。
「これは、美しいお嬢さん。この俺とやるつもりなのか?」
「……黙りなさい」
シャルが指を鳴らす。すると、またしても空から雷撃が放たれた。だが、雷撃はハーレッドを直撃しなかった。ハーレッドが右手の《竜爪》を振り上げるのと同時に、頭上で雷撃が四散したのだ。
「一辺倒だな」
「あら、そうかしら」
不敵にシャルが答え、人差し指と中指を揃えて顔の前に立てる。
「――《霹靂神》」
激しい雷という意味のその言葉――。
シャルが唱えると同時に、幾千もの雷撃が、五月雨の如くハーレッドへ降り注いだ。
稲光と雷鳴が繰り返される。ハーレッドは雄叫びを上げ、その雷撃すべてを《竜爪》で弾き返そうとしている。
だが、シャルは攻撃の手を止めなかった。
「《紫閃》!」
シャルが右手を振り払う。たったそれだけの動作ではあるのに、一際鋭い雷の斬撃が放たれ、ハーレッドの右手を切り落としたのだ。
(やった……!?)
そう喜んだのも束の間、ハーレッドの右手が再生する。これは魔法ではないだろう。相変わらず、竜人族の力はチートすぎる。
「今のは危なかったぞ。凄まじい雷撃だ。今まで戦ってきた雷魔法の使用者の中でも、トップクラスだ。だが……体への負担も大きいはずだ」
その言葉の通り、シャルの体は悲鳴を上げていた。通常、魔法を使用する分には問題ない。しかし、シャルは自らの生命力も魔法へ上乗せし、大技を連発したのだ。こんなことが、続くはずがない。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
私って何者なの
根鳥 泰造
ファンタジー
記憶を無くし、魔物の森で倒れていたミラ。テレパシーで支援するセージと共に、冒険者となり、仲間を増やし、剣や魔法の修行をして、最強チームを作り上げる。
そして、国王に気に入られ、魔王討伐の任を受けるのだが、記憶が蘇って……。
とある異世界で語り継がれる美少女勇者ミラの物語。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる