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その後使い終えた布巾をキッチンのシンクに投げこんだ大智が、やっと潤太の隣に腰をおろしてきた。
ぺったり女の子座りをして俯き、まるで幼児のように両手で目を擦っていた潤太に、大智は黙りこむ。潤太が気になって指の間からちらっと彼の顔を覗いてみると、彼の視線は自分の膝のあたりあるようだった。
それでなぜか恥ずかしくなってしまい、潤太が隙間を埋めるように膝どうしをくっつけると、彼はこつんと肩に肩をぶつけてきた。
「……おい、もういい加減泣きやめって。ケーキがダメになったくらいで、よくそんなに泣けるよな?」
「くらいじゃないよ! あと一、二、三……、四、五? 口くらい? は残ってたんだよっ?」
そっけないことを云いつつも、大智は潤太の頭をやさしく撫でてくれている。
「先輩があんなことしなかったら、こんなことにならなかったのに……うぅっ……」
「あんなことって、どんなことだよ? まさかこの短時間に俊にヴァージンやったとか云わないだろうな」
「俺がぁ、こんなにぃ、ひっくっ、悲しんでいるのに、大智先輩、なんでそんな冗談云うんだよ、うえっ。ひどくない⁉」
きっと睨みつけたら、「おおぅ」と身を引いた大智がゴクリと唾を飲みこんだ。
「つうか、吉野。お前、なんだその唇は? 真っ赤じゃないか」
顎を掴まれくいっと上向けられる。まじまじと見つめられた唇を舐めてみると、生クリームの油でちょっとてらっといているのが自分でもわかった。
「クリームおいしかったなぁ」
「お前しつこいな。いい加減ケーキのことを云うのやめろ。そしてその嘘泣きもな」
「ぶっ」
鼻を抓まれた。
「この口つやつやしてるのは生クリームの油かも知れないけど、でもこれちょっと腫れてないか?」
顔を振って逃れようとした顎を固定されてしまう。唇をつんつん突かれると、触れられた箇所がふわんと、そして全身がぞくっとした。
さっきまであれだけ俊明に吸われていた唇は、そんなささいな刺激だけでも充分に潤太の性感を煽るのだ。たった今までケーキのショックで大人しくなっていた潤太の下腹部が、またもや甘く疼いてぴょこっと起きてしまう。
「もうっ! 大智先輩離してっ! おさわり禁止!」
大智の手を外そうと躍起になった潤太を後目に、彼の視線がふたたび潤太の腿あたりをさ迷いはじめる。
「お前、俊明にお触りさせただろう?」
「ひえっ? な、な、なんですかっ」
(なんでわかるの⁉)
「させたんだな」
「お触りなんて、さ、させてないですよおっ」
潤太がさっと両腕をクロスさせて胸を隠したことで、どこをお触りさせたかまで自白しているようなものだったが、それでも知られてはならないと潤太は顔を横にぶんぶん振った。
「お前が敬語になってる時点で、すでに怪しいんだよ」
大智が「はーっ」と大きく息を吐いて、警戒する潤太から身体を離した。彼はそのまま立てた膝に伸ばした両腕を載せて、そこに埋めるようにして顔を伏せてしまう。
「? ……大智先輩?」
潤太は彼の落胆ぶりに涙を引っこめると、にじり寄って隠れている彼の顔を覗きこんだ。
「大智先輩? どうしたの?」
「なんでもありませーん」
「うそだ」
(なんか知らないけど、絶対怒ってる!)
潤太はむっとした。大智とひとり分ほどの距離を開けて体育座りをすると、不機嫌な彼から顔をぷいとそらして口を尖らせる。
(俺、絶対悪くないし!)
潤太には彼の不機嫌の理由がわからない。もしかしたら俊明とのことで怒っているのだろうかと思ったが、でも自分の部屋に戻っていた大智にはなにも見られてはいない。だったらほかになにが原因なんだ。知らぬ間に自分は彼の気に障ることをしてしまったのだろうか。
ぺったり女の子座りをして俯き、まるで幼児のように両手で目を擦っていた潤太に、大智は黙りこむ。潤太が気になって指の間からちらっと彼の顔を覗いてみると、彼の視線は自分の膝のあたりあるようだった。
それでなぜか恥ずかしくなってしまい、潤太が隙間を埋めるように膝どうしをくっつけると、彼はこつんと肩に肩をぶつけてきた。
「……おい、もういい加減泣きやめって。ケーキがダメになったくらいで、よくそんなに泣けるよな?」
「くらいじゃないよ! あと一、二、三……、四、五? 口くらい? は残ってたんだよっ?」
そっけないことを云いつつも、大智は潤太の頭をやさしく撫でてくれている。
「先輩があんなことしなかったら、こんなことにならなかったのに……うぅっ……」
「あんなことって、どんなことだよ? まさかこの短時間に俊にヴァージンやったとか云わないだろうな」
「俺がぁ、こんなにぃ、ひっくっ、悲しんでいるのに、大智先輩、なんでそんな冗談云うんだよ、うえっ。ひどくない⁉」
きっと睨みつけたら、「おおぅ」と身を引いた大智がゴクリと唾を飲みこんだ。
「つうか、吉野。お前、なんだその唇は? 真っ赤じゃないか」
顎を掴まれくいっと上向けられる。まじまじと見つめられた唇を舐めてみると、生クリームの油でちょっとてらっといているのが自分でもわかった。
「クリームおいしかったなぁ」
「お前しつこいな。いい加減ケーキのことを云うのやめろ。そしてその嘘泣きもな」
「ぶっ」
鼻を抓まれた。
「この口つやつやしてるのは生クリームの油かも知れないけど、でもこれちょっと腫れてないか?」
顔を振って逃れようとした顎を固定されてしまう。唇をつんつん突かれると、触れられた箇所がふわんと、そして全身がぞくっとした。
さっきまであれだけ俊明に吸われていた唇は、そんなささいな刺激だけでも充分に潤太の性感を煽るのだ。たった今までケーキのショックで大人しくなっていた潤太の下腹部が、またもや甘く疼いてぴょこっと起きてしまう。
「もうっ! 大智先輩離してっ! おさわり禁止!」
大智の手を外そうと躍起になった潤太を後目に、彼の視線がふたたび潤太の腿あたりをさ迷いはじめる。
「お前、俊明にお触りさせただろう?」
「ひえっ? な、な、なんですかっ」
(なんでわかるの⁉)
「させたんだな」
「お触りなんて、さ、させてないですよおっ」
潤太がさっと両腕をクロスさせて胸を隠したことで、どこをお触りさせたかまで自白しているようなものだったが、それでも知られてはならないと潤太は顔を横にぶんぶん振った。
「お前が敬語になってる時点で、すでに怪しいんだよ」
大智が「はーっ」と大きく息を吐いて、警戒する潤太から身体を離した。彼はそのまま立てた膝に伸ばした両腕を載せて、そこに埋めるようにして顔を伏せてしまう。
「? ……大智先輩?」
潤太は彼の落胆ぶりに涙を引っこめると、にじり寄って隠れている彼の顔を覗きこんだ。
「大智先輩? どうしたの?」
「なんでもありませーん」
「うそだ」
(なんか知らないけど、絶対怒ってる!)
潤太はむっとした。大智とひとり分ほどの距離を開けて体育座りをすると、不機嫌な彼から顔をぷいとそらして口を尖らせる。
(俺、絶対悪くないし!)
潤太には彼の不機嫌の理由がわからない。もしかしたら俊明とのことで怒っているのだろうかと思ったが、でも自分の部屋に戻っていた大智にはなにも見られてはいない。だったらほかになにが原因なんだ。知らぬ間に自分は彼の気に障ることをしてしまったのだろうか。
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