108 / 109
108
しおりを挟む
神野の好きが、自分のことを云っているのか、首を咬まれることを云っているんか、判断はつかなかったけれども、
「あぁ、俺も、好きだっ」
返した言葉は、腰を突き上げるリズムで途切れ途切れになった。
自分は本当はもっとしっかりした体格の男が好みで、神野の細すぎる肉体は頼りなかったりするのだけども、愛おしさのまえではそんなものはどうでもいい。そしてこの神野のエロさは予想外の拾い物。
「あっあっ、ああぁぁ――っ!」
さんざん痴態をみせ放埓した神野に巻きこまれ、篠山のペニスが彼のきつい蠢動に大きくびくつく。神野の唇にかぶりつくようなキスをしかけると、いっそう激しく彼を穿ち、ほどなくその体内に一滴残らずすべてをぶちまけた。
ベッドにひっくり返ったふたりの荒い息が治まったころ、篠山は神野の腕をとり手首の内側をチュッと吸った。すぐにできた赤い痕は白い肌にとても映える。
「祐樹。春臣についてまわるのはいいけど、あんまりあいつに感化されるなよ」
神野がうれしそうな表情をしたのは、単純についた痕が珍しくてだろう。自分が春臣に嫉妬しているとまではわかっていないに違いない。
時計を見ればもう八時に近かった。今日は土曜なので午後になるまえには遼太郎と末広が出勤してくる。結局四時間も寝られないのかと歯噛みしても、それでもたばこを吸う五分は譲れない。
篠山は寝るまえの一本だと、チェストから灰皿を取りたばこを咥えて火をつけた。
紫煙があがるのを目で追った神野が、またじっと口もとを見てくるのに笑ってしまう。
「お前、やらしいな。そんなにキスが気にいったのか」
ふっと煙を吐きだし背を屈めると、チュッと唇を吸ってやる。
神野がぱちぱちと瞬いた。
「ん? どうした?」
「……キス」
どう云えばいいのか迷ったのだろう。神野はすこしだけ間をあけてから、再び言葉を紡いだ。
「……どうして、耳にだけ、キスしていたんですか?」
不思議そうに耳のうしろを指で擦る神野に、篠山は口もとを綻ばせた。
「ほかはどこにもキスしてこなかったのに。どこかのなにかの風習なんですか?」
「ん? だってそこにホクロがあるだろ?」
「ホクロ?」
「まぁ耳のうしろだし、自分ではわからないか」
篠山は乱れた神野の髪を掻くと、耳のうしろのあたり、髪の生え際近くにあるちいさなホクロを突いてみせた。
「ここにあるんだよ。これがな、いろっぽいんだって」
ついでとばかりにそこにキスする。
「あとは、単純に、――お前が、かわいかったから」
余計なひとことがつるりと零れてしまった篠山は赤面した。朝からずっと鈍い神野にもよくわかるようにと、大げさなぐらいの甘い言葉を選んで口にしていた、その弊害だ。
(だめだ、コイツといると、テンポが崩れる)
「さ、寝るぞっ」
照れ隠しに乱暴にたばこを灰皿でもみ消し、神野に背を向けて布団の中にもぐりこむ。
そして目を瞑るも、やはりなんか物足りなくて、軽い羽毛布団の中で寝返りをうった。目があった神野はまるで置いてきぼりをくらった子どもみたいな表情をしていた。愛しさで胸が詰まりそうだ。
篠山はもう一度、彼の左耳の印に口づけると、ぐいっと細い腰を抱き寄せた。
「篠山さん……」
それで満足いったのか、ほっと息をついた神野がはにかむ。
神野が枕をひとつ、篠山の腕の上に置いてそこに頭を乗せてきたとき、篠山も満たされた気持ちになった。彼がこのマンションを出ていってからずっと感じていたささやかな喪失感が、やっと自分のなかから消えさった瞬間だった。
「篠山さんといっしょにいると……」
枕との間の耳のホクロを触っていた神野が、おもむろに話しはじめる。
「なぜか眠れるんです」
この時ぽつぽつと話す彼の声に、思わず寝落ちそうになったのは篠山のほうだった。
連日の睡眠不足に重ねて、昨夜は酒を飲んでからのセックス。そして少し仮眠をとっただけで、この部屋から消えたこの男を探すはめになった。だから昨夜はまともに寝ていない。とどめにいままた、彼を抱いて――。
(ね、眠い……。猛烈に眠い。もう限界……)
俺、疲れたってなんども云ってるんだけどな、こいつはそれを聞いていないのか、わかってないのか、どっちだなんだ?
紛れもない天然の鈍さを持つ彼に、思わず吐きそうになった重い溜息を無理やり呑みこんで、それでも普段甘えてこない彼の云うことだからと、必死に意識を保とうとする。
「あぁ、俺も、好きだっ」
返した言葉は、腰を突き上げるリズムで途切れ途切れになった。
自分は本当はもっとしっかりした体格の男が好みで、神野の細すぎる肉体は頼りなかったりするのだけども、愛おしさのまえではそんなものはどうでもいい。そしてこの神野のエロさは予想外の拾い物。
「あっあっ、ああぁぁ――っ!」
さんざん痴態をみせ放埓した神野に巻きこまれ、篠山のペニスが彼のきつい蠢動に大きくびくつく。神野の唇にかぶりつくようなキスをしかけると、いっそう激しく彼を穿ち、ほどなくその体内に一滴残らずすべてをぶちまけた。
ベッドにひっくり返ったふたりの荒い息が治まったころ、篠山は神野の腕をとり手首の内側をチュッと吸った。すぐにできた赤い痕は白い肌にとても映える。
「祐樹。春臣についてまわるのはいいけど、あんまりあいつに感化されるなよ」
神野がうれしそうな表情をしたのは、単純についた痕が珍しくてだろう。自分が春臣に嫉妬しているとまではわかっていないに違いない。
時計を見ればもう八時に近かった。今日は土曜なので午後になるまえには遼太郎と末広が出勤してくる。結局四時間も寝られないのかと歯噛みしても、それでもたばこを吸う五分は譲れない。
篠山は寝るまえの一本だと、チェストから灰皿を取りたばこを咥えて火をつけた。
紫煙があがるのを目で追った神野が、またじっと口もとを見てくるのに笑ってしまう。
「お前、やらしいな。そんなにキスが気にいったのか」
ふっと煙を吐きだし背を屈めると、チュッと唇を吸ってやる。
神野がぱちぱちと瞬いた。
「ん? どうした?」
「……キス」
どう云えばいいのか迷ったのだろう。神野はすこしだけ間をあけてから、再び言葉を紡いだ。
「……どうして、耳にだけ、キスしていたんですか?」
不思議そうに耳のうしろを指で擦る神野に、篠山は口もとを綻ばせた。
「ほかはどこにもキスしてこなかったのに。どこかのなにかの風習なんですか?」
「ん? だってそこにホクロがあるだろ?」
「ホクロ?」
「まぁ耳のうしろだし、自分ではわからないか」
篠山は乱れた神野の髪を掻くと、耳のうしろのあたり、髪の生え際近くにあるちいさなホクロを突いてみせた。
「ここにあるんだよ。これがな、いろっぽいんだって」
ついでとばかりにそこにキスする。
「あとは、単純に、――お前が、かわいかったから」
余計なひとことがつるりと零れてしまった篠山は赤面した。朝からずっと鈍い神野にもよくわかるようにと、大げさなぐらいの甘い言葉を選んで口にしていた、その弊害だ。
(だめだ、コイツといると、テンポが崩れる)
「さ、寝るぞっ」
照れ隠しに乱暴にたばこを灰皿でもみ消し、神野に背を向けて布団の中にもぐりこむ。
そして目を瞑るも、やはりなんか物足りなくて、軽い羽毛布団の中で寝返りをうった。目があった神野はまるで置いてきぼりをくらった子どもみたいな表情をしていた。愛しさで胸が詰まりそうだ。
篠山はもう一度、彼の左耳の印に口づけると、ぐいっと細い腰を抱き寄せた。
「篠山さん……」
それで満足いったのか、ほっと息をついた神野がはにかむ。
神野が枕をひとつ、篠山の腕の上に置いてそこに頭を乗せてきたとき、篠山も満たされた気持ちになった。彼がこのマンションを出ていってからずっと感じていたささやかな喪失感が、やっと自分のなかから消えさった瞬間だった。
「篠山さんといっしょにいると……」
枕との間の耳のホクロを触っていた神野が、おもむろに話しはじめる。
「なぜか眠れるんです」
この時ぽつぽつと話す彼の声に、思わず寝落ちそうになったのは篠山のほうだった。
連日の睡眠不足に重ねて、昨夜は酒を飲んでからのセックス。そして少し仮眠をとっただけで、この部屋から消えたこの男を探すはめになった。だから昨夜はまともに寝ていない。とどめにいままた、彼を抱いて――。
(ね、眠い……。猛烈に眠い。もう限界……)
俺、疲れたってなんども云ってるんだけどな、こいつはそれを聞いていないのか、わかってないのか、どっちだなんだ?
紛れもない天然の鈍さを持つ彼に、思わず吐きそうになった重い溜息を無理やり呑みこんで、それでも普段甘えてこない彼の云うことだからと、必死に意識を保とうとする。
0
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる