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篠山は神野の顔をあげさせると、泣き濡れている顔をコートの袖口で拭ってやった。そして戦慄く唇に、ちゅっと口づけた。
文句を云ってくるかと警戒もしたが、彼はすんなり口を開くと、そのさきを求めてくる。
(こいつ、ほんとーに身体は素直なんだよな……)
だからこういうところが、かわいいんだよ。
「お前が好きだよ」
キスの合間に彼への二度目になる告白をすると、胸の中でびくんと身体を震わせた神野の、背中に縋りついていた腕が、するりとほどけて落ちていった。
口内いっぱいに差しこんだ舌で、拙い動きをする彼の舌を突いて、絡めて、吸って。路上でするキスにしては、長かったかもしれない。
「……ふっ」
唇を離すと、神野はちいさく息を吐く。とろんとしている瞳のふちに涙が引っかかっているのに気づいた篠山は、それを親指で拭ってやった。
ついでに「かわいいな」と呟やけば、ふと気配を感じていらぬシンクロニシティに臍を噛んだ。
顔をあげれば、スマホを片手に持った春臣が背後に立っていたのだ。
「あんたらいい加減にしないと、風邪ひくよ?」
往来でなにやってんのと、叱られて、慌ててふたり身体を離した。
玄関の扉を閉めるなり抱きついてきた神野の身体を受けとめて、抱き返した。
彼はキスが気にいったらしく、じっとひとの唇を見つめながら、自分の唇をなんども咬んでいる。快楽に理性を失うと、その口はとんでもなく淫乱な言葉を紡げるというのに、いまはキスしてほしいのひとことが、素直に云えないらしい。
揶揄ってやろうとほくそ笑んだ篠山が、彼のその唇にしたのはチュッチュ、チュッチュと軽いバードキスだ。唇を近づけた瞬間に見えた彼の安堵したような顔が、また不満そうに眉を寄せたものになった。きゅっと唇を咬む癖も愛らしい。
「あははははははっ」
神野はことあるごとに、唇を咬む。本人が気づいているかは知らないが、彼がつらかったり意地を張っているときに、よく見せる仕草だ。でもいまはそんなのが理由ではなく、単なる欲求不満なのだろう。
「なんですか、笑わないでくださいっ」
「どうしたんだ? そんな怒った顔するなよ。せっかく美人なのに、もったいない」
むっと唇を尖らせた神野の顔がふいに赤らむ。褒められて少し機嫌をよくしたようだ。
「ちゃんと、してください」
直截に云ってきた彼の願いは、すぐにでも叶えてやりたい。どうやら自分は必死に乞われると、熱くなるタイプだったらしい。
そういえば親鳥から与えられるエサを待つ燕のヒナたちなんて、ずっと観察していれたし、公園の鯉の餌やりだって、なんどかしたことがある。そしてそんな対象物を自分はついつい揶揄いたくなるらしい。
「なんだ? 初心者ならこれくらいでいいんじゃないか?」
と、余計なひとことをつけくわえてから、それからまた柔らかい唇を吸った。今度はちゃんと深く甘く。
神野が息継ぎもそこそこに、男にしては細い指でぎゅっとコートを掴んでくる。余すところなくキスを貪ろうとしてくる彼に、篠山の身体はあっというまに火をつけられていた。
「神野……」
しつこいくらいのキスだ。ピチャピチャと水音が玄関に響く。
「ふっ……うぅんっ……」
嚥下が下手で、時折コクンと喉を鳴らして唾液を飲む彼に、情欲がどんどん増していった。いますぐにでも彼の白い肌に噛みつき、ペニスを収めて腰を振りたい。
「んんっ……、もっとっ」
足が萎えて崩れ落ちそうになったのは自分のくせに、それで口づけが解けたとぐずる彼は、篠山がしっかり腰を支えてやっているからこそ、立っていられるこの状況に気づいてない。
文句を云ってくるかと警戒もしたが、彼はすんなり口を開くと、そのさきを求めてくる。
(こいつ、ほんとーに身体は素直なんだよな……)
だからこういうところが、かわいいんだよ。
「お前が好きだよ」
キスの合間に彼への二度目になる告白をすると、胸の中でびくんと身体を震わせた神野の、背中に縋りついていた腕が、するりとほどけて落ちていった。
口内いっぱいに差しこんだ舌で、拙い動きをする彼の舌を突いて、絡めて、吸って。路上でするキスにしては、長かったかもしれない。
「……ふっ」
唇を離すと、神野はちいさく息を吐く。とろんとしている瞳のふちに涙が引っかかっているのに気づいた篠山は、それを親指で拭ってやった。
ついでに「かわいいな」と呟やけば、ふと気配を感じていらぬシンクロニシティに臍を噛んだ。
顔をあげれば、スマホを片手に持った春臣が背後に立っていたのだ。
「あんたらいい加減にしないと、風邪ひくよ?」
往来でなにやってんのと、叱られて、慌ててふたり身体を離した。
玄関の扉を閉めるなり抱きついてきた神野の身体を受けとめて、抱き返した。
彼はキスが気にいったらしく、じっとひとの唇を見つめながら、自分の唇をなんども咬んでいる。快楽に理性を失うと、その口はとんでもなく淫乱な言葉を紡げるというのに、いまはキスしてほしいのひとことが、素直に云えないらしい。
揶揄ってやろうとほくそ笑んだ篠山が、彼のその唇にしたのはチュッチュ、チュッチュと軽いバードキスだ。唇を近づけた瞬間に見えた彼の安堵したような顔が、また不満そうに眉を寄せたものになった。きゅっと唇を咬む癖も愛らしい。
「あははははははっ」
神野はことあるごとに、唇を咬む。本人が気づいているかは知らないが、彼がつらかったり意地を張っているときに、よく見せる仕草だ。でもいまはそんなのが理由ではなく、単なる欲求不満なのだろう。
「なんですか、笑わないでくださいっ」
「どうしたんだ? そんな怒った顔するなよ。せっかく美人なのに、もったいない」
むっと唇を尖らせた神野の顔がふいに赤らむ。褒められて少し機嫌をよくしたようだ。
「ちゃんと、してください」
直截に云ってきた彼の願いは、すぐにでも叶えてやりたい。どうやら自分は必死に乞われると、熱くなるタイプだったらしい。
そういえば親鳥から与えられるエサを待つ燕のヒナたちなんて、ずっと観察していれたし、公園の鯉の餌やりだって、なんどかしたことがある。そしてそんな対象物を自分はついつい揶揄いたくなるらしい。
「なんだ? 初心者ならこれくらいでいいんじゃないか?」
と、余計なひとことをつけくわえてから、それからまた柔らかい唇を吸った。今度はちゃんと深く甘く。
神野が息継ぎもそこそこに、男にしては細い指でぎゅっとコートを掴んでくる。余すところなくキスを貪ろうとしてくる彼に、篠山の身体はあっというまに火をつけられていた。
「神野……」
しつこいくらいのキスだ。ピチャピチャと水音が玄関に響く。
「ふっ……うぅんっ……」
嚥下が下手で、時折コクンと喉を鳴らして唾液を飲む彼に、情欲がどんどん増していった。いますぐにでも彼の白い肌に噛みつき、ペニスを収めて腰を振りたい。
「んんっ……、もっとっ」
足が萎えて崩れ落ちそうになったのは自分のくせに、それで口づけが解けたとぐずる彼は、篠山がしっかり腰を支えてやっているからこそ、立っていられるこの状況に気づいてない。
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