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彼らの関係を「アレも遊びだ」と茶化した春臣に強く反発したことがある。あの時、自分は無意識に答えをだしていたのだ。
そして自分で云った「愛しあっている」という言葉に、間違いなく胸を痛めていた。
「ひとのことだけでなくって、俺って自分にも鈍いのかな?」
きっといま口にしたこのセリフが春臣に聞こえていたら、「いまごろ⁉」と云って、また呆れられそうだ。
もっとはやくに、たとえば篠山の家を出るまえに、さっさと自分がこの気持ちに気づいていたなら、彼とはもっと良好な接しかたができていたのかもしれない。
そうしたら、遼太郎とのことだってもっとゆとりをもって構えていられただろうし、篠山に自分の恋心に応えてもらえなかったとしても、いまみたいに布団の中でひとり、寂しい思いをして泣かなくてもすんだのではないだろうか。
(篠山さんがここにいたら、なにも云わなくたって、きっと慰めてくれるんだろうな)
彼は神野が不安になるたびに、すぐに気づいて後ろから抱きしめてくれていた。
きっといまだって、大きな手のひらで頭を撫でてくれ、いっしょに眠ってくれるだろう。泣いていたりしたら、もしかしたら特別に正面から抱きしめてくれるかもしれない。
思い返せば、いままでどれだけ彼に助けられ、慰められて、どれだけ安心させてもらってきたのだろうか。
たった一度だけ正面から彼の胸の中に抱きしめられたときのことを思いながら自分をぎゅっと抱きしめた。そしていまここにいてくれない彼に、涙を零す。
「俺、あのひとのこと、とっくに好きだったんだ」
気づいたところで、失恋決定だ。今日、彼に本命がいることを知った。あんな素敵なひと相手に自分が敵うわけがない。この恋が叶うことは、絶対ない。
それに自分はすでに篠山のもとを出てきてしまっている。これからは彼とは会話どころか、会える機会だって減っていくばかりだ。篠山の趣味でもなく愛されてもいない自分は、もう形だけでも彼に抱かれることもないはずだ。すべてをあきらめるしかない。
「はやく忘れなきゃ」
涙を呑みこんで、なんでもないことのように呟いた。
「あぁあ。一回だけでもいいから、篠山さんと愛のあるセックスしてみたかったな」
わざと、らしくない云いかたをして強がってみるけども、語尾は嗚咽に震え、また涙が頬を伝っていった。
濡れて冷たい枕が不快でぐいとベッドの端に押し退けた神野は、うつ伏せになって組んだ腕の中に顔を埋める。
今夜は昨夜とは打って変わって、長い夜になりそうだった。
*
「ひぃぃぃ。なんだ祐樹、その顔はっ」
「目が痛いです」
翌朝、絶不調で目を覚ました神野は、目も瞼も赤くなっていた。とくに腫れあがって重たくなった瞼は、開けているのがたいへんな状態だ。
仕事を休めと本気で心配する春臣に、風邪をひいたわけではないと主張したが、病んでもないのにそんな顔になっているのなら、なおさら心配だと云われた。
それで、いよいよ難しい顔をしだした彼に、しかたなく「ちょっと失恋したんです」と不貞腐れて白状したのだ。
春臣にまじまじと眺め下ろされ、気まずくなって顔を逸らせると、隣にやってきた彼は背中をぎゅっと抱きしめてくれた。
「今度おいしいお酒買ってあげるな。祐樹、なにが飲みたい?」
「而今純米大吟醸」
ちょっとしたやつあたり気分で答える。而今はおいしいと評判で、死ぬまでに一度は口にしてみたいと思っていた憧れの日本酒だ。
結局この日、春臣の完全監視のもと出勤した職場ではなにもかもがぐだぐだで、昨日にひきつづき顔を会わすことになった督永には、「親でも死んだのか?」と赤く腫れた目を指さされた。車内でしっかり冷やしていたのに、瞼の腫れはまったくひかなかったのだ。
今日の送り迎えが車になったのは、過保護な春臣が自分がバイクから落っこちるといけないと、心配したからだ。そんな大げさなと思っていた神野だが、実際に注意力散漫が祟って、失敗を重ねてしまい、帰るころには額に絆創膏を
そして自分で云った「愛しあっている」という言葉に、間違いなく胸を痛めていた。
「ひとのことだけでなくって、俺って自分にも鈍いのかな?」
きっといま口にしたこのセリフが春臣に聞こえていたら、「いまごろ⁉」と云って、また呆れられそうだ。
もっとはやくに、たとえば篠山の家を出るまえに、さっさと自分がこの気持ちに気づいていたなら、彼とはもっと良好な接しかたができていたのかもしれない。
そうしたら、遼太郎とのことだってもっとゆとりをもって構えていられただろうし、篠山に自分の恋心に応えてもらえなかったとしても、いまみたいに布団の中でひとり、寂しい思いをして泣かなくてもすんだのではないだろうか。
(篠山さんがここにいたら、なにも云わなくたって、きっと慰めてくれるんだろうな)
彼は神野が不安になるたびに、すぐに気づいて後ろから抱きしめてくれていた。
きっといまだって、大きな手のひらで頭を撫でてくれ、いっしょに眠ってくれるだろう。泣いていたりしたら、もしかしたら特別に正面から抱きしめてくれるかもしれない。
思い返せば、いままでどれだけ彼に助けられ、慰められて、どれだけ安心させてもらってきたのだろうか。
たった一度だけ正面から彼の胸の中に抱きしめられたときのことを思いながら自分をぎゅっと抱きしめた。そしていまここにいてくれない彼に、涙を零す。
「俺、あのひとのこと、とっくに好きだったんだ」
気づいたところで、失恋決定だ。今日、彼に本命がいることを知った。あんな素敵なひと相手に自分が敵うわけがない。この恋が叶うことは、絶対ない。
それに自分はすでに篠山のもとを出てきてしまっている。これからは彼とは会話どころか、会える機会だって減っていくばかりだ。篠山の趣味でもなく愛されてもいない自分は、もう形だけでも彼に抱かれることもないはずだ。すべてをあきらめるしかない。
「はやく忘れなきゃ」
涙を呑みこんで、なんでもないことのように呟いた。
「あぁあ。一回だけでもいいから、篠山さんと愛のあるセックスしてみたかったな」
わざと、らしくない云いかたをして強がってみるけども、語尾は嗚咽に震え、また涙が頬を伝っていった。
濡れて冷たい枕が不快でぐいとベッドの端に押し退けた神野は、うつ伏せになって組んだ腕の中に顔を埋める。
今夜は昨夜とは打って変わって、長い夜になりそうだった。
*
「ひぃぃぃ。なんだ祐樹、その顔はっ」
「目が痛いです」
翌朝、絶不調で目を覚ました神野は、目も瞼も赤くなっていた。とくに腫れあがって重たくなった瞼は、開けているのがたいへんな状態だ。
仕事を休めと本気で心配する春臣に、風邪をひいたわけではないと主張したが、病んでもないのにそんな顔になっているのなら、なおさら心配だと云われた。
それで、いよいよ難しい顔をしだした彼に、しかたなく「ちょっと失恋したんです」と不貞腐れて白状したのだ。
春臣にまじまじと眺め下ろされ、気まずくなって顔を逸らせると、隣にやってきた彼は背中をぎゅっと抱きしめてくれた。
「今度おいしいお酒買ってあげるな。祐樹、なにが飲みたい?」
「而今純米大吟醸」
ちょっとしたやつあたり気分で答える。而今はおいしいと評判で、死ぬまでに一度は口にしてみたいと思っていた憧れの日本酒だ。
結局この日、春臣の完全監視のもと出勤した職場ではなにもかもがぐだぐだで、昨日にひきつづき顔を会わすことになった督永には、「親でも死んだのか?」と赤く腫れた目を指さされた。車内でしっかり冷やしていたのに、瞼の腫れはまったくひかなかったのだ。
今日の送り迎えが車になったのは、過保護な春臣が自分がバイクから落っこちるといけないと、心配したからだ。そんな大げさなと思っていた神野だが、実際に注意力散漫が祟って、失敗を重ねてしまい、帰るころには額に絆創膏を
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