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 こっちの世界に帰ってきたあと、すぐにネットで同性とのおつきあいのマナーを勉強した宝としては、なんとしてでも行為のまえにはお風呂にはいりたい。イアンに力いっぱい抵抗するのだが――。

「んっ……、あんっ……」
 深く口腔を探られながら指さきで乳首をかりっとひと掻きされてしまえば、もうめろめろになってしまうのだ。
 張りつめた陰茎からじわっと体液が滲む感覚に、下着が濡れてしまうと腰をひく。この二ヶ月で慣らされた宝の身体は、すっかりイアンの愛撫に期待するようになっていた。

「宝」
「あぁ……イアン……」
 とろりと情欲に潤む瞳でイアンを見つめ、さらに奥へ奥へと強請るように彼に舌を絡めたとき、ふいに部屋の窓がガラッと開いた。

 ぎょっとして顔をあげると、あいもかわらず呼びもしないのにやってきた結城が部屋にずかずかとあがりこんでくる。

「結城っ!」
「はいはい、こんばんわー」
 宝だってはじめのうちは、イアンといちゃいちゃしている現場を見つかるたび固まったり狼狽えたりしていた。しかしこの二ヶ月のあいだに、どれだけこのシチュエーションがあったことか。いかなヘタレな宝でも、いまではすっかり慣れてしまっていた。

 宝はイアンの膝のうえから下りると、慌てて衣服を整えた。やや前かがみでシャツの裾を引っ張っているのは、勃ちあがっている股間を隠すためだ。

「こんばんわ、じゃないっ、なんども窓からはいってくるなって云ってるだろっ。こんな時間になにしに来たんだよっ」
「はんっ!」
 時間も考えずに声を荒らげた宝を、腰に手をあてた仁王立ちの結城は一瞥してから吐き捨てる。

「な、なんだ、その態度はっ⁉」
 結城はこの世界に帰ってきたあとから、いや正確にいうと王宮のギアメンツの部屋で会ったときからなぜかずっと不機嫌だ。

「だいたい年頃の女の子がこんな時間に男の部屋に――」
「あら? 彼氏もちの宝のどこかどう危ないって云うのよ? こんなにキュートでFカップで腰だってくびれたぴちぴちのJCジェイシーよりも、宝はそっちにいる筋肉隆々のゴツイイケメンがいいんでしょうがっ!」 
 つけつけと云われて、宝はぐっと言葉を詰まらせた。

「あたしは晶のところに行くだけよ。宝に用なんてないんだからっ」
「だったら、――」
「それにイアンだって窓からはいってきてるんじゃない、どうせまたふたりで今からいかがわしいことするんでしょ? いいところを邪魔されたからって、あたしに八つ当たりしないでちょうだい!」
「い、いか――」

 いかがわしいとはなんて云いざまだと、宝が目を白黒させていると彼女はさらにつづけた。

「するんでしょ? ねぇ、するんでしょう! だって宝は出会った男に二日後にはヤらせるようなアバズレだもんね! 直ちゃんも毎晩毎晩いい迷惑よ。今夜も宝の声がうるさいだろうからって、今もあたしん家で勉強してるわ!」
「なっ、あっ、どっ――うわぁっ⁉」
 力では敵いっこない彼女にそれでも挑みかかろうとした宝は、背後にいたイアンに引き戻されてしまってまた彼の膝の上にお座りだ。

「イ、イアン!?」
「宝、やめておけ。お前は口でも力でも結城には負けるだろう?」
「! くぅぅぅっ」
 顔を真っ赤にしてギリギリと歯を食いしばる宝の頭を、イアンが宥めるようにして撫でた。

「結城、晶なら俺がここに来るまえに、神殿でアモンと話していたぞ? 王宮に連れていってもらう約束を交わしていた」
「え? それほんと? イアン、そういうことはもっとはやく教えてよ! はやく行かなきゃおいていかれるじゃない‼」
「……すまないな。おいて行かれていたら、ライラックを使えばいい」
「うん。ありがと、イアン!」

 お礼の言葉もそこそこに、結城は部屋のドアを開けると飛びでて行く。暫くすると隣の部屋の窓が開く音がした。

「だから、窓から出はいりするなよって……」
 がっくりと肩を落として呟いた宝は上目づかいでイアンを見ると、「イアンもだぞ?」と、いつも晶の家の二階のバルコニーからやってくる彼のこともついでに窘めた。

「ああ、いつも悪いな。でも、邪魔ものはいなくなったんだから……」
 イアンの膝のうえ、上目づかいで口を尖らせた宝の顎がそっともち上げられる。キスが再開されると宝は今度は素直に瞼を下ろした。

 時刻はもう二十一時をまわっている。はやくしないとあっというまに朝になってしまう。朝になるとイアンは『泉の流れるひとの神殿』に帰らないといけないのだから。
 成立したばかりのカップルが過ごすには、あまりにも短い時間だった。

 来るときにはプラウダに魔法陣を起動させてもらわなければならないが、帰りは晶のラボにある光のトンネルをくぐればいいだけなので、簡単だった。

 ちなみに晶のラボはいまだに『泉の湧く神仙の神殿』とも繋がっているらしく、まれに熱狂的な信仰者が出没するらしい。
 最高の聖者を目指す彼らはかわいそうなことに、さんざん晶に弄ばれたあげく、心をズタボロにしてイアンの部屋に送られてくるのだという。このぶんでは、またあちらの世界となにやら一波乱ありそうだ。

 それでもいまはとりあえず、宝は彼と過ごす朝までの時間を大事にしたかった。宝はイアンの首に腕をまわすと、ゆっくり彼を引き寄せる。

「――イアン、つづき、しよ」
 ドキドキと胸を高鳴らせながら自らベッドに体を沈めた宝は、瞳をそっと閉じた。


 

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