三日月と果実。

也菜いくみ

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「洗うの平気だった? 怖くなかったのか?」
「…………そ、そんなことを知りたいの?」
 イアンのとんでもない質問に、たちまち宝は覚醒したようだ。真っ赤になって目をさ迷わせはじめた彼の両手を握ると、イアンは「ああ、知りたい。教えて」と耳のなかに直接言葉を送りこんだ。

「……も、めちゃくちゃ怖かった、よ?」
 消え入りそうな声で白状する宝に、さらに追い打ちをかけてみる。
「どういうふうに怖かったの? どうやってやったの?」
「ひえっ、そ、そんなの恥ずかしくって云えないって」

「手は前からまわした? それとも後ろから?」
「うぅ……、そんなの、なんで訊くの?」
「宝にすごく興奮したいから」
 いわゆる初言葉攻めと云うやつだ。間近からじっと見つめると、暫くして宝は恥ずかしそうにそっと目を閉じて云った。

「…………ま、まえから……」
「こんど見せてくれる?」
 ぱちりとまた目が開く。
「へ? だ、だめっ。まだ上手にできないと思うし、時間かかるし……」
「手伝ってやる」

「そ、それもだめっ」
「なんで? ふたりで愛しあうために必要な行為なんだから、準備もふたりですればいいじゃないか? そんなに恥ずかしいことか?」
「恥ずかしいけど、そ、それよりも汚いから、ダメ。絶対ダメ」
 宝は首をぶんぶんと横に振った。

 でも、こう云えばどうだろう? 彼には絶対に効果があるはずだ。
「俺は、したい」
  すると思った通り、
「…………うん」
 宝はこくんと頷いた。ああ、もうかわいい。今度なんかを待っていられないじゃないか。

「そうだ、今から見せてくれ」
「え⁉」
 イアンは布団をはぐと宝を抱き上げて、シャワールームに向かって歩きだした。

「えっ、えっ、ええっぇぇっ⁉」
 腕のなかで「ダメ、まだだめぇぇぇっ」と絶叫している宝だったが、でもきっと自分がどうしてもとお願いすれば、彼はしぶしぶであっても応じてくれるのだろう。

 その証拠にいまも宝の腕はしっかり自分の首にまわされていて、離れていきそうにない。
「こ、心の準備ができていないよぉーっ」
「大丈夫だ、宝。俺が教えてやるし、手伝ってやるっていっただろ?」

「無理無理無理っ、もっとうまくできるようになってからだって!」
 扉を開けてシャワールームで下ろした宝は、真っ赤な顔で「ふぅふぅ」息を切らして見上げてきた。それでもまったく逃げる気はないらしい彼に、イアンはついに噴きだした。

 より多く愛しているつもりが、もしかして愛されされているのほうが、おおきいのかもしれないなと思えば、なにやらふくふくとした甘い気持ちに包まれていく。
「イアン?」

 イチゴのように赤く染まった宝の頬はとても甘そうだ。イアンは微笑みを浮かべると、首を傾げている愛しい存在を味わうべく、唇を落としていった。「俺も負けないくらい愛しているよ」と囁きながら。





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