2 / 10
第一話 一千年前の約束
2.
しおりを挟む この地には巨大な国家がいくつかあり、そしてその周囲に小国が散らばっている。
人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。
この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。
海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。
ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
この国が自らそう名乗るようになったのは、これより一世紀は前の事だった——。
♢ ♢ ♢
この世界には神の氣が満ち、それは生命の活力ともなると共に、濃すぎるその氣は命あるものにとって毒にもなる。
エーテルと呼ばれるそんな神の氣は、真那と呼ばれる清浄な氣と、そしてその状態が変った魔と呼ばれるものに分けられる。
水と氷のように、ただその状態が変わっただけで同じ神の氣であるに違いはないのだけれど、生憎と生命にとってその性質は正反対に作用してしまう。
水が命を育むように、真那は生命の活力となり。
氷が死を呼ぶように、魔は生命を蝕んだ。
元々、この世界を構成するブレーンの表面に存在するには神の氣は真那の状態である場合が多く。
ブレーンの内側には魔が多かった。
そのため、生命はそのブレーンの表面に多く生まれ、繁殖していったのだった。
真那の泡、プランクブレーンはいつしか命の源大霊を産み。
そしてその大霊から魂が産まれ、生命に宿り『意志』が目覚め。
『意志』すなわちその神のかけらは『人』と呼ばれるものとなる。
神は自らの分身でもあるその人の誕生を祝福し、彼らに加護を与えた。
しかしそれは、神による人の魂に対する、人がその全ての権能を解放し神と同等となることが無いようにする為の枷でもあった。
そうしてその能力に対して枷が嵌められた『人』は、命の終わりにまた大霊に還る。
多くの命はそうしてその円環の輪の中で、永く時を紡いできたのだった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」
亜麻色の髪の聖女フランソワは、そろそろお昼の食事の時間だなぁとのんびりしている所で、自室を訪れた王室聖女庁長官を務める王太子、シャルル・ド・アルメルセデスにいきなりそう告げられた。
一瞬あっけにとられる彼女。
それでもすぐに気をとりなおす。
「はう。何かございましたでしょうか?」
そう首を傾げる彼女。
それでなくとも冷たい目をしていたシャルル王太子、いっそう冷えた視線を聖女に向けた。
「お前のそういう所が私はずっと気に入らなかったのだ。聖魔法も碌に使えない半人前のくせに。お前のような者を聖女として迎えた事自体が誤りだったのだ!」
そう怒鳴り。
「まあいい。真の聖女が見つかった今となってはお前はもう用済みだ。荷物を纏めてとっとと実家に帰るといい!」
と続けた後、背をむけ部屋を出ていった。
♢ ♢ ♢
人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。
この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。
海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。
ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
この国が自らそう名乗るようになったのは、これより一世紀は前の事だった——。
♢ ♢ ♢
この世界には神の氣が満ち、それは生命の活力ともなると共に、濃すぎるその氣は命あるものにとって毒にもなる。
エーテルと呼ばれるそんな神の氣は、真那と呼ばれる清浄な氣と、そしてその状態が変った魔と呼ばれるものに分けられる。
水と氷のように、ただその状態が変わっただけで同じ神の氣であるに違いはないのだけれど、生憎と生命にとってその性質は正反対に作用してしまう。
水が命を育むように、真那は生命の活力となり。
氷が死を呼ぶように、魔は生命を蝕んだ。
元々、この世界を構成するブレーンの表面に存在するには神の氣は真那の状態である場合が多く。
ブレーンの内側には魔が多かった。
そのため、生命はそのブレーンの表面に多く生まれ、繁殖していったのだった。
真那の泡、プランクブレーンはいつしか命の源大霊を産み。
そしてその大霊から魂が産まれ、生命に宿り『意志』が目覚め。
『意志』すなわちその神のかけらは『人』と呼ばれるものとなる。
神は自らの分身でもあるその人の誕生を祝福し、彼らに加護を与えた。
しかしそれは、神による人の魂に対する、人がその全ての権能を解放し神と同等となることが無いようにする為の枷でもあった。
そうしてその能力に対して枷が嵌められた『人』は、命の終わりにまた大霊に還る。
多くの命はそうしてその円環の輪の中で、永く時を紡いできたのだった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」
亜麻色の髪の聖女フランソワは、そろそろお昼の食事の時間だなぁとのんびりしている所で、自室を訪れた王室聖女庁長官を務める王太子、シャルル・ド・アルメルセデスにいきなりそう告げられた。
一瞬あっけにとられる彼女。
それでもすぐに気をとりなおす。
「はう。何かございましたでしょうか?」
そう首を傾げる彼女。
それでなくとも冷たい目をしていたシャルル王太子、いっそう冷えた視線を聖女に向けた。
「お前のそういう所が私はずっと気に入らなかったのだ。聖魔法も碌に使えない半人前のくせに。お前のような者を聖女として迎えた事自体が誤りだったのだ!」
そう怒鳴り。
「まあいい。真の聖女が見つかった今となってはお前はもう用済みだ。荷物を纏めてとっとと実家に帰るといい!」
と続けた後、背をむけ部屋を出ていった。
♢ ♢ ♢
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる