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第一話 一千年前の約束
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———こんなことって、ある!?
はあ、はあ…っ。
息が切れて肺がものすごく痛い。
それでも、全力で走るのをやめられない。
それをやめたら、私は多分、死ぬ。
思えば、私の人生って、ほんっと男運がなかったな…。
初めて恋をした保育園時代。
ちょっとばかり霊感が強い私は、まだ霊の類と人間との区別がついていなくて、他の子には見えていないものと会話をして気味悪がられて、呆気なく初恋は散った。
次に恋をした小学生の時は、名前がしわしわネームだとからかわれて、"おばあちゃん"と付き合えるかよ!と失笑された。
中学生の時は、保育園・小学校からの知り合いが多くいたせいで、霊能ばーちゃんって呼ばれたり、
武道系の習い事のせいで、女ゴリラって呼ばれたり。
もはや恋どころじゃなかった。
高校生になって、やっと普通の恋ができるって思ってたのに。
好かれるのは、ナルシストやストーカーばかり。
刺されそうになったのは、1度や2度じゃない。
…そして今。
人通りの少ない夜道で、とんだ勘違いヤローに、『一緒に死のう!』とか言われて、突然液体をかけられた。
ヤバイと思って、すぐさま走り出したけど、ものすごいスピードで追いかけてくる。
空手だって柔道だって剣道だって、段位を持ってる私だけれど。
刃物とは戦えても、ガソリンぶっかけてくるような頭オカシイ奴とは戦えない…。
私、どんだけ男運ないんだよ!!
大通りへの近道になる、この今いる公園。
ここさえ抜ければ、助けを呼べる…。
「あっ…!」
全力で走るのに疲れたのか、足がもつれて段差に躓いてしまう。
…ダメだ、転ぶ。
何とか手はついたけれど、地面に勢いよく倒れ込んでしまった。
肺が痛くて、呼吸もまともにできない。
立ち上がることもできず、反射的に表を向いて、相手を確認した。
「どうして逃げるの…?」
ライターに火をつけて、にじり寄ってくる。
私は地面にお尻をつけたまま、後退りすることしかできない。
…ああ、このまま火をつけられて、燃やされて死ぬのかな……。
今日、私、誕生日なのにな。
人生で一度くらい、フツーの恋がしたかったなあ。
いや、やっぱり、イケメン男子に愛されて結婚して、女としての幸せを味わってから死にたかったなあ…。
ふと見上げた夜空に、キラッと流れ星が輝く。
それがスーッと消えていくのを見つめて、目を閉じた。
こんな一瞬じゃ、何もお願い事なんか言えないじゃない…。
そう思った瞬間。
バサっ!!
そんな大きな羽音とともに、リリンと鈴の音が聞こえる。
驚いて目を開くと、そこには漆黒の翼が生えた男の人。
それから、猫…?え、狐……?
瞬きをしてもう一度見た時には、一匹の狐の横に、銀色に輝く長髪をなびかせている男の人。
「———千夜、平気か?」
銀髪の男の人が振り向いて、私を呼んだ。
…え?
どうして、私の名前を…?
ていうか…、この声、聞き覚えがある。
誰だっけ。
顔を見たいけれど、逆光になっていて見えない。
「オイ、その火を寄越せ」
今度は黒い羽の男の人の方が、私を燃やそうとした相手にそう言った。
…あれ?
こっちもなんか聞き覚えあるような。
「なっ、なんだ…オマエらは……」
火をつけてこようとした相手の、明らかに焦りが分かる声。
目の前で起こっていることに、思考がついていかない。
本当、何なんだろうこの人たちは。
夢、見てるの…?
ああそうか。
これが死後の世界ってやつかな。
きっとショックで、燃やされたところの記憶が抜けてるんだ。
熱さや痛みすら感じずに死ねたのは、よかったなあ。
生きてるうちに叶わなかった、イケメンとの恋はこれから叶うのかなあ。
王子サマとの出会いを夢見ていたけど、この人たちがそういうので、これからステキな展開になるんだよ、きっと。
男運サイアクだったんだから、死んだ後くらい幸せが待っているよね…?
神様、お願い。
そのくらいの淡い期待は抱かせて。
再び、目を閉じる。
「千夜?千夜……!」
私のことを呼ぶ懐かしい声が、意識の遠くで響いた。
はあ、はあ…っ。
息が切れて肺がものすごく痛い。
それでも、全力で走るのをやめられない。
それをやめたら、私は多分、死ぬ。
思えば、私の人生って、ほんっと男運がなかったな…。
初めて恋をした保育園時代。
ちょっとばかり霊感が強い私は、まだ霊の類と人間との区別がついていなくて、他の子には見えていないものと会話をして気味悪がられて、呆気なく初恋は散った。
次に恋をした小学生の時は、名前がしわしわネームだとからかわれて、"おばあちゃん"と付き合えるかよ!と失笑された。
中学生の時は、保育園・小学校からの知り合いが多くいたせいで、霊能ばーちゃんって呼ばれたり、
武道系の習い事のせいで、女ゴリラって呼ばれたり。
もはや恋どころじゃなかった。
高校生になって、やっと普通の恋ができるって思ってたのに。
好かれるのは、ナルシストやストーカーばかり。
刺されそうになったのは、1度や2度じゃない。
…そして今。
人通りの少ない夜道で、とんだ勘違いヤローに、『一緒に死のう!』とか言われて、突然液体をかけられた。
ヤバイと思って、すぐさま走り出したけど、ものすごいスピードで追いかけてくる。
空手だって柔道だって剣道だって、段位を持ってる私だけれど。
刃物とは戦えても、ガソリンぶっかけてくるような頭オカシイ奴とは戦えない…。
私、どんだけ男運ないんだよ!!
大通りへの近道になる、この今いる公園。
ここさえ抜ければ、助けを呼べる…。
「あっ…!」
全力で走るのに疲れたのか、足がもつれて段差に躓いてしまう。
…ダメだ、転ぶ。
何とか手はついたけれど、地面に勢いよく倒れ込んでしまった。
肺が痛くて、呼吸もまともにできない。
立ち上がることもできず、反射的に表を向いて、相手を確認した。
「どうして逃げるの…?」
ライターに火をつけて、にじり寄ってくる。
私は地面にお尻をつけたまま、後退りすることしかできない。
…ああ、このまま火をつけられて、燃やされて死ぬのかな……。
今日、私、誕生日なのにな。
人生で一度くらい、フツーの恋がしたかったなあ。
いや、やっぱり、イケメン男子に愛されて結婚して、女としての幸せを味わってから死にたかったなあ…。
ふと見上げた夜空に、キラッと流れ星が輝く。
それがスーッと消えていくのを見つめて、目を閉じた。
こんな一瞬じゃ、何もお願い事なんか言えないじゃない…。
そう思った瞬間。
バサっ!!
そんな大きな羽音とともに、リリンと鈴の音が聞こえる。
驚いて目を開くと、そこには漆黒の翼が生えた男の人。
それから、猫…?え、狐……?
瞬きをしてもう一度見た時には、一匹の狐の横に、銀色に輝く長髪をなびかせている男の人。
「———千夜、平気か?」
銀髪の男の人が振り向いて、私を呼んだ。
…え?
どうして、私の名前を…?
ていうか…、この声、聞き覚えがある。
誰だっけ。
顔を見たいけれど、逆光になっていて見えない。
「オイ、その火を寄越せ」
今度は黒い羽の男の人の方が、私を燃やそうとした相手にそう言った。
…あれ?
こっちもなんか聞き覚えあるような。
「なっ、なんだ…オマエらは……」
火をつけてこようとした相手の、明らかに焦りが分かる声。
目の前で起こっていることに、思考がついていかない。
本当、何なんだろうこの人たちは。
夢、見てるの…?
ああそうか。
これが死後の世界ってやつかな。
きっとショックで、燃やされたところの記憶が抜けてるんだ。
熱さや痛みすら感じずに死ねたのは、よかったなあ。
生きてるうちに叶わなかった、イケメンとの恋はこれから叶うのかなあ。
王子サマとの出会いを夢見ていたけど、この人たちがそういうので、これからステキな展開になるんだよ、きっと。
男運サイアクだったんだから、死んだ後くらい幸せが待っているよね…?
神様、お願い。
そのくらいの淡い期待は抱かせて。
再び、目を閉じる。
「千夜?千夜……!」
私のことを呼ぶ懐かしい声が、意識の遠くで響いた。
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