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本編

大切な話(18禁シーンなし)

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 次の日の朝。私たちは、朝早くに起き、直ぐに移動となった。宿屋からでて、馬車に乗り込もうとした時、誰かが私の肩をポンポンと叩いた。私は、くるりと振り返る。


 「やあ、レディ。俺と一緒の馬車に乗らないか? ちょっと話したいことがあるんだ」


 そう言うのは、エディートルトさんであった。


 ……この人も、このシールド修復作戦に参加してたんだ。彼とは、あまり、いい思い出がないため、私は思わず、身構えてしまう。


 「ダメに決まってるじゃん。兄さん、何考えてるんだ」


 私が返事するよりも先に、アースさんが答えてしまう。とはいえ、私もアースさんの意見に同意だ。エディートルトさんには、襲われかけた過去があるから、できる限り一緒の馬車には乗りたくない。


 「いやいや、今日はナンパしに来た訳じゃないよ。研究所の所長として、レディのこれからに関わる大事な話をしに来たんだ」


 「は……? 兄さんの言うことなんて、信じられるわけないだろ?」


 「まあまあまあ、信頼してくれよ」


 ニコニコと怪しい笑みを浮かべるエディートルトさん。アースさんは、私のことを背中で隠しながら、エディートルトさんの顔を、ただ睨みつける。2人の目線の間で、バチバチとなる火花。私が仲裁に入ろうとしたその時、凛とした声が、私たちの元に駆けつけた。


 「私からもお願いします」


 そう言ってあらわれたのは、レティーシアさんであった。レティーシアさんの隣には、マーティンさんもいる。


 「教会としても、いつかはしなければいけない話です。アース様、聖女様をお貸しいただけないでしょうか? エディートルト様が何かすれば、私とマーティンがお守りします」


 「……俺が同席したらだめなのか?」


 「できれば、ご遠慮いただきたいです」


 「分かった」


 アースさん、物凄い不服そうな顔してる……。アースさんの意識が私に向いた。


 「兄さんに何かされそうになったら、すぐマーティンかレティーシアの影に隠れるんだぞ。いいな?」


 「はい」


 私は、素直に返事をする。


 アースさんと別れた私たちは、馬車に乗り込んだ。昨日と同じような豪華な馬車であった。私とレティーシアさんが隣合って座る。レティーシアさんの向かいには、マーティンさんが、私の向かいにはエディートルトさんが座っている。


 馬車がガタンと揺れる。動きはじめる馬車。街から抜け、外はあっという間に緑の世界となる。


 「ごめんね、アースがいると話が拗れそうだから、席を外してもらったんだ」


 肩をすくめるエディートルトさん。アースさんがいると話が拗れる……一体、彼らは何の話をするつもりなのだろうか。真剣な話であろうということは予測できる。だからこそ、その先を聞くのが恐ろしかった。私は、身を固くする。エディートルトさんが、ゆっくりと唇を動かした。


 「早速、話を切り出すんだが……レディは、シールド修復が終わったら、どうするつもりだい?」


 エディートルトさんから放たれた言葉。それは、私がいつかは考えなければならない事だった。その言葉を聞き、硬直している私に、エディートルトさんは更なる言葉を投げかける。


 「元の世界に帰れるんだけど、帰る?」


 「え……?」


 元の世界……私が元々暮らしいていたあの世界。咄嗟に返事ができない。正直、私はあの世界で居場所という居場所は無かった。未練はあまりない。しかし、社会人として働いているため、私がいない間、私の仕事はどうなっているのだろうという不安はある。私のいるべき場所は、本来はあそこだとも思うし。でも、私に好意を寄せてくれているアースさんの意志を無視して、勝手に帰るなんてできない。


 「もし、帰りたいというのであれば、研究所と教会が協働し、聖女様が元の世界へお帰りするためのお手伝いをいたします」


 エディートルトさんの言葉に、付け足してそう言うレティーシアさん。


 「……今、結論出さなきゃいけないんですか……?」


 「いえ。シールド修復が終わってからでも大丈夫です」


 レティーシアさんが、淡々とした表情でそう言う。いつもは頼りになるその顔であるが、今日は少し恐ろしい。


 「アースさんにも……聞いてみます……」


 「……アースに言ったら、引き止められるに決まってるだろう。どうせ、口説かれているんだろ?」


 エディートルトさんが大きな欠伸をひとつこぼす。


 ……事実なので、返事ができない。彼には、このシールド修復作戦が終わったら、子どもが欲しいと言われているし。きっと、私が帰りたいと言ったら、反対されるに決まっている。


 「聖女様の意思でお考え下さい。ここにいたいのか、いたくないのか。私たちは、聖女様のご意志に従います」


 「……わかりました」


 私の意思……どうだろう。今は逃げつつけているが、もうそろそろ考えなければいけない。でも、結論は出ない。そんなことを考え続けていた──刹那。


 「おいっ! 魔物が現れたぞ!?」


 外からいきなり声が聞こえ、私の意識は窓の外へと向かった。
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