氷属性の男装王子は、隣国の王太子の執着から逃げたい

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調査のはじまり

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 情報の共有を終えた後、私は、揺れる馬車の中にいた。アルフォンソ王太子と2人きりで。  


 「フォードル、王宮以外のところを見るのは、はじめてなんだ」


 アルフォンソ王太子は、長い足を組み、外を眺め続けていた。


 あの手合わせの後、私たちはアルフォンソ王太子から、闇の魔法使いたちに関する話を聞いた。


 アルフォンソ王太子曰く、事は1年前――彼の妹、ミルファ王女が失踪したことからはじまった。


 ミルファ王女は、元気で明るく快活な姫であり、フォードルにも「太陽姫」として名を馳せていた姫だった。


 そんな妹がいきなり失踪。アルフォンソ王太子は、すぐに彼女の捜索をしたという。しかし、探せど、探せど見つからない。それどころか、次々とほかの姫や令嬢たちが失踪していったという。


 見つからない姫とご令嬢たち。次々と失踪してしまうご令嬢たち。


 消えてしまったご令嬢の両親は、子どもの無事を願い、まだ被害にあっていないご令嬢たちやその親は次の犠牲者は自分ではないかと恐怖した。


 失踪事件から数カ月後。ご令嬢たちが続々と見つかった。しかし、失踪していたご令嬢たちの親から漏れたのは、彼女たちが見つかったがゆえの歓喜の声ではなかった。


 子を亡くした、親の嘆きの声であった。


 アルフォンソ王太子の妹、ミルファ王女も死体として見つかった。乱暴された形跡のない、とても綺麗な死体だったという。しかし、その死体たちの胸元には、黒く光る百合の刻印が浮かび上がっていた。


 ……黒く光る百合の刻印――。その刻印をつけたのが闇の魔法使いであるということは、すぐにわかったらしい。


 アルフォンソ王太子を含め、レノバルトの人々は、調査を進めた。そして、その中で、一人の闇の魔法使いの名前があがったという。


 メルセデス・ナンス


 元々、上流階級の息子で、光の魔法使いであったのだが、気づけば闇の魔法使いになったのだという。


 アルフォンソ王太子いわく、光の魔法と闇の魔法は表裏一体。光の魔法をつかっていたものが、闇の魔法をつかうということは、度々あることらしい。私は光の魔法の知識も、闇の魔法の知識も浅いため、ここで初めて知ったことだった。


 さて、このメルセデス・ナンスであるが、大きな闇魔法使いが集まるコミュニティを作っているという。そのコミュニティが、今回の事件の犯人である証拠を、アルフォンソ王太子たちは押さえたらしい。


 しかし、彼らを捕らえるまでにはいたってない。証拠はおさえたが、その証拠を本人たちに突きつけたら、逃げられてしまったらしい。 


 メルセデスたちが何故ご令嬢を殺したのかすらも分かっていない。


 ただ、その組織はレノバルトの目から逃れるためか、我が国にメルセデスたちがいるかもしれないという目撃情報は得た。


 アルフォンソ王太子は、それを調査するために、ここにやってきた。


 私は、そんなアルフォンソ王太子を案内し、時には助ける役目を担っている。正直、アルフォンソ王太子は、腕がたつ頭のいい男なので、私が出る幕があるかは分からないが。


 私は、アルフォンソ王太子にならい、外を眺める。きらびやかな王宮の景色とは対照的に、緑覆う自然豊かな景色である。その緑の中に、光が見えた。もうすぐ、目的地につきそうだ。


 カツン……カツン…… 。


 馬の足音が変わる。土を踏む音から、石畳を踏む音になった。


 緑が消え、目的地の姿があらわとなる。


 「本当にこの街に、メルセデスたちはいるんですか?」


 この街――ルリヤの街。宮殿からは少し離れた小さな街である。しかしながら、そこそこ栄えた街であった。大陸の様々な国の貿易商たちが集まり、商業を営んでいることで有名である。


 アルフォンソ王太子が、意識を私へ向けた。


 「いるかどうかは分からないが、目撃情報は多数ある。調査する価値はあると思うよ」


 アルフォンソ王太子の髪と瞳は、金色から茶色へと変わっていた。街の中でも目立たないようにとの配慮であるが、彼の美しさは色褪せない。


 一方の私は髪の毛の色は変わってないが、瞳の色だけは、茶色になっている。


 馬車が止まる。私たちは、顔が悟られないよう、フードを目深に被り、外に出た。


 爽やかな風が、私の頬に触れた。
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