氷属性の男装王子は、隣国の王太子の執着から逃げたい

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アルフォンソから見た「氷像の王子」

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 氷像の王子。


 それが、フォードル王国第四王子、レオンの異名だ。彼が剣技に長けた、天使のように美しい少年――しかしながら、感情を表に出さない氷のような冷たい少年である。そんなことは、大陸でも有名な話であった。


 彼はフォードル王国の王と、側室マリエッタの間に生まれた、2人目の子どもであった。マリエッタは、元々踊り子で、その美貌を見初められ、王の妻となった。彼女の人生は、「これぞまさに玉の輿」といったようなものであるが、ただの平民が国の長の妻となることは、苦難の人生のはじまりであった。


 数年前まで、フォードルでは激しい権力争いが行われた。現フォードル王国王太子ベルナルドと第三王子との次期後継者争いである。


 権力争い中で、マリエッタの一人目の息子が6歳という若さで亡くなった。平民でなんの後ろ盾のない王族なんて、野心的な王族や貴族からしたら邪魔なだけ。あっさりと殺されてしまうものだ。


 彼は側室の子で、後宮の中でひっそりと育ったため、名前も表に出てきていない。しかし、もし、権力争いが落ち着いた今も生きていたら、レオンのように表に出て活躍できていたかもしれない。


 なんの運命か、この子どもが亡くなった日に、新たに生まれたのが、氷像の王子ことレオンであった。マリエッタは、長兄が亡くなった悲しみを埋め合わせるかのように、次男を可愛がった。


 さて、俺はこの冷たいと言われる王子の話を、噂以外のところでも聞いている。友人であるベルナルドの世間話の中で、レオン王子の名前が度々登場するのだ。


 マリエッタもレオンを可愛がっていたが、ベルナルドも彼女に負けず劣らず、レオンのことを愛していた。ベルナルドには多くの兄弟姉妹がいるが、その中で一番可愛がっているのは、レオンのようだ。


 「うちのレオンは良い奴だぞ」


 「うちのレオンは強いぞ」


 「うちのレオンは可愛いぞ」  


 そう、繰り返し言っていた。彼と会う度に、「レオン」の話が出てくる。


 無愛想に見えるが、情に厚いこと。


 冷たく見えるが、戦いになると目を輝かせること。


 無表情に見えるが、行動や態度がまだ幼くて可愛いこと。


 レオンの魅力については、耳にタコができるほど聞いた。「このブラコンめ」という言葉を何度彼に言い放ったことか。


 とはいえ、ここまで多くの話を聞いていると、世間の噂から見える姿と、親友の語りの中に登場する姿との間に、大きなギャップがあるレオンに興味が湧いてくる。


 気づけば俺は、一度、レオン王子に会ってみたいと願うようになっていた。


 そして、時が経ち。やっと彼と会う機会を得ることが出来た。


 闇の魔法使いたちが、フォードルに潜伏しているという情報を得た。闇の魔法に対抗するためには、光の魔法が最適である。そのため、国随一の光魔法の使い手であり、フォードルの王太子と親交のある俺が、調査員として派遣された。


 「なあ、ベルナルド。今回の調査、レオン王子の協力を仰ぎたいんだが……」


 そう提案したのは、俺からだった。


 「へぇ……お前が誰かに興味を持つなんざ、珍しいな」


 ベルナルドは、茶化すようなにやけ顔で俺を見たが、あっさりと了承してくれた。そして、数日後、レオン王子と会わせてくれた。


 あらわれたレオン王子は、噂通りの綺麗な少年だった。線が細く、小柄で、一見、たおやかな女性のようである。しかし、腰にぶら下げる剣が、彼が剣士であることを証明していた。


 タレ目がちであるベルナルドとは対照的な、つり上がった瞳が冷たく見える。


 はじめて会った時、レオンの口数は少なかった。ベルナルドが語りかけて、やっと話す。返事も端的なものばかり。なるほど、これは「氷のような少年」と呼ばれるわけだと納得する。しかし、よくよく観察すると、彼の心の中には、豊かな感情があるということがわかる。 


 疑問に思っている時は、ほんの少しだけ首を傾げる。


 苛立っている時は、ほんの少しだけ、目を細める。


 納得していない時は、ほんの少しだけ、声が低くなる。


 俺やベルナルドのように、そこそこ読心術に長けてないと見落としてしまうほどに細かい仕草。しかし、それをとらえると、彼がしっかりと感情を持つ人間であることが分かる。


 それに気づけば、案外彼は表情豊かだ。


 俺は、ベルナルドが、彼のことを可愛いと繰り返し言っている意味を理解した。


 その日はとりあえず握手をし、解散した。彼の手は、とても小さく、これで剣を握ることが出来るのかと疑問に思った。
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